“ファッションオタク”のクリエイティビティと想いで世界規模のファッションロスを解決する、アップサイクルボード「PANECO®」の仕組みと未来 <前編>

(2022.12.26 公開)

#ファッションロス #ブランド #H&M #サーキュラーエコノミー #アップサイクル #環境

2022年10月に開催されたサステナブル ファッション EXPOにおいて、来場者の目を奪う圧巻のブース展示があった。それは、モノトーンのスタイリッシュな家具や什器が囲む、身長をはるかに超えるスケールで積まれた着古した衣類の山だ。

紹介されているプロダクトは、衣類を粉砕して作られる「PANECO®」(パネコ)と呼ばれる繊維リサイクルボード。什器のデザインや製造を行う株式会社ワークスタジオが生み出した。しかし、彼らが生み出したのは単なる廃棄衣類繊維を原料とするサステナブルな環境配慮型素材という完成物ではない。古い衣類からそのボードを生みだし、使用され再びまた新たなボードに生まれ変わるという持続可能な世界の実現への繊維のリサイクルシステムだ。

このサーキュラーエコノミーの仕組みの生みの親である株式会社ワークスタジオの代表取締役 原和広氏に、誕生から現在、そして描く未来を取材した。


株式会社 ワークスタジオ 監督 代表取締役 原 和広 氏(写真提供:株式会社 ワークスタジオ)

廃棄衣類から誕生するアップサイクルボードPANECO®

PANECO®をシンプルに説明すると、廃棄衣類を粉砕し、固めてボードにしたアップサイクルのボードだ。

PANECO®の主な特徴:
・回収された古着は、天然繊維、化学繊維でも合皮でも、スニーカーでも原料として使用できる
・完成品のボードは繊維の含有率を最大90%まで実現でき、素材感を表現しながらも硬度を保つことができる
・木質ボードのように加工しやすく扱いやすい
・ボードとして使用後、回収し、さらに新しいボードに再生利用できる
・優れたデザイン性によりグッドデザイン賞 2022年を受賞

回収プロセスでは、ボタンやファスナーの分類を障がい者福祉施設に委託することで雇用を創出し、さらに売上の一部を障がい者福祉施設に毎月寄付している。

リサイクルにおいて分類が大きな課題のひとつである廃棄衣類を、大がかりな工程を必要とせずに資源化可能にし、使用後に再び資源化して次のボードへと利用できるというアップサイクルの仕組みが注目すべき点だ。


出典:繊維リサイクルプロジェクト®

「ファッションオタク」から始まった、PANECO®の着想から誕生まで

2020年12月〜2021年3月に環境省の実施した、日本で消費される衣服と環境負荷に関する調査データによると、1日当たり平均大型トラック約130台分の服が焼却・埋め立て処分されているという。家庭から焼却・埋め立てされる量が年間約48トンということなので、購入されず家庭にたどり着かないものも含めるとその量はさらに膨れ上がる。

さらには、29年前と比較して供給量が約1.7倍になっているという。


引用:環境省_サステナブルファッション

衣類は廃棄問題だけでなく製造時に与える環境負荷も大きいきいことから、ファッション業界が環境問題で頻繁に引き合いにされ、その解決のために取り組みを進めている所以だ。

引用:環境省_サステナブルファッション

「ファッションオタク」から始まった、PANECO®の着想から誕生まで


原氏にとってのPANECO誕生の着想はシンプルだった。
氏は、収入のほとんどをファッションにつぎ込むほどの「ファッションオタク」だと自らを呼ぶ。だからこそ廃棄される大量の衣類が存在することへの意識が強く、社会課題として深刻化していることを痛いほどわかっていた。その傍ら、仕事では什器のデザイン・製作を行い、常にその材料としてボードを使う。では、その廃棄衣類から板を作れないか?そんなシンプルな結び付けからPANECO®が始まった。

しかしその実現には苦戦する。産廃業者でもなければ素材メーカーでもなく、デザイン・製作を生業とする原氏は、初めからシステムの全体像の構想を持っていたわけではなく、「動き、そして解決策を見出す」を繰り返しながら、ひとつひとつ実現可能な形へと組み立てていった。
素材の開発には膨大な資本を必要とするうえに、採算が合うのは相当先になるため、まるで日々札束を窓から投げ捨てるような感覚だという。それでも続けていく原動力は、サステナビリティへの熱意や使命といったきれいごとだけではなく、何より「オタク」とも呼べるほどのファッションへの強い想いだと原氏は言う。

ごみを出すことに対しての法整備が進み、作る者、販売する者が、その製品の廃棄までに責任を持たなければならない時代になってきている。原氏はものづくりに従事する人間として、作ったものに責任を持つのは企業の社会的使命だと断言する。


原料素材によってさまざまな表情を見せるPANECO®

ライフサイクルの短い「什器」を作る葛藤


原氏の原動力は、ファッションへの熱い想いと別に、製作の現場に長く関わってきたことが根底にある。
住宅用の家具と異なり、ワークスタジオ社が生み出す店舗什器というカテゴリーのプロダクトはライフサイクルが非常に短い。イベントブースは数日から数週間、店舗は数か月から数年で壊される。またそれらは一般的に鉄、アクリル、木など、リサイクルを考えられていない素材を用いているため、“作っては壊す”を繰り返すほどに産業廃棄物を生む。PANECO®も出展したサステナブルファッション展も然りで、展示会が終わればブースがゴミの山と化すというのは皮肉なものだ。そういった、自らが生み出すものが環境への悪影響をもたらすものへと変わってしまうという日常に対しての課題意識が、PANECO®というプロジェクトを推し進める力の根底に存在しているはずだ。

PANECO®のブースでは展示後のボードは回収され、再び循環のサイクルに入り、粉砕され新たなボードとなり再び使用される。パンチカーペットに至るまでが「ゴミ」ではなく再び使える「素材」なのだ。

平等・対等な関係で行う共感と協業。想いをともにする仲間「PANECO-KAI」


そんなPANECO®に共感したいくつもの企業が集まり、PANECO-KAIという形で活動を始めた。メンバーは、株式会社ワークスタジオを中心に、モリリン株式会社、中日販売株式会社、株式会社プロダクト クリエイティブ デザインが参画し、PANECO®を普及していく。メンバーの中には、30年前に出会い、当時はご縁がつながらず何十年もの時を経て、PANECO®によって活動をともにすることになった人もいるという。
メンバー間では業界的に起こりがちな上下関係はなく、全くの平等・対等であり「共感」と「協業」を行う。そのため入会にはメンバーの全会一致を必要としている。PANECO®の事業は、利益を追求する従来の考え方から距離を置き、透明性を重視し、プロダクトも事業も持続可能であることを目指している。
世界基準で考えると、販売しているプロダクトの持続可能性だけではなく、プロダクトを作っている会社自体の持続可能性が見られる時代になってきている。原氏が目指すのはその基準に合わせた組織なのだ。


後編ではPANECO®の世界への広がりと、その成長にともなって進む次のフェーズについて紹介する。

“ファッションオタク”のクリエイティビティと想いで世界規模のファッションロスを解決する、アップサイクルボード「PANECO®」の仕組みと未来 <後編>


参考サイト:

PANECO®サイト

繊維リサイクルプロジェクト®サイト

株式会社ワークスタジオ

環境省_サステナブルファッション

■ Nagisa YOSHIDA Sustainable Brand Journey 編集部
#ブランド #コミュニケーション #ビューティ #ダイバーシティ

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