「オーラルピース」で障害者の雇用を生み出す
バイオソーシャルベンチャーの取り組み


(2022.12.9. 公開)

#オーラルピース #インタビュー #バイオソーシャルベンチャー #DE&I #エシカル消費

革新的なバイオ技術を障害のある方や高齢者への支援に活用するベンチャー企業、トライフ。同社の代表製品である口腔ケア製品『オーラルピース』を通した先進的なビジネスモデルと、その創出までの道のり、今後の展開について、PRディレクターの五十嵐 洋さんに話をうかがった。


(株式会社トライフ PRディレクターの五十嵐 洋さん)

オーラルピースは、天然由来の乳酸菌ペプチド製剤「ネオナイシン」を配合した水と植物由来原料のみでつくられた口腔ケア製品です。

抗菌作用が強い口腔ケア製品の多くは、誤って飲み込むと体内で炎症を起こしてしまうことがありますが、オーラルピースの成分は、植物由来のため誤飲・誤嚥してしまったとしても、体内で消化・分解されるという特徴があります。つまり、歯を磨いたあとの吐き出しが難しい方でも安心してお使いいただける製品です。

また、水のない環境でも乳幼児からお年寄りまで幅広い年齢層に安心して使っていただけることから、普段通りの口腔ケアが困難になる災害時にも適しています。2016年の熊本地震の際は、避難所の方々に製品を提供させていただきました。

グリーンテクノロジーとソーシャルビジネスを融合

・開発のきっかけは父親の誤嚥性肺炎

この製品の開発のきっかけは、末期がんになった代表の手島の父親が、口腔用合成殺菌剤を誤飲して体調を崩したり、口腔カンジダや口内炎に悩んだりしていたことです。
飲み込む力が弱い高齢者は、市販のうがい薬でケアすると吐き出せずに飲み込んでしまい、腸内の菌を過剰に殺菌してお腹をこわすことがあります。しかし、水では十分な殺菌ができない。水でもうがい薬でも、吐き出さないことには誤嚥性肺炎は予防できない、という問題がありました。

口の中の汚れが肺に入って死亡する誤嚥性肺炎に罹患して死亡する人は、1日約300人と言われています。安全で簡単に口の中のケアができて、死亡リスクも下げられ、日々使い続けられる価格帯の製品があれば、介護をする側、される側ともに安心して使えて社会的にも意義があると考え、「飲み込んでも安全で、殺菌もきちんとできる口腔ケア製品」をコンセプトとした製品開発をスタートしました。

・障害者の雇用を生み出す事業を創る

代表の手島はオーガニック化粧品の開発やプロデュースに数多くかかわってきていたので、口腔ケア製品についても、介護や安全面だけでなく、環境へのやさしさも担保することは当初から決めていました。
また、手島の子供に障害があったこともあり、2009年からボランティア団体を立上げ、障害のある方が継続して収入を得られるような事業の立ち上げを模索していました。親が亡くなった後でも、障害のある方が働きながら安定して生活していけるような未来を創りたい、そのための強い事業を創りたいという想いも同時に強くありました。

そこで、オーラルピースという、「水を使わず安心して口内を殺菌できる植物由来の製品を、地域の高齢のある方に地域の障害のある方が届ける」というビジネスモデルを考えました。日本全国にある障害者就労施設を経由して、オーラルピースを販売していくというものです。

・九州大学との合同研究による革新的なバイオ技術

オーラルピースは、日本乳酸菌学会会長も歴任された九州大学の園元名誉教授の研究を元に実用化したもので、園元先生の乳酸菌研究から発明された乳酸菌ペプチド特許製剤ネオナイシンを使用しています。
ネオナイシン®に接触後の菌の生存率を下げることが実証され、口腔内トラブルの3大要素と言われる虫歯菌、歯周病菌、カンジダ菌への有用性が認められています。

オーラルピース事業はご縁に恵まれ、そのいただいた縁を大事に育んできたことが実を結んでいる実感があるのですが、このすばらしいバイオ技術についても、九州大学側から当社に連絡をいただき、製品化に向けての合同研究がはじまりました。障害者支援についての手島のブログを読んで共感し、連絡をくださったそうです。

・幅広い年代にそれぞれの目的で喜ばれる製品

オーラルピースは、「おから」由来の独自の乳酸菌特許エキスであるネオナイシンに、植物由来の成分を加え、石油由来の成分やアルコールを一切使わずに製品化を行ったので、殺菌効果を保ちながら、使い心地やコストを調整するのが大変でした。

障害者施設の方々からは、とても使いやすく、甘めのペーストなので味も違和感がないという声をよく聞きます。介護職の方々からは、やはり飲み込んでも安心なのがありがたいというコメントをいただきますね。スプレータイプは歯を磨かずとも、スプレーするだけで殺菌と口内の保湿ができるので、どうしても歯を磨くことが難しい方にも喜んでいただけているようです。

もちろん、一般の方々で口腔ケア意識や環境意識が高い方にも好評です。泡立たないことに安心感を覚える、キャンプなどのアウトドア時も使いやすい、甘い味なので子供が嫌がらない、といった声も多いです。また、製品のパッケージデザインを気に入って購入し、使い心地や効果を気に入ってファンになるという方もいらっしゃいます。ペット用もここ1~2年で急速に人気が高まっています。


(クリーン&モイスチュア 歯みがき&口腔ケアジェル)


想いを熱く伝え続けることで、支援の輪が広がる

・アワード受賞が追い風に

先進的なバイオ技術と、高い環境性、社会課題への複合的なアプローチを融合させたオーラルピース事業ですが、最初から順風満帆だったわけではありません。

2013年にスタートしたオーラルピースプロジェクトは、全国の障害のある方の仕事づくり、工賃アップという目的を掲げ、販売だけでなく製造や発送作業に至るまで、可能なかぎり彼らの仕事を生み出すことを事業モデルとしています。
しかし、前例のないビジネスモデルなので、良いことだとはわかっていても「やってみよう」と施設の方々に一歩を踏み出してもらうのに時間がかかりました。手島をはじめとするプロジェクトメンバーが、プロジェクトの目的や事業の重要性、将来的に経済的な自立支援につながっていくこと、障害のある方が親亡きあとも安心して暮らしていけるように社会との接点を創っていくことの重要性などを、各地でセミナーや講演を通して訴え続けました。そういった地道な活動が実を結び、少しずつ支援者が増え、輪が広がっていきました。

一番の追い風となったのは、2015年にJapan venture awardsの最高位賞を受賞したことです。この受賞をきっかけに、テレビ局や新聞社をはじめとする多くのメディアから取材をうけ、我々の活動が一気に全国に知られるようになりました。信頼性も獲得し、新しい出会いも増え、さらに多くの支援者が集まりました。いまでは、国内外の医学博士、工学博士、農学博士、臨床医、看護師、介護士、言語聴覚士、社会起業家、クリエイターなど、100名以上の多彩な方々が、同じ志をもつ仲間としてこのプロジェクトを支えてくれています。

・世界に、宇宙に羽ばたき平和を生み出す

オーラルピースは、日本だけでなくヨーロッパでも取り扱いがスタートしています。さらに、アメリカ、東アジアへと共感の輪を広げていきます。日本からオーラルピースを世界に広げて、自分たちにできるところから未来を変えていきたいと思っています。

2022年の9月には、オーラルピースが国際宇宙ステーション(ISS)搭載品に正式選定されました。アルコールフリー、水を使わず、少量でケアできるといった点が、宇宙生活でも対応できると評価され、宇宙に飛び立つことになりました。革新的な技術を障害者支援や環境問題への取り組みに使うというこの素晴らしいプロジェクトを、世界に、宇宙に広げていくことが、私たちの願いです。


オーラルピースが描いていく未来

障害のある方が継続的に経済的自立をしていけるような仕組みをつくりながら、介護を必要とする方や水を使えない状況にある方が安心して使え、デザインも使い心地も幅広い人に喜ばれるという、決して簡単ではないことを形にしているオーラルピース事業。それは並大抵の苦労ではなく、この背景に膨大な物語があったことが推測されます。それでも一歩ずつ前に進んで行けたのは、手島さん、五十嵐さんをはじめとするオーラルピース事業メンバーに強い使命感と明確な実現したいイメージがあったからではないかと思いました。
日本から世界に、そして宇宙へと飛び立つオーラルピースが描いていく未来がますます楽しみです。



■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士

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