巻き込み力で好影響が波及
FOOD MADE GOOD Japan Awards 2022 サステナビリティに配慮した飲食店を表彰

( 2022.11.24. 公開 )

#食の持続可能性 #サーキュラーエコノミー #サプライチェーン #地域ブランディング


気候危機、生物多様性の喪失、エネルギーや資源の問題、心身の健康やウェルビーイング。地球環境の存続と私たちのくらしに直結する喫緊の課題において、「食」が及ぼす影響は大きい。環境、人権、地域、健康…これらに配慮した方法で、どのように食材を調達し、調理しているか。料理の提供だけでなく、その前後の過程において、どれだけ廃棄を減らしたり、再資源化して有効活用したり、地域に還元したりしているか。そうした取り組みを推進し、模範となる優良事例を創出したレストランを表彰するイベント「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2022」を取材した。


(会場で提供されたのは、SRA-Jのプロジェクト・アドバイザー・シェフで、ONODERA GROUPエグゼクティブシェフ 杉浦仁志氏によるフィンガーフード)

食のサステナビリティを推進したレストランを表彰

一般社団法人 日本サステイナブル・レストラン協会(以下、SRA-J )は、2022年11月14日に「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2022」を開催した。
「FOOD MADE GOOD」とは、イギリスを拠点とするサステイナブル・レストラン協会が作成した食の持続可能性に関するフレームワークだ。調達・社会・環境を柱に構成された250の質問項目を設け、レストラン経営におけるサステナビリティを網羅する。このフレームワークを基に、日本各地でそれぞれの地域と連携しながら取り組みを進めてきたSRA-J加盟レストランから、今年は17の飲食店がノミネートされ、そのなかから「大賞」「調達賞」「社会賞」「環境賞」「サーキュラーエコノミー賞」が表彰された。

審査員にはSRA-JのアドバイザーのWWFジャパン 三沢行弘氏、日本サステナブル・ラベル協会代表理事 山口真奈美氏、食品ロス問題ジャーナリスト 井出留美氏、フェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長 潮崎真惟子氏、L’Effervescence(レフェルヴェソンス)エグゼクティブシェフの生江史伸氏を迎えた。今年初の試みとして容器包装リサイクルの観点から「サーキュラーエコノミー賞」が新設され、同賞はSRA-Jの団体パートナーであり紙パックリサイクル推進プロジェクトを協働した全国牛乳容器環境協議会(以下、容環協)から授与された。

サーキュラーエコノミー賞:食材だけでなく容器包装にも環境配慮を

2022年4月から「プラスチック資源循環促進法」が施行されたことも追い風となり、包装容器の廃棄を減らし、資源循環を促進することはビジネスと日常のくらし双方において重要なテーマとなっている。
容環協 常務理事の伊藤忍氏は、「SRA-J 加盟レストランにおいて食材に関しては、すべての皆様が環境配慮に取り組んでいると思うが、容器包装の観点ではどうか」と問いかけた。日本の家庭から出る廃棄物の約6割が、容器包装ごみだと言われている。また、レストランに食材を届けるための容器包装は、とりわけ高品質で衛生的な容器が使われており、これを一度で廃棄してしまうとサステナブルな世の中は実現できないと強調した。

容環協は、複数のSRA-J加盟レストランと協働で、紙パック回収ボックスの設置や来店客への呼びかけといった紙パックリサイクルに関する実証実験を行った。その実証実験の成果も踏まえ、「サーキュラーエコノミー賞」は兵庫県芦屋市のイタリアンレストラン「BOTTEGA BLU. (ボッテガブルー)」が受賞した。各店がさまざまな施策を行うなかでも特に秀でた紙パックの回収率を誇り、かつ自治体や地元商工会を巻き込んで取り組みをひろげた実行力と情報発信力が高く評価された。


(左からSRA-J 代表理事 下田屋氏、BOTTEGA BLU. オーナーシェフ 大島氏、容環協 常務理事 伊藤氏)

調達賞:生産者と協業し未利用魚の活用に取り組む

「調達」賞には、東京の石神井公園にあるPIZZERIA GTALIA DA FlLIPPO(ピッツェリア ジターリア ダ フィリポ )が選ばれた。「FOOD MADE GOOD」の調達に関するすべての項目で70%以上を達成しており、これは対象レストランのうち唯一だったという。

近所の魚屋から調達する。環境に配慮した漁法や海域を指定したものを優先調達する。市場に出回らない未利用魚を積極的に活用し、レストランで提供されない素材はふりかけ等にして商品開発にも注力する。海外の食材もフェアトレード認証のものを積極的に利用し、環境や社会に配慮した質の高い食材を仕入れ、提供しようと努める。こうした数々の姿勢により、サステナブルな調達において高い達成率を獲得した。


(左からSRA-J 代表理事 下田屋氏、PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO岩澤氏、ジャーナリスト 井出留美氏)

社会賞:全従業員が「サステナブル・デザイナー」

社会部門賞には、haishop cafe(ハイショップ カフェ)が選ばれた。
全従業員が「サステナブル・デザイナー」として活躍。サステナビリティ推進者として能動的かつ積極的に行動を起こしている点が、何よりもユニークで素晴らしい。ヴィーガンメニューをはじめ、さまざまな顧客のニーズや多様な価値観に応えるメニューを提供。漁業体験、農業支援、生産者とのつながりや、フェアトレードのキャンペーン企画、調理師専門学校におけるSDGs授業などの情報発信にも力を入れている。レストランの枠を超えて、大きなインパクトを多方面に与えている点が選出の決め手となった。

haishop cafeを運営する株式会社Innovation Designのサステナブル デザイン室長 表秀明氏は、「フードシステムのさまざまな課題を解決するにあたって、自分たちのレストランだけでは実現できない。レストランに来店されるお客様も、顧客としてだけでなく、地球の未来を共に描く“仲間”として見なし、環境に配慮したメニューや商品の魅力を丁寧に伝えることを心がけた結果だ」と、共に働く「サステナブル・デザイナー」達をねぎらった。


(右:haishop cafe を運営する株式会社Innovation Designサステナブル デザイン室長 表氏 )

環境賞:SDGs未来都市の自治体と連携して多角的に取り組む

「環境」賞は、エネルギー、リサイクル・リユース・リデュース、食品ロスと大きく3つの観点から審査が行われ、2022年3月にオープンしたばかりの「トラットリア ケナル」が選ばれた。

トラットリア ケナルがあるのは、SDGs未来都市に選定された岡山県真庭市。真庭市が製材端材や林地残材を木質バイオマス発電所の燃料として活用し、循環型経済の実現を目指すのと同様に、トラットリア ケナルでも
再生資材の活用、すべての生ごみのコンポスト化、省エネや節水ツールの導入、廃油はバイオディーゼル燃料にして地域に還元している。レストランでは毎日、食品ロスを計量しているそうだ。計量したデータを元に、どうしたら食品ロスをもっと減らせるかをスタッフ全員でディスカッションしているのだという。こうした多方面かつ環境面での丁寧な活動が受賞の理由となった。

「真庭市ともいっそう連携を深め、サステナブルな取り組みの輪を広げていきたい」と、「トラットリア ケナル」を運営する株式会社サンマルクイノベーションズ 代表取締役 江下健一氏は、さらなる抱負を語った。


(右:トラットリア ケナルを運営する株式会社サンマルクイノベーションズ代表取締役 江下氏 )

大賞:地域や他店を巻き込むリーダーシップを発揮

栄えある大賞は、BOTTEGA BLU.が受賞した。前述のサーキュラーエコノミー賞とダブル受賞となる。調達、社会、環境それぞれの項目において、いずれも高いレーティングを獲得した取り組みの幅広さと、他のレストランや生産者の発展にも貢献するリーダーシップが大賞受賞の理由だ。

調達面では、フェアトレードや有機野菜はもちろんのこと、地域の現状に即した調達を工夫している。環境面では、魚や貝をあますところなく使い切り、野菜の端材をクッキングシート代わりにするなど、食品ロス対策にアイデアを凝らす。再生エネルギーの使用率も100%だ。社会面では、他のレストランのサステナブルなメニュー開発に関わったり、提携農家に食品ロス削減のノウハウを提供したりと、レストラン業界全体のサステナビリティ向上に貢献する姿勢が審査員からの賞賛が集まった。

BOTTEGA BLU.の大島氏は、「自分が意識しているのは、地元を盛り上げたいという想い。そして食品ロスの削減。働きやすい環境づくりも大切にしたい。シンプルなことをやってきていると思っているが、こうして賞をもらえると自分がやってきたことに自信がもてる」と、受賞の喜びを言葉にこめた。



サステナブルな取り組みは飛躍的に進化している

リジェネラティブな農業の普及や再エネ100%を行っている銀座のフレンチレストラン「L’OSIER ( ロオジエ )」 や、地域活性化と環境保全を目指して地元の食育にも尽力する石川県輪島市の一軒家レストラン「日本料理 富成(とみなり)」、SRA-Jとの共同企画によるイベントで顧客への啓発と社内研修を両輪で推進するザ・キャピトルホテル東急内 オールデイダイニング「ORIGAMI(オリガミ)」など、惜しくも受賞は逃したものの、ノミネートされた17の飲食店それぞれに優れた事例がある。

自らがイニシアチブをとって巻き込み力を発揮して、生産者だけでなく、取引先の事業者やお客様、自治体や地域それぞれに好影響を与えながら、共にサステナブルなムーブメントを起こして変化を促していく。そのように自店舗だけではなく、まわりへもいかに好影響を波及させられたかが2022年度の審査のポイントになった。

点と点を結び、その線が伸びていくように、食の分野でサステナビリティを推進するレストランや事業会社が増えていくこと。そして生活者も、サステナビリティに配慮した飲食店を選んで食事をすること。この二つが歯車のように噛み合って両輪が回ることによって、地球が直面するさまざまな課題を解決に導いていく。



「サステナブルな食事の提供ニーズはこれからますます増えていく」と、SRA-J 代表理事 下田屋毅氏は展望を見込む。日本サステイナブル・レストラン協会のフレームワークは包括的な内容で、実践するのは大変だが、それだけの意義がある。それは未来を作っていくことに他ならない。



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■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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