ジェンダー平等の実現には何が必要? ジェンダーギャップ解決策として導入が進む男性育休制度と意識改革

(2022.12.15 公開)

#ジェンダー平等 #男性育休制度 #男女格差 #育休取得率 #アンコンシャスバイアス

22年7月に女性活躍推進法に関する制度改正が行われ、常時雇用の労働者が301人以上の企業は、自社の「男女の賃金の差異」を公表することが必須となりました。「管理職の女性比率を増やす」「男性の育児休暇を充実させる」等、昨今多くの企業でジェンダー平等に向けた取り組みが進められています。今回はそんな企業の取り組みの現状や課題、その克服のために必要な「意識の改革」についてご紹介します。

ジェンダーギャップ指数が改善されない日本の現状



(画像出典:「共同参画」2021年5月号│内閣府男女共同参画局)

世界経済フォーラムが発表する、各国の男女格差を測るジェンダーギャップ指数というものがあります。これは、「経済」「政治」「教育」「健康」の4分野のデータから作成されています。毎年ニュースになるため、聞いたことがある方も多いかもしれませんが、日本の順位は先進国の中でも最低レベルとなっています。2021年は、156か国中120位という結果でした。日本は特に政治・経済分野での順位が低く、管理職の女性割合の低さや男女の平均所得の差が指摘されています。

企業で進む男性の育児休暇制度


(画像出典:IKUKYU.PJT│積水ハウス


冒頭で少し触れたように2022年の女性活躍推進法に関する制度改正では、常時雇用の労働者が301人以上の企業で「男女の賃金の差異」を公表することが義務付けられました。また、労働者が101人以上の企業でも、自社の女性活躍推進に関する把握と課題の分析、その公表などが義務付けられています。

一方企業内部では、子育て支援手当等の金銭的なサポートや育休後のスムーズな復帰のためのサポート、女性管理職を増やすための研修などが実施されています。そんな中、女性の活躍を推進するために男女ともに家事・育児を担っていくことが必要という考えに基づき、男性向けの育児休暇等の制度も増えてきています。

例えば積水ハウス株式会社では、男性の育児休暇取得が当たり前になる社会を目指し、力を入れ取り組んでいます。積水ハウスの「特別育児休業」制度は、3歳未満の子どもを持つ男性従業員を対象に1ヶ月以上の育休取得を推奨するもので、最初の1ヶ月は有給となります。2019年2月から運用を開始し、2021年11月末時点でそれまでに取得期限を迎えた男性従業員1,146人全員が1ヶ月以上の育休を取得しており、取得率は100%です。

男性では比較的長期とされる1ヶ月の育休取得率が100%という結果を出せているのは、社長の仲井 嘉浩さん自らこの施策を推進していることも大きな理由と考えられます。2018年に新たに就任した社長は、初めての海外IRでストックホルムを訪問しました。そこでは、多くの男性がベビーカーを押しており、日本では見たことのない光景に衝撃を受けたといいます。そこから帰国後、わずか4-5ヶ月で男性の育休取得の運用を開始しています。

世の中の男性育休制度は活用されているか


(画像出典:育児・介護休業法の改正について│厚生労働省 雇用環境・均等局職業生活両立課


このように大企業では男性の育児休暇制度が整っているところも多い一方、実際には活用されないケースも多いと言います。厚生労働省の発表によると、2021年度の男性の育休取得率は13.97%となっており、過去の取得率と比較すると増加しているものの、高くはありません。政府は、取得率を2025年までに30%に引き上げることを目標にしています。

さきほど例を挙げた積水ハウスでは、世の中の男性の育児休暇に関するデータを研究・分析した「男性育休白書」の作成も行っています。その中で実際に育休を取得しなかった男性にその理由を聞くと、「給与・手当が下がる」「周囲に迷惑をかけてしまう」「取得しにくい雰囲気」などが挙げられています。忘れてはいけないのは、ここで理由として挙げられているような育休の取得しづらさというのは、これまで女性が当然のように向き合ってきたものだということです。しかし女性は、取得しづらいからという理由で産休・育休を取得しないという選択肢はありません。企業としては、出産を控える男女すべての従業員が抱えるこれらの不安を取り除いていくことが求められます。

リソース不足や給与面の不安をぬぐう制度改革

取得率100%を達成した積水ハウスでも、「1ヶ月も休むと給料やボーナスがなくなるのではないか」「住宅ローンが払えなくなるのでは」「生活ができなくなるのではないか」など当初は不安の声が多かったそうです。そこで積水ハウスでは、最初の1ヶ月は会社が責任を持ってお金を支払う有給にすることでその不安をぬぐうことにしました。この動きは他の大企業でも見られます。

また休業者の替わりとなる人がいないなど、人材不足も育休取得への障害となっています。特に企業規模の小さな会社では、休業者が出ることによる周りへの負担が大きくなることが懸念されます。

積水ハウスでは制度運用当初から、業務の都合上1ヶ月の休暇を取ることが難しいという社員に対しては4分割をして育休を取得できるようにしていました。2021年4月からはさらに柔軟に改正し、配偶者の産後8週間以内は分割数を気にすることなく1日単位で取得できるようにしています。このように、休業者や周囲の人々の不安を拭うような制度が必要となりますが、合わせて必要なのが意識面での改革です。

アンコンシャスバイアスやステレオタイプの障壁

積水ハウスの「男性育休白書」の育休取得を検討する段階での経験談では「いつまで休むのかしつこく聞かれ、休みづらさを感じた」「上司にこれからのキャリアに響くと言われた」といった声が寄せられました。自分が休むことによる周囲への影響やキャリア、評価への影響はこれまで多くの女性も不安を抱えてきました。その他、「男なのに育児休業を取るのかと言われ、悲しかった」「制度はあるがこれまでに取得した男性がなく、取らないのが当たり前な風潮。とてもとりにくかった」といった声も寄せられました。このような声が集まる背景には「男は普通、育児休暇をとらない」「男は普通、そんなに長く休まない」といった性別と紐づく無意識の思い込みや偏見が根底にあります。これを「アンコンシャスバイアス」と呼び、私たちの身の回りでもこうした無意識の思い込みはいたるところにあります。

ジェンダー平等に不可欠な意識面での改革



世の中には男性・女性といった性別に関係なく、バリバリ働きたい人もいればそうでない人も、家事が好きで得意な人もいればそうではない人も、力仕事が得意な人もいればそうではない人もいます。『「専業主夫」になりたい男たち』(ポプラ新書)という本の中では、会社をやめて家事育児をいきいきとこなす主夫や東大卒の主夫、一家の稼ぎ頭として働く女性など、まさに男女といった性別に囚われない家族の姿が描かれています。しかし、多くの場合は無意識の思い込みによって性別により役割が固定されてしまっています。

アンコンシャスバイアスは、家庭や学校、社会、メディアなど私たちがこれまで生きてきた中で、自然と出来上がってしまっています。これらは社会に出る前からすでに始まっており、例えば大学の理系学部に女性が少ないのもその一例です。実際に東京大学では入学者全体のうち女性は約2割で、特に理系学部ではその少なさが顕著です。背景には「女性は理系に向かない」という偏見があるのではないかと言われています。東京大学では現在その打破に向け、取り組みを進めています。

また日本の複数の大学の医学部で、入試の際に女性の受験生等に対し不利な得点調整をしていたことが発覚し世間に衝撃を与えました。医学部のある大学の学長経験者は「同じ成績なら男子を採るようにしていた」とも明かしています。背景には女性が出産や育児で現場を離れることや、女性は男性のように長時間労働ができず、その分周囲にしわ寄せがいくのではといったアンコンシャスバイアスがあると考えられています。

アンコンシャスバイアスは誰の中にも存在するため、大切なのは、こうしたバイアスを持ち、押し付けてしまっていることに「気づく」ことです。企業の中ではその気づきを与える機会として、アンコンシャスバイアス研修を実施しているところも多くなってきています。


例えば味の素株式会社では、e-ラーニングでアンコンシャスバイアスについて意味や事例を学んだ後、自分の職場でのアンコンシャスバイアスに気づくためのワークショップを実施しています。まずは個々が自分の職場にあるアンコンシャスバイアスをポストイットに書き出します。その後、ワークショップで理由とともに書き出したバイアスを出し合い、その中で課題が多いと思われるバイアスについて、対策を検討するという流れです。

参加者のうち「(自分はないと思っていたのに)バイアスだらけ。でもそこを発見できて良かった」といった声が約8割もあったそうです。また、チームで出てくるバイアスの数にはかなり差があり、管理職の男性だけのチームでは数が少なく、逆に一般職から管理職、役員まで様々な階層で性別も半々にしたチームでは1番多くの事例が集まりました。それぞれが研修の意図を理解し、この機会に自らの感じているバイアスについて知ってもらいたいという気持ちが強かったとのことです。

このように無意識の偏見や思い込みに気づき、撤廃することを「アンステレオタイプ」と呼びます。国連女性機関UNWomenが主導する「アンステレオタイプアライアンス」という組織が提唱した造語で、この組織は社会から有害なステレオタイプを撤廃することを目的にしています。今回事例として紹介した積水ハウスを始め、多くの企業が日本支部メンバーとして加盟しています。

制度と意識両面からの取り組みが求められる

こうした無意識の思い込みの撤廃は、男性の育児休暇取得を推進するためにはもちろん、ジェンダー平等や多様な働き方・家庭のあり方を推進していくためにも不可欠です。男性育休取得に関しては、2022年10月以降企業から従業員への育休制度の説明や取得の促進が義務化されました。このように法制度の整備と意識改革の両面からジェンダー平等を進めていくことが必要とされています。


【参考】
女性の活躍推進企業│厚生労働省
「共同参画」2021年5月号│内閣府男女共同参画局
育児・介護休業法の改正について│厚生労働省 雇用環境・均等局職業生活両立課
男性育休白書 2022│積水ハウス
ジェンダー平等事例集 Diversity & Inclusion ─日本企業24社の取り組み─│グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン事務局
「東京医大 なぜ入試で『女性差別』」(時論公論)│NHK解説委員会

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