“ファッションオタク”のクリエイティビティと想いで世界規模のファッションロスを解決する、アップサイクルボード「PANECO®」の仕組みと未来 <後編>

廃棄衣類を粉砕し、固めてボードにしたアップサイクルのボードPANECO®とそのサーキュラーエコノミーの仕組みの誕生ストーリーを語った前編に続き、後編では世界への広がりと今後の事業展開について紹介していきたいと思う。

世界レベルに目線を合わせて実現したH&Mの事例


積極的にサステナビリティに取り組んでいるファッションブランドのH&Mが今年池袋にオープンした新店舗に、PANECO®が採用されている。H&M池袋店に導入するPANECO®什器はすべて、H&Mジャパンで発生した不良品のみを原料としている。ライフサイクルの短い什器を、廃棄衣類から作られたリサイクル可能なPANECO®で作るという、原氏が構想していたサーキュラーの実現だ。


出典:H&Mプレスリリース
サステナブルな什器を導入したH&M 池袋店、3月1日(火)にオープン!不良品をアップサイクルした什器を取り入れた、H&Mのサステナブルな取り組みを体現する日本初の店舗


一般的に、グローバルブランドは使用する色やフォントなどから、店舗で使う什器の仕様までブランディングのレギュレーションが細かく決められていることが多く、そのレギュレーションに沿って活動を行う。そのため、日本で生まれたPANECO®がグローバルブランドであるH&Mの大型店舗で採用されたというニュースに筆者はとても興味を抱いた。
原氏にそのいきさつを聞いたところ、それは2020年にワークスタジオ社が出展した世界最大のリテール見本市EuroShop(ドイツ・デュッセルドルフ)でグローバルのH&MがPANECO®に興味を持ったところから始まったという。

展示会のタイミングでは他のプロダクトを展示し、何とか間に合ったほんの一枚のPANECO®のサンプルをブースの端に展示していたそうだ。それでも多くの来場者がしっかりとPANECO®を見つけ出し、関心を得ることができた。しかしその後コロナ感染症拡大により世界的にリテール産業は苦戦を強いられた。それでもH&Mとのやり取りは続き、その採用がようやく今年実現した。
日本の廃棄衣類でできたPANECO®を欧米で使用するというのは環境負荷につながる。そのため、日本以外の場所でこの仕組みを使ったPANECO®の世界展開を考えている。

「日本に市場はない」海外で発信する理由


原氏は、日本にはPANECO®の市場は小さいと考えている。
回収、ボタンなどの付属品の取り外し、粉砕、ボード化という工程を経て生まれるPANECO®は、当然ながら従来品のボードよりも価格が高い。「品質の良いものを、低価格で提供する」という、利用者にとっては嬉しいが提供者にしてみたら悪魔のような考え方が日本にはある。「それは誰かがどこかで絶対無理をしている」と原氏は言う。そういった日本独特の慣習の中では、サステナブルは成り立ちにくく、市場を見つけていくのは非常に難しい。だからこそ、原氏は常にグローバルに目線を合わせている。

ファッションの聖地であり、家具の聖地であり、そしてサステナビリティ先進国であるフランスやイタリアに高いポテンシャルを感じ、常に海外市場を見に行き、自分たちもその中に入り発信する。目の前の利益だけではない意味や意義を理解できる人たちに出会う必要があり、残念ながらその機会は圧倒的にサステナビリティ先進国に多いと原氏は言う。


世界最大のデザインイベント「ミラノ デザインウィーク」出展風景。廃棄衣類で囲まれたPANECO®のグローブ。(写真提供:株式会社 ワークスタジオ)

先進国の洋服の廃棄場所となっているガーナへ


原氏は課題解決を模索するために先進国に向かうだけでなく、課題そのものにも目を向ける。外務省に務めたのちにアフリカ諸国と日本の架け橋となる株式会社SKYAHを立ち上げた原ゆかり氏にコンタクトを取り、ガーナの衣類廃棄の現状を視察したのだ。

世界中で衣類の消費が加速し、先進国でトレンドとともに短期間で廃棄される衣類はまだ着ることができる状態のまま廃棄される。それらは寄付という名目で集められ後進国へ送られるが、実際はその多くは販売され、売れ残ったものはゴミの山になっているという。先進国で衣類が多く廃棄されるほど、後進国のゴミが増え、現地の繊維産業と環境を破壊していくのだ。


ガーナの古着市場に積み上がる廃棄衣料 (写真提供:© the Slum Studio/ Sel Kofiga)

先進国からの廃棄は国同士の政治的な事情が複雑に絡まり単純ではない。ただ、とどのつまり生活者の行動を発端としていることは明らかだ。ひとりひとりが本当に必要な物を必要なだけ買い、その衣類が役目を終えるまで着ることで、後進国のゴミが減り、現地だけでなく世界中の環境も悪化も押さえられるのだ。その選択肢がより環境に配慮した製品であればなお良い。


ワークスタジオ社のPANECO®の棚に置かれた、ガーナのゴミの山から回収した衣類の一部

また、原氏はガーナで古着や廃棄される素材からアートを生み出す「The Slum Studio(ザ・スラム・スタジオ)」のガーナ人アーティストSel Kofiga(セル・コフィガ)氏とPANECO®のコラボレーションによる発信も企画している。

新たなフェーズへと進むPANECO®


透明性を重視し、持続可能な規模へと広げていくために、PANECO®は次のフェーズへと進むタイミングに来ているという。
原氏はサステナブルな事業をする前に、本当の意味でのサステナブルな会社を作ることが先だと考える。常に海外に目を向けている原氏は、生み出すプロダクトだけでなく、どんな会社がそのプロダクトを作っているかを見られる時代であることをひしひしと感じており、世界最先端の基準に合わせた公益性の高い企業が生み出すプロダクトとして、PANECO®を社会実装していくことを目指している。

そのために、事業をスピンアウトさせ、想いを共にする投資家たちから出資を募り、世界へと広げていくのが今の構想だ。PANECO®はすでに、ワークスタジオ社では手に負えない規模になってきており、次のフェーズへ進む段階にまで成長している。PANECO-KAIの考え方と同様、利益追求ではなく共感と協業で課題解決を目指す人や組織がPANECO®でつながり、活動を推進する。

共感と協業による真のサステナビリティを世界へ


世界基準の視点で、本当の意味での持続可能を目指すPANECO®。さまざまなボトルネックを独自のクリエイティブなアイデアと想いで一つずつクリアし、実現可能にしたこのリサイクルシステムとアップサイクルボードは、課題意識の高い人たちから注目を集め、採用が進んでいる。PANECO®はもはや単純なプロダクトではなく、システムでもなく、それを取り巻く思想のようにも感じる。
従来の常識を破り、共感する人たちを世界規模でつなげ広げていくPANECO®に、これからも注目していきたい。

参考サイト:

PANECO®サイト

繊維リサイクルプロジェクト®サイト

株式会社ワークスタジオ

H&Mプレスリリース:サステナブルな什器を導入したH&M 池袋店、3月1日(火)にオープン!不良品をアップサイクルした什器を取り入れた、H&Mのサステナブルな取り組みを体現する日本初の店舗

■ Nagisa YOSHIDA Sustainable Brand Journey 編集部
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