【B Corp認証取得企業】全従業員を巻き込み、循環型社会の実現を目指すエコリング


(2023.2.16 公開)


#循環型社会 #B Corp #サステナビリティ #リユース #SDGs


公益性の高い優良企業の証として知られるB Corp(ビーコープ)認証。国際認証であるB Corp認証は、米国のペンシルベニア州に本拠を置く非営利団体のB Labが運営しています。2023年2月現在、世界全体で6000以上の企業が取得しています。その中で最も優れたトップ5%の企業を表彰する「Best For The World」という制度があります。2022年、環境分野で見事そのトップ5%に選ばれた日本企業が株式会社エコリングです。

(画像提供:株式会社エコリング)

エコリングは、日本やアジアで不用品のリユースサービス事業を展開する企業です。不要な物を買い取り、それを必要とする人の元へ届ける。そんな循環の橋渡しをするエコリングは、持続可能な社会に向け今後ますます重要な役割を担っていくと考えられます。エコリングでは、B Corp認証以外にもサステナビリティに関するさまざまな取り組みを行っています。またその取り組みにはほぼ全ての従業員が何らかの形で関与しています。今回は、そんなエコリングの事業の価値やB Corp認証取得までの道のり、全従業員を巻き込んだサステナビリティ推進のヒントを伺うべく、コンプライアンス部部長の大和田誠太郎氏、コンプライアンス部サステナビリティ推進課課長の村上洋子氏、ITコネクト部横山徹氏に取材しました。



循環型社会における「何でも買い取り」の価値

エコリングの姫路本社(写真提供:株式会社エコリング)

2023年2月現在、全国200店舗で買取事業を展開するエコリング。店舗の目印となる黄色い看板を街中で見かけたことのある方もいるかもしれません。エコリングの買取事業のコアコンピタンスは「何でも買い取り」。一般的なリサイクル店では断られてしまうような、使いかけの香水や履き古した靴、取手が切れてしまったバッグ等も買取をしています。これらの買い取りを可能にしているのは、海外を含む5000社以上のリユース・リサイクルのネットワークです。「無駄な物は1つもなく、欲しいと思える人に繋げていく」エコリングはこれまでこのような想いで事業を行ってきました。買い取った物は、インターネットオークションや業者間取引、海外店舗などで販売もしています。

環境省の調査では、2020年の日本全国のゴミ排出量は4,167万トンで、東京ドーム約112杯分に相当します。最終処分場の残余年数は全国平均で22.4年です。今後はいかに捨てられる物を減らし、循環させられるかが重要となってきます。村上氏は「現在の大量生産・大量消費・大量廃棄社会から、最適生産・最適消費・最小廃棄の持続可能な社会へ移行するためにエコリングとして貢献していきたい」と、語っています。冒頭で述べた「Best For The World 2022」受賞も、この「何でも買い取り」によるリユース事業が大きな要因となりました。しかしB Corp認証取得に向け取り組み始めた当初は、このリユース事業が評価されていない状態だったと言います。

そもそもB Corp認証は、「ガバナンス」「従業員」「環境」「顧客」「コミュニティ」の5つの評価項目があります。これら5つの分野に関する認証試験「B Impact Assessment」において、200点満点中80点以上を獲得することが、B Corp認証を取得するための要件となっています。評価は、B Corp認証を運営している米国のB Labが行います。先述したように2022年、エコリングは5つの項目のうち環境部門で「Best For The World」を受賞していますが、当初は全体のスコアが40点満点中14.1点と、とても低い値でした。この原因を探っていくと、エコリングのメイン事業であるリユース事業が循環型社会へ貢献するという価値が評価者に伝わっていない事に気がつきました。米国では、不要になった物は「売る」よりも施設等に「寄付」をする文化が強い国であったことも関係しているのではと言います。この点に気づき、評価者に価値を理解してもらえるような説明を行った結果、その後一気に30点ほどスコアが上がったといいます。

「全員」が関与するB Corp認証取得への道のり

B Corp認証を知ることになったシリコンバレー研修での桑田社長(写真提供:株式会社エコリング)

エコリングがB Corp認証取得に向け、取り組み始めたのは2018年。きっかけは、当時米国のシリコンバレーを中心に実施していた海外研修だったと言います。その時、コーディネーターに紹介された現地の企業がB Corp認証を取得しており、初めてその存在を知ることになりました。社会課題を解決するようなパワフルな企業を目の当たりにし、自らの会社もそうなりたい、と社長の桑田氏が取得を目指すことを決断をしました。役員チームの発足と共に、当時会社の社風醸成の役割も担っていたコンプライアンス部で認証取得を推進していく形となりました。

トップダウンの推進と並行して行われたのがボトムアップ型の「B Corpプロジェクト」です。B Corpプロジェクトでは部門ごと、また部門横断のさまざまなチームが発足しました。例えば女性だけが集まる部門横断の「女性Bチーム」では、女性従業員の声を拾い、その中で出た意見を役員に提案し、女性がより働きやすい職場環境づくりに役立てる活動を行ってきました。また横山氏の所属するITコネクト部では、エコリング版のSDGsカードゲームの作成や、歩くだけで仮想通貨が貯まる『Sweatcoin(スウェットコイン)』を活用した寄付活動に取り組みました。こうした取り組みは「日常生活の中で気づいたことを、まずは楽しみながら取り組んでみよう!という従業員の意識に繋がっている」と横山氏は言います。また、昨年(2021年)の大きなトピックは「CO2見える化チーム」が「エコパラメーター」をリリースしたことです。エコパラメーターとは、「顧客がエコリングを活用したことで、どれほどのCO2排出を抑制できたのか」を見える化する取り組みです。エコリングの店頭でリユースした商品のCO2削減量の履歴をスマートフォン専用アプリで確認できます。

顧客は自らの削減したCO2をエコパラメーターで確認できる(画像提供:株式会社エコリング)

これ以外にもさまざまなチームが発足しました。度合いこそ異なるものの、エコリングではほぼすべての従業員が何らかの形でB Corp認証や関連する活動に関わっています。村上氏は「B Corpは一部の人間だけが頑張って取ろうとしてできるものではなく、会社全体で取り組んでいかなければならないもの」だと言います。2018年に取り組みを開始し、2021年にB Corp認証を取得するまで足かけ3年、従業員やチームがそれぞれ良い会社づくりに努めた結果、認証取得に至りました。認証取得後もB Corpプロジェクトは毎年継続しており、2023年度も引き続き継続が決まっているそうです。

ボトムアップ型のサステナビリティ推進のヒント

海外で従業員がボランティアや物品の寄付を行うえがおプロジェクト(写真提供:株式会社エコリング)

エコリングでは他にもさまざまな取り組みが行われています。例えば、児童養護施設の子どもたちを支援する天使園プロジェクトや、従業員が海外に行ってボランティアや物品の寄付をするえがおプロジェクト等です。これらのプロジェクトは従業員の「やりたい」から生まれたボトムアップ的なものも多いそうです。従業員のボトムアップ的な取り組みが可能となる背景には(1)会社の明確な方針(2)評価制度(3)社風等が挙げられます。

まず(1)会社の明確な方針についてです。驚くべきことに、エコリングという会社は当初、地球環境や社会への貢献よりも儲けることに関心があった会社だったと言います。方針転換の必要性を少しずつ感じ始めたのが2015年、SDGsが国連で採択された年でした。それまでも寄付やボランティアは行ってきましたが、社内に向けてそれを発信することはありませんでした。その後、B Corp認証取得に向け動き出した年でもある2018年、会社の方針としてサステナビリティを重視していくことを明確に打ち出しました。環境や社会への配慮が求められる時代の流れとエコリングのリユースの事業がマッチしたことも、方針転換を決断する上で大きな支えとなりました。この方針転換は、人材面でも良い効果をもたらしました。SDGsや環境配慮への取り組みを理由に入社を希望する優秀な若い人材が増加したと言います。実は、今回取材をした村上氏もその1人です。学生時代は途上国への貢献に関心があり、フィリピンでの1年間の留学経験もあると言います。当時、エコリングが挑戦していたサステナビリティに関する取り組みをテレビで見て、会社の存在を知りました。会社の明確な方針転換は、優秀な人材の確保の点でも良い影響をもたらします。

続いて(2)評価制度です。エコリングでは、配分は大きくないものの、社会・環境に配慮した行動が評価の対象になります。具体的には、どんな行動をしたかを評価の際に上司がヒアリングしています。評価制度に社会貢献活動を組み込むことは、従業員のモチベーションにも繋がっています。最後は(3)社風です。エコリングには元々、新たなチャレンジの提案がしやすい社風があり、これが従業員の自発的なプロジェクト立ち上げに繋がっているのではと言います。また社長と従業員の距離も近く、困ったことは社長に相談できるような社風だったと言います。現在では規模が大きくなりそれが難しくなったものの、全国の店舗への目安箱設置やアンケート実施等、一人一人の意見を把握しやすい体制になるよう工夫しています。

こうした要素に加え、エコリングでは従業員の意識をさらに高めるためのインナーブランディングにも力を入れています。例えば「コメントで遊ぼうB Corp」という社内のオンライン掲示板があります。これはインナーブランディングを担う部門横断のチームが始めた施策です。従業員同士が、日常の中で取った社会・環境配慮行動や気付きなどをシェアし、意識を高め合える場となっています。例えば、ボランティアへの参加報告が掲示板に書き込まれると「次回ボランティアに一緒に参加しましょう」「みんなで活動したいですね」「次の報告も待っています」といったコメントが集まります。また中国地方の従業員から、職場で出るゴミの分別に関する気づき共有があった際には、各拠点から「見習います!」「分別の大切さに気付いた」などのコメントが寄せられました。掲示板で多くのコメントをした従業員は、年末の全従業員が集まるイベントで表彰されるなど、従業員のモチベーションにも繋がっています。

従業員の意識といった点では、B Corp認証取得も良い影響をもたらしました。認証取得後、自治体や教育機関、大手企業との取引が増加し、有名百貨店での催事も急増しました。大手企業、特に上場企業の場合は、取引先となる企業にも透明性を求めます。エコリングが未上場にも関わらず、そのような大手企業と取引が可能となった背景には、B Corp認証取得による信用増加が大きく関係しているのではと言います。従業員にとってこうした実績は、「顧客が気軽に参加できるリユースのプラットフォームをエコリングが提供できている」という実感にも繋がっています。

百貨店催事のブース((写真提供:株式会社エコリング)

顧客や従業員と共に、循環型社会を目指す

持続可能な社会の実現に向け、リユースの仕組みは今後も大きな役割を担います。最後に今後の展望を伺いました。村上氏は「エコパラメーターのように、お客様がエコリングを利用することで環境に貢献できるような取り組みにチャレンジしていきたいです。それにより従業員だけでなく、お客様も含めて共に環境意識を高めていけたら」と話しています。大和田氏は「現在リユースを活用しているのは、全国民の40%ほどと言われています。残りの60%の人にもリユースを知り活用してもらえるように業界全体で盛り上げていきたいと考えています。さまざまなリユースサービスが存在する中、エコリングでは「循環」に共感してサービスを利用してくれる方を増やしていきたい」と話しています。昨年末の消費者アンケートでは、エコリングの利用動機に環境配慮の項目が多く挙がるなど、消費者の意識も変化していると言います。エコリングという社名には、エコロジーの輪(リング)を広げていくという想いが込められています。顧客や従業員を巻き込み、共に循環型社会を目指すエコリングから、今後も目が離せません。


【参考】
Best For The World 2022 Lists│B Lab
・エコリングアプリに新機能「エコパラメーター」が追加!│株式会社エコリング
・日本で唯一、B Corp認証の「環境」分野において、世界上位5%の「Best For The World 2022」として表彰されました│株式会社エコリング
・エコリングホームページ│株式会社エコリング
・【B-Corp認証】を取得したエコリングの社内掲示板をご紹介!│株式会社エコリング
一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和2年度)について│環境省


■執筆:contributing editor Eriko SAINO
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