【サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内】B Corp認証は企業のパーパス策定を前進させるか



(2023.3.28. 公開)

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2023年2月14・15日に、第7回サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内が開催されました。今回は、パーパスドリブン経営におけるB Corp認証についてのクロスセッションをご紹介します。


セッション「パーパスドリブン経営推進における「B Corp」という選択肢」


登壇者
● B Corp認証取得支援コンサルタント 岡 望美氏
● 株式会社クラダシ取締役執行役員CEO 河村 晃平氏
● 株式会社博報堂MDコンサルティング局マーケットデザインコンサルタント 吉田 啓一氏
● 株式会社博報堂第五ビジネスデザイン局 第五アカウント部部長 佐藤 友亮氏(ファシリテーター)


企業経営において存在感の高まるパーパス


(パーパスについて語る吉田 啓一氏)

近年、企業にとって「パーパス」の存在感が高まっています。セッション冒頭ではまず、多くの企業のパーパス策定や社内浸透を支援する博報堂の吉田氏から、パーパスの重要性やその課題についての話がありました。「そもそもパーパスは、一般的に社会に対していかに「Why」を作れるかであり、企業はなぜその事業をしているのか、社会に対してどのような約束ができるのか、といったことを定めることになる」と吉田氏は言います。昨今の世の中の流れは「ステークホルダー=株主」から「ステークホルダー=株主を含めた社会・従業員・環境・コミュニティなど全方位」に変わってきており、企業は利益追求だけでなく社会や環境への貢献が求められています。

吉田氏によると、「パーパスドリブンでマーケティング戦略を考えたい」「パーパスドリブンで経営推進していきたい」といった相談が増えていると言います。一方で、その取り組みの理由でしばしば耳にするのが「競合企業がやっているから」「ウェブサイトパーパスという言葉を載せないと生活者に振り向いてもらえないのではないか」という考え。「パーパスといった言葉がバズワード化してしまっていると感じる。どのような形でも、パーパスに取り組む企業が増えるのは良いことである一方、本来企業とは何かしらの社会課題を解決したいという想いで始まることが多く、そこに向き合いパーパスを策定することが望ましいのではないか」と、吉田氏は表層的な取り組み増加への危惧を語りました。

博報堂にパーパス策定の相談が持ちかけられる背景には、良いコピーや良いストーリーテリングを作成してほしいといった顧客企業の要望があります。当然良いコピーやストーリーテリングを書くように取り組むもののパーパスの実態が伴わず、それゆえ現場へ浸透しきらない、また共感を呼びきれないケースも多いと言います。パーパスという抽象的なものを経営に落とし込む良い方法はないかと考えている中、吉田氏と佐藤氏が出会ったのがB Corp認証だったと言います。


日本でも取得企業が急増するB Corp認証とは

(来場者にB Corpについて問いかける岡 望美氏)

企業のB Corp認証取得を支援する岡氏から、まずはBCorp認証についての説明がありました。日本ではまだ知名度が低いB Corp認証。しかし、岡氏の「B Corpを聞いたことがある方はいらっしゃいますか?」という問いかけに対し、会場では半分以上の手が挙がりました。B Corp認証は米国発の国際的な認証で、世界中で80ヶ国6000社以上が取得しています。岡氏によると、取得済企業と同等数の企業が現在認証待ちをしており、近いうちにB Corp認証取得企業は1万を超えることになると言います。

B Corp認証を取得した企業は、社会・環境に配慮した事業を行う、透明性や説明責任等に関する厳しい基準をクリアした企業であることを意味します。日本では現在20社が認証を取得しており、また20社ほどが認証待ちもしくは認証取得を宣言しているそうです。日本における認証取得企業の数は、5ヶ月ほど前の時点では15社、さらに2021年6月時点では6社のみだったことから、ここ1〜2年で急速に広がっている認証ということがわかります。


B Corp認証を取得するためには、B Impact Assesment(以下BIA)というアセスメントで200点満点中80点以上を取得する必要があります。日本ではサステナブルというと脱炭素等の環境分野のイメージが強いですが、BIAの評価項目はガバナンス・従業員・環境・顧客・コミュニティの5つとなっています。B CorpのBIAに関するページを見てみると、例えばコミュニティに関して「経営陣のうち、社会的マイノリティ等の割合がどのくらいか?」といった設問や、従業員に関して「創業者・経営者を除くフルタイム労働者が会社の何%を所有しているか?」といった設問が例として挙げられています。


B Corp認証はパーパス策定をどう前進させるのか

BIAのような具体的な設問は、実態を伴うパーパス策定と相性が良いのでは、と吉田氏は話します。というのも、企業はB Corp認証取得に向けたアセスメントに取り組む中で、自社の事業や将来の方向性と向き合うことになるためです。「例えば、ダイバーシティに関する設問1つを取っても、日本の文脈においてダイバーシティとは何か?自分たちの企業の中でのダイバーシティはどうか?設問で問われている国際基準でのダイバーシティとは何か?国際基準と比較すると自社はどうか?など、BIAの設問に対しさまざまな議論を重ねていくことになる。B Corp認証取得を目指すことは、自分たちの会社は何がやりたいのかを見出していくことに繋がる、宝探しのようなプロセス。そこでパーパスを見つけられることもある。」と認証取得に取り組む意義を岡氏は語りました。

また事業自体と向き合うきっかけにもなると岡氏は話しています。「アセスメントは200点満点で、120〜200問ほど設問があります。そのため、配点は1問1点というものも多く、積み上げていくのに苦労するかもしれません。そんな中大きな点数がとれるのが、事業自体が社会・環境的に貢献しているかといった項目。これを満たせれば、大きな点数がとれる。フードロス削減を目指し、まだ食べられるにも関わらず捨てられてしまう可能性のある商品をお得に販売しているクラダシさんは、これに当てはまる。自分たちのビジネスは社会や環境にどんな貢献をしているのか。会社の存在価値を見直すことになる」
(B Corp認証取得の価値を語る河村 晃平氏)

2022年にB Corp認証を取得したクラダシの河村氏も、「B Corp認証取得を目指す過程での経営者のボンディングや会社の方向性が決まること自体が価値。自分たちは何のために会社を作ったのかを考えさせられた」とそのプロセスにおける意義を語りました。博報堂の吉田氏は「日本人は数値目標を設定されるとそこに向けて邁進するという特徴があると思う。概して抽象的になりがちなパーパスに対して、B Corpはスコアを獲得するといった具体的な目標があるのでアクションに落としやすい。さらに社員のモチベーションが生まれやすいため、パーパスと相性が良いのではと思う」と期待を寄せています。


B Corp認証取得のプロセスで自社と向き合う

「B Corp認証は、財務的な部分ではメリットが見えないこともあると思う。しかし、従業員の満足度やコミット力、社会からの評価など、数値化されていない部分では必ず良いインパクトを与えていると思う」と語る岡氏。B Corp認証取得に向けたアセスメントに答えるために、企業は自社の事業を始め、社会や環境、従業員、顧客、コミュニティとの関わりについて深く考えることになります。実態を伴う企業のパーパス策定には、B Corp認証取得のプロセスが非常に有益なものになるのではないか、そう感じさせられるセッションでした。岡氏は「B Corpは旅」だと言います。認証取得への道のりを楽しみながら、自社のパーパスについて見つめ直す旅を始めてみてはどうでしょうか。


■執筆:contributing editor Eriko SAINO
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