【サステナブルブランド国際会議2023東京・丸の内】GX実現に向けた企業の取り組みと水素の活用


(2023.4.19. 公開)



#サステナブルブランド国際会議 #気候変動 #GX #カーボンニュートラル #水素エネルギー


気候変動への対応が世界共通の喫緊の課題となる中、さまざまな国がカーボンニュートラルに向けた目標を設定しています。日本も2020年10月に当時の菅首相が、2050年のカーボンニュートラル実現を宣言しました。これを機に「化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する」グリーントランスフォーメーション(GX)という言葉が注目されるようになりました。

企業は2050年カーボンニュートラル実現に向けてどのようなGX戦略が必要となるのでしょうか。またGX実現のカギとなる水素に関して日本はどのような取り組みをしているのでしょうか。2023年2月14・15日に開催された第7回サステナブル・ブランド国際会議での、セッションの様子をご紹介します。


GXのキーワードは「イノベーション」

(本業のものづくりの変革について語る、積水化学工業株式会社代表取締役 専務執行役員 上脇 太氏)

セッション「2030年に向けたグリーントランスフォーメーション(GX)戦略」では、先進企業として積水化学工業株式会社、株式会社アシックスの取り組みが紹介されました。両社の話の中で浮かび上がってきたキーワードは「イノベーション」です。2050年温室効果ガス排出ゼロ目標を掲げている両社では、目標達成のためにイノベーションが欠かせないものだと考えています。

メーカーである積水化学工業では、本業のものづくりに踏み込んだ変革に取り組んでいます。取り組みの1つである「サステナビリティ貢献製品制度」は、社会課題解決に対して貢献度の高い製品を作るための制度です。積水化学工業の上脇太氏は「製品企画の段階で社会課題に貢献するかという評価軸を設定している。ここを満たせないと次に進めないようになっている。社会課題に貢献するかという軸はもちろん大事だが、その他に会社の利益に貢献するか、会社の持続可能性に貢献するかといった軸も必要。この3軸を満たす製品に経営資源を集めて伸ばしていこうと展開している」とものづくりに踏み込んだ変革について語りました。全体の売上高に占めるサステナビリティ貢献製品の割合は、今では3分の2ほどを占めるようになってきたと言います。

アシックスでは昨年、世界でCO2排出量が最小となるスニーカーを開発しました。その排出量は1.95kg。同様の一般的なスニーカーの排出量が8〜12kgとのことで、比較するとその違いは歴然です。開発にあたって、バリューチェーン全体で16の施策を講じました。排出量の多い材料と生産部分で80%を削減し、約47ある靴のパーツを20まで引き下げました。「強調したいのは、品質の高いものを届けるのが絶対であり、環境に良ければ品質や機能性が下がっても良いということはないという点。底の素材にはさとうきびを活用することで、理論上はCO2を吸収している。このような素材を活用すると機能性が犠牲になってしまうことが多いが、品質や機能性に妥協しなかったことで、世界最小のCO2排出量スニーカーというイノベーションを起こせた」とアシックスの吉川美奈子氏は話しています。創業当初からの「スポーツを通じて若者たちの健やかな心身の成長を支えたい」というアシックスの想いが込められた製品です。


ステークホルダーとともに温室効果ガス削減を目指す

(世界最小のCO2排出量スニーカーについて語る、株式会社アシックスサステナビリティ統括部統括部長 吉川 美奈子氏)

セッションでは「ステークホルダーとの連携」の重要性も語られました。アシックスでは、scope1,2,3で2030年までに2015年比約63%の排出削減目標を掲げ、取り組みを進めています。全体の中でもscope3が95%を占め、バリューチェーン上流でのCO2排出が約70%を占めていると言います。吉川氏は「目標達成においてはステークホルダーとの協働が欠かせない」として、(1)サプライヤーをエンゲージすること(2)バリューチェーンで排出量を削減した製品を作ること(3)一般の方々を循環型のライフサイクルに巻き込んでいくことを具体的な取り組みとして挙げています。その中でも、サプライヤーは規模や関係性も多様です。状況の異なるサプライヤーといかに連携していくのかという問いに対して吉川氏は「信頼関係が構築できているサプライヤーから取り組む、というのはある。しかし最近では、サプライヤー側も温室効果ガス削減への取り組みを競争力として捉えているところもあり、そうしたところでは再エネの調達や省エネの実施が進んでいる。一方で東南アジアの工場などでは、再エネを調達しようと思ってもインフラがなく調達が難しい場所もある。そうした工場とは、今後どのように進めていけるかを、一緒に考えている。大変だが、お互いに汗をかきながらやっている」と、ともに考え取り組む様子を語りました。

積水化学工業では、製品の企画段階からサプライヤーに参加してもらっていると言います。「最終製品のコンセプト、例えばゼロエネルギー住宅だったらそこに共感して、企画段階から一緒に知恵を出し合って取り組んでいけるサプライヤーを選んでいくようにしている」と話す上脇氏。いずれの企業でもサプライヤーを始めとしたステークホルダーとの連携を意識して取り組んでいる様子が伝わりました。



官民で挑む水素社会の実現

(多様なパートナーシップと先進的な取り組みについて語る、山梨県企業局新エネルギーシステム推進室室長補佐 坂本 正樹氏)

セッション「官民で挑む水素社会の実現」では、GXの鍵となる水素に関して日本での取組事例が紹介されました。利用時にCO2を排出せず、さまざまな資源から作ることができる水素は、日本のエネルギー安全保障上、また脱炭素社会に向け大きな期待が寄せられています。さらにウクライナ情勢に伴うエネルギー危機は、その期待を加速させています。

長年水素に関する研究を行ってきた山梨県企業局の坂本正樹氏からは、さまざまな企業や自治体と連携した水素活用の事例が紹介されました。山梨県は、産業分野におけるカーボンニュートラルを目指し、2022年2月に東レ・東京電力とともに株式会社やまなしハイドロジェンカンパニー(YHC)を設立しています。YHCは、Power to Gas(P2G)の専業会社です。太陽光のような再生可能エネルギーは気象条件によって発電量が変動します。発電量が電力需要を上回る時の余剰電力を水素に変換して貯蔵・利用することをP2Gと呼びます。山梨県米倉山太陽光発電所では「やまなしモデルP2Gシステム」を導入し、余剰電力を水素に変換し、それを工場等で燃料として活用することで脱炭素化に貢献します。サントリー天然水南アルプス白州工場・白州蒸留所では、P2Gシステムの導入で工場の生産プロセスで出る温室効果ガス排出を削減しscope1と2の両方の目標を達成しようという試みがされています。その他にもUCCの国内珈琲焙煎所やマルチスズキのインド工場での実証、また東京都や福島県とのアライアンスも進められています。「こうした取り組みを通じて、山梨県は水素エネルギー社会を牽引していける存在を目指したい」と坂本氏はその意気込みを語りました。

(水素の大規模利用に向けた取り組みについて語る、川崎重工業株式会社執行役員 エネルギーソリューション&マリンカンパニー バイスプレジデント 兼 水素戦略本部 西村 元彦氏)

川崎重工業株式会社の西村元彦氏からは、水素社会の実現にむけた水素の「供給」「需要」両面での取り組みについて紹介がありました。供給に関しては、水素社会を実現するにあたって必要になる「大量・安価で安定した供給」を提供するためのソリューションを開発しています。「大量・安価で安定した供給」を実現するためには海外からの輸入を含めた水素サプライチェーンの構築が必要です。川崎重工業では世界初の、海外からの水素を運ぶ「液化水素運搬船」と、運んできた水素を国内で貯める「液化水素荷役基地」を整備しました。現在はこのサプライチェーンの商用化実証が行われており、大規模化によるコスト低減を目指しています。西村氏は、「供給の整備と合わせて取り組んでいるのが需要の創出。水素の大規模利用のカギである水素発電のための水素ガスタービンや、発電で培った燃焼ノウハウを活かした水素エンジンの技術開発などを進めている。水素発電の技術はすでに国外からも数十件の反応がある」と世界の注目度の高さにも触れました。



日本におけるGX実現への道筋

「世界でもネットゼロを掲げた国はほとんどが水素戦略を掲げている」と水素の重要性を語るのは株式会社テクノバの丸田昭輝氏。日本は世界の中でも先陣を切る形で水素に取り組んできました。「水素の獲得競争はすでに始まっている。日本も幅広い国と付き合い、幅広いポートフォリオを組み調達の安定化を図る必要がある。需要に関しては、先進企業等による水素購入のコミットなどがあると良い。供給と需要がバランスすると価格も下がり、安定した水素社会の実現に繋がるのではないか」と丸田氏はその道筋について語りました。クリーンエネルギーへの転換を目指すGXの実現に向け、各社の取り組みに今後も注目です。



【参考】

 GX 実現に向けた基本方針~今後 10 年を見据えたロードマップ~│内閣官房

「水素エネルギー」は何がどのようにすごいのか?│経済産業省

水素エネルギーとPower to Gas│千代田ユーテック株式会社


■執筆:contributing editor Eriko SAINO
#ファッション #トレーサビリティ #エシカル消費 #人権 #フェアトレード #気候正義

お問い合わせはこちら