豊島株式会社 「ちょっといいこと」をコツコツと未来へ繋げる オーガニックコットン普及の取り組み事例

(2022.9.22.公開)

#サステナブルファッション #オーガニックコットン #トレーサビリティ #ストーリーテリング #パーパスドリブン


「綿屋半七」という屋号で繊維問屋を起こしたのが、豊島株式会社(以下、豊島)のはじまりだ。実に1841年のこと。日本は江戸時代、天保の改革が行われた時代にさかのぼる。天保の改革というと逼迫した財政の立て直し、都市(江戸)集中型から地方への人返し、他にも人々の生活に我慢を求める政策だった。その当時と長い年月を隔てた現代でも同じような課題と状況があるというのは、不思議な気がしないでもない。しかし昔と現代で大きく異なるのは、地域や国といった単体で苦難を乗り越えようとするのではなく、より広い視座で「世界を(あるいは地球を)よくするために何をするのか」が問われる時代になった点だろう。

変わりゆく時代や社会のなかで繊維問屋から徐々に事業領域を拡充し、繊維を扱うライフスタイル提案商社へと発展を遂げた豊島は今、「MY WILL」というステートメントを掲げて、繊維素材が地球環境に与える影響を配慮した「持続可能な素材開発」をはじめとして様々なサステナビリティ活動を拡充している。なかでも、綿商人としてのオリジンを矜持に、「コットン農家の労働環境の問題を解決したい」との想いから取り組む2つのプロジェクトについて取材した。


(豊島東京本社にて取材した 左:営業企画室 佐藤菜津紀氏 右:同 八木修介氏)

「ちょっとずつ」社会や環境へいいことを積み重ねていく

ORGABITS(以下、オーガビッツ)は、豊島が2005年から続けているオーガニックコットン普及プロジェクトだ。1つのプロダクトが100%オーガニックコットンでなくてもいい。オーガニックコットンの含有率が10%であっても、それが100倍の人に届けば、全体量としてはより多くの人に普及することになる。オーガニックコットン100%は難しくても、10%なら始められる。いきなり高い理想から叶えようとするのではなく、ハードルを下げることで多くの人がアクションに繋げられ、続けられるというのは、サステナビリティ活動やエシカル消費においても等しく重要だ。
このプロジェクトがスタートしたきっかけは、オーガニックコットンの普及により有機農地を拡げ、環境汚染を改善していきたいとの想いだ。

コットンの原材料である綿花を効率よく栽培するために、綿畑には大量の除草剤や殺虫剤、化学肥料が使用され、収穫の際には落葉剤を散布して機械で素早く刈り取る。だが、そうした栽培方法は、土壌の汚染や農場で働く人びとの健康被害、薬品を購入するための農家の負担など、深刻な問題を引き起こしている。
オーガニックコットンが普及すれば、綿花の生産に携わる人びとの暮らしや、綿花を育てる大地などの環境を守ることにつながるのだ。


(オーガビッツのビジネスモデルは2013年にグッドデザイン賞を受賞している)


小さなアクションを積み上げていくアプローチで、2022年7月までに約140を超えるファッションブランドが参加、累計1,000万点以上のアイテムを生産してきた。ORGABITSのプロダクトにはインドのオーガニックコットン農家や地球環境や社会に貢献するNPO法人を支援するための寄付金がついており、社会貢献活動に役立てられている。

 


(さまざまなブランドや企業とコラボレーションを通して、オーガビッツは広がりを見せている)

こうした取り組みを展示会やプレスリリース等で発信するだけにとどまらず、「Bits magazine ちょっといいことしてるヒト。」というオウンドメディアをローンチ。自分の意志で”ちょっといいこと”を実践してきた人のインタビュー記事を中心に、オーガビッツに関わる取り組みを紹介する。


(出典:豊島株式会社、Bits magazine公式サイト)


社会の変化を作り出している人たちも、最初は“ちょっといいこと”を実践してみることからスタートしている、そのストーリーを通じて、これから新しく何かを始めようとする人たちの挑戦を応援する。それは、とりもなおさず「持続可能な消費社会と持続可能な生産システムを共創すること」を目指す豊島のパーパスと企業姿勢を伝え、取引先のみならずエンドユーザーにまでも社会や環境への「ちょっといいこと」を日常のなかで実践していこうと行動喚起させる、本質をとらえたブランディング戦略と言えるだろう。


エシカルな未来へとつながるトレーサビリティ

・生産に関わる人や地域を大切したい

私たちは食品を選ぶときには、それがどの産地でどのように作られたのかを気にする。たとえば国産か、遺伝子組み換えがされていないか、あるいは無農薬か等々。しかし衣服の生産過程については、食品と比べて、まだ意識が向けられることが少ないのではないか。

ファッション産業は製造にかかるエネルギー使用量やライフサイクルの短さなどから環境負荷が非常に大きい産業と指摘されており、サステナブル(持続可能)なファッションへの取り組みが急務であると環境省も警鐘を鳴らす。衣服や小物といったファッションアイテムが、どのように私たちのもとに届くのか。その背景にどんな課題があり、それはどのように改善・解決できるかを、企業も生活者もしっかりと見据え、考え、実践することが求められている。

TRUECOTTON(以下、トゥルーコットン)は「農場と紡績工場の特定」ができるトレーサビリティ(追跡可能)を確立したオーガニックコットンだ。トルコで農場と紡績工場を持つUCAKグループと生産パートナーを組み、実現した。生産者や手法、生産に関わる地域を大切しようという価値観が、ファッションの世界においてひろがっていくことを目指している。

オーガニックコットンは専用ラインで生産されており、徹底した管理体制でコントロールされている。機械で収穫されるためにゴミの混入が少なく糸の見た目がきれいに仕上がる点や、トルコが国として遺伝子組み換えを禁止していることで、遺伝子組み換えの種子が混ざるリスクが格段に低いことも特徴だ。コットンだけでなく、再生ポリエステルやテンセルとの混紡素材の開発も進められているという。





(出典:豊島株式会社、TRUECOTTON公式サイト)

・誰かの犠牲や苦しみの上に成り立っているものではないか、という視点

綿花農場の生産者や綿花を紡ぐ人たちが、健やかに働ける環境で、明るく元気に毎日を過ごせる。ファッションを身に着ける人だけでなく、作る人たちも幸せであるということ。そんな「当たり前」の真実を可視化できるのがトレーサビリティだ。

「さまざまな人権問題がファッションの生産プロセスにおいても問題提起されるようになってから、トレーサビリティの重要性やニーズは高まっていると感じます。トゥルーコットンはまさに、こうしたトレーサビリティを求める社会や市場の声に応え得るものだと自負しています。」

豊島の佐藤氏はそう語る一方で、「トゥルーコットンの意義に賛同してくださるお取引先は多いのですが、いざ導入するとなると、コストが高くなってしまうことが大きな障壁」と、乗り越えるべき課題を示す。

「安くて便利」が「いいもの」とされ、その価値観に基づき企業努力が重ねられた結果、私たちのくらしは高度にシステム化され、日常において多くの恩恵を受けている。けれどもその便利さや恩恵に浸かりすぎて、いつのまにか「自分さえよければいい」と思うようになっていないだろうか? 冒頭に書いたように、現代はもはや自分の手が届く範囲でうまくいっていればそれでいい、という時代ではない。

他の繊維にくらべて高価だが、それでもトゥルーコットンを選ぶ理由と価値がある。その納得感を得られるようなストーリーを豊島は発信し、受け取る(導入・購入する)側も“見えない場所にいるけれど確かに存在する作り手”と共に皆で幸せになれるようにという視座で「社会と環境にいいもの」を選ぶ。
トゥルーコットンを作る豊島と、採用するブランドと、それを選択し購入する生活者とが三位一体となることで初めて、環境と人権の課題解決にむかって前進できる。トレーサビリティはそのための道標だ。


豊島のSDGs宣言、「MY WILL」

豊島はSDGsマテリアリティ(持続可能な社会の実現に向けた重要課題)を「5つの使命(5つの価値創造)」と定義して、課題解決のベースになる考え方を策定している。

5つの使命、すなわち「未来を担う人財づくり」「持続可能な仕組みづくり」「イノベーティブな事業づくり」「人に優しい地域づくり」「地球に優しい素材づくり」のうち、オーガニックコットンの普及やトレーサビリティは「持続可能な仕組みづくり」に分類される。この分野においては、さまざまなサステナブル素材を開発し、SDGsに貢献する力を持った持続可能な社会の実現に取り組む、としている。

具体的には、2025年までに綿花取引におけるサステナブルコットンの取扱高を全体の30%までに引き上げることを目標に定めた(2019年の取り扱い比率は10%強)。その他にも、2019年にはWWFジャパンと共にトゥルーコットンのチャリティープロジェクト「Save nature and the animals」を実施し、ブランドやデザインの力で地球環境保全活動を啓発し、生活者の意識向上を目指した。

豊島の強みは、素材から製品までを扱う総合力だ。繊維を扱うスペシャリストとしての専門性と長い歴史で培われた知見を活かして「新たな価値」を創造できるケイパビリティと言い換えることもできるだろう。

卸やOEM といったBtoBがメイン事業でありながら、エンドユーザーである生活者から焦点はブレない。素材や機能性がどれだけ優れていても、デザインやストーリーに惹かれなければ生活者の心は動かない。デザインの提案力や魅力ある商品開発力を兼ね備えているのも大きな強みと言えるだろう。


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BtoC、BtoBに関係なく、エンドユーザーからの信頼や支持、応援を得ることがこれからの時代には必要不可欠だ。豊島はサステナブルな素材への転換を進める一方で、ブランドや生活者といったステークホルダーを巻き込みながら日常的に参加できる社会貢献活動の輪をひろげている。そうした一つ一つの積み重ねは、サステナブルな未来の実現へと続いていくだけでなく、未来における豊島の価値と存在意義をも高めるにちがいない。



【参考サイト】

ORGABITS 公式サイト

Bits magazine

TRUECOTTON 公式サイト

MY WILL特設サイト

豊島SDGs宣言




■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
#アート #くらし #哲学 #ウェルビーイング #ジェンダー #教育 #多様性 #ファッション


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