共創とアップサイクルで、サステナビリティをマネタイズする アサヒユウアス株式会社が生み出す「つながり」の価値

(2023.3.28. 公開)


アサヒグループホールディングス株式会社は、アサヒグループにおける新たなサステナビリティ事業を展開する「アサヒユウアス株式会社」(以下、アサヒユウアス)をアサヒグループジャパン株式会社の傘下に新設した。
「ユウアス」が意味するのは、あなた(YOU)と私たち(US)。その名の通り、志を同じくする企業、NPO、教育機関、行政、そして生産者や生活者といったマルチステークホルダーと共創してこそ成し遂げられる課題の解決に挑戦する。

2022年1月1日事業開始から、アサヒユウアスは驚くべきスピード感で商品開発やコラボレーションを発表しつづけている。生活者に身近なところから、サステナブルな価値が伝わりやすい商品やサービスを提供し、“共創ネットワーク”の構築に取り組む。同時に、アサヒユウアスの事業を収益化させ、 “サステナブル”なビジネスに育てることも重要なミッションに据える。

「環境対策はコストがかかるため利益とのバランスは難しいが、だからこそ挑戦する価値がある。」
アサヒユウアスにおいて様々なアップサイクル商品や共創事例を牽引する、たのしさユニットリーダー 古原徹氏に取材した。


(アサヒユウアス株式会社 たのしさユニット リーダー 古原徹氏))

経営層の理解と賛同が、サステナビリティの推進力に直結する

サステナブルな社会の実現に向けた企業の取り組みが重要性を増すなか、ビールをはじめとする酒類、飲料、食品等の事業を手がけるアサヒグループは、環境や社会の課題解決を主軸にした新規事業会社を設立した。「2021年4月に会社をつくろうという話が出てから、同年12月には記者発表を行い、翌月2022年1月に設立というスピード展開でした」と古原氏は、アサヒユウアス立ち上げまでの経緯を語った。

なぜこれほどのスピード感で、サステナビリティをテーマにした新規事業を立ち上げることができたのか。アサヒユウアスの代表取締役社長でもある高森氏が早くから賛同し、どんどん上層部へ提案を上げてくれたことが大きかったと古原氏は当時をふりかえる。「グローバルのCEOも“ぜひやりましょう”とOKを出してくれたので、話が進みやすくなりました。」

経営層の理解が得られないために、サステナビリティ活動の予算承認が得られなかったり、社内浸透が思うように進まなかったりというのは、いま多くの企業が抱えている悩みだ。アサヒユウアスの立ち上げエピソードは、まずは経営層がサステナビリティと経営を統合する重要性を理解し、取り組みに賛同してもらうことが大きな推進力につながった好事例と言えるだろう。



未来につながる循環を生みだす組織づくり

アサヒユウアスは、アサヒグループのなかでもその独自性から目立つ存在だ。
「自由に好きなことやっているだけではないか、と思う人もいる。だからこそ、そのままじゃいけない。結果的にアサヒグループに収益面で貢献できるようにならなければいけない。事業会社として成り立つことが証明できて初めて、こうしたチャレンジが歓迎される風土ができていく。」

そう話す古原氏に、社会課題の解決とビジネスにおける収益の両方を叶える発想は、どのように生まれると思うかを尋ねると「アサヒグループは寛容度が高い。日本では既存の枠組みから外れるのが怖いという人が多いが、むしろ枠からはみ出した時の許容度が大事で、そこから生まれるものを大切にしている」との答えが返ってきた。

さらに「設立後、アサヒユウアスでもグループ社内公募で2名を採用した。アサヒグループは大企業だから、いろんな専門性を持つ人がいて、それを活かせることが強みでもある。彼らの個性や得意分野が、ゼロイチの開発や市場開拓においては必要不可欠だった」と、組織の多様性や個性を活かすことの大切さも指摘した。


価値提供から価値共創へ、アップサイクルの商品開発

地方自治体や企業との多様なコラボレーションを展開している「森のタンブラー」シリーズは、アサヒビールとパナソニック株式会社が共同開発したリユースできるエコカップであり、アサヒユウアスを代表するサステナブル・プロダクトだ。間伐材などの木材から精製したパルプを主原料とした環境配慮素材で作られる製品というだけでなく、植物繊維由来の細かな凹凸がきめ細やかな泡をつくり、ビールをおいしく飲めるというメリットもある。
古原氏は同社の立ち上げ以前の2018年からアサヒビールの研究員として「森のタンブラー」の研究開発に携わっていた。研究所で他の主力商品の開発を行う傍ら、自ら課題設定してPOCを行えていたことで、サステナビリティ事業の方向性が「ある程度は見えていた」と古原氏は話す。


(プラスチックカップの廃棄を出さない、新しいライフスタイルを提案する「森のタンブラー」)


アサヒユウアスが大切にするのは、古原氏が所属するユニット名にもあるように「楽しさ」や「心地よさ」だ。
けれども一方で、何を楽しいとするか、心地よさの基準は人によって異なる。どういうことが楽しさや心地よさにつながるのか。
たとえばそれは、誰に「ありがとう」と言ってもらえて嬉しい、という瞬間かもしれない。面白いアイデア商品に出会えたときのワクワクかもしれない。みんなで一緒に何か「いいこと」が出来るという充実感かもしれない。そうした思索から、ひとつの手段としてアップサイクルにたどり着いた。

森のタンブラーは、植物性の原料であれば広く活用できる。これを活かして一緒に課題解決しませんか? と言える、分かりやすいプロダクトがあることが強みの一つだと古原氏は話す。
これまで処分するのにコストがかかっていた廃棄物や、あるいは未利用のまま放置されている地域資源を森のタンブラーにアップサイクルして、地方の活性化や課題解決につなげるのだ。


SDGsやサステナビリティのローカライズで地域課題の解決を

いまSDGsの達成やサステナビリティ推進を目指す企業や自治体の多くが「ローカルSDGs」に注目する。地域と企業の共創により、地域内での循環経済の構築を目指すものだ。

アサヒグループ本社近くの東京都台東区蔵前では、アサヒユウアスとの協業によりユニークなサステナブル・ドリンクの開発が行われている。焙煎所でやむなく廃棄されるコーヒー豆をアップサイクルしたビール「蔵前BLACK」、町のパン屋で廃棄されるパン耳をアップサイクルした「蔵前WHITE」ビールで、フードロスの課題に取り組むだけでなく、地域の新しい魅力を発信することにもひと役買っている。


(左:パンの耳をアップサイクルした「蔵前WHITE」、右:廃棄コーヒー豆をアップサイクルした「蔵前BLACK」)

森のタンブラーも、日本各地とコラボレーションし、地域課題の解決や地域活性化に貢献する多彩な商品を開発する。例えば、伝統産業である和綿栽培の復活に取り組む鳥取県境港市では、捨てられてしまう綿の枝をアップサイクルし、綿花をイラストにあしらった森のタンブラーを考案した。岡山県真庭市では、茅ぶき文化の保全活動と連動し、蒜山高原に自生する茅(ススキ)を原料としたタンブラーを、「GREENable(グリーナブル)」と名付けた地域のサステナブル・ブランド・プロダクトとして地域おこしに活用している。日本の銘茶として知られる狭山茶の産地、埼玉県狭山市では「狭山茶」をもっと知ってもらおうと狭山茶の製造工程で発生する「出物(本来作る予定ではない価値の低い副産物)」をタンブラーにアップサイクルした。

阪神タイガースの選手が練習や試合中に折れてしまったバットの中身部分を40%使用した、「森のタンブラー for 阪神タイガース」という、ファン心をくすぐる商品開発事例もある。


(いずれも「森のタンブラー」左から、鳥取県境港市、埼玉県狭山市、阪神タイガース)

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これらの事例をさらに促進するため、アサヒグループジャパンでもローカルSDGsを加速させる構えだ。アサヒグループジャパンのグループ事業会社や製造拠点が自治体らと連携、地域課題解決の事例創出に取り組む。内閣府が指定する「SDGs未来都市」を中心に、新たな共創パートナーを探している。また逆に、企業や自治体からアサヒユウアスに声がかかることもある。

これについて古原氏は「アサヒユウアスという企業にすることで注目が集まり、事業内容も明確に伝わる。アサヒグループ本体と比べれば敷居が低いので、問い合わせがしやすくなったのでは」と分析する。その上で、パートナー選びについては「重視するのは、相手の想いや熱意。単に一過性の取り組みで終わらせるのではなく、サステナブルな社会の実現へ向かって継続して共に取り組める意志があるかを大切にしている」と語った。

「つながり」が、マネタイズ=価値になる

社会課題の解決が同時に利益の源泉となるようなビジネスモデルであるために、アサヒユウアスはマネタイズにコミットする。

「身を削ってお金を捻出する状態は、持続可能とは言えない。継続できるビジネスモデルにするためにも利益を出さなければいけない」と古原氏は収益化の重要性を強調する一方で、同社のもう一つのテーマでもある「共創」にも重きを置く。「これまでのメーカーは価値提供が主だったが、これからは価値共創。たとえ競合であっても一緒にやっていくという共創戦略が必要なときもあるだろう。」

そうした考えから、アサヒユウアスは共創パートナーの数をKPIに設定しているという(2022年1月取材時)。すなわち、このビジネスを通じて生まれた「つながり」そのものが価値=マネタイズの機会になりうることをアサヒユウアスは示唆する。

また、こうしたつながりから地域資源を活かしたプロダクトが地元メディアに取り上げられたり、SNSやYouTubeで拡散されたりすることで知名度が上がり、アサヒユウアスが運営するECサイトでも個人の購入者が順調に増えているという。


「使い捨て」をなくし、いつかはアップサイクルしなくてもいい社会に

今は“アップサイクル”に関心が集まっているが、本質は「ムダをなくし、余らせない」「使い捨てない」ことだと古原氏は強調する。
「サステナブルをテーマにしたイベントに出展することが多いが、その場でも多くの廃棄物が生じてしまうことに矛盾を感じていた。展示会全体のサステナビリティとして、ゼロウェイストを体験してもらう機会にしたい」
という想いから、いくつかのイベントで実際に「ゼロウェイストフードコート」を開催した。




(2022年12月に開催されたエコプロ展では、会場のフードエリアでの総合的なごみ削減のプロデュースを行った)

アサヒユウアスがイベントにおける企画・コンサルティングに取り組んだ事例としては他にも、森のタンブラーや鉄製エコカップ(JFEスチールとの共創)をデポジット制で提供したり、会場で発生する使い捨てプラスチックカップをアップサイクルしたりして、リユースカップの利用促進やゴミにしないひと手間を一人一人の参加者に訴求した。

そもそもの設計から、循環を前提にしてリサイクルしやすいように作る。ビッグデータを活用して、余りが出ない量だけを作る。そうした視点が、これからのものづくりには欠かせない。ただし、そのエコサイクルの実現にはやはり「共創」も等しく欠かせないということになるだろう。


新しいチャレンジや行動をおこす勇気が大切

サプライチェーン全体でSDGsやサステナビリティに取り組む動きが加速しており、その対応が遅れてしまうと企業は競争力を失いかねない状況だ。エシカル消費やアップサイクル市場は今後も拡大することが予想され、サステナビリティの実践や情報発信が、ビジネスで優位性を築く有効な手立てとなる。流通においてもお互いが、サステナビリティやエシカルというフィルターをかけた上で、選び選ばれる時代になってきている。

サステナビリティや、ビジネスで社会課題を解決するということを考えるとき、そこには間違いなくイノベーションが必要だ。ではそのイノベーションを起こすには、どうしたらいいのだろうか?

古原氏の答えは明快だった。「新しいチャレンジと共創がなければ何も生まれない。自分は元々が研究職だったからやれたというのもあるが、まずは勇気をもってやってみようと思えるかどうか。そして、パートナーとの共創によってワクワクする新結合を生み出せるかどうか。」

これはとりもなおさず、ひとりひとりの行動変容においても同じことが言える。「自分だけやっても意味がない」とは思わず、勇気ある行動を起こせば、それぞれは小さな行動の積み重ねがやがて結びつき、大きなうねりとなり、サステナブルな社会の実現につながっていく。アサヒユウアスは、そうしたムーブメントが生まれる「つながり」の場を今まさに、築きつつある。



【参考サイト】

アサヒユウアス株式会社

アサヒユウアスモール公式サイト

サステナブルクラフトビール公式サイト

アサヒグループホールディングス株式会社プレスリリース




■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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