【前編】SDGs1〜9│企業の具体的な取り組み事例18選
(2022.10.14. 公開)
私たちの普段の生活の中で毎日のように目にするようになった「SDGs」。2021年に一般生活者を対象に実施された調査では、「SDGs」という言葉の認知度は86%と高い結果になりました。世の中の関心は目標達成を目指す2030年に向け、今後さらに高まっていくことが予想されます。今回はSDGsに取り組みたいと考えている企業担当者のヒントとなるような事例を、SDGsの17の目標ごとにご紹介します。前編である今回はSDGs1〜9の事例を、後編ではSDGs10〜17の事例をまとめています。
SDGsのゴール(番号)ごとの取り組み事例
SDGsはテーマが幅広く、17の目標と169個のターゲットが設定されています。予算や人員の限られた企業で取り組む際には、まず自社や業界に関連する目標を特定することが重要です。
「SDGs1. 貧困をなくそう」企業の取り組み事例
「SDGs1. 貧困をなくそう」では、あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つことを目標としています。
①ジモティーのひとり親家庭支援
地域密着型のフリマや掲示板「ジモティー」をネット上で運営する株式会社ジモティーでは、ひとり親家庭の支援に継続的に取り組んでいます。実はユーザー調査により、約65万世帯ものひとり親家庭がジモティーを利用していることが判明。例えば2018年には、企業からの協賛支援物資をジモティー上に掲載し、ひとり親家庭優先の受け渡し会を実施しました。②日清食品のNISSIN BAZAAR
日清食品ホールディングス株式会社では、50年間で100の社会貢献を行うCSR活動「百福士プロジェクト」を2008年から実施しています。そのうちの1つとして実施された「はたら着かた改革 NISSIN BAZAAR」は、貧困に苦しむ子どもたちを支援する取り組みです。これはグループ全社員が参加対象となるフリーマーケットで、売上はすべて日本の子どもの貧困対策を推進する「子供の未来応援基金」に寄付されました。「SDGs2. 飢餓をゼロに」企業の取り組み事例
「SDGs2. 飢餓をゼロに」では、「飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する」ことを目標としています。
①ユーグレナGENKIプログラム
ミドリムシ(学名:ユーグレナ)を活用した食品販売やバイオ燃料の研究等を行っているバイオテクノロジー企業、株式会社ユーグレナは、バングラデシュの子どもたちの栄養問題改善に取り組んでいます。「ユーグレナGENKIプログラム」では、豊富な栄養素を持つユーグレナ入りクッキーを子どもたちに無償で配布。ユーグレナで販売している対象商品の売上の一部を協賛金とする他、現地NGOの協力などで運営しています。②キユーピーみらいたまご財団
キユーピー株式会社は「食を通じて社会に貢献する」という創始者の精神を受け継ぎ、食育の推進などの社会貢献に取り組んでいます。「キユーピー株式会社みらいたまご財団」では、食育活動や子どもの貧困などに取り組む団体を公募し、寄付を中心とした支援活動を行っています。助成団体の中には、貧困家庭やひとり親家庭の子どもに向けた食堂運営などを行う団体があります。「SDGs3. すべての人に健康と福祉を」企業の取り組み事例
「SDGs3. すべての人に健康と福祉を」では、「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」ことを目標としています。
①コーセーの難病の方のQOL向上支援
株式会社コーセーでは、難病の一種である日光過敏症の皮膚ポルフィリン症の方のQOL向上に取り組んでいます。皮膚ポルフィリン症に根本的な治療方法はなく、発症予防のためには全身を衣類で厳重に遮光することが重要です。コーセーは皮膚科医と連携し、原因物質であるポルフィリン体の作用に対し防御効果の高いファンデーションを無償で配布しています。これは、患者の屋外での活動範囲の拡大につながります。②SORA Malaria Control
ドローンとAIにフォーカスした日本初のスタートアップSORA Technology株式会社は、技術を活用したマラリアの撲滅に取り組んでいます。同社が事業を展開するシエラレオネでは、マラリアは5歳未満の乳幼児の死亡率の第一の原因となっています。マラリアは蚊が媒介して発生する感染症であり、ボウフラ発生源の水たまりへの根本対処が必要です。これまでは人間が水たまりを捜索し殺ボウフラ剤を散布していましたが、同社のドローンとAI技術によりボウフラ発生リスクの高い水たまりの特定と殺ボウフラ剤の自動散布が可能となります。「SDGs4. 質の高い教育をみんなに」企業の取り組み事例
「SDGs4. 質の高い教育をみんなに」では、「すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」ことを目標としています。
①柿の実学園のインクルーシブ教育
学校法人柿の実学園は、神奈川県川崎市を中心に18の保育園・幼稚園を運営しています。『日本でいちばん大切にしたい会社』大賞の厚生労働大臣賞も受賞しており、障害の有無に関わらず同じクラスで共に歌い、遊んでいます。通常の園では、重度の障害児の受け入れは、設備や人材、医療的ケアなどの観点から断られることが多い中、柿の実学園では優先的に入園させています。②ヤマハの音楽教育
ヤマハ株式会社は国際協力機構(JICA)と業務委託契約を結び、エジプトへの日本の器楽教育導入に向けた活動を実施しています。エジプトでは、子どもの社会性や協調性、規律性などの非認知能力の発達を課題として挙げる声が教育関係者の間であり、非認知能力を養う日本型の教育に高い関心が寄せられています。ヤマハは、器楽教育を通し子どもたちの非認知能力の育成、エジプトの教育事情に合わせた音楽の普及活動におけるモデルの策定を目指します。「SDGs5. ジェンダー平等を実現しよう」企業の取り組み事例
「SDGs5. ジェンダー平等を実現しよう」では、「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」ことを目標としています。
①コーセーのイクパパサポート制度
女性の割合が従業員全体の約8割を占める株式会社コーセーでは、女性が生き生きと自分らしく働けるよう、社内環境を整備しています。女性活躍というと女性サポートの制度ばかりを強化してしまいますが、それ以外に男性の育児休業を促す「イクパパサポート制度」を導入。導入に伴い、当事者や上司、チームの意識向上を促すためのサポートの実施、育休を取得する男性社員への支援金給付などにも取り組んでいます。制度導入後、2020年度の男性育児休業取得率は5割を超え、前年度から大幅に増加しました。②清水建設のパタニティ休業制度
清水建設株式会社では、2017年頃から男性の育児休業取得者を増やす取り組みを行ってきました。当初は、全従業員向けのe-ラーニングの配信やイントラネットへの体験談の掲載などをコツコツ行ってきましたが、社長から「男性の育児休業取得者を増やす取り組みをしたい。自分も手を動かす」と提案があったことで取り組みが加速。男性の育児休職を推奨し、その上司へは理解を求める手紙を社長自ら執筆しました。2021年10月には、出生から8週のうち、4週を有給とする「パタニティ休業制度」を導入しました。「SDGs6. 安全な水とトイレを世界中に」企業の取り組み事例
「SDGs6. 安全な水とトイレを世界中に」では、「すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」ことを目標としています。
①コカ・コーラの森に学ぼうプロジェクト
製品の製造や製品自体に水を多く使用するコカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社では、持続可能な水資源の保全に力を入れています。水使用量削減や水のリサイクルに取り組む一方、水源となる森林などの保全も行っています。多くの人に自然保護や水源涵養の重要性を理解してもらうため、各地で環境教育プログラム「森に学ぼうプロジェクト」を実施しています。2019年に行われたプロジェクトでは、製造工場の水源域12カ所で地域の方と社員が水資源保護活動を行い、社員とその家族421人が間伐・田植え・木工体験などを通して水の大切さを学びました。②TOTO水環境基金
水回りを中心とした豊かで快適な生活文化を提供するTOTO株式会社は、TOTOに関わる人々の環境貢献に応じて助成金が増えていくTOTO水環境基金を設立しています。例えば、私たちが節水商品を購入した際の節水効果や、社員や取引先がボランティア活動に参加した実績、株主が寄付を選択した場合の優待品相当額などを、それぞれ金額に換算し助成金算出のベースにしています。助成金は、国内外の地域に根ざした水にかかわる環境活動を行うNPO等の活動を支援するために使用されます。「SDGs7. エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」企業の取り組み事例
「SDGs7. エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」では、「すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する」ことを目標としています。
①アスクルの2030年CO2ゼロチャレンジ
オフィス向け事務用品を扱うアスクル株式会社では、2016年に「2030年CO2ゼロチャレンジ」を宣言し、サプライチェーン全体でCO2の削減を進めています。国際的イニシアティブである「RE100(Renewable Energy 100%)」にも加盟し、全国各地の事業所や物流センターで再生可能エネルギーに切り替えを進め、グループ全体での再エネ導入率は50%を超えました。「EV100(Electric Vehicle 100%)」にも加盟しており、2030年までに物流センターから購入者に届けるまでの車両を100%EV化することを目指しています。②東急の日本初再エネ100%で運行する世田谷線
2019年東京急行電鉄株式会社は、東急世田谷線で日本初となる再生可能エネルギー100%の運行を通年・全列車で開始しました。日常生活で普段使用することも多い鉄道サービスで再エネ100%を実現することで、生活者にとっても再エネが身近な選択肢に感じられるといった意義を持ちます。電気は、東北電力グループが供給する地熱・水力発電によるものを利用しています。「SDGs8. 働きがいも、経済成長も」企業の取り組み事例
「SDGs8. 働きがいも、経済成長も」では、「すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する」ことを目標としています。
①JALの人身取引防止
国際的に人や物が流動する近年では、世界的な犯罪も増加しています。強制労働や性的搾取、臓器売買を目的とした人身取引もその1つで、移動のために航空機が使用されることもあります。日本航空株式会社では、警察と連携し人身取引の兆候を発見した際の対応や通報体制を確立する他、様々な社内研修において人権に関する意識啓発に取り組んでいます。②LITALICOの障害者就労支援
「障害のない社会をつくる」をビジョンとして掲げる株式会社 LITALICOでは、障害のある方の就職支援をしています。障害のある方は日本に964万人いますが、そのうち労働可能人口377万人の中で働いている人はわずか14%だと言われています。働いていない人の多くが、社会と接点のない状態が長期化し、病状の悪化や自己肯定感の低下、引きこもりなどの悪循環に陥っています。LITALICOでは、障害特性への理解があるスタッフにより幅広い障害を持った方に対応できる環境を整え、自分らしい働き方を実現するサポートを行っています。「SDGs9. 産業と技術革新の基盤をつくろう」企業の取り組み事例
「SDGs9. 産業と技術革新の基盤をつくろう」では、「強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、技術革新の拡大を図る」ことを目標としています。
①伊藤園の災害対応自動販売機
気候変動の影響で異常気象が増加し自然災害も増加する懸念があります。株式会社伊藤園では、大規模な災害が発生し飲料が必要になる際に、内蔵バッテリーや手回しの自家発電により製品の取り出しを無料で行える災害対応自動販売機を展開しています。②長野県伊那市のモバイルクリニック
日本の地方では医師不足が社会課題となっている地域もあります。長野県伊那市では、MONET Technologies、フィリップス・ジャパンと協業し、オンライン診療のための専用車両「INA ヘルスモビリティ」の実証事業を行っています。これは、例えば通院困難な高齢患者の元へ車で出向き車内ビデオ通話を通して医師の診療を行う新しい医療形態です。今回は、SDGs1〜9に対する企業の取り組み事例をご紹介しました。自社の保有する技術や商品・サービスを活かしたユニークな取り組みもあれば、多くの企業で参考になる取り組みもあったのではないでしょうか。後編では、SDGs10〜17に対する企業の取り組み事例をご紹介しています。合わせてぜひご覧ください。
>> 後編はこちら
【参考サイト】
・SDGs認知率は86%に上昇│日経ESG
・SDGsに関する取り組みについて│ジモティー
・日清食品グループ CSR活動「百福士プロジェクト」第22弾「はたら着かた改革 NISSIN BAZAAR」を2018年6月8日(金)に実施│日清食品グループ
・ユーグレナGENKIプログラム│ユーグレナ
・キユーピーみらいたまご財団について│キューピーみらいたまご財団
・地域社会とともに│コーセー
・SORA Technology、固定翼ドローンとAI技術によるマラリア対策「SORA Malaria Control」を発表│ドローンジャーナル
・国際協力機構(JICA)と「中小企業・SDGs ビジネス支援事業」において業務委託契約を締結│ヤマハ
・子も親も学べる場に 川崎・柿の実幼稚園が障害児積極受け入れ│神奈川新聞
・ジェンダー平等事例集Diversity & Inclusion─日本企業24社の取り組み─
・「地域社会」への取り組み│コカ・コーラ
・TOTO水環境基金について│TOTO
・サステナビリティ報告(環境・社会活動報告)気候変動・脱炭素│アスクル
・日本初(*1)再生可能エネルギー100%による世田谷線の運行を電気記念日の3月25日に開始│東急
・人身取引を未然に防ぐ│JAL
・雇用課題│LITALICO
・地域社会・コミュニティとのつながりの深化│伊藤園
・モバイルクリニック│伊那市
■執筆:contributing editor Eriko SAINO
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