【ボタニカルファクトリー】
農業×化粧品で地方創生 農作物・人・町のつながりで循環する地域の未来(後編)

(2022.9.15. 公開)

#ボタニカルファクトリー #インタビュー #オーガニック化粧品 #商品開発 #地方創生 #地域ブランディング #農業 #環境 #循環

温帯から亜熱帯に属し、手つかずの自然が広がる鹿児島県大隅半島。半島の最南端に位置する南大隅町で、農業、人、行政をつなぎながら、地域の未来を創造するボタニカルコスメ『ボタニカノン』のブランディングやビジネス展開について、ボタニカルファクトリー代表の黒木靖之氏にお話を伺いました。
※前後編でお届けします(前編はこちら

有機農業を行うために地元農家の理解と協力を得る


黒木氏:オーガニックの植物を集めるのも、まだまだ試行錯誤中です。
鹿児島県は農業が盛んですが、だからといってオーガニックや自然農法の農家が多いわけではありません。農薬を使用した一般的な農法の農家がほとんどです。すでに長年農薬を使って作物を育ててきた方々に、「オーガニックはどうですか?」と勧めても簡単には響きません。

「自然農法で植物を育てたいので畑を貸してください」といっても、貸してもらうのは難しい。なぜかというと、自然農法だとどうしても畑に虫が発生してしまうんです。農家さんにしてみたら、せっかく農薬で虫を殺しているのに、隣の畑で虫が発生していては、意味がなくなってしまう。虫は人間が決めた境界線は関係ないので、自由に飛び回ってしまうんです。

また、自然農法では敢えて雑草を抜かないので、畑が草でぼうぼうになる。農家さんにとって、畑は自宅の玄関と同じ。玄関がきれいに整っていないと「あそこの家はちゃんとしていない家だ」「畑がずさんということは心が乱れている」とみなされてしまう。


ホーリーバジルを栽培する様子)

こういう状況なので、最初は鹿児島産のオーガニック植物を見つけること、栽培することも大変でした。ただ、農家さんは農協に出す分と自分たちが食べる分を分けて作っている人も多く、自宅用の作物には農薬を使っていないことが多いんです。そういった自宅用の作物を栽培している人たちに声をかけて、「じゃがいもが終わったら、裏作としてホーリーバジル植えてもらえませんか?」「土手に月桃を植えてもらえませんか?」と地道にお願いしていきました。まず声をかけたのは、同級生など頼みやすい人や、こちらの意思が分かってくれている人たちです。そこから紹介などいただいて、少しずつ広げていきました。すでに自然農法を行っている農家さんについては、「規格外のものや余分な作物がでたらすぐに声をかけてください」とお願いしています。

また、地域誌や農業新聞などにボタニカルファクトリーが取り上げられることで、地域の方々に当社がオーガニックの植物を求めていることを知っていただける機会が増えてきました。それにより、パイナップル、ドラゴンフルーツなどの農家さんから、作物の使い方の相談が入ったりするようになりました。せっかく手間暇かけてつくったのに廃棄となっていた作物を有効活用することや、食品以外での新しい活用の仕方を喜んでくれる農家の方々も増えてきています。


(廃校になった校舎を利用した工場)

多様な働き方を提案し、Iターンの仲間を


黒木氏:南大隅町は人口7000人弱、そのうちの半分以上が65歳以上です。つまり、町には働き手が少ない。いまは、主に主婦の方に働いてもらっています。お子さんと一緒に出勤できるように職場にベビーベッドを置いたりしていますが、みなさん早めに帰られることもあり、やりたいことに対して常に人手不足の状態です。
地元の働き手を増やしていくのは、母数から考えても難しいところがあるので、Iターンで若い人たちが来てくれたら、と思っています。
大隅町という土地で育まれるものであること、この土地の空気感を肌で感じて発信していくことを大事にしているので、大隅町で一緒に働くことは欠かせません。しかし、それ以外はできるだけ柔軟に対応していきたい。たとえば、2~3時までこちらで働いて、その後は別の仕事をしてくれてもいいし、週に数日だけ働くのでもいい。自由度の高い働き方を一緒に見つけていきたいです。大都市圏で忙しい働き方をしていて疲れている人たちに、「それならうちで、大自然に囲まれながらのびのびやってみないか」ということを提案したいです。

行政と連携するために重要なこと

・大切にしたのは同じ熱量をもつ方々とのつながり

黒木氏:廃校になった地元の小学校と中学校の校舎を工場として使わせてもらっています。
廃校利用は地元だけでなく他県からも注目されていて、見学に来ていただいたり、取材を受けたりして、評価の高さを感じますが、使用の許可が下りるまではなかなかハードな道のりでした。

役場はボタニカルファクトリーにぜひ貸したいと思ってくれていても、たとえば廃校を地元の方々が公民館として活用している場合、地元の方からなかなか「いいよ」と言ってもらえない。
住民の方々から廃校利用の理解を得るために、行政と連携して、4回くらい住民説明会を行いました。議長や町長も参加してくれて、ボタニカルファクトリーが廃校で事業を行ったらどんな将来があるのか、この学校がどんな風に地域にもっと貢献できるようになるのか、ということを、誠意をもってお伝えしました。
私がこの土地の出身であったこと、もともと地元の人々とのつながりがあったことも、最終的にOKをもらえたことに大きく寄与していると思います。


(廃校になった校舎を利用した工場の正面玄関)

南大隅町はとにかく小さい町なので、役場は町にとっていわば大企業のような特別な存在です。私はたまたま役場に知り合いが多かったので、そういう人たちを通して、役場の中のキーマンともいえる、同じような思いを持っている人とつながりをつくることを大事にしました。そういう方々に、一緒に南大隅町を盛り上げていきたい想いを伝えて、当社の味方になってもらうことも、地域で活動していくうえには重要です。役場のあの人が応援しているんだから、ということでボタニカルファクトリーを信用してくれた方も多かったと思います。

製品を通じて、地域を何度も訪れたくなるような魅力を発信

・観光業としても地域に貢献

黒木氏:行政との連携のひとつに、ボタニカルファクトリーの工場・ショールーム訪問ツアーがあります。バスで大隅町を訪ねていただき、私たちが工場で摘みたてのハーブを製品にしていく過程を見学いただき、海が見える絶景の屋上で地元の食材を使ったランチを食べていただくことを行っています。実際にハーブからつくった精油を使ったフレグランスをつくっていただいたりもします。
コロナの影響でツアーは限られた人数と回数しか行えない状況ですし、製造スケジュールが立て込むと、私たち自身も対応が難しくなってしまう状況ではありますが、ボタニカノンを使った方が「この製品をつくっているのはどんな場所なんだろう?」と興味をもってくれて、実際に土地を訪ねて、生産現場を訪れることで製品体験が完結する、そんなサイクルをつくっていきたいです。本島の南の果ての町である南大隅町に行く必然性を、工場見学やワークショップを通じて生み出していきたいですね。そして、何度でも訪ねたくなるような場の提供など、いわゆる「カスタマーサスセス」を実現したいと思っています。


素晴らしい夕焼けを見ることができる屋上テラス

地域の方々との具体的な想いの接点を表現する


黒木氏:地元の行政からは一定の評価を得ており、地域創生の例として他県からの視察のお客様が毎月のようにいらしたり、県外の方々への贈答品にボタニカノンを使ってくれたりと、少しずつ町に貢献できるようになってきている実感があります。

ただ、住民の方々との連携は発展途中です。
鹿児島県自体に、化粧品の製造メーカーが3社ほどしかないこともあり、化粧品づくりということに、みなさんなじみがありません。さらに、オーガニックやサステナブルという考え方が加わっているので、理解しにくい部分があると思います。
しかし、都会でも田舎でも、そこに住んでいる方々の生活や考え方と我々の事業活動に合致する部分があれば賛同していただけるはずです。
南大隅町の方々についていえば、みなさん海とともに育ってきて、海を大切にしたいという気持ちが強い。ですので、「私たちのつくる石けんは生分解性が高く、1週間で約90%が分解されるので、海への負担が少ないんです」という話をすると、「海を守れるなら使いたい」と言ってくださる方が多いです。海を守りたい、この町を大切にしていきたい、という住民共通の思いを実現できる製品だということを具体的に伝えていく努力を、今後も続けていきます。


(摘みたてのホーリーバジルを裁断する様子)

鹿児島発の世界に羽ばたくブランドに


黒木氏:今後やっていきたいことはいろいろあるのですが、近い将来、ボタニカノンのスパを開設したいと考えています。海と緑に囲まれた大自然の中、ボタニカノンの世界観を体現した空間で、ゆったりと存分にボタニカノンを味わっていただく、そんな体験の場をつくっていきたいです。

また、エコサート認証を受けたヘナと鹿児島産無農薬自社栽培のトゥルシー(ホーリーバジル)を使ったヘアケア製品製品「ボタニカノン トゥルシーヘナ」をこの10月に発売します。トゥルシーを全てのカラータイプにブレンドすることで、ヘナの独特の香りをおさえてトリートメント効果を高めたヘナカラーです。ヘナでのカラーリングを効果的に行うために独自のアロマブレンドを施したヘナ導入フレグランスオイル「ボタニカノン ヘナ イントロダクションオイル」も同時期に発売します。

また、欧州を中心に海外にも進出したい。かつてスイスやフランスの方々と仕事をしていた時に、「日本にもすばらしいハーブがたくさんあるのに、それらを使った化粧品を全く見かけない。日本の香りや化粧品に興味がある人はたくさんいるのに」という話を聞いていました。

日本が誇る数々の和ハーブを核としたハーバル化粧品であるボタニカノンを、世界の方々にもぜひ使っていただき、それが和ハーブの盛り上がりにつながっていったらいいなと思います。海外の展示会にも参加予定でしたが、コロナで中止になってしまいました。展示会もまた再開されはじめているので、積極的に参加して、欧州への足掛かりをつくっていきたいです。いま、アジアのハーバルコスメとしてはタイのものが有名ですが、日本製品も負けないポテンシャルがあるはずです。ただ、ジャパニーズハーバルコスメ、和ハーブのムーブメントをつくっていくのは1社では難しい。志を同じとする仲間たちと一緒に、チームとして進んでいきたいと考えています。


(和ハーブ月桃)

■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士

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