ウォルト・ディズニー 行動を喚起する物語「わたしたちの素晴らしい海を未来に残そう」

(2023.2.24. 公開 )

#生物多様性 #海の豊かさを守ろう #気候危機


私たちの身体のほとんどは水からできている。そもそも地球上に水がなければ生命は誕生せず、私たちも今ここには存在しない。映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で語られる、「水はすべてをつなぐ、生まれる前も、死んだ後も(The way of water connects all things, before your birth, and after your death.)」という印象的なフレーズの通り、地球上に多様な環境や生物をもたらし、私たちの生命を支え、進化させたのは水に他ならない。その大切な水を、次世代そしてその先の未来まで残す責任を、地球上で生活を営む者として私たちひとりひとりが担っている。

ウォルト・ディズニー・ジャパンは、海洋生物多様性や海洋保全に関する現状と課題について議論する機会として、2023年2月6日に水族館関係者らをパネリストに招き、ラウンドテーブル(意見交換会)を主催した。


(右から、ウォルト・ディズニー・ジャパン エグゼクティブ・ディレクター 秋月希保氏、沖縄美ら海水族館 統括 佐藤圭一氏、日本動物園水族館協会 事務局長 岡田尚憲氏、サステナブル・ブランドジャパン ESGプロデューサー 田中信康氏)

環境や生物多様性がもたらす影響を、もっと理解しなければならない

気候危機は人為的な影響、つまり人間によってもたらされている。現状のまま地球温暖化が進行した場合、海水温の上昇等が原因で2050年にはサンゴ礁が全滅する可能性が指摘されている。もしサンゴ礁が絶滅してしまったら、海洋生物の1/4は棲み処を失い、85億人の暮らしに影響を及ぼすとも言われている。

これらの危機はいずれも、地球の未来に影を落とす深刻な問題だ。IUCN(国際自然保護連合)の試算によれば、生態系がもたらしているこれらのサービスを経済的価値に換算すると、年間33兆ドルにのぼる。すなわち、生態系が損なわれることにより、それだけの経済的損失に直結する。


( プラネタリー・バウンダリー 出典: J. Lokrantz/Azote based on Steffen et al. 2015.)


にもかかわらず私たちは毎日のくらしや経済活動のために、生物多様性が持っている自然の回復力・生産力を25%も上回る規模で資源を消費し、一気に枯渇させようとしている。人間が環境を搾取していると言われても過言ではない。地球環境の限界点を図式化したプラネタリー・バウンダリーでは、項目ごとに「限界値」などの指標を定めている。そして「気候変動」「生物圏の一体性」「生物地球化学的循環」「土地利用変化」の4項目はすでに限界値を超えていることが示されている。これは、私たち人間が生物多様性から受けている恩恵を自ら失うことであり、未来の可能性を閉ざしてしまうことを意味する。

この意見交換会でファシリテーターを務めた田中信康氏は、こうした深刻な現状が「ごく一部の人の認識にとどまっているのが問題だ」と指摘した。


(サステナブル・ブランドジャパン ESGプロデューサー 田中信康氏)

「やらなきゃ」ではなく「やりたい」に変える

・好奇心が最大のモチベーションになる

ディズニーでは、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の公開を記念してグローバルキャンペーン「Keep Our Oceans Amazing(わたしたちの素晴らしい海を未来に残そう)」を展開中だ。自然保護団体ネイチャー・コンサーバンシー(以下、TNC)が掲げる10種類の海洋生物とその生息地の保護活動への支援を目的とし、2030年までに海の10%を保護するという目標を掲げるTNCに対して最大100万ドルの寄付を目指している。
その一つの試みとして、『アバター』をモチーフにした自分だけの海の生き物(クリーチャー)を1体作るごとに5ドルの寄付になる参加型キャンペーン「バーチャル・パンドラ・オーシャン」を2023年7月31日まで実施する。ここで作成した生き物は、バーチャルの世界に広がるパンドラの海で泳がせることができる。

「エデュケーション×エンターテインメントの掛け合わせ。環境問題やサステナビリティの啓発は、なかなか一歩踏み出せない人にむけて敷居は低くしたい。そうした人たちに対しては、まず“楽しい”“ワクワクする”という喜びを入口にして、その結果、学びとなることを目指している。それを通じて、どのように人の心を動かすことができ、何らかの行動につなげられたかが大切だ」、とウォルト・ディズニー・ジャパンの秋月氏はアクティベーション(行動喚起)の重要性を説いた。


(ウォルト・ディズニー・ジャパン エグゼクティブ・ディレクター 秋月希保氏)

また、2022年12月8日(木)には沖縄・美ら海水族館で現地の小学生を招待し、危機に瀕した海洋生物について学び、海洋環境保護への行動を喚起する特別講座イベントを実施した。美ら海水族館統括の佐藤圭一氏とココリコ田中氏との特別対談では、10種類の危機に瀕する海洋生物の中から沖縄の海にも生息する「タイマイ」「マンタ」「ジンベエザメ」の物語を語り合った。さらに講座後には、ココリコ田中氏が子ども達と一緒に「バーチャル・パンドラ・オーシャン」にクリーチャーを作るデジタル体験を楽しんだという。

イベントに参加した本部小学校6年生の子どもたちからは、「小さなゴミ一つが生き物の命を奪ってしまうことを知ったので、これからはゴミを拾ったり、ゴミを捨てる人を注意したりと、自分にできることを考えたい」、「本部町の海を守るために、地域の人と一緒にゴミ拾いをしたい」など、身近な行動に落とし込んでいく決意の声が多く集まった。

このイベントについて沖縄美ら海水族館 統括 佐藤氏は、自分たちが住む地域をどう変えたいかという意識と関心を喚起する機会になったと、新たな試みとして行った共創イベントの手ごたえを実感したという。さらに「沖縄の美しい海を当たり前と思わずに、もっと海の生き物に関心を持ってもらい、将来私たちと一緒に仕事をしてくれる人が出てきてくれると嬉しい」とも語った。



(沖縄美ら海水族館 統括 佐藤圭⼀氏)

・なぜ、そんな問題が起きているのかを考えられるようになってほしい

佐藤氏は、子どもも大人も、同じ意志を共有する人と連携していくことの重要性を説く一方で、「同じ考え方の人ばかりではいけないと思っている。例えば映画のなかで投げかけられる環境問題に対しても、これが正解だということではなく、これをきっかけに色んな視点や意見を交わせたらいい」と、多様な考えをもって自由に議論しあえる機会の大切さについても指摘した。

日常生活において自分の直接的な行動が、海をよくすることにも悪くすることにもつながっている。「私たちの暮らしに近いところで問題を連想させることから、自分で考え、自分で行動できる子どもたちを増やしていきたい。子どもたちには単に社会や環境の問題を知るだけではなく、なぜそうした問題が起きているのかを考えられるようになってほしい」と佐藤氏は、未来を担う子どもたちへ期待を寄せる。

パートナーシップを拡げて海洋生物多様性の保全に取り組む

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』では精緻な描写と最新テクノロジーで海洋生物たちが生き生きと描かれており、まるで澄んだ海のなかに潜っているかのような没入感のある視覚体験ができる。本作品で海洋生物の監修を担当した公益社団法人日本動物園水族館協会 事務局長の 岡田尚憲氏は「こうした作品を見ることによって知り、自発的な学びにつながる。水族館や動物園も社会問題を考えるきっかけになる」と、エンターテインメントが担う役割の重要性を示唆した。


(公益社団法人日本動物園水族館協会 事務局長 岡田尚憲氏)


岡田氏はさらに、昨今のSDGsやサステナビリティへの関心の高まりに乗じて、同協会と連携したいという企業からのコンタクトが増えていることを明かした。これまでは協会の会員や省庁との連携が主だったが、それ以外の水族館・動物園とは直接関係がないような企業からも「一緒に何かやりたい、できないか」という相談があるという。

今回、初めてウォルト・ディズニー・ジャパンと協業してイベントを開催した沖縄美ら海水族館の佐藤氏も、異業種間のパートナーシップを重視する。「それぞれの得意分野、強みを活かして組むことで、これまでにない層との接点が持てたり、効果をもたらしたりと、より大きなインパクトを創出できるのではないか。沖縄美ら海水族館も観光の側面だけではなく、社会に対するメッセージをもっと発信していきたい」と意気込みを語った。


ストーリーテリングの力でアクションを促し、世界を変える

国連環境開発会議(地球サミット)で提唱された生物多様性条約の前文には、「人類が他の生物と共に地球を分かち合っていることを認め、それらの生物が人類に対する利益とは関係なく存在していることを受け入れる」と記されている。これはつまり、地球上のあらゆる自然そして生物が「人間のためだけに存在しているわけではない」ということに他ならない。

資本主義経済においては、すべての対象や物事を経済的価値に置き換えて考えがちだ。けれどもそれは人間による一方的な査定であり、自然のなかでは非常に偏った視点であることに私たちは気づかなければならない。生物多様性という壮大かつ複雑な世界の存続を考えるとき、一部の偏った視点だけで意味や価値の重さを量るべきではない。

自分たちの経済活動や日常生活が、世界の誰かの犠牲や苦しみの上になりたっているかもしれない。自らが関与していない自然環境の壊滅的なダメージによって、たとえば永久凍土が融けたり、海面上昇によって島が海に沈んだり等、これまでの生活拠点を奪われる人々がいる。もちろん、絶滅の危機に追いやられている動植物たちのことは言うまでもない。
そうした人や動植物への共感や想像力をはたらかせる感性は、ストーリーによって喚起されたり磨かれたりするのにちがいないだろう。


(大ヒットを記録した『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』 全国の劇場で公開中 © 2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.)


「エネルギー=命は借り物であり、いつか返さなければならない(All energy is only borrowed, and one day you have to give it back.)」
全編を通じて環境問題について様々な問いを投げかける『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のなかで語られるこのメッセージには、まさにストーリーテリングの中核となる想いが込められている。人間と生物の多様性にとって、より健やかでサステナブルな環境を維持するために、私たちはどんな行動を起こしていくといいのかを考えるきっかけになるにちがいない。

ウォルト・ディズニーは、ストーリーの力で世界を変え、誰もが自分らしくいられる世界の実現を目指している。それはストーリーによって問題を自分ゴト化し、具体的なアクションを促すことでもある。

「沖縄美ら海水族館のイベントで90名の子どもたちと素晴らしい機会を持てたことは、大きな一歩。でもこれに満足することなく、もっとこの輪をひろげていきたい。海にまつわる映画は今後も公開を予定しており、ストーリーを通じて海洋環境への関心・理解を深める活動を継続したい」と秋月氏は今後の意欲を語り、さらに「そのためにはどれだけパートナーシップをひろげていけるかが大切」として、活動をスケールアップしてより大きなインパクトをもたらすためには共創や連携が欠かせないことも訴えた。



【参考サイト】

ウォルト・ディズニー、Keep Our Ocean Amazing(わたしたちの素晴らしい海を未来に残そう)

環境省、海洋生物多様性保全戦略公式サイト

WWF、生物多様性とは?その重要性と保全について



■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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