【電通×オイシックス・ラ・大地×YUIDEA セミナーレポート】 これからの時代の食とサステナビリティ・コミュニケーション

( 2022.11.21. 公開 )

#食品産業 #エシカル消費 #フードロス削減 #サービス開発 #ビジネスと環境 #SDGs


食に関わるサプライチェーンや消費行動が、サステナビリティやSDGsに対する意識の高まりと共に大きく変化するにつれて、いかに“自社らしい”活動を実践し、それを最適なタッチポイントで生活者とのコミュニケーション構築に活かせるかが、これからのビジネスにおいてはキーポイントになるでしょう。サステナブル・ブランディングを効果的に活用しながら、共感や応援によって選ばれる企業やブランドになれるか。これこそが、これからの時代を生き残り、企業価値や共創優位性を高めていくための重要戦略だと言っても過言ではありません。

一方で、その重要性を認識しながらも実際にはどのように推進したらいいか分からないという企業が多いという現状もあります。そこでサステナブル・ブランド・ジャーニー編集部では、『これからの時代の食のあり方と サステナビリティ・コミュニケーション』と題したセミナーを2022年8月31日に開催。株式会社電通(以下、電通)PRソリューション局 部長、電通 Team SDGs/食生活ラボ主宰の大屋洋子氏と、オイシックス・ラ・大地株式会社(以下、オイシックス・ラ・大地)Upcycle by Oisix ブランドマネジャー 三輪千晴氏の両名を迎えて、食とサステナビリティにおける課題や具体的な実践、コミュニケーション設計に役立つポイント等についてトークセッションを行いました。


コロナ禍によって変化した食とライフスタイル

電通では1983年から継続的に世の中の「食」をウォッチしていて、そこから見えてきた食に関するインサイトをビジネスにも拡張していけるようにと、2010年に「食生活ラボ」を発足しました。日本の「今」を知り「これから」を共創していくことを目指し、未来の食のあり方をあらゆる視点から考察しています。

食生活における近年の大きな変化は、言うまでもなくコロナ禍によってもたらされました。すべての人の健康が脅かされるという未曽有の事態から「健康の大切さを改めて認識した」は79.2% 、「日ごろから健康的な生活を意識するのが大切だ」と回答した人は85.7%にのぼります(出典:電通, 新型コロナウイルス感染拡大環境下生活者ディープ・インサイト調査サマリ)。一方で長引く自粛生活からストレスが高じ、“食”を楽しむことでストレスを発散する傾向もみられ、アウトドア食やプチ贅沢といった様々な食の楽しみ方がひろまりました。

そしてもう一つの重要な側面としては、テイクアウトやデリバリーの急増によるプラスチック容器の増加や、外食産業の営業自粛などで食材が行き場を失ったことによる食品ロス増加といった社会課題が浮き彫りになったことが挙げられます。「コロナ禍での食生活の変化によって、私たちとSDGsとの距離が近づいた」と大屋氏は指摘します。


(出典:電通, 「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」)


なぜサステナビリティ・コミュニケーションが今、必要なのか

電通は2018年に『SDGsコミュニケーションガイド』を制作・無料公開しました。すでに多くの企業で活用されているこのガイドを、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)が急速に進む社会の要請に応じるべく、2021年12月にアップデートし公開されたのが『電通サステナビリティ・コミュニケーションガイド』です。

電通が2022年1月に行った調査では、「SDGs」という言葉の認知度は9割近くまで伸びました。また、2020年11月の『電通エシカル消費者調査』では、コロナ禍の自粛期間を経てエシカル消費への意識が高まったという人が3割を超え、4割の人が「日常的にエシカル消費を取り入れたい」と回答しています。

この結果から、生活者はこれまで以上に企業がどのような言動をし、何に取り組み、どんなメッセージを発信しているかを注視するようになったと言えるでしょう。サステナビリティにおいては、せっかく取り組みをしていても発信していないと「やっていない」とみなされてしまうため、サステナビリティ・コミュニケーションの重要性はますます高まっています。



サステナビリティをビジネス戦略の中心に据え、自社の提供価値×くらし×社会という複合的な視点から、何を重要と考え、どのような取り組みを実践したらいいか。食品産業のみならず、各企業がビジネスにおいてコミュニケーション設計を考える場合に、どのように注意あるいは工夫をしたらいいか。『サステナビリティ・コミュニケーションガイド』では、企画や表現を考える実践のフェーズで役立つチェックポイントと、社会が変化するなかで持つべき視点などについて記載されています。


(出典:電通『サステナビリティ・コミュニケーションガイド』
https://www.dentsu.co.jp/sustainability/sdgs_action/pdf/sustainability_communication_guide.pdf


アップサイクル市場が広がりつつある

オイシックス・ラ・大地は“サステナブル・リテール・モデル”を目指し、食の社会課題をビジネスで解決するために様々な取り組みを推進しています。なかでも、三輪氏がブランドマネジャーとして牽引するUpcycle by Oisix(アップサイクル バイ オイシックス)は、食品ロスという社会課題に気軽に取り組めるアクション提案として2021年7月にスタートした注目の新規事業です。


>> 関連記事:オイシックス・ラ・大地のグリーンシフトと、Upcycle by Oisixのチャネルブランディング戦略


アップサイクル食品市場は、米国Future Marketレポートによると2032年には11兆円規模の市場が見込まれ、成長分野と目されています(出所:Forbes “Upcycled Food Is The Coolest Trend You’ve Probably Never Heard Of” 2021,31,May)。一方で、日本ではアップサイクルに関する認知度が低く、アップサイクル食品市場が形成されていないのが現状です。

Upcycle by Oisixは、オイシックス・ラ・大地ならではの安心安全な基準を満たす原料(野菜など)に、サステナブルな付加価値を加えて、地球にも身体にもやさしい新しい食体験を提供するビジネスモデルです。廃棄食材を活用するという社会課題解決の側面だけでなく、食材の新たなおいしさに生活者が出会える、驚きのある商品開発を大事にしています。




どのようにサステナブル・コミュニケーションをしてきたか

Upcycle by Oisix の魅力を伝える際に、ブランドマネジャーとして三輪氏が気を付けていることは大きく2つあるそうです。

1つめは「廃棄食材から出来ているんです。環境にいいんです。食べてみてください。」というスペックの説明から入らないことだと三輪氏は明かします。「そうではなく、バナナの皮ってどんな味がすると思いますか? というように新しい食の楽しみ方を面白く伝えられる工夫をしています。」
そしてもう1つは、どういったところでこれらの廃棄食材が生まれてしまっているかを伝えることだと言います。「サステナビリティの取り組みも同様に、ただ“やります”と宣言するだけではダメで、行動を伴わなければ信頼は得られません。廃棄が生まれる背景、それがアップサイクルされる過程、さらにはどんな想いでそれらを商品化するのかといったストーリーを、あらゆるタッチポイントで伝えることを心がけています。」




顧客は何をメリット=価値と感じるのか

オイシックス・ラ・大地は、顧客インタビューを通じて「エシカル商品は、なぜ手に取りづらいのか?」についてヒアリングを重ねてきました。そこから、エシカル消費を拒む5つのポイントが見えてきたと三輪氏は言います。

価格の問題は、日本においてエシカル消費が浸透しづらい最も大きなハードルです。「エシカルやサステナブルな商品をつくっても売れない」というのは、多くの企業に共通した悩みとも言えるでしょう。しかしその現状を嘆くのではなく、三輪氏は「お客様にとって、まだその価格に見合う価値を感じていただけていないということ」と堅実に受け止めた上で、その「価値」をどのように切り出し、伝えていくかを模索することが大事だと説きます。

購入者は「自分」にとってメリットがあるかどうかで購入をジャッジします。つまり、どのようなことが購入者・生活者にとって「メリット」となり得るのかを造像することが鍵を握ります。選ぶ楽しさ、罪悪感を軽減するヘルシーなおいしさ、身近な人との話題にしやすい等々。オイシックス・ラ・大地でも、アンケートを中心に顧客の声を丁寧に集め、分析する中から、エシカル消費を阻むポイントをコミュニケーションでどのようにクリアしてくかを、まさに考えながら取り組んでいるところだと言います。


メディアを活用して、生活者や小売店の興味やニーズを高めていく

それでは2021年にUpcycle by Oisixを立ち上げた際、まだマーケットが充分に形成されていない中で、どのように顧客接点をつくり、伝えてきたのでしょうか。

三輪氏は、まず一般生活者よりもSDGs・サステナブルへの着目度が高いメディア業界にアピールしたと当時をふり返ります。テレビやWEBニュース等で「最近、話題になっている商品や取り組み」として紹介されることで、小売店や生活者に対して、アップサイクルが先進トレンドであるというイメージが醸成され。生活者の認知や関心が高まってくるにつれて、小売店の門戸も開かれやすくなっていったと言います。

Upcycle by Oisix商品の販売チャネルも、最初は市場リサーチや熱量把握を兼ねて会員のみに絞っていましたが、少しずつサステナビリティへの関心が高い層をターゲットに一般顧客が購入できるチャネルへと展開していきました。さらに広い顧客層へリーチできる百貨店(有楽町マルイ)でポップアップショップを出店した際には、食材のアップサイクルという話題性から多くのメディアに取り上げられ、これまでオイシックス・ラ・大地を知らなかった顧客層とのコミュニケーション機会を得られたそうです。そうして徐々に販売チャネルを増やしていきながら、2022年6月からは、より生活者に近いチャネルであるコンビニ(ナチュラルローソン)での販売も開始しました。

メディアを通じて話題や機運を自ら仕掛けて、作っていくことから、少しずつ生活者や小売店に波及し、ニーズが高まり、販売や購入機会につながっていったのです。生活者が気軽に手にとれる環境をつくっていくことや、生活者がそれとなく話題をキャッチできるようにメディアにアピールしていくことの有効性を、オイシックス・ラ・大地は、まさしく実践を通じて実証した事例だと言えるでしょう。



世界で起きていることは、すべて自分につながっている

セミナーの後半では、3つのテーマを掲げてトークセッションを行いました。

1つめのテーマは「価値の再定義」です。既存の商品やサービス、あるいは新規事業や新商品をサステナブルな視点で捉えなおして新しい価値を再定義しようとするときには、どのようなことが大切になってくるのでしょうか。

(大屋氏)
「コロナ禍もあって、人々の意識も少しずつ変わってきています。世界がつながっていることを実感する出来事を通して、グローバルな視点を持ち、社会課題が以前よりも身近に感じられるようになってきているのではないでしょうか。これまでのように安いものが買えたらそれでいいというのではなく、地球環境や人権のことを考慮して買いものをすることを“当たり前”として捉えられるような時代になっていく、今はその過渡期にあるのではないかと感じています。これからの時代は、商品やサービスを選ぶ重要な視点のひとつに“サステナビリティ”が入ってくると思います。

また、企業が自社のサステナビリティ活動を発信する際は「その企業らしさ」も大事です。オイシックス・ラ・大地さんの取り組みの素晴らしいところは、“オイシックス・ラ・大地だから出来ること” を実践している点です。“その企業だからこそ”解決できる社会課題にフォーカスすることで、対外的にも説得力をもって発信できますし、受け手も納得感や共感得やすいのではないかと思います。」



(三輪氏)
「素材のことをよく知っているのが自分たちの強みです。素材のおいしさや新しい一面、楽しみ方を誰よりも知っているからこそ、新しい価値を伝えられるのです。

たとえばアップサイクル素材を提供いただく産地の方からも、“こんな端材どうするの?”と言われることがあります。価値あるものと思われていなかった部分を、商品として生まれ変わらせることができるのも、新しい価値の再定義だと言えるのはないでしょうか。これまで見出せていなかった価値を提供することで市場全体の価値向上にもつながり、食のサプライチェーンに好循環が生まれます。」


トレーサビリティとストーリーテリングの重要性

2つめのテーマは「ソーシャル文脈での新しいコミュニケーション」について、両氏の見解を伺いました。応援する気持ちで、投票する気持ちで、購入するというスタンスがこれからの時代にはますます大事になっていきます。商品やサービスが今ここにある「理由」を共感と新しい価値を感じてもらえるストーリーを伝えるには、どのように発信したらいいのでしょうか。

(三輪氏)
「オイシックス・ラ・大地では、商品や素材の背景を伝えることをとても大切にしています。食品加工のどの過程で発生した端材なのか、この商品でどれだけの量の食品ロスを削減できるのか、そうした情報をきちんと伝えることで一つ一つがストーリーのあるプロダクトになり、そのストーリーが生活者の方を惹きつけると考えています。また、ブランドのファンになってくれた方が、とことんその商品やブランドについて知りたいと思う気持ちに応えられるように、動画やSNSで知りたい情報を入手できるように情報発信していくことも心がけています。」

(大屋氏)
「ストーリーが大事というのは、私も同意見です。この商品がどんな想いで作られて、なぜここにあるのか。それが分かるのと分からないのとでは、生活者への伝わり方が全然ちがいます。

取り組みを単発で発信するだけでは、一つ一つがバラバラで、相互がつながりあっていきませんが、なぜ自社がサステナビリティやSDGsに取り組むのか、企業として目指すのはどのような未来なのか、というストーリーが前提にあると、一つ一つの取り組みが「点」ではなく「線」となり「面」となって、その企業のサステナビリティに対する姿勢や活動が生活者にも納得感と共感をもって伝わっていきます。

多くの企業様から、“せっかくいろいろなサステナビリティにつながる取り組みをしているのに、生活者にはなかなかサステナブルな企業だというイメージを持たれない”といったご相談をよくいただくのですが、そういった場合はまずその“志”にあたる軸となるストーリーを元に発信することをお薦めしています。」




エシカル消費が、もっと当たり前になっていくために

トークセッション最後のテーマは、エシカル消費について伺いました。
フェアトレードやオーガニック、アップサイクルなどに対応したエシカル消費が浸透していくために、日本では「価格」が大きな障壁となっています。
なぜその価格なのか、サプライチェーンにおけるコストの正当性を生活者が理解することが最初のステップになりますが、ただ「わかる」だけでなく、それによって「かわる」ことこそが最も大事です。生活者が「値段は高くても、この商品・サービスはサステナブルな価値があるから、これを買う」と選択できるようになるためには、どのような働きかけが有効でしょうか。そしてエシカル消費がスタンダードになっていくためには、なにが必要なのでしょうか。

(大屋氏)
「日本は高度にシステム化されているため、他国に比べて社会課題に直面することが少なく、自分ゴトとして捉えづらいのではないでしょうか。
たとえば食べものの場合、“命”をいただいていることを実感できるシーンは、日本では少ないかもしれません。また私たちが食べているものが、じつは地球環境の問題と大きなつがなりがあることも、日々の生活ではあまり感じづらいですよね。こういったことが知識だけでなく実感できるような食育が推進されていくといいのかなと思います。」

(三輪氏)
「未来を担う子どもたちに、エシカルな商品にたくさん接してもらって、それが生活のなかで当たり前になっていくのが理想的だと思います。オイシックス・ラ・大地は、小中学生とアップサイクルの商品開発を一緒に行うなど独自の食育にも携わっています。家庭や教育現場でエシカルやサステナビリティを浸透させていくことから、未来の当たり前ができていくといいですね。」



【参考サイト】

電通サステナビリティコミュニケーションガイド

Upcycle by Oisix フードロスに新たな価値を




■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
#アート #くらし #哲学 #ウェルビーイング #ジェンダー #教育 #多様性 #ファッション


お問い合わせはこちら