宝島社・日本経済新聞社メディアビジネスイベント・企画ユニット 共同イベント「Hello Femtechアワード 2022」開催

(2023.1.31. 公開)

#フェムテック #女性活躍推進法 #ジェンダー平等 #イノベーション #ウェルビーイング

宝島社と日本経済新聞社メディアビジネスイベント・企画ユニットとの共同で開催された「Hello Femtechアワード2022」。宝島社は、男女ファッション誌13誌合同でフェムテック啓発プロジェクト「もっと話そう! Hello Femtech(ハローフェムテック)」を2021年12月から推進している。2022年12月12日のイベントは、1年間にわたる活動の集大成として、フェムテックにビジネス視点で取り組む企業や自治体の講演、普及に貢献した企業や著名人の授賞式などが行われた。


日本経済新聞がマーケティング視点で読み解くフェムテック市場

プログラムは、日本経済新聞社 編集委員 中村直文氏による基調講演「消費者に寄り添うマーケティング戦略 ‐フェムテック市場を考える‐」で幕を開けた。

講演のなかで中村氏は、日本経済新聞における「フェムテック」を取り上げる記事数の推移を示した。2019年にはわずか5件、2020年は若干増加するも18件にとどまっていたのが、2021年に一気に90件まで急増し、2022年も12月半ば時点でさらに3割増しの120件にまで伸びている。こうした顕著な変化を踏まえ「新しいサービスとして認知が進む拡大期にある」とした上で、「ブームの初期段階にあたるが、正しく理解されていないという課題もある」と中村氏は指摘した。

ヒットとは「時代」の発見である。マーケティングニーズは、3つの「不」=不満・不平・不幸を先取りして解決=「文句」から始まる。イノベーションとは問題発見であり、いかに問題を見つけてビジネスにしていけるか。
この点においてフェムテック・フェムケアの商品やサービスが“新しい満足”を生み出す将来のポテンシャルを示唆し、女性がこれまで我慢してきた不調や悩みを「見える化」することで、フェムテックの認知拡大が期待できると解説した。


女性の負荷を軽減したセルフケアマネジメントを提案

つづいては、ICheck株式会社(以下、アイチェック)代表取締役 金子賢一氏と同 取締役兼チーフ・メディカル・アドバイザー、スタンフォード大学医学部スタンフォードソリューション共同創設者・ディレクター リチャード・カシンスキー博士(医師)が今後のビジネスにおける視点から企業プレゼンテーションを行った。

同社が開発した子宮頸がんや性感染症などの検査キットでは、女性が病院に行きづらいという障壁をなくすよう、自宅で簡単に検査が完結する仕組みを意識した。また、痛みの少ない乳がん検査やAIによる早期リスク発見のサービス開発にも注力する。

「持続可能な健康社会をつくる」とのミッションを掲げるアイチェックは、10万件の検査データから個人によるセルフケアマネジメントを提案。ICheck HEALTH TO EARN PROJECT と名付けられたプロジェクトは、「健康になるとお金がもらえる」という新しい発想から生まれた仕組みだ。自身の健康情報の価値に気づくことでPHR(Personal Health Record, パーソナル・ヘルス・レコード)の普及を推進する。PHRとは、個人の健康に関する情報を本人が自由にアクセスできるように集約し、それらの情報を用いて健康増進や生活改善に役立てるものを指す。


健康情報のなかには高血圧や糖尿病といった検査が含まれており、女性がなりやすい疾患のリスクが低減し、健康指数に近づくとメリットがもたらされる。

ひとりひとりが自分の身体の状態を知り、管理することで、ウェルビーイングな未来をつくる。気軽に健康管理し、その情報をNFTに変換できる。ブロックチェーンを活用することで個人情報を安全に運用し、医療機関との連携も可能になる。

また、日本人女性の9人に1人が生涯で乳がんになるという国立がん研究センターによる最新がん情報(2021年)データを踏まえ、乳がんは早期に発見すれば治るがん(10年相対生存率98%)であるにもかかわらず、日本における乳がん検査の受診率は5割に満たない。欧米諸国が7割を超えているのに対し、大きく差があることを指摘した。
受診率が低いのは、検査に伴う痛みや費用負担が大きな原因として、最新のエラストグラフィ(超音波検査でしこりの硬さを画像化する技術)とAIを用いて検査ができるテクノロジーを紹介。
痛みが少なく、リアルタイムで結果が出せて、しかも低コスト。特別な設備も不要で場所もとらないため、企業での健康診断にも導入が進められているという。


(上:ICheck株式会社金子賢一氏、下:同社 リチャード・カシンスキー氏


企業の福利厚生としても広がりを見せるフェムテック

フェムテックを企業の福利厚生として導入する動きも広がりを見せている。
クリニックフォアが提供するオンライン診療サービスでは、生理の不調をサポートするための低用量ピルの処方に対応。企業と連携し、福利厚生として導入することで社員個人の費用負担を軽減できる。このサービスをいち早く導入したのが、大手家電量販店の株式会社コジマだ。

コジマは、企業として取り組む重要課題として「働くなかま応援」を掲げており、様々なメンバーが働きやすい環境整備を進めている。その一環として、クリニックフォアグループが提供するサービスを福利厚生として導入した。コジマの総務人事本部人事部 女性活躍・ウェルネス推進室長 大野幸恵氏と同係長 野口弥生氏によると、社内で行ったストレスチェックで4割の女性社員が「生理がパフォーマンスに影響する」と回答したことが導入のきっかけになったという。販売スタッフが多いビジネスモデルから「売り場から離れられず、経血がもれた」「生理痛がひどくてもシフト変更を言い出しにくい」等のリアルな声も紹介された。

「ピルは、女性のライフサイクルを整える頼もしいパートナー。生理は我慢しなくていい」とクリニックフォア産婦人科専門医 山田光泰氏もピルの利点を説いた。


性別に関係なく活躍できる世界を実現するために

もう一つのパネルディスカッションは、行政・自治体・企業の多角的な視点から「働き方アップデート」をテーマにフェムテックのこれからについて語った。

パネリストは、経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室長 川村美穂氏、渋谷区役所グローバル拠点都市推進室 瀬野小枝子氏、丸紅株式会社 フェムテック事業チーム長兼経営企画部国内事業推進課 野村優美氏、大塚製薬株式会社 ニュートラシューティカルズ事業部 女性の健康推進プロジェクト 家原光平氏という錚々たる顔ぶれだ。


経済産業省の川村氏からは、PMSによる労働損失4,911億円にのぼるという調査データを引き合い、女性特有の健康課題への対応の重要性が説かれた。また、経営層において多様性を確保することは、投資の観点からも企業の成長の観点からも経済価値が高いと指摘。DE&Iを推進することによってこそ、企業の競争力が高まるのだと言葉に力をこめた。

2021年からスタートした「フェムテック等サポートサービス実証事業」では、就労の現場でフェムテック・フェムケアのサービス・製品を使うことで「仕事のパフォーマンスがあがった」「仕事の両立がしやすい」等の成果をあげたい、と川村氏は話す。未だ根強い男女間の意識のギャップや「不平等ではないか」という声を変えていくためにも、フェムテック推進による“いい変化”を示すことで、こうした風潮を変えていきたいと展望を語った。


企業活動や著名人から発信される新しい価値観

フェムテックに取り組む企業や人を表彰する「Hello Femtechアワード2022」企業部門で受賞したのは、花王株式会社の「職場のロリエ」とロート製薬株式会社の「ドゥーテスト」だ。

サービス部門での受賞となった「職場のロリエ」は、働く女性の声から始まった、ナプキンを職場のトイレに備品化するプロジェクト。職場の備品としてトイレットペーパーと同じように生理用品があることで、心配事が一つ減って安心して仕事ができるかもしれないという思いが込められている。宝島社をはじめ、多くの企業がこの取り組みに賛同し、「職場のロリエ」プロジェクトに参加。
職場で生理をとりまく環境をアップデートさせ、生理についてオープンに話すきっかけを作り、男女問わず会社全体で生理に関心を持つ手助けになった点が評価された。

(受賞トロフィーを受け取る、花王 サニタリー事業部 シニアマーケター 石川雄一氏)

プロダクト部門は、妊娠検査薬として知られるロート製薬株式会社「ドゥ―テスト」が受賞した。これまで妊娠検査薬といえば女性が被検するものとの認識が一般的だったが、同社は2021年から「運動精子濃度テストキット」を加え、「妊活は女性だけでなく、男女双方で行うもの」というメッセージを発信した。
妊活を女性だけの問題とせず、男性を巻き込むという点が「Hello Femtech」プロジェクトの核心とも合致するとして受賞となった。
「1992年に初めて市場に出て以来、時代の移り変わりに合わせて機能を追加してきた。男女が協力しあう“ふたり妊活”を、これからも応援していきたい」と、同社 広報・CSV推進部 PRグループ 宮下侑子氏は受賞コメントで語った。

(受賞コメントを述べる ロート製薬 広報・CSV推進部 PRグループ 宮下侑子氏)

著名人部門では、つるの剛士氏、バービー氏、潮田玲子氏の3名が受賞した。

つるの剛士氏は、5人の子どもの父親という立場から性教育についての情報を様々に発信したり、自らの経験も交えて更年期症状への理解を周囲へ促したりという一連の活動が評価されての受賞だ。
受賞コメントでつるの氏は「自分としては特別なことをしたと思っていないが、素直に嬉しい。妻の言うことをちゃんと聞いておいてよかった!」と会場の笑いを誘った。


ひときわ目を惹く衣装で受賞トロフィーを受け取ったバービー氏は、「今日の衣装はジェニファー・ロペスをイメージした。彼女くらい主体的に、自分らしい選択をしていってほしいというメッセージをこめている」と語った。まさにこうした等身大の声を若い女性を対象に発信している点が受賞理由であり、「これから生理を迎える君へ 初めての生理」と題されたYouTube動画の再生回数は 335万回超(2021年1月23日時点)を記録している。

3人目の受賞者である潮田玲子氏は、自らの経験をもとに女性アスリートの健康や生理について考える団体Woman’s ways(ウーマンズウェイズ)を立ち上げ、積極的に提言を続けている点が評価された。
「Woman’s waysの活動を通じて、女性アスリートだけでなく、指導者やスタッフにも正しい知識を提供してきた。この受賞を励みにさらなる活動につなげていきたい」と潮田氏は誇らしそうに微笑んだ。


授賞式に続けて、つるの氏・バービー氏・潮田氏の3名によるトークショーが行われた。「もっと話そう」というテーマとフェムテック・フェムケアの浸透について、それぞれの視点や経験をもとに活発なディスカッションが展開された。

「パートナーが興味を持ってくれると、自分からも、もっと話したくなった」と、バービー氏がPMSのつらさをどのように男性に理解してもらえるようになったかについて話すと、つるの氏は男性の立場から「我慢してしまう女性も多いと感じていて、そういう場合だと男性からは声をかけづらい。でも、少しでも話しやすい雰囲気をつくっていけたら」と、踏み込みづらい雰囲気があっても寄り添う姿勢を見せることが大事だと続けた。
それを受けて潮田氏からも「男性が、女性の生理について学んでいる姿勢を見せてくれると、この人になら話せる・相談できるという安心感が生まれる。そこから話しやすい環境や、相談しやすい信頼関係が築けるのではないか」と、お互いに思いやるコミュニケーションが理想的だと話した。

あたかも恥ずかしいものであるかのように公に語ることが憚られてきた生理や性教育が、もっとオープンに、もっと気軽に情報を得られるようになるといい、というのが3人に共通した意見だ。
家族やパートナーと良好な完成性を築くためにも、ライフステージやホルモンバランスの影響を受ける女性にとって働きやすい職場を整えるためにも、まずは「話す」ことが相互理解の第一歩になることは間違いない。そして「みんなで変わっていく」という私たち一人ひとりの意識の変化が、男性にとっても女性にとっても、すべての人の生きやすさにつながっていくはずだ。

【参考サイト】
「もっと話そう!Hello Femtech」宝島社公式プロジェクト
日経チャンネル「Hello Femtechアワード2022表彰式&トークショー」


■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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