日本における「代替肉」最新動向 進む研究開発とビジネスとしての可能性

(2023.3.23. 公開)

以前の記事で、代替肉が広まる背景やグローバル・日本双方の動向などを解説しました。

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スーパーやファストフード店、カフェチェーンなど、日本の街中でも見かけることの増えた代替肉。今回は着実に社会に浸透しつつある代替肉について、日本市場や日本メーカーの動向、代替肉を起点としたビジネスの広がりを紹介します。

拡大傾向の代替肉市場と日本メーカーの動向


(画像出典:マイボイスコム株式会社プレスリリース

2022年12月に代替肉の認知や利用状況についてのアンケート調査が実施されました。この調査によると、これまでに代替肉を食べたことがある人は4割弱となっています。またそのうち直近1年間に食べたことがある人の割合は2割強にのぼりました。同様の調査は2020年にも実施されましたが、その時の結果と比べても増加しています。中でも「大豆ミートで作られた加工品や総菜を、自宅や飲食店で食べた」と回答した人は17.8%と、2020年の12.8%から増加しています。代替肉を食べた理由として「どんな味か、試しに食べてみた」と回答した人は2020年調査時には21%でしたが2022年の調査では35.8%まで増加しています。

国内の大豆ミート市場は2022年に25億円、2025年に40億円に拡大すると予想されています。このような状況を受けて、最近では日本の大豆ミートメーカーの生産体制にも変化が見られます。大豆ミートを生産する株式会社エヌ・ディ・シーは、生産拡大に向けた設備投資に取り組み、2022年11月から前年比約3倍の生産を可能にする生産体制に入りました。背景には、前年比で130%を超える受注とそれによる生産の逼迫があります。

また熊本発のフードテックベンチャーDAIZ株式会社は2022年秋、株式会社日清製粉グループ本社と資本業務提携を発表しました。DAIZでは発芽大豆由来の「ミラクルミート」という代替肉を開発・製造しています。DAIZは現在熊本県に製造工場を有していますが、この5倍のキャパシティを持つ新工場の建設計画を2024年夏の稼動開始を目標に進めています。今回の資本業務提携では、日清製粉の持つ食品工場建設の高い技術やノウハウを活用した量産体制の確立とミラクルミートのさらなる付加価値向上や研究開発に取り組みます。

代替肉の環境へのポジティブな影響


(画像出典:ネクストミーツ株式会社プレスリリース


「代替肉」や「大豆ミート」と聞くと、ミンチタイプやそれを活用したハンバーグなどを想像する方も多いのではないでしょうか。実は大豆ミートにはミンチ以外にもフィレやブロックタイプのものが存在します。またこれまで「鶏肉」は、その特有の食感や繊維感を再現するのが難しいと指摘されてきました。しかし近年では外国のメーカーを始め日本メーカーでも開発が進み、代替肉スタートアップのネクストミーツは2021年に「NEXTチキン」を発売しています。NEXTチキンは大豆を主原料として作られており、通常の鶏肉1kgを生産する時と比較して、温室効果ガスで92%、水資源使用量で44%、土地使用量で38%の削減効果があるとされています。このように環境負荷の低減を見える化することで、環境意識の高い消費者の購入も後押しできているのではないでしょうか。

新素材の研究開発で進む風味や味の進化

最近では新素材の活用や風味・味の進化も進んでいます。みなさんがスーパーやカフェなどで見かける代替肉は、大豆を原料としたものが多いと思います。しかし今、大手食品メーカーや大学発のスタートアップ等さまざまな企業が新たな素材を活用した代替肉の開発に取り組んでいます。例えば、次世代フード事業「NinjaFoods(ニンジャフーズ)」を展開する株式会社Sydecas(シデカス)では、ある新素材を使用した代替肉の開発を進めています。一般的に代替肉の原料として活用する際には、栄養・味・食感・コストといった4つの要素がハードルになります。今回シデカスが開発を進めている素材は、このハードルをすべてクリアしていると言います。その素材はほとんどが食物繊維のため、糖質やカロリーを上げずに結着成形が可能で、小麦粉等と異なり味に影響を与えにくいことから、味付けの自由度も高くなっています。その素材が持つ食物繊維が肉の筋感を再現し、水分量を調整することでハンバーグやジャーキー、プロテインバーまでさまざまな食感を実現できます。また代替肉に使用する植物性素材は、コストが高くなる傾向がありますが、この素材は国産豚肉程度の単価を実現できると言います。代替肉の原料として有望なその素材とは、みなさんお馴染みの「こんにゃく」です。こんにゃくを固めきらずペースト状で他の素材に混ぜることで、通常のこんにゃく粉では難しかった筋感や結着成形を可能にしています。シデカスは「Ninja Paste」と呼ばれるこのこんにゃくペーストをさまざまな企業で活用してもらえるよう、共創プロジェクトを推進しています。シデカスは、自社だけでは成し得ない「すべての人が制限なく美味しい食を楽しめる世界」の実現を、共創により目指しています。

代替肉から広がるさまざまなビジネス機会


(画像出典:HOBOTAMA(スクランブル) 〜ほぼたまごの味わい・ほぼスクランブルエッグ〜│キユーピー株式会社)


代替肉が広がる背景には、地球温暖化問題や人口増加による食糧不足、ベジタリアン(菜食主義者)やヴィーガン(完全菜食主義者)を含む健康志向などが挙げられます。このようなニーズに対して、肉以外の食材の代替品開発も進められています。例えばアジア発のフードテック企業Omni Foods(オムニフーズ)は、「OMNIツナ」という従来のツナの代替品を発売しました。OMNIツナは、独自の大豆ブレンドから作られたものですが、味や食感は忠実にツナを再現しています。温暖化による海洋環境の変化や海洋汚染、過剰漁業等が懸念される中で今後存在感が増していくのではないでしょうか。

キユーピー株式会社からは、「ほぼたま(HOBOTAMA)」という代替卵が販売されています。ほぼたまは、豆乳加工品をベースに植物由来原料をメインに使用して作られたスクランブル風の「ほぼ」卵の商品です。プレーンな味わいのため、パンや野菜等と合わせてさまざまなメニューに幅広く使用できます。また卵は使用していないので、卵アレルギーの方も楽しめるというのが特徴です。

このように、代替肉と同様のニーズに合わせ商品を開発している企業もあれば、コラボレーションという形でビジネスの機会を作っている企業もあります。「焼き肉のファーストフード」をコンセプトに全国で70店舗以上を展開する「焼き肉ライク」では、ネクストミーツとコラボし「NEXTカルビ」をメニューに取り入れました。導入当初は、一部店舗のみで取り扱っていたものの、Instagramを始めとしたSNSで話題となり全店舗に拡大したという経緯もあります。

また伊勢丹新宿店では、代替肉や代替シーフードを始めとする「次世代フード」を使用した限定料理を販売する「進化が止まらない!注目の次世代フード特集」を開催しました。この催しでは、ネクストミーツの「NEXTツナ」を使った海苔巻きやアボカドサラダ、ラザニアの他、他のメーカーが作った代替マグロやサーモンを使用した料理も提供されました。他にも2023年2月に横浜高島屋で「大豆ミートはこんなにおいしいフェア」が開催されました。百貨店がこうした催しを実施することで、消費者にとってより身近なものとして代替肉や代替シーフードが浸透することが期待できます。



これまではどこか遠い存在であった大豆ミートを始めとする代替肉。昨今急速にその存在感を増し、さまざまな場所で食べることが可能となりました。企業の研究開発や、企業同士のコラボレーションによる消費者接点の増加を受け、今後ますますその存在感は増していくと予想されます。企業は、変化する日本の代替肉市場や消費者認知にアンテナを貼り、自社の事業に活かしていくことで、ビジネスの機会として期待できるのではないでしょうか。



【参考サイト】

大豆ミート2025年に40億円規模に│株式会社 日本能率協会総合研究所

加速する大豆ミート市場。需要の高まりに合わせ、生産量3倍へ拡大。│株式会社エヌ・ディ・シー

植物肉「ミラクルミート」のDAIZと日清製粉グループ本社が資本業務提携、2024年夏の稼働を目指す新工場の建設や研究開発等で協業│DAIZ株式会社

「鶏肉」を大豆肉で再現。代替肉スタートアップのネクストミーツ「NEXTチキン」をオンライン販売開始へ│BUSINESS INSIDER JAPAN

NEXT MEATS DATAPAGE│ネクストミーツ

OMNIツナ│OmniFoods

HOBOTAMA(スクランブル) 〜ほぼたまごの味わい・ほぼスクランブルエッグ〜│キユーピー株式会社

【次世代こんにゃくNinjaFoods】代替肉素材向け定量的テクスチャ再現研究を開始│株式会社シデカス

【代替食品がここまで進化】伊勢丹新宿店で総勢20品以上の次世代フード料理が登場<ネクストミーツ>│ネクストミーツ




■執筆:contributing editor Eriko SAINO
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