【ボタニカルファクトリー】
農業×化粧品で地方創生 農作物・人・町のつながりで循環する地域の未来(前編)

(2022.9.8. 公開)

#ボタニカルファクトリー #インタビュー #オーガニック化粧品 #商品開発 #地方創生 #地域ブランディング #農業 #環境 #循環

人口約7000人、その内の半数以上が65代以上という鹿児島県の南大隅町。いわゆる限界集落と位置づけられる町で、地元の植物と農作物を使い、地元の人々、行政とともに、町の未来を創造している化粧品メーカーが『ボタニカルファクトリー』です。
ボタニカルファクトリーが生まれた背景、気骨のあるブランド哲学、ユニークなブランティングとビジネスモデルについて、代表の黒木靖之氏にお話を伺いました。
※前後編でお送りします。(後編はこちら


サステナブルコスメ「ボタニカノン」)

ブランドの根幹にあるのは、自然由来へのこだわり

・コスメも食と同じくらい安心できる自然由来のものを

黒木氏:化粧品業界に長く携わっていたのですが、20年ほど前、生まれてきた娘が食物アレルギーで粉ミルクを受付けず、食べものにかなり気を配るようになりました。アレルギーやアトピーについて詳しく調べるうちに、口に入れるものも肌に塗るものも、身体に取り入れるという点では同じであることに気づき、「自分がつくっている化粧品はこれでいいのかな、根本的に何か違うのではないか…?」と思うようになったことが、自然由来化粧品に着目する入口です。

・地域密着型の化粧品づくりを、地元鹿児島で目指す

黒木氏:当時は大阪で欧州のメンズコスメの輸入を担当していたのですが、スイスのあるメーカーの製造工場に連れて行ってもらう機会がありました。その工場には、農園、植物エキスの抽出場、パッチテストを行う病院が併設されていて、農業から化粧品の製造までを一気通貫で行っていました。

「食べ物のような化粧品」をコンセプトに作られるスキンケア商品では、水・水溶性のほぼ全てを「蒸留水」でまかなっています。蒸留水の原料になるハーブや果物は大変腐りやすく、収穫時期が夏場に多いこともあり、早朝に摘んだハーブが夕方には傷んでしまうこともあります。特に、蒸留水は「芳香成分」が最も大事なので素早く作業を行えることがポイントになります。そのため工場で使用原料の抽出から化粧品製造までを1か所で一気に行うことができるのは、大きなメリットです。

「工業品のように製品をつくるのではなく、採れたての地のものを使ってその場で製品にして検査まで完了させるような、地域密着型の製造の仕方があるんだな」と驚くとともに、「これを日本でやってみたい」という夢をもつようになりました。

自分が生まれ育った鹿児島県は農業が盛んな県。「鹿児島でなら、実現できるんじゃないか」と夢をあたためていたところ、鹿児島の地元の知人から「温泉施設が空いて、役場が有効活用してくれる人を探しているらしい」という話を聞いて、製造工場にチャレンジすることを決めました。スイスの工場を訪ねて感銘を受けた時から3年ほどたった頃でした。


2021年サステナブルコスメアワード授賞式での黒木氏)

哲学をつらぬくモノづくりのための試行錯誤


黒木氏:2000年以前は、日本では、化粧品は使用しているすべての成分を公表する必要はありませんでした。厚生労働省から配合規格基準の許可を受けていれば製品を発売ができる状況だったんです。ある時期までは、いわゆる「無添加コスメ」がナチュラルコスメとみなされていましたが、私は自分の会社で製造販売するなら、安全性が高い植物由来100%の成分で、本質的なボタニカルコスメをつくると決めていました。大自然が育む豊かな植物が肌のために新たに生まれ変わる場所、つまり「ボタニカルファクトリー」であることを追求したいと思っていたんです。そこを原点として、展開していく鹿児島発、日本発のブランドをつくりたかった。

15年ほど前に鹿児島で化粧品づくりをスタートしてから紆余曲折あり、ボタニカルファクトリーのブランドとして「ボタニカノン」が誕生したのは、2016年です。

スキンケアの最初の製品は月桃(げっとう)の化粧水でした。月桃は鹿児島に自生しているショウガ科のパワフルな植物。月桃の葉の蒸留水に水を1滴も加えずに製品化することにこだわり開発したのですが、苦労したのが防腐剤でした。新たにオーガニックコスメブランドを立ち上げるならとことん追求したいという想いがありましたが、100%ナチュラルにこだわると、ネックになるのが防腐と安定性です。
防腐剤については、製品の調和を壊さないのならばパラベンやフェノキシエタノールを使うという考え方もありますが、それらを使うんだったら通常の化粧品でいいのでは、という想いが私にはありました。ボタニカルファクトリーの哲学はナチュラル100%であり、もっといえば、「口に入れても安心なもの」、つまり食品レベルの品質の化粧品なので、防腐剤だけ例外を認めるというのは選択肢にはありませんでした。海外のエコサート認証を受けた柑橘系の防腐エキス、ヒノキのエキスや精油などを組み合わせた防腐のための処方は、いまもボタニカノン全製品の基幹的な部分になっていますが、このようにきちんと腐敗を防ぐ自然由来の防腐剤に出合い、製品化に成功するまで、実に8年を要しました。


(鹿児島に自生しているショウガ科のパワフルな植物「月桃」)

黒木:製品づくりにおいては、オーガニックにとことんこだわるとともに、お客様の声や使い心地も大切にしています。
通信販売だけでなく、主要都市で定期的にポップアップイベントを開催することで、そこで実際にお会いした何千人もの人々の声を製品づくりに反映させています。
また、オーガニックで肌にとって安全なだけでは、お客さまに使い続けていただくことはできません。機能や使い心地という、化粧品としてのベースが優れていることが重要です。
気持ちのいい香りやテクスチャーとはどういうことなのか、クレンジングであればベース機能である汚れを落とすとはどのレベルまでなのか、ということにも注力しています。
テクスチャーや香り、メイクの落ち具合などは男性である私には難しく感じることも多いのですが、少しでも高いレベルに届くよう、諦めることなく試行錯誤を繰り返しています。

まるで食べもののように、身近で毎日つかいたくなる
そんなイメージを製品に落とし込む

黒木氏:ボタニカノンは、大自然が育む豊かな原材料と自然由来100%の独自処方による、食品クオリティの化粧品、というコンセプトなので、パッケージも食品のような雰囲気をもったものがいいと考えていました。
ボタニカノンのパッケージデザインは、カタルデザインという鹿児島県出身の2人組が運営するデザイン会社に依頼しました。
彼らにお願いしたのは、鹿児島県人であり鹿児島を拠点にしているということもありますが、食品パッケージを得意としたグローバルに活躍する方々だというところが大きいです。
というのも、スイスのメンズコスメを担当していた時に、現地のデザイナーさんたちが話してくれた「きれいは大事。でも、きれいすぎると手に取って日々使うものではなく、観賞用のものになってしまう」という言葉が心に残っていたからです。

私たちの想いやこだわりをカタルデザインさんにお伝えしたところ、およそ4000種が生息するという大隅半島のダイナミックさと自然由来100%という潔さを体現した、堂々としたパッケージに仕上げてくれました。きれいすぎることなく毎日見ても飽きない、植物という素材を押し出したデザインです。


(食品のような雰囲気をもつパッケージ)

化粧品を知り尽くしている人が共鳴する哲学と世界観

・ぶれずに追求し続けるモノづくりの姿勢がファンを生む

黒木氏:ヨーロッパには、すばらしい哲学をもったナチュラルコスメブランドがたくさんあります。私は、ヴェレダ、サンタ・マリア・ノヴェッラ、ナリンといったブランドが大好きです。
ボタニカノンも「日本発の本質的なナチュラルコスメ」として在りたいと考えています。

私たちは、鹿児島を中心とした植物を、地元の工場で新鮮なうちにエキスや精油にして、ナチュラル100%の製品にする。自然由来以外のものは一切入れず、自然の力で肌と心を癒やしていく化粧品をつくる、ということを追求しています。このような私たちのモノづくりの姿勢に共鳴して製品を選んでくれる方が多いというのは大変ありがたいことです。

購買のメインは30~40代の女性ですが、下は10代から上は70代まで、幅広い年代の方にボタニカノンお使いいただいています。自然派が大好きというよりは、「デパコスや欧米の高級エステを充分体験してきたけれど、ボタニカノンに落ち着いた」という方や、「生活習慣を見直したい」「ボタニカノンの世界観が好き」という理由で選んでくださる方が多いのは、とてもうれしいですね。
また、同業の方にもファンが多く、自然由来100%にこだわることによる製造や処方の難しさがわかるからこそ「ここまでやるのはすごい、うらやましい」と言ってもらえたりします。



(ボタニカノン パッションフルーツローション 【2021サステナブルスメアワード・シルバー賞受賞商品】)

・情報発信やワークショップなど、ブランド哲学を伝える活動にも注力

黒木氏:自然由来100%で香りもよく、効果も発揮する化粧品は、処方が重要になります。
成分のひとつひとつに意味があり、製品はひとつの作品のようなものです。食品については、遺伝子組み換えや発がん性の原材料が使用されていないかを吟味して購入する方が多いのに対し、化粧品は成分に対する知識が購入者に浸透していないと感じます。それはメーカー側が積極的に開示してこなかったことに要因があります。私は、生活者が正しく成分を理解した上で、どの製品を買うかを選択できるようなマーケティングをしたいと考えています。

私自身はナチュラルであることにこだわっていますが、ドラッグストアに並ぶ化粧品も、百貨店の化粧品も、それぞれ役割をもった作品たちだと思っています。ユーザーが自分に適したもの、求めるものを選択すればいいのだと思います。
そのためにも、ボタニカノンを求める人にきちんと選んでいただけるような働きかけは必要です。ボタニカルファクトリーの哲学、鹿児島県南大隅町で地域密着して生産していること、ボタニカノンに使われている植物や製法のこだわり、などについては積極的に情報発信していきたいと思っていますし、情報を発信するだけでなく、実際に体験していただくために、ワークショップや工場見学ツアーなども実施しています。
(後編に続く)

■執筆:contributing editor Chisa MIZUNO
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士


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