オイシックス・ラ・大地のグリーンシフトと、Upcycle by Oisixのチャネルブランディング戦略

(2022.6.29. 公開)


#食品ロス #フードロス #アップサイクル #廃棄削減 #商品開発 #イベント


食を“アップサイクル”する。このユニークな発想から生まれたのが、オイシックス・ラ・大地 株式会社が手掛ける「Upcycle by Oisix(アップサイクルバイオイシックス)」だ。なすのヘタやブロッコリーの茎、バナナや大根の皮など、これまで食のサプライチェーンにおいて廃棄されていた部分をチップスやジャムなどに加工して、“おいしく食べられる”驚きとワクワクを提供する。
Upcycle by Oisix は新たな顧客との出会いを求めて2022年4月27日~5月15日の期間、「アップサイクルマーケット」と名付けられた期間限定のコンセプトショップを有楽町マルイ1Fで展開した。


>> 「アップサイクルマーケット」イベントのレポート記事はこちら



(有楽町マルイで開催されたアップサイクルマーケット店頭ディスプレイ)


イベントには、どのような顧客層との出会いがあり、どのようなインサイトや気づきがあったか。オフラインでイベントを開催したことにより、どのような効果があったか。「アップサイクルマーケット」の反響を踏まえ、今後どのように認知拡大を進めていきたいか。
Upcycle by Oisix ブランドマネージャー三輪千晴氏にオンラインインタビューを行った。


(有楽町マルイで開催された「アップサイクルマーケット」オープン初日の様子、撮影:松岡寛)


接点のなかった生活者とブランドが出会う「場」づくり


・新しい顧客との接点を創出する「場づくり」

SDGs意識の高まりもあって、廃棄食材・食品を利用したアップサイクル食品が注目されている。
アップサイクル商品を、オイシックス・ラ・大地では「これまで捨てられていたものに付加価値をつけ、アップグレードした商品のこと」と定義する。

オイシックス・ラ・大地は食のサブスクリプションサービスを展開しており、Upcycle by Oisix もこれまでは既存会員や自社ECサイト顧客を対象に販売を進めてきた。しかし昨今のSDGsやサステナビリティに対する一般消費者の認知や関心の高まりを受け、Upcycle by Oisix ではBtoCへの認知をひろめたい考えだ。

実際にショップに来店した層は30-40代女性が多かったという。子どもといっしょに食べられる商品という点が彼女たちの興味を引いたようだ。子どもに食べさせるものとして、添加物が入っているお菓子に比べると、Upcycle by Oisix の商品は元が野菜ということから安心感があり、お菓子を食べる罪悪感がやわらぐ。

家族連れのなかでお父さん、すなわち男性の反応は二極化した、と三輪氏は話した。
「男性は、食べてみたいという方と、ふーんという感じであまり関心を示していただけない方とがハッキリと分かれる傾向でした。店頭での購入も、約9割とほとんどが女性か、カップルなどで女性がパートナーの方を連れてきてくださるパターンが多かったです。」


(出典:株式会社電通、電通総研「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」,2021年 )


サステナビリティやSDGs、エシカル消費はZ世代の関心が高いと言われているが、その傾向は「アップサイクルマーケット」でも同様にみられた。

「Z世代の若い方は、背景のある商品に対する感度がすごいですね、Z世代では男女ともに、それぞれの商品のストーリーにとても興味をもってくださって、熱心に話を聞いて、商品を手に取ってくださっていました。」




オイシックス・ラ・大地のメイン事業である会員制のサブスクリプションサービスは、学生やひとり暮らし歴の浅い社会人にとってはハードルが高い。ゆえに従来のマーケティングセグメントでは必然的に対象外となってしまう。このように通常のアプローチではリーチできないZ世代と、“体験”や“対話”を通じて商品とそれにまつわるストーリーを共有できるタッチポイントを作れることは、Upcycle by Oisix の大きな強みであり、ブランドの価値と言えるだろう。


Z世代と共に考える商品開発、実験的な共創プロジェクト

Z世代にむけてといえば、オイシックス・ラ・大地は、東京都品川区にある青稜中学校との産学連携プロジェクトを2022年5月からスタートしている。
青稜中学校では2年生と3年生の有志が参加する「SDGsゼミナール」という講座がある。そのなかで生徒たちがオイシックス・ラ・大地と一流シェフからレクチャーを受けながら、約半年をかけてアップサイクル商品を開発するという内容だ。

アップサイクルをする原材料の選定から始まり、商品への落とし込みはもちろん、ネーミングやパッケージ、マーケティングプランを生徒自身の力で考えていく。開発した商品は、世界食糧デーがあり、日本においても食品ロス削減月間にあたる10月に、オイシックス・ラ・大地の定期会員や一般の生活者にむけても販売を開始する予定だ。

授業は毎回90分、ワークショップ形式で行われる。第2回目の授業では、「アジアのベストレストラン50」で第一位を獲得した日本料理店「傳」の長谷川在佑氏のサポートを受けながら、商品開発に向けてアップサイクルをする食材とその活用方法を考えた。参加した中学生はみな一様に、食べられない部分をおいしく変えていくことにワクワクした様子で、とても興味をもって取り組んでいたという。

たとえば昆布の根元を例に挙げると、味には問題がないのに、色などの理由で捨てられてしまうことがある。そういう現状を知った中学生からは「これを商品開発することで、こういった実状をもっと社会にいっぱい知ってもらいたい!」という積極的な声も聞かれた。そんな様子を見て、三輪氏も「食をアップサイクルするというのは、子どもたちが“世の中に広めていきたい”と思えるほど面白い、関心を持てるテーマなのだ」という気づきがあったと明かした。

オイシックス・ラ・大地の執行役員であり、このプロジェクトを率いる東海林 園子氏は、このプロジェクトを開催するにあたり次のメッセージを寄せている。
「食材には、未活用だけど美味しい物がたくさんあり、今回の取り組みは子供たちとその宝探しを一緒に楽しめる機会になると楽しみにしています。“SDGsって楽しいんだ!”ということを、子どもたちだけでなくご家庭や企業の皆様にも知っていただき、食材への想いが変わる機会になってほしいと考えています。」


フードロス削減を加速させる「フードレスキュー」

2020年11月、オイシックス・ラ・大地はサステナブルな事業活動を推進するためのグリーンシフト戦略を発表した。フードロス削減もそのうちの1つであり、それを実行するための施策として、「従来のフードロス削減の取り組み強化」と「アップサイクル食品の販売促進」がある。

2025年には年間1,000トンのフードロス削減達成を目指し、Upcycle by Oisix が主導するさらにもう一つの施策として、フードロス削減に特化した「フードレスキューセンター」を新設。2022年、秋頃からの本格稼働を目指す。


(出典:オイシックス・ラ・大地株式会社,プレスリリース,2022年 )


フードレスキューセンターで対応できることとして、豊作でとれすぎてしまった食材を冷凍保存して使用できるようにする他、ふぞろい・規格外・端っこを加工原料として活用し、これまで廃棄されたり未活用だったりした食材に新たかな付加価値をつけて商品開発を推進できる。


チャネルを広げながら、売り上げをつくっていく


・リード獲得とブランディング、そしてユーザーインサイトの獲得

このように食に関するサステナビリティに関して、ひろい視座で包括的かつ根本的な取り組みに尽力するオイシックス・ラ・大地だが、Upcycle by Oisix はまさにグリーンシフト戦略においても重要なブランドと位置付けられるだろう。

今回オフラインで「アップサイクルマーケット」を開催したことで、非会員(オイシックス・ラ・大地の会員ではない顧客)へのリーチがひろがった。また、食材をアップサイクルするという斬新な話題性からメディアにも多く露出し、ブランドサイトへの流入も1.5倍に増えたという。

三輪氏は、今回のイベント出店の目的を2つ挙げる。一つは 上記に挙げた通り to C への認知拡大。そしてもう一つは to B 、すなわち取引先や外販先を大きく広げたい狙いがあった。ポップアップなどの期間限定ではなく、常設での売り場を増やしたいという想いがあるからだ。

「現状だと、to C むけに発信をしても Upcycle by Oisix の商品を買える受け皿が少ないんです。ですので、メディアを通じて私たちの活動や商品を知ってもらうことも大事なのですが、そこで商品に興味を持ってくださった方が“ちょっと気になる”レベル感でも気軽に購入できるような仕組みをつくっていくことを両輪でやっていく必要を感じています。」



・「いつものくらし」に、より近いタッチポイントでの販売を開始

2022年5月31日より、Upcycle by Oisix 商品を首都圏のナチュラルローソン店舗で販売するパートナーシップ連携がスタートした。Upcycle by Oisix 商品がコンビニエンスストアで販売されるのは今回が初めて。サステナブルな環境配慮型商品を、ふだんのお買い物でより多くの生活者が手軽に選び、それぞれの食生活に取り入れるアクションを促していきたい考えだ。


・パートナーシップで事業の可能性も売上も拡大を

「大事なのは売上だけではないけれど、ビジネスとして私たちの事業がサステナブルであるためには売上も必要です。そして今後はスケールさせることを視野に入れ、事業としてはもっと数字に対してシビアになっていくと思います」と三輪氏は、Upcycle by Oisix の中期目標について語った。フードロス削減量においても、2025年目標に掲げる年間1,000トンを先に見据えつつ、直近3年のうちには年間500トン以上の規模にすることを目指している。

そのような大きなインパクトを創出するためには、言うまでもなく、サステナビリティに取り組む他の企業や団体とのつながりや、それによって活動の輪が広がることが必要不可欠だ。ステークホルダーと提携し、生産者や加工品メーカーとも取り組みの輪を広げ、食品業界全体で食品ロスを削減できるプラットフォームにしたいと、三輪氏は構想を語った。

外食産業や食品メーカーから、事業を行う上でどうしても発生してしまう食品ロス食材について「使い道が分からない」「これを何かに活かせないか」といった相談や問い合わせも増えてきているという。

「常に何らかの企画を計画したり実行したりするのは、やる側にとってはとても大変なのですが、こうした活動を行っている事例をこまめに発信することで、メディアを通じて新たな取引先企業とつながれる。だからこそ色んな取り組みをこれからも続けていきたいです。」

訴求するコンテンツを最適化し、アップサイクルや食品ロス削減というテーマの関心層とコミュニケーションをとれる場や機会をつくる。そこから生まれるアイデアや気づきは、事業の成長可能性に繋がっていくにちがいない。


社会課題の解決は大事だけれど、それを押し付けたくはない


・未活用食材の商品開発は「味をイメージできる」ように

アップサイクルマーケット開催期間中、人気だった商品は「ここも食べられるチップス ブロッコリーの茎」と「梅酒から生まれた ドライフルーツ」だ。共通するのは、未活用素材でありながら“おいしそう”とイメージしやすい食材であること。


(Upcycle by Oisixの人気商品「ここも食べられるチップス ブロッコリーの茎」/ 写真提供オイシックス・ラ・大地 株式会社)


前編でも紹介した通り、過程においてブロッコリーの茎まで食べている層は6割にのぼる。ブロッコリーの茎はお漬物にしたり、きんぴらにしたりと料理のアレンジも生活者の間で浸透している。梅酒を自家製で作る家庭も増えており、漬けた後の梅を食べる人も一定数いるという。


(Upcycle by Oisixの人気商品「梅酒から生まれた ドライフルーツ」)


反対に「ここも食べられるチップス なすのヘタ」は、試食するまでは人気がない。だが試食をすると、意外性とおいしさの相乗効果で、顧客にとっては強い感動体験となる。

・新しい「おいしさ」の発見、その体験をシェアする

「驚きのある商品、人に伝えたくなる商品を、もっと作っていきたいですね」と三輪氏が話す通り、たくさんの人を巻き込みながら取り組みを継続するためには、まさに「楽しさ」は欠かせない重要な要素だ。

「ひとつ商品を気に入ってくださった方は、同じ商品をリピートしたり他の商品を買ってくださったりと、次の購買に繋がっていきます。お友達にプレゼントしたい、というお声もよくいただきます。GWという時期もあって、手土産にと買ってくださる方も多かったですね。」



ふつうのジャムやお菓子をあげるより、“フードロス削減に貢献できる”とか“アップサイクル”という話題性やストーリー性があるものをシェアしたいというニーズは、Z世代のマインドセットやSNSにおける拡散などとも親和性が高い。顧客にとっても嬉しいサプライズであり、その体験があればこそ、Upcycle by Oisix 商品へのエンゲージメントも高まっていくと言えるだろう。

上記で紹介した青稜中学校でのワークショップでも「この食材をどんな風にアレンジしたら、おいしく食べられるんだろう?」という問いから考えるからこそ、純粋な興味や好奇心が掻き立てられ、熱心に取り組む意欲につながっているのではないかと三輪氏は指摘する。

「フードロスというと難しく捉えられてしまいがちですが、気軽に楽しんで味わっていただきたい。気負わず、日常生活の延長線上でフードロスを考えるきっかけになるような世界観を目指しています。“どんな味?”“なんだろう?”という興味喚起が先にあって、結果としてフードロス削減につながっていく。そんな風に進めていけたらいいなと思います。」

アップサイクルマーケットの期間中に購入された商品から、どれだけのフードロス削減につながったかを集計しており、結果264,610g だった。これは、生活者の選択と行動によってどれだけのインパクトを創出できたかを「可視化」する意味において非常に有効なアイデアだ。


(イベント期間中、商品ごとに記載されたフードロス削減量を販売数に応じて集計し、ボードに掲示した)


Wonder(驚き)がたくさん重なるとWonderfull(素晴らしい)になるように、Upcycle by Oisix はこれからどのような新しいおいしさやワクワクを提供していくのか。それによって、食にまつわる様々な社会・環境問題の解決とブランドや事業としての成長をどのように両立させていくのか。

オイシックス・ラ・大地と Upcycle by Oisix の活動には、まさに今サステナビリティに取り組もうとする企業にとって多くの示唆とヒントを見出すことができるだろう。


>> 「アップサイクルマーケット」イベントのレポート記事はこちら




【参考サイト】

Upcycle by Oisix

オイシックス・ラ・大地が中学生のアップサイクル商品開発をサポート!青稜中学校(東京都品川区)のSDGsゼミナールで特別授業を開講(5月23日~)

【6月は環境月間】フードロス解決を目指す「Upcycle by Oisix」の販売先拡大 コンビニ初!首都圏のナチュラルローソンでアップサイクル商品の販売開始(5/31〜)

オイシックス・ラ・大地「フードレスキューセンター」新設



■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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