【アパレル・コスメ】広がるジェンダーレス商品に見る、消費者の価値観の変容



(2023.1.17 公開)



#ジェンダーレス #ファッション #LGBTQ+ #メンズコスメ #差別


男女という性別で区別をしない「ジェンダーレス」の価値観が、若い世代を中心に浸透しています。その価値観を反映するように、服や化粧品といったファッション分野では多くのジェンダーレス製品を見かけるようになりました。


ジェンダーレスとは

そもそも、性別には「生物学的な性別」と「社会的(文化的)な性別」があります。生物学的な性別は、生殖機能の違いによって決められるものです。一方社会的な性別は、社会によって作り上げられた「男性像」「女性像」のような男女で区別をする概念のことで、それ自体に良い悪いといった価値を含むものではありません。社会的な性別のことをジェンダーと呼び、ジェンダーレスとはこうした区別をしない考え方のことを指します。

似たような言葉としてジェンダーフリーという言葉があります。ジェンダーフリーは男女の性別の違いによって決められる社会的な役割や固定観念、それによる差別をなくそうという考え方です。例えば過去には日本の複数の大学が、医学部入試において性別を理由に女性受験生らに対し不利な得点調整をしていたことが発覚しました。背景には、医師になった後に女性は出産や育児で現場を離れること、男性のように長時間労働ができないと思われていることなどの固定観念があったとされています。こうした固定観念や差別をなくし、誰もが自分の望む生き方を選択できる社会の実現が望まれます。

ジェンダーレスという考え方が広がる背景には、女性活躍推進に伴うジェンダーフリーや多様な性といった考え方の広がりがあると考えられます。電通が2020年に実施した「LGBTQ+調査2020」によるとLGBTQ+層の割合は8.9%で、約11人に1人は当事者の可能性があります。職場においても一定数当事者がいると考えられ、昨今企業もLGBTQ+に対する取り組みを始めています。社会全体としても、これまで作り上げられてきたジェンダーの区別を改めて考え直す機運が高まっています。


顧客の価値観に寄り添うジェンダーレスな服


(筆者撮影:12月に行われたO0uの新作展示会)


サステナブルに関心のある層をターゲットにしたファッションブランド「O0u(オー・ゼロ・ユー)」は、ジェンダーレスな服を多く取り揃えています。O0uは2021年にデビューしたブランドで、株式会社アドアーリンク(株式会社アダストリアの完全小会社)が手掛けています。当初から、環境配慮素材の使用や商品ごとの環境負荷(CO2排出量・水使用量等)の表示など、一貫してサステナブルを意識したブランド設計がされており、筆者も注目していました。

今でこそ販売されている商品の半数ほどがジェンダーレスなO0uですが、当初は他のブランドと同じようにメンズ・ウィメンズで区別をして服を販売していたそうです。その区別をなくすきっかけは顧客の購買行動だったと言います。O0uの顧客にはメンズ・ウィメンズという括りに囚われずに買い物をする方が多かったため、無理に性別で分ける必要がないと判断したそうです。

ジェンダーレスな服と聞くと「男女どちらも着用可能なシンプルで大きめな服」をイメージする方も多いのではないでしょうか。O0uの服は、性別に関わらず着用できるのはもちろんですが、誰が着ても魅力的なシルエットになるよう、デザインに工夫が施されています。例えばこちらのニットカーディガンは性別を問わず着用できるのですが、なんとワンサイズ展開。肩幅が狭い方が着用するとAラインのようなシルエットになる一方、肩幅の広い方が着るとストンとしたストレートシルエットになります。O0uのオンラインショップでも男女両方のモデルが同じ服を着用しています。


(OVER KNIT CARDIGAN, 画像提供:株式会社アドアーリンク)

こちらのコートもワンサイズ展開ですが、ジェンダーレスに着用できます。


(GILET LAPEL COAT, 画像提供:株式会社アドアーリンク)

コートは着る人の好みに合わせて、袖の幅を3段階で調整できます。写真左の太めの袖だとクールな印象に、写真右のようにボタンを留めるとパフスリーブのようになりガラッと印象が変わります。


(筆者撮影:右のようにボタンを留めるとパフスリーブのようになる)

コートは季節を跨いで着用できるよう、袖の取り外しもできるようになっています。ジェンダーレス、シーズンレス、タイムレス。O0uではこれらの考え方も大切にしています。自分が着られなくなってもパートナーや子どもが着られるように、季節が変わっても形を変えて着られるように。昨今服の大量廃棄が問題になっている中、長く愛用できる服の提案は多くの方の共感を呼ぶのではないでしょうか。


(GILET LAPEL COAT, 画像提供:株式会社アドアーリンク)

O0uというブランド名には、始まりも終わりも境目もないアルファベットの「O」と数字の「0」、YOUと同じ音を持つ「u」が含まれています。人種や性別・年齢・思想・ライフスタイルなど既存の境界をなくし、着る人の多様な個性にゆだねて寄り添うようなブランドでありたいという願いが込められています。筆者も展示会で商品の随所に凝らされた工夫を聞く中で、まさに「着る人に服が寄り添っていく」ブランドであると実感しました。



広告の男性起用が進む、化粧品業界のジェンダーレス


(画像出典:日本ロレアル株式会社プレスリリース

かつては女性のものというイメージが強かった化粧も、今は性別を超えて広がっています。メンズコスメ市場は過去15年に渡り拡大傾向にあり、2022年の市場規模は2007年と比較して約1.4倍に拡大しています。コロナ禍の2020年は、外出機会の減少とマスク着用機会の増加により化粧品市場全体の規模が縮小する中、男性の化粧品市場は104%と拡大傾向となりました。

このように男性の化粧が広がる背景には、世の中の価値観の変化があると考えられます。例えばそれは、広告の変化からも見て取れます。化粧品の広告といえば女性が起用されるイメージが強いですが、近年男性が広告のモデルとして起用されることも珍しくありません。NARSは、2021年4月に新作のクッションファンデーションを発売する際に、俳優の横浜流星をモデルに起用しました。ボビイブラウンはK-POPグループEXOのKAIを、イヴ・サンローランのアンバサダーにはグローバルアイドルグループJO1を、雪肌精はフィギュアスケート選手の羽生結弦をそれぞれ起用しています。

イヴ・サンローランのJO1起用の背景には、メンバーの元々の美意識の高さがあったといいます。アンバサダー就任会見では、メンバーから「男性でも女性でも、きれいになることで自信が持てるというのを、僕たちが広めていきたいです」「男性も気兼ねなくメイクをして、人の心を魅了する時代だと思います」といった言葉が出るなど、まさに時代の価値観を体現したアンバサダー起用となりました。

このような男性のスキンケアやコスメ需要の変化を受け、大手企業からはジェンダーレスラインが登場しています。KOSEからは⾃然の恵みをふんだんに取りいれたジェンダーレス発想のネイチャーサイエンスケア「マニフィーク」が誕生。これまでにあった「男性用といえばメンソール」のような古い偏見を捨て、長年女性の美を研究し続けてきたからこそ提案できるアイテムを揃えています。THREEからは「FIVEISM × THREE」が誕生。一人ひとりの個性を尊重し性別や年齢など、既成概念にとらわれない「自己表現」を提案しています。髭の青みなど、男性だからこそ気になる部分をケアするアイテムも展開しています。

かつては浸透していなかったメンズコスメが今、市場の中で存在感を高めています。「男性は化粧をしないのが普通」といったこれまでの固定観念は若い世代を中心に人々の中から解放されつつあると言えるでしょう。


肯定的反応が多い教育現場でのジェンダーレス

(画像出典:株式会社土屋鞄製作所プレスリリース

ジェンダーレスの流れはランドセルや制服等、教育現場でも見られます。筆者が子供の時代にはランドセルは女の子が赤、男の子が黒というのが一般的でした。今やそのような固定観念はなくなり、老舗ランドセルメーカーの株式会社土屋鞄製作所では約50色ものランドセルを取り揃えています。2023年度入学向けのランドセルの販売実績では、購入者の4人に3人が赤・黒系以外の色を選択しています。土屋鞄製作所では「男の子の色」「女の子の色」といった枠を超えて、大人も欲しくなるような色にこだわったジェンダーレスシリーズを発売し、大ヒットとなりました。子供の好きな色を尊重してあげたいという親の気持ちにも寄り添う商品となったのも大きかったと見られています。

学校の制服では、女性がスカート、男性がズボンを履くことが当たり前とされてきました。2018年に千葉県の公立中学校が、性別を問わず選べる制服を採用しました。これがメディアでも大きく取りあげられたことで、今全国的にジェンダーレス制服を採用する学校が増えています。制服の製造販売を行う株式会社トンボによると、トンボのジェンダーレス制服を採用している学校数は年々増加傾向にあります。2018年には370校、2019年には450校、2020年には750校、2021年には1,000校強の全国の中学・高校でジェンダーレス制服が採用されています。

学校がジェンダーレス制服へ移行する際には2つの方法があります。1つは男女兼用の制服を採用すること、もう1つは制服の組み合わせを自由に選べるようにすることです。男女兼用の制服の場合は、左右のボタンの掛け合わせが自由にできるジャケットや性差が出にくいスラックス等が制服となります。組み合わせを自由に選べるようにする場合は、スラックスやスカートを性別に関係なく選べるようにします。トンボではジェンダーレス制服を導入する学校に対して「ジェンダーレスや多様性への配慮」ではなく「防寒対策や動きやすさ、肌のコンプレックスを解消する利便性」を打ち出すようにお願いしていると言います。ジェンダーレスや多様性を打ち出すことで、制服の選択が強制的なカミングアウトとなってしまう可能性があるためです。トンボが実施した「ジェンダーレス制服に関する親子の意識調査」では、保護者の81.5%、子ども(中高生)の83.1%がジェンダーレス制服に対して好意的な反応を示すなど、今後の広がりにも期待が高まります。


多様な個人に寄り添うことが大事

「本当はスカートが嫌いだけど女子だから制服はスカートになってしまう」、「本当は化粧をしたいけど男のくせにと思われたら怖い」、「ランドセルは子供の好きな色を選ばせてあげたい」。ジェンダーによる区別は、こうした個人の想いの実現を阻むことがあります。一人ひとりが持つこうした想いに寄り添った商品開発やマーケティングが、今後企業に求められるのではないでしょうか。その際には制服の例にあるように「ジェンダーレス」と謳うことで強制的なカミングアウトにならないよう、配慮をすることも求められます。



【参考】
「社会的・文化的に形成された性別」(ジェンダー)の表現等についての整理 │男女共同参画基本計画 に関する専門調査会
ジェンダーレス・多様性についての意識と実態調査│株式会社クロス・マーケティング
メンズコスメティックス、ヘアケア・ヘアメイクの国内市場を調査│株式会社富士経済
コロナ禍でも伸びた!男性の化粧品購入│株式会社インテージ
JO1がYSL BEAUTYのジャパン アンバサダーに就任!新作リップ「キャンディグレーズ」をお披露目。│PR TIMES
マニフィーク
FIVEISM×THREE
採用増える「ジェンダーレス制服」、誕生の背景は トンボのデザイナーに聞く│朝日新聞EduA
“ジェンダーレス制服”導入広がる 学校の「男女分け」に苦しむ生徒も│NHK
【土屋鞄】販売開始から1ヶ月 人気カラートップ10発表 76%が赤・黒以外の色を選択、好みが多様化│PR TIMES


■執筆:contributing editor Eriko SAINO
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