メイクブランド「レア・ビューティー」でメンタルヘルス支援を セレーナ・ゴメスのチャレンジ

(2023.1.20. 公開)

#メンタルヘルス #美容ブランド #メイクアップ #商品開発 #新型コロナ #ウェルビーイング #思春期 #ビューティークリエイター #インフルエンサー #チャリティ


セレブリティの美容ブランドは世界中で飽和状態だと言われる中、異彩を放ち、20~30代を中心に人種や性別にかかわらず多くのユーザーから支持を集め続けているメイクアップブランドが、コロナ禍の2020年に設立された「レア・ビューティー」です。

創業者でありクリエイターを務めるのが、歌手、俳優、プロデューサー、実業家として活躍するセレーナ・ゴメス。彼女は、レア・ビューティーの立ち上げにあたり、「非現実的な完璧さを追い求めることなく、一人ひとりがレア(特別)であることを受け入れ、そのユニークな美しさを大切にしてほしい」というメッセージを発信しています。

レア・ビューティーはメイクアイテム自体が高評価を得ているのはもちろんのこと、それにとどまらずメイクアップブランド以上の存在であることを目指しています。なぜなら、セレーナ・ゴメスのライフワークはすべての人の心を健康にすることであり、レア・ビューティーのミッションは、メンタルヘルスのスティグマ(負のイメージ、負の烙印)を払拭することだからです。

この記事では、そんなパーパス・ドリブンなブランド(存在意義を起点とするブランド)であるレア・ビューティーがどのようにミッションにアプローチしているのかを紐解きます。


美についての時代遅れの規範を打ち壊したい


レア・ビューティーのWebサイトやインスタグラムの中で、セレーナ・ゴメスは「美容の世界は非現実的なメッセージで溢れかえっていて、定型の美の概念やトレンドに支配されているように感じていた」と語っています。
幼いころからメイクをして人前に出ることを続けていた彼女は、ある種のトレンドに自分が全くマッチしていないことや、自分の姿が人目にさらされ、判断され、コメントされることに大きなプレッシャーを感じていたそうです。
心の平安を失い、双極性障害を患い、彼女自身が自分のメンタルヘルスに正面から向き合い続けてたどりついた結論が「社会の非現実的な美の基準に自分を合わせようとしない。私をユニークにしているものは私を美しくしているものでもあり、自分自身でいるだけで私はパーフェクト」というものでした。

自信をもつために今でも日々努力しているというセレーナが、一人ひとりがありのままでいることを応援し、美の規範や不要なプレッシャーを取り除く手助けをするために立ち上げたのがレア・ビューティーです。「私はメイクアップの第一人者でも、メイクアップアーティストでもないけど、美とメンタルヘルスについてのナラティブを変えていくために美容の世界に関わりたいんです。メイクアップは楽しむものであり、しなければいけないものではありません。レア・ビューティーを立ち上げたのは、自信をもって心地よく使えるような質の高い製品を私自身が求めていたこともありますが、それ以上に、美とメンタルヘルスについてのオープンな会話を通じて、時代遅れの美の規範をみんなと一緒に打ち壊して、美容業界に変化をもたらしたかったからです」(In Style 2022インタビューより)



売上高の1%をメンタルヘルス支援に


メンタルヘルスの負のイメージを払拭するためにブランドとともに設立されたのが非営利団体「レア・インパクト基金」です。レア・ビューティーでは、全売上高(利益ではなく)の1パーセントをこの基金に寄付することで、メンタルヘルスの問題への偏見をなくし、メンタルヘルスをサポートする機関への支援を行っています。10年間で1億ドルの寄付金を集めるという大きな目標を掲げるレア・インパクト基金ですが、2021年の時点で、メンタルヘルスと教育に焦点を当てた8団体に120万ドルの助成金を提供しました。
これらの団体は、自殺防止トレーニング、心といのちのホットライン活動、メンタリングプログラムなどのサービスを、若年層を中心に提供しています。10代の頃から心の不調に悩み続けたセレーナの「若い人たちがメンタルヘルスのリソースにアクセスできるように」という想いから、学校で実施できるカリキュラムや簡単に利用できるシステムづくりも行っています。
アメリカのZ世代にとって、自殺が第2位の死因であるにも関わらず、16%の学校でしかメンタルヘルスの支援がないことを受けて行った「メンタルヘルス101キャンペーン」では、学校でのメンタルヘルス教育を呼びかける嘆願書に6万8000人以上の署名と50万ドル以上の寄付金を集めました。自殺や心の不調を感じた時の無料相談先や周りの人の心の不調に気づくヒントなど、レア・ビューティーが発信したコンテンツは300万以上シェアされ、目標を大きく上回る結果となりました。

メンタルヘルス101キャンペーン
https://www.rarebeauty.com/blogs/news/mental-health-101

メンタルの不調についてオープンに語り合える場を提供


日本の調査ではありますが、労働者の2人に1人は精神的な健康度が低く、新型コロナ拡大以降、ストレスや悩みが増加した人は6割に上ることや、思春期女性への影響も大きいことが明らかになっています。それにもかかわらず、メンタルヘルスケアサービスの利用については、「期待していない」「抵抗感が大きい」という声が多いという結果も出ています。
調査リンク:https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/210915.html

「パンデミックがきっかけで、人々はようやくメンタルヘルスについて口に出せるようになりました」とレア・インパクト基金の代表であるエリス・コーエン氏は語ります。レア・イパクトでは、金銭的な寄付だけでなく、本音で語り合えるようなコミュニティ・イベントの開催にも力を注いでおり、自分自身の心身やウェルビーイングについて率直に語り合いたいという人たちが、つながりをもつためのプラットフォームとなることを目指しています。

レア・ビューティーというブランドが、人々が心地よくメイクを楽しむだけでなく、心地よい居場所になることを目的に、メイクやメンタルヘルスの会話を楽しむためのZoomのトークルームを開いたり、セレーナ・ゴメスをはじめとするビューティークリエイターやインフルエンサーを集めたメンタルヘルスの啓発運動について話し合うバーチャルコミュニティイベントを行ったりしています。また、メンタルヘルスの専門家たちと提携し、様々な角度からメンタルヘルスに関するコンテンツをレア・ビューティーのサイト上で無償提供することで、メンタルヘルス情報のハブの役割を果たしています。メンタルヘルス関連の情報には、2021年だけで1500万ものリーチがありました。


その他に、商品を絡めたキャンペーンも行っており、売上のすべてがレア・インパクト基金へのチャリティとなるリップ「Lip Soufflé Matte Lip Cream - Rare Impact」を2021年、2022年ともに限定品として発売しています。商品発売とともに、それぞれのメンタルヘルスにまつわるストーリーをSNSでシェアしあうキャンペーンも実施し大いに盛り上がりました。


働く人々のメンタルヘルスと教育も大切に


もう一つ注目したいのが、レア・ビューティーのスタッフたちに対する活動です。
レア・ビューティーでは、全スタッフがメンタルヘルス研修プログラムを学んでいます。これは、心や薬物使用などの危機にある同僚にいち早く気づき、サポートし合うことを学ぶスキルベースの研修プログラムです。技術として対応方法を学ぶことで、職場やコミュニティへのリソースとして役立てていくことを目指しています。
また、コロナを機に広まったアジアンヘイト体験談の共有や、働く人たちそれぞれの文化やアイデンティティを理解し、尊重するためのコミュニケーションチャンネルの紹介なども行っています。

メイクアップブランドでありながら、美容とメンタルヘルスの対話を喚起する取り組みをリードし、心の病について様々な専門家から多角的に学ぶことを通して、理解し、受け入れ合うことの実践をサポートし続けるレア・ビューティー。その活動は、人々の心からルッキズムやメンタルヘルスのスティグマを少しずつ取り除くことに貢献しています。
レア・ビューティーでは、ポジティブな気持ちを呼び起こして自信を高めてくれるようなアファメーション(なりたい自分になるための肯定的な宣言)を書いた付箋を家中に貼るというセレーナの行動からヒントを得た「レア・リマインダー」という活動を呼びかけています。


「自分にも周りの人にも結局は優しさが大事であり、どんな行動も小さすぎるものではない」というレア・ビューティーの活動は、まだはじまったばかりです。自分がもつ影響力を最大限に活用し、固定化された美の基準や周囲からの圧力による彼女自身の痛みを、ビジネスという形によって大きな社会的インパクトへと昇華させるセレーナ。すべての人がありのままの自分を受け入れ、心の健康を守ることができる未来に向けた、セレーナとレア・ビューティーの挑戦は、ビジネスはもちろん、生きる上でのヒントにあふれています。




■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士

お問い合わせはこちら