【DE&I】誰もが自分らしく働ける職場へ
企業がLGBTQに取り組む意義と参考になる事例



(2022.12.1公開)

#DE&I #多様性 #男女格差 #LGBTQ #企業価値

DE&Iは多様性(Diversity)・公平性(Equity)・包摂性(Inclusion)の頭文字をとった言葉で、異なる国籍、民族、性別、障がいや年齢といった多様な人材を包摂していく考え方です。昨今企業の中でも、障がい者や高齢者が分け隔てなく働ける職場づくりや女性活躍推進のための制度づくり、外国人人材の登用などDE&Iに関する取り組みが広がっています。その中でも今回はLGBTQに関して、企業の取り組む意義や参考になる事例などを紹介していきます。


LGBTQとは



電通が2020年に実施した「LGBTQ+調査2020」によると、LGBTQ+層の割合は8.9%と決して低くない数値となっています。例えば1つのチームに11人ほどの人がいれば1人は当事者がいるということになります。LGBTQに関しては「普段身の回りに当事者がいない」と考えている方も多いと思います。しかし、実際には当事者が周りに伝えていないだけで、私たちの周りには一定数当事者がいる可能性が高いと言えます。

LGBTQのテーマを考える際は、「性」には種類があることを理解する必要があります。1つ目は「法律上の性別」、2つ目は「性自認」、3つ目は「性的指向」、4つ目は「性表現」です。「法律上の性別」とは役所に届け出ている法律上の性別、「性自認」とは自分の性別をどう認識しているか、「性的指向」とは恋愛や性愛の感情がどの性別に向くか向かないか、「性表現」は社会的にどう性別を表現するか、振る舞うかです。この4つの性をどう捉えているかは人によって異なるため、性は男女の2つではっきりと分かれるのではなくグラデーションであるといえます。

LGBTQは性的マイノリティを表す総称として使用されています。LはLesbian(レズビアン、女性同性愛者)、GはGay(ゲイ、男性同性愛者)、BはBisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、TはTransgender(トランスジェンダー、性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる人)、QはQueerやQuestioning(クイアやクエスチョニング、規範的な性のあり方以外、特定の枠に属さない人)の頭文字から取っています。+をつけてLGBTQ+と呼ばれることもあります。「+」の中には、自分の性を男女いずれかに限定しない「Xジェンダー」や他者に恋愛的な興味を抱かない「Aロマンティック」などがあります。

当事者が職場で抱える問題


(画像出典:多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集│厚生労働省

2020年に厚生労働省の委託事業として実施された職場におけるダイバーシティに関する調査では、当事者がさまざまな困りごとを抱えていることがわかっています。当事者の中で回答率の多かった困りごとは、「プライベートの話がしづらいこと」や「異性愛者としてふるまわなければならないこと」、「社内制度や職場の慣行など、何事も異性愛が前提となっていること」などが挙げられます。LGBの回答率が低い一方でTの回答率が高かった困りごとでは「自認する性別と異なる性別でふるまわなければならないこと」や「健康診断を受けづらいこと」、「トイレや更衣室などの施設利用」、「通称名の使用が認められないこと」などが挙げられています。挙げられた内容を見てみると、当事者以外では中々気がつかない内容も多いということがわかります。しかし、周囲に相談できない当事者も多く、その場合周囲が気づかないまま本人は精神的ストレスを抱えこんでしまいます。

それ以外にも、周囲の無意識の言動により、職場で自分らしくいられない人、心の傷を負う人も存在します。性的指向や性自認に関する差別的な言動や嘲笑のことをソジ(SOGI)ハラと言います。SOはセクシャルオリエンテーション(性的指向)、GIはジェンダーアイデンティティ(性自認)を意味します。先程の調査で実際に回答されていたSOGIハラの内容としては「恋人の有無や結婚・出産の予定に言及する」や「容姿や外見に言及する」、「性的な冗談を言う」、「「男らしさ」や「女らしさ」を要求する」などが挙げられます。これらはアンコンシャスバイアスと呼ばれる無意識の思い込みとも密接に関わっており、今後社会全体でこうした意識面の改革が必要になってきます。

先程の電通のレポートによると、LGBTQという言葉の浸透率は約8割にのぼります。しかし、言葉は知っていてもそれを理解し何らかの行動で示している人はまだ少ないのではないでしょうか。LGBTQの人々を理解し支援したい人を「アライ」と呼びます。アライとは英語で「同盟」「味方」などを意味する「Ally」からきています。自分がアライであると伝えたり、レインボーグッズを身に着けたりすることで当事者の味方であることを示します。「自分の身近にはいない」「自分の会社、チームにはいない」そう思われる方も多いかもしれません。しかし先程述べたように、LGBTQの割合は8.9%と多いため、自分の周りにいないのではなく気づいていないだけ、本人が伝えていないだけという可能性が高いという点に注意が必要です。職場においてはより多くの人がアライと表明することで、当事者の心理的安全性を高めることが望まれます。

日本企業でも増えるLGBTQの取り組み

企業のLGBTQに関する取り組みを評価する日本初の指標、「PRIDE指標」が2016年に創設されました。PRIDE指標では企業の取り組み内容に応じて、ゴールド・シルバー・ブロンズといった認定を授与しています。2022年の評価内容は、①行動宣言、②当事者コミュニティ、③啓発活動、④人事制度・プログラム、⑤社会貢献・渉外活動の5つとなっています。2022年は402の企業や団体、自治体から応募があり、前年比で1.34倍の応募となりました。全体に占める大企業の割合は73%、中小企業は27%となっており、中小企業にも取り組みが広がってきていることが推測されています。

①PwC Japanグループのトランスジェンダー対応のある健診機関一覧

(画像出典:LGBT+インクルージョン│PwC Japan

トランスジェンダーの方の困りごととして「健康診断を受けづらい」ことが挙げられます。これを受け、PwCでは2021年11月に「PwC健保における『トランスジェンダー対応のある健診機関』該当基準」を策定しました。2022年に配布した「契約医療機関一覧」では185の機関のうち67の機関にレインボーマークがつけられました。このマークがついている機関は、PwCの設定する該当基準を満たした、トランスジェンダー対応が可能な機関ということを意味します。基準内容は例えば、待合で本人を呼ぶ時に番号や通称名、名字のみで呼ぶことが可能か、更衣室・トイレ利用は本人の希望する設備の使用や時間的・空間的配慮が可能か、女性専用の日のみではなく男女ともに健診受診が可能な日でも婦人科検査が可能か等、13の項目があります。

これまでは明確な基準がありませんでしたが、複数の医療機関関係者や事業所内の当事者グループ、D&I担当等からのヒアリングを踏まえて基準の策定に至りました。この施策により、健康診断を受ける際のトランスジェンダー当事者の心理的安全性を高めることに繋がります。

②メルカリの「LGBT+Ally」ステッカー

(画像出典:メルカリ版「LGBT+Ally」ステッカー誕生の背景にあったものは?│メルカリ

LGBTQの人々を理解し支援する「アライ」。職場でも誰がアライなのか容易にわかる状態が理想ですが、多くの企業では実践が難しいのではないでしょうか。

メルカリでは自分がアライであることを示す「LGBT+Ally」ステッカーが存在します。このステッカーのアイデアが出たのは2018年。当時有志でD&Iを推進していた従業員が「アライを表明することで当事者にとっても心地よい環境を作りたい」という思いでグッズ製作の提案をしました。しかし、会社のロゴを入れると会社としてのステートメントとなるため、有志で行っていた当時は実現に至りませんでした。その後、D&Iに関する理解や認知度向上のため地道な活動を行っていく中で、社内向けの「LGBT+ Workshop」を開催することになり、それに合わせてステッカーのアイデアが再び提案されました。会社としてもD&Iに本格的に取り組む体制になっていたこともあり、ステッカー製作は実現しワークショップ当日に参加者に配布されました。その後は日本オフィスだけではなく、アメリカのオフィスでもステッカーが普及しています。

この他にも多くの企業がLGBTQに関する取り組みをしています。例えば日本たばこ産業株式会社(JT)では、社内イントラネット上への関連情報の常設化や誰でも使用できるトイレの設置などを行っています。「パートナーシップ認定制度」では、所属部署の上司の承認が不要な形で住宅手当等の福利厚生の利用を可能にしています。株式会社資生堂でも2017年から同性パートナーを異性の配偶者と同様に福利厚生の対象となるよう就業規則で定めています。店頭に立つ8000人の従業員はLGBT対応研修を受け、すべての人を受け入れ支える応対に活かしています。日本最大級のLGBTQイベントである「東京レインボープライド」に出展した際は、LGBTQ当事者や性別適合手術をされた方へのメイクアップアドバイスを行いました。

企業が取り組む意義


このように、企業によるLGBTQに関する取り組みは広がってきています。2020年の厚生労働省委託事業で実施された調査によると、企業が取り組みを始めたきっかけとして、当事者からの相談があった企業もあれば、社会的な機運の高まりを受けて取り組みを始めた企業もありました。性的指向や性自認などは個人の人格や尊厳に関わる部分であるため、個人が自分らしく働く上で職場での周囲の理解は非常に重要です。

リスクと機会の両面で、企業はLGBTQを含めたDE&Iに取り組む意義があります。2019年に改正された労働施策総合推進法により大企業は2020年6月から、中小企業も2022年4月からパワハラを防止するための義務を負うこと、パワハラの中には性的指向や性自認に関する言動も含まれることが決められました。これは、性的マイノリティに対する差別的な言動や嘲笑等はもちろん、他の従業員の性的指向や性自認などの個人情報を本人の了解を得ずに他の従業員に暴露する「アウティング」なども含まれます。企業が不適切な対応をとること、また全く対応を取らないことは人材の流出や法的責任の発生、企業イメージの毀損等につながるリスクがあります。

逆にLGBTQ当事者を含めた多様な人材が働きやすい職場づくりに取り組むことは、従業員のエンゲージメントの向上による人材の定着や企業イメージ向上による人材の確保に繋がります。また社内だけではなく取引先や顧客の中にもLGBTQ当事者がいるという視点を持つことは、特に生活社向けの商材を取り扱う企業にとって新たな顧客層の獲得やブランディングといった機会に繋がります。

従業員が自分らしく働ける場づくりを

すでに紹介したように、LGBTQ+層の割合は8.9%と決して低くはなく、身近に当事者がいる可能性が高いことがわかります。今後人材や働き方など社会全体の多様化が進む中で、企業はそれに合わせた対応を取っていくことが必要不可欠です。今やLGBTQ層は消費者としても重要な存在となっており、先述した電通の調査では、LGBTQ+の市場規模は5.42兆円(推計)となっています。社内だけではなく取引先や顧客を含め自社と関わるすべての人を受け入れる土台を作っていくことが、これからの社会において企業価値を高めることに繋がるのではないでしょうか。



【参考サイト】
LGBTQとは?│特定非営利活動法人 東京レインボープライド
電通、「LGBTQ+調査2020」を実施│電通
職場におけるダイバーシティ推進事業_事例集│厚生労働省
職場におけるハラスメントの防止のために│厚生労働省
PRIDE指標2022レポート│PRIDE指標事務局
PwC 健保における「トランスジェンダー対応のある健診機関」該当基準│PwC Japan
メルカリ版「LGBT+Ally」ステッカー誕生の背景にあったものは?│メルカリ
LGBTに関する取り組みを評価する「PRIDE指標2020」において5年連続で最高位『ゴールド』を受賞!│JT
ダイバーシティ&インクルージョン│資生堂

■執筆:contributing editor Eriko SAINO
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