地域資源を生かしたサーキュラーエコノミー先進地域 「SDGs 未来杜市」真庭市のサステナブル・地域・ブランディング

(2023.2.10. 公開)

#SDGs未来都市 #地方創生 #地産地消 #サーキュラーエコノミー #バイオマス発電 #生物多様性


岡山県真庭市は、2018年に「SDGs未来都市」に選定された。市域の約8割が森林という特性から、「杜(もり)」とかけて、真庭市を未来「杜(と)」市と称する。未利用の広葉樹林・針葉樹林などを使用した木質バイオマス発電や、生ごみから生成した農業用肥料「液肥」の“地産地消”に取り組んでおり、2022年時点では真庭市のエネルギー自給率は60%を超える。

廃棄物や未利用資源を生かして経済を循環させる「回る経済」の実現にむけて、真庭市におけるSDGsに関する施策を市民活動へと拡張するだけでなく、地域振興への想いを表すコミュニティ・ブランド“GREENable(グリーナブル)”を株式会社阪急阪神百貨店の協力を得て立ち上げるなど、幅広いステークホルダーとのパートナーシップ連携も強化する。

私たちの暮らしは、生物多様性がもたらす自然の恵みがなければ成り立たない。そこに暮らすひとりひとりが小さな行動を積み重ねていくことでしか、この生物多様性を守ることはできない。発電やごみの焼却によって過度に排出されたCO2が自然環境や生態系に悪影響をあたえている。ごみを減らし、廃棄物を有効活用し、エネルギーを自給する真庭市は、いま多くの企業や自治体、教育機関からも注目を集めている。

真庭市の取り組みや、ここで生まれるサステナブルな地産ブランドが呼び水となって、持続可能な世界に共感する人々が真庭市へ訪問する機会が増えているという。一般社団法人真庭観光局に取材した。



木質バイオマス発電所を中心としたサーキュラーエコノミー

岡山県北部に位置する真庭市は、日本有数の木材集散地だ。製造品出荷額の約3割を木材・木製品製造業が占めており、「木材のまち」として知られる。木材が地域経済の中心にある真庭市は、地域から出る木材を使い切ることによってサーキュラーエコノミーの構築を目指す。具体的には、これまで産業廃棄物として処分費相当1億円以上をかけて処理していた未利用の木材を発電燃料として活用するだけでなく、有価で取引できるようにした。
産業廃棄物処理にかかる莫大なコストを削減できるだけでなく、燃料資源へとアップサイクルもできることから、
地域経済へのインパクトは大きい。

実際に木質バイオマス発電を1年間(2018年7月~2019年6月実績)稼働させた結果、素材業者約20社と製材会社約30社の利益が向上した。さらに山林所有者へは燃料代のうち550円/tを還元し、2014年~2021年の合計還元見込額は約2億円にのぼる。CO2削減量も、発電所のみで54,000t‐CO2を達成した。

サステナブルツーリズムの先駆け、バイオマスツアー

処理に苦慮していた廃棄物や未利用資源を有効活用して地域経済へ還元する事例は、今でこそサステナブルな活動として注目を集めているが、真庭市にとっては、もともと「SDGs」や「サステナビリティ」が盛んになる前から地域の課題として取り組み続けていたことだった。

環境問題への意識が徐々に高まるにつれ、真庭市のバイオマス事業を視察したいというニーズが増えてきたという。そこで真庭観光局は、市の先進的な取り組みを見学・体感できる「バイオマスツアー真庭」を2006年にスタート。発電の原料となる木材を集める「バイオマス集積基地」や発電を行う「バイオマス発電所」をはじめ、市内のバイオマス関連施設や企業を訪問するパッケージツアーとして、海外からの参加者も含め年間約2,000人が参加する。


(バイオマスツアーの様子)

ツアーをはじめたころは民間企業や行政からの参加者が多かったが、SDGsの隆盛に伴い、学生の参加も増えてきているという。新しい施設や取り組みが次々と生まれているので、繰り返しツアーに参加する人も少なくない。
地元の木材だけを燃料にするという仕組みは国内でも真庭市だけということで、「その部分だけ知りたい」というニーズに対して、ツアープログラムを細分化する工夫も数年前から取り入れている。日帰りでツアーに参加したい人や、授業の関係で泊りがけでの参加が難しい学生にも人気だ。
また、バイオマスツアーで真庭市の魅力に惹かれ、プライベート休暇であらためて真庭市を観光目的で訪れる人や、ツアーをきっかけに真庭市に移住する人もいて、そうした新しい人の流れが新たな真庭市の魅力発信にもつながっている。

旅行会社の既存顧客へアプローチすることを目的に、株式会社JTBとの共創でバイオマスツアーを商品化したり、市内在住者・在勤者を対象にした『市内SDGs交流ツアー』を企画したりと、再生エネルギーや地産地消について学ぶ機会や里山の魅力を体感できる機会の提供を市内外へひろげる。



真庭市のみならず、岡山市・倉敷市・西粟倉村と連携して『SDGs体感モニターツアー』という新たな企画も2022年から始めている。岡山県内で「SDGs未来都市」に選ばれた4都市の取り組みを巡るツアーで、これによって岡山県内でSDGsをさらに浸透させ、県内の他の自治体も未来都市を目指せるように、との想いが背景にある。そして2023年には、県内外へこうした取り組みを知ってもらえるように商品化したい、と中原氏は話す。

「ただ観光するだけでなく、地域の取り組みを勉強したいとか、知識を深めて自分の地元に活かしたいという声を多く聞くようになり、SDGsや環境問題に対する意識が広がっていると感じる。」そうした機運を受けて、サステナブルな価値を体験できるランドマークを2021年7月に蒜山(ひるぜん)高原に開設した。


サステナブルを体感できる「場」と「プロダクト」のブランディング戦略

・SDGs未来杜市の新たなランドマーク

都市と農山村を結びつける観光文化発信拠点として、SDGs未来杜市の新たなランドマークとして、「GREENable HIRUZEN(グリーナブルヒルゼン)」は2021年7月にオープン。ワークショップやマルシェなど、サステナブルなライフスタイルを普及する企画を定期的に開催しており、来場者は開設から半年で13万2千人にのぼる。ワークショップには遠方からの観光客も参加し、岡山のデニムメーカーJOHNBULL(ジョンブル)とのコラボレーション企画では数千人が参加した例もある。





蒜山高原の自然を生かした体験メニューのひとつとしては「トレイルラン」を実施。自分たちが走る登山道を自ら修復することを目的に、ランニング後に走ってきたコースをきれいにするパッケージプログラムだ。有料の企画だったにもかかわらず300人が参加し、うち50人がランニングコースの修復にも参加した。

この施設を設計監修した建築家の隈研吾氏は「コンクリートで箱をつくるという20世紀の建築とは真逆を目指した。自然との一体化、自然との共生をテーマに、“どうやったら自然の中に人が戻ることができるか”を考えた」とのメッセージを寄せている。

・建材をリユース、東京から移築した「里帰り」CLT建築

GREENable HIRUZEN が建てられた経緯にも、サステナブルな要素が散りばめられている。
事の始まりはCLTの魅力と木材文化の発信を目的に、真庭市で製造されたCLTを使用し、隈研吾事務所のデザインによる CLTパビリオンを東京の晴海に建築したのが2019年。その後、晴海での役目を終えたパビリオンは部材をリユースして、蒜山に移築したのだ。


(SDGs未来杜市 真庭の新たなランドマーク、GREENable HIRUZEN)


CLT(Cross Laminated Timber)とは、ひき板を並べた層を板の繊維方向が層ごとに直交するように重ねて接着した大判のパネルで、断熱・耐火・耐震性に優れた新しい木質構造用材料だ。真庭市が誇るCLT建材、そして解体しても再生できる木造建築の特性を活かしたアップサイクルした壮大な事例としても、地方創生×サステナビリティを具現化するシンボルにふさわしい施設だと言えよう。

・パートナー連携でひろがるGREENableのサステナブル・ブランディング戦略

「人の営みを、自然の中で考える。これから先の、自分らしい生き方を見つけてください」と、GREENable HIRUZEN のブランドメッセージは、私たちに呼びかける。




標高500mの蒜山高原で希少なニホンミツバチを育て、純正生はちみつ(百花蜜)を採集し、非加熱・無添加で販売している「328(みつばち)農園」。真庭市美甘で廃校となった中学校を加工場とし、獣害被害となっている鹿や猪のジビエを加工・販売する「株式会社しげや」。瀬戸内海で育った牡蠣の殻に含まれる豊かなミネラル成分を田んぼに入れて育てた「真庭 里海米(さとうみまい)」や、真庭で手摘みされた山野草をふんだんに入れた「里山カレー」。水がきれいなことから真庭市には昔から発酵の文化があり、そこから生まれた「河野酢味噌製造工場」の味噌・酢・醤油や「株式会社 辻本店」が手塩にかける日本酒など、真庭市ならではの地域資源を活かした産品がGREENable HIRUZEN に並ぶ。

GREENable HIRUZEN で取り扱うアイテムには「GREENableブランド基準」を設け、地元資源を活かしたサステナブル・ブランド発信を行う。この基準は、まず何よりも自然環境を考慮されているか、プロダクト自体や製造プロセスがサステナブルであるかが最も重視される。これらの商品を購入し、使用しながら自然環境や地域資源を保全していくという考えに沿っているかが重要であり、すなわち「GREENableブランド」を購入・利用する人が増えれば増えるほど、真庭の自然がきれいになり里山の生態系も修復されていく。

GREENable のブランド戦略は、株式会社阪急阪神百貨店と連携して進める。同社の都市型小売業としての知見を活かし、GREENableの理念に添う新しい付加価値をもつ商品開発や、販売チャネルにおけるブランディングに伴走する。他にも、理念に共感する他県企業・メーカー・ブランドとの共創についても、同社がコーディネーターとして「つなぐ」役割を担っているという。

・里山や生物多様性の保全にも貢献するアップサイクル

蒜山高原に自生するススキを主原料に55%使用した「森のタンブラー 茅」は、地域と連携した環境負荷低減に挑戦するアサヒユウアス株式会社とのコラボレーションから生まれた、サステナブルなプロダクトだ。
蒜山高原では、古くから茅刈りや山焼きを行うことで雑木の進入を防ぎ、植物の新芽の成長を促し、多様な動植物が生息する草原を保っていた。しかし近年は茅葺きの建物が減り、飼料などとしての需要も減っていくなかで、
蒜山の草原をはじめとした里山が荒廃しているという課題があった。そこで刈り取った茅の価値を高め、アップサイクルすることで自然環境維持や地域産業活性化に貢献することができる。
タンブラーの正面には建築家・隈研吾氏が設計したサイクリングセンターの装飾に使用されている茅のデザインモチーフを刻印しており、さらにこのサイクリングセンターでも軒下や天井に茅を活用している。



(岡山県真庭市とアサヒユウアス株式会社が協業した、「森のタンブラー 茅」)


自然と共生する社会、里山に恵みをもたらす地産地消経済の確立へ

里山とは、田畑や森、草原、水路など暮らしに結びついた自然と人が共存してきた地域を指す。適度に人の手が入ることで生態系のつりあいがとれ、人にも自然にもいい環境が保たれてきた。高齢化で過疎地になったり、間伐されない森は植生が荒廃。山が荒れると、そこに棲む生物たちの食物も減少する。里山ならではの生物多様性を守り、荒れてしまった里山を再生させるのに必要なのは、地域資源を軸とした循環型経済の確立だ。




(出典:真庭市ホームページ「真庭市のSDGsの取組」


里山は、原生林とは異なり、ただ保護すればいいものではない。人がそこに住み、自然の恵みを活用し、自然と共生する暮らしを営むことが理想。里山のもつ自然の機能を活用し、地域の事業と連携したり還元したりしながら、経済をその地域で経済を「回す」ことが必要だ、
近年は地方移住を希望する人や、里山の資源を利用して新しい仕事を始める人も増えている。真庭市のバイオマスツアーや、GREENableを拠点としたサステナブルなライフスタイルの価値発信は、こうした人々を呼び込むのに奏功している。

この地域ならではの産品を集めたGREENableブランドや、ここでしか体験できない自然のなかでのアクティビティなど、いずれも真庭市へ人々の足を引き寄せる相乗効果が見込まれる。新型コロナウィルス禍で地方への観光は厳しく冷え込んだ。しかし真庭市はその「厳冬」の時期に、不安や息苦しさを募らせ、ただ縮こまるのではなかった。この地域の魅力、そしてこの地で出来ることを市民と一丸となって考え、実行してきた。そうした取り組みにより、新たな交流やにぎわいをもたらす「春」の息吹が真庭の地に吹きはじめている。



【参考サイト】

SDGs未来杜市真庭

岡山県真庭市 SDGs未来都市計画(2021~2023)
https://www.city.maniwa.lg.jp/uploaded/attachment/28928.pdf

サステナブルを体感できる新たなランドマーク 『GREENable HIRUZEN』 7月15日(木)オープン!岡山県真庭市・蒜山高原の観光文化発信拠点に。

GREENable HIRUZEN

エイチツーオーリテイリング株式会社プレスリリース

岡山県真庭市と協業、「森のタンブラー 茅」 5月21日発売

真庭SDGs・バイオマスツアー







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