【リスクをチャンスに】企業がカーボンニュートラルに取り組むメリットと取り組み事例

(2023.4.25. 公開)

#カーボンニュートラル #気候変動 #SBTネットゼロ #SDGs

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、世界の平均気温は産業革命前と比較して2011〜2020年ですでに1.1℃上昇し、今後短期間で1.5℃に達する可能性が高いとの報告を出しました。2015年のパリ協定で採択された世界共通の目標では、産業革命前と比較して世界の平均気温上昇を2℃より⼗分低く保ち、1.5℃に抑える努⼒を追求することが掲げられています。1.5℃に抑えるためには、急速で大幅な温室効果ガス削減が必要とされています。⽇本においては2020年10⽉の総理所信表明において、2050年カーボンニュートラルを⽬指すことが宣⾔されました。今、多くの企業がカーボンニュートラルに向けて取り組みを進めています。今回は、企業が取り組むメリットや、取り組みにより企業価値を向上した事例を紹介します。


企業がカーボンニュートラルに取り組むメリット


カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出を「全体としてゼロ」にすることを意味します。「全体としてゼロ」とはつまり、温室効果ガスの排出量から、植林や森林管理等による「吸収量」を差し引いた合計をゼロにすることです。

企業がカーボンニュートラルに取り組むメリットは(1)優位性の構築(2)光熱費・燃料費の低減(3)企業イメージの向上などが挙げられます。(1)優位性に関して、他の企業よりも早くカーボンニュートラルに向けた取り組みを行うことで、新たな取引先やビジネスチャンスの獲得に繋がります。大企業では自社のCO2排出削減にとどまらず、バリューチェーンの中小企業などに対してもCO2排出量の開示や削減を促す動きがあります。こうした動きを受けて、大企業と取引をする中小企業の中には、カーボンニュートラルに向けた取組みが他者との差別化や新たな受注に繋がると捉える企業も増えてきています。(2)光熱費・燃料費の低減に関して、排出量削減のための省エネ、例えばLED照明の導入や建物の断熱性能向上などにより大幅なコスト削減効果が見込まれる場合もあります。(3)企業イメージの向上に関して、業界や他社に先んじて取り組みを進めることでメディアへの露出やそれによる知名度の向上が期待できます。また、環境に配慮した商品やサービスを提供することで、環境に関心のある消費者からの支持を得ることもできます。このようにカーボンニュートラルへの取り組みは、企業にさまざまなメリットをもたらす可能性があります。


日本初のSBTネットゼロ認定を取得した三菱地所の取り組み

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画像出典:気候変動(CO2削減・エネルギーマネジメント)への対応 - 三菱地所グループ

三菱地所株式会社は2022年7月、日本で初めて「SBTネットゼロ認定」を取得したと発表しました。SBTとは「Science Based Targets」の略で、科学に基づく温室効果ガス削減目標を意味します。三菱地所は2022年3月に排出削減目標を新たに制定していました。SBTネットゼロ認定を受けたことで「CO2排出をいつまでにどれだけ削減するか」という三菱地所の設定した基準が、1.5℃目標達成に整合した目標であることが認められました。三菱地所ではこの目標達成に向け、事業で使用する電力の100%再エネ化を掲げRE100に加盟しています。中核事業であるオフィスビルの運営では、2021年度に大手町・丸の内・有楽町に保有するビル27棟で再エネ電力を導入しました。また低炭素社会実現のためには省エネに加えクリーンエネルギーの利用拡大が必要であると考え、エネルギー分野のイノベーションに取り組むベンチャー、株式会社クリーンプラネットに出資しています。クリーンプラネットが開発する「新水素エネルギー」は、従来の水素エネルギーよりも水素単位当たりのエネルギー出力が多く、新水素エネルギーを実用化し、電力コストを現在の10分の1にすることを目標にしています。


生活者から見たSDGs貢献企業2位、トヨタ自動車の取り組み


画像出典:気候変動 - トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車株式会社では、カーボンニュートラルな社会実現へ貢献するため、クルマのライフサイクルの各段階でCO2削減に取り組んでいます。例えばグローバル全工場では2035年のカーボンニュートラルを目指しています。生産現場では、エネルギー効率の悪い蒸気を使用しない「蒸気レス」な設備の導入等の省エネに加え、各地域の特性を考慮した再エネの導入を進めています。また工場における水素活用の実証も行っています。サプライヤーとの取り組みも進めており、米国のToyota Motor North Americaでは、2021年4月にガイドラインを刷新し、サプライヤーにCO2削減の要求事項の遵守を規定するなどマネジメントを強化しました。トヨタ自動車は、2022年に実施された生活者のSDGs(持続可能な開発目標)に対する企業ブランド調査『Japan Sustainable Brands Index』において2位にランクインしており、企業の活動が生活者に伝わっていることがわかります。


他社に先駆けた取り組みが企業価値の向上へ、中小企業の取り組み


画像出典:省エネルギー型ハイブリッド染色機 - 株式会社艶金

豊富な地下水があり水の都と呼ばれる岐阜県大垣市で染色業を営む株式会社艶金。染色加工は、染色をする際に水温を60℃〜130℃まで上げる必要があり、環境負荷が高いと言われるアパレル産業の中でもCO2排出量が多い工程です。水温を上げるためのボイラーは以前は重油タイプを使用していましたが、重油価格の乱高下を理由に1987年にバイオマスタイプに変更しました。その後、バイオマスタイプのボイラーのCO2排出量が通常のボイラーのわずか4分の1であることを知り、これを企業の付加価値として活かそうと考えました。2021年8月には「自社の排出するCO2を2030年に50%削減する」という目標値を設定しました。目標達成のために導入しているのは省エネ型の染色機です。この染色機は使用する水量が少なくすみ、廃水処理にかかる電気代や薬品等も減らすことができます。現在は工場全体のうち10%を再生可能エネルギーで契約しています。艶金は、脱炭素の取り組みをいち早く始めたことから、業界内でも一目を置かれる存在になりました。

愛知県岡崎市に本社を置く自動車部品メーカーの協発工業株式会社も、脱炭素経営にいち早く取り組むことで、そのメリットを享受しました。協発工業は、CO2排出の情報を開示し2030年度に向け50%の排出削減目標を設定しました。これを受け、2021年2月には国内輸送機器関連部門で初めて「中小企業版SBT」の認定を取得。他社に先駆けて取り組んだことで、メディアから注目され外部企業からの評価も向上しました。代表取締役の柿本氏は環境省のインタビューで「気候変動への取り組みは今後どの会社も避けては通れず、大企業も調達段階でのCO2排出量の把握が必要になってくる。その時に、CO2排出量の開示や削減に取り組むことが選ばれる条件になるのでは。」と脱炭素経営に取り組む意義を語っています。

今回は、企業がカーボンニュートラル実現に向け取り組むメリットや、取り組み事例をご紹介しました。企業の温室効果ガス排出の責任範囲は自社だけではなくサプライチェーン全体に広がっており、大企業のみならず中小企業もその開示や削減が求められるようになってきています。気候変動への対応はリスクではなくチャンス、そう捉えて取り組みを進めていくことが企業の価値に繋がるのではないでしょうか。

【参照ページ】
Sustainability Data Book - トヨタ自動車

ひろがるカーボンニュートラル [艶金]

ひろがるカーボンニュートラル [協発工業]

気候変動(CO2削減・エネルギーマネジメント)への対応 - 三菱地所グループ

JSBI2022 Report(速報版)- サステナブル・ブランド ジャパン

企業の脱炭素経営への取組状況│環境省

カーボンニュートラルと地域企業の対応│経産省

ひろがるカーボンニュートラル│環境省

■執筆:contributing editor Eriko SAINO
#ファッション #トレーサビリティ #エシカル消費 #人権 #フェアトレード #気候正義

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