【海の豊かさを守ろう】サステナブルシーフードと地域から始まる漁業変革

(2022.6.28. 公開)

#海の豊かさを守ろう #水産資源 #サステナブルシーフード #認証ラベル #地方創生


毎年6月8日は世界海洋デー、海の美しさや豊かさについて認識を新たにする日です。海は私たちの食を支え、また地球温暖化に影響を与えるCO2の吸収源としても重要な存在です。SDGsの14番目に「海の豊かさを守ろう」という目標が掲げられていますが、それは裏を返せば海の豊かさが失われつつあるということ。海洋汚染や水産資源の減少など、海は様々な課題を抱えているのが現状です。今回は、海の豊かさを守るための水産資源や漁業にまつわる、企業や地域の取り組みを紹介していきたいと思います。


過剰漁業で持続可能な海洋資源が減少


(画像出典:14.海の豊かさを守ろう │ SDGsクラブ │ 日本ユニセフ協会)

私たちの食卓に欠かせない魚ですが、獲りすぎ、すなわち過剰漁業によってそれらの海洋資源は枯渇へと近づいています。獲りすぎるとなぜ資源が減少するのでしょうか。生き物は、卵を生み繁殖し増えることで漁獲されても全体として数を保つことができますが、生き物が繁殖するスピード以上に獲ってしまうことで個体数は減ってしまいます。現に、生物学的に持続可能な水準にある魚類資源の割合は1974年の90%から、2015年には67%へと減少しています。

このような過剰漁業の多くは、違法・無報告・無規制(IUU=Illegal, Unreported and Unregulated)漁業で行われます。IUU漁業については世界共通の課題として認識されており、SDGsでも14-4に位置づけられています。しかし過剰漁業の難しい点は、ある国や地域が対策を講じたとしても、他の国や地域で獲りすぎてしまうと改善に向かわないという点です。今後世界人口が増加しそれに伴い水産資源の需要も高まっていく中で、海洋資源の持続可能な管理は重要な課題です。


高齢化で進む後継者不足



(画像出典:(3)水産業の就業者をめぐる動向, 水産庁)

日本では漁業就業者の高齢化が進み後継者不足の問題を抱える地域が多く存在します。近年の漁業就業者は一貫して減少傾向にあり、2003年には23.8万人いた漁業就業者は2019年には14.5万人にまで落ち込んでいます。

こうした現状を受け、国や地方公共団体による新規就業者を増やすための支援も行われてます。例えば、水産庁は全国各地で漁業就業相談会を実施したり、漁業学校で学ぶ者への補助金の交付をしています。また、北海道礼文町では新規漁業就業者に対しての家賃補助、山口県萩市では家族で移住して漁業就業をする場合の18歳以下の人数に応じた補助金給付など地方公共団体でも支援が行われています。しかし、近年の全国の新規漁業就業者数は毎年変わらず2000人程度で推移しており、減少をまかなえるほどではありません。


過剰漁業に対する取り組み

世界で広がるMSC/ASC認証

サステナブルシーフードという言葉を聞いたことはあるでしょうか。過剰な漁獲をせず、持続可能なかたちで漁獲・養殖された水産資源のことを指し、具体的には2つの認証マークが存在します。

まず1つ目が、MSC認証「海のエコラベル」です。MSCとは、Marine Stewardship Councilの略で、水産資源や環境に配慮し、持続可能な漁業で獲られた水産資源につけられます。現在世界では400を超える漁業が認証を取得しています。

2つ目がASC認証です。ASCはAquaculture Stewardship Councilの略で、責任ある養殖により生産された持続可能な水産物につけられます。養殖は、天然漁業では賄えない水産資源を供給するために行われる、という意味では過剰漁業への対策とも言えます。しかし、養殖魚の需要が急速に高まりそれに伴いずさんな運営や水質汚染、生態系の撹乱など悪影響が生じてきたため認証が必要になりました。


(画像出典:「選ぼう! 海のエコラベル」キャンペーン記者発表会を開催, MSCジャパン)


MSCが2022年に行った調査では、MSC「海のエコラベル」の認知度は世界平均では48%と約半数が認知している状態です。一方、日本では15%と今後まだまだ力を入れていかなくてはならない分野です。今年は6月8日の世界海洋デーに合わせて、MSCジャパンが「選ぼう!海のエコラベル」キャンペーンを実施、アンバサダーにココリコ・田中直樹さんを迎え認知度の向上に取り組んでいます。その他、日本企業でも認証ラベルのついたサステナブルシーフードを活用した取り組みが広がっています。

大手も取り組むサステナブルシーフード

MSC・ASC認証マークのついたサステナブルシーフードの活用は消費者と接点のある様々な企業が取り組んでいます。


(画像出典:Sincere BLUE Facebook


例えばレストラン業界では、認証取得の水産資源を活用したメニューの開発等が進んでいます。星付きフレンチレストラン「Sincere」のオーナーシェフ石井真介氏が原宿に開いた、フレンチビュッフェ「シンシアブルー」では、MSC・ASC認証の魚を活用している他、1〜2割は「未利用魚」を取り入れています。未利用魚とは、数が少ない・人気がない・サイズが小さい…といった理由で市場に出回らずに廃棄されてしまう魚のことで、その数は獲った魚の約3割に及ぶとも言われています。

パークハイアットでは、2014年8月にハイアットグループ全体としてサステナブルシーフード推進の方針を発表し、ホテルで使用される魚介類の約35%がサステナブルシーフードだといいます。

私たちにとって身近な大手チェーンでも、サステナブルシーフードは広がっています。例えば「マクドナルド」のフィレオフィッシュ®︎、一度は食べたことがある方も多いのではないでしょうか。フィレオフィッシュ®︎に使われる白身魚はMSC認証ラベルのついたもので、マクドナルドは2019年8月よりMSC認証を取得しています。


(画像出典:イケアのシーフードは、すべてMSCかASC!「よりよい地球へ、毎日の暮らしから。サステナビリティ・キャンペーン」, MSCジャパン)

スウェーデン生まれのホームファニッシングカンパニー「イケア」は、店舗の一角にフードマーケットを構えています。そこで使用される魚のメニューは認証を受けた魚を使用しており、2021年度イケアが世界全体で使用した魚介類の総量のうち、ASCまたはMSC認証を取得したものはなんと98.2%に達したと報告されています。(2020 年:91.2%、2019 年:93.7%、2018 年:91%)

社内で取り組めるサステナブルシーフード

ここまでは、消費者に対し水産資源を提供する機会のある企業の事例を紹介しましたが、そのような機会がない企業でもサステナブルシーフードを取り入れることは可能です。

例えば、「パナソニック」が取り組んだのは社員食堂でのサステナブルシーフードのメニュー化です。社員食堂で初めてサステナブルシーフードメニューを導入したのが2018年3月、そこから2021年3月には国内の社員食堂の過半数に及ぶ51拠点で導入が実現しました。このパナソニックの事例がきっかけとなり、花王やデンソーなどサステナブルシーフードを社員食堂へ導入する企業が相次ぎました。


(画像出典:給食会社だからこそできるサステナブル・シーフードの橋渡し(前編), シーフードレガシー)


しかしサステナブルシーフードを社員食堂に導入するためには、自社や生産者だけではなく、給食会社などサプライチェーンで関わる企業すべてが認証を取得する必要があります。サステナブルシーフードを名乗るためには、生産・加工・流通など全ての段階において適切に管理されていることが担保されている必要があるためです。サプライチェーン上で関わる企業の協力体制を築けるかが、サステナブルシーフード導入のカギとなります。初めて社員食堂にサステナブルシーフードを導入したパナソニックの場合も、給食会社の「エームサービス」と協力し実現しました。日本にある大企業のうち約7割にあると言われる社員食堂で導入が進めば、直接的・間接的なインパクトは大きいと言えます。

後継者不足に対する取り組み

カッコいい・稼げる・革新的なイメージを漁業に



(画像出典:フィッシャーマン・ジャパンに、 漁業界の先輩である鳥羽一郎氏からエール。若手漁師との世代を超えた出会いが石巻で実現, フィッシャーマン・ジャパン)


一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンは、担い手不足に悩む漁業を変革すべく2014年に三陸で立ち上げられました。「3K(汚い・きつい・危険)」から、「カッコいい・稼げる・革新的」という新たな3Kのイメージを構築し、未来の水産業の形を提案する若手漁師集団です。

フィッシャーマン・ジャパンは、”2024年までに三陸に多様な能力をもつ新しい職種「フィッシャーマン」を1,000人増やす”ことをビジョンに掲げています。ここでいうフィッシャーマンとは漁師のみではなく漁業に関わる人のこと。フィッシャーマン・ジャパンのホームページを見ていただくとわかるように、マーケティングやデザインといったこれまで漁業に関わることのなかった人や外部の人が参加することで、化学反応が起きていることが感じ取れます。

フィッシャーマン・ジャパンでは様々なプロジェクトが進んでいますが、未来の担い手を育てるという文脈で「TRITON PROJECT」というものがあります。これは、地域への新人漁師の受け入れをスムーズにするためのトータルサポートを提供する事業です。具体的には、若者を受け入れるための土台づくり、求人発信、問い合わせ対応、マッチング、就業後の住まいの提供やステップアップのための勉強会などを専任スタッフがサポートしてくれます。背景には、漁師は外から来た人に対してどのように受け入れれば良いのかわからない、若者は海の仕事をどう始めればよいのかわからないといった両者の声がありました。両者の間に入り、行政・漁協・地域が一体となることで、未来のフィッシャーマンの育成に取り組んでいます。


(画像出典:TRITON PROJECT, フィッシャーマン・ジャパン)

2015年に石巻市から始まった取り組みですが、その後は北海道利尻島、気仙沼市、静岡県西伊豆市など活動は広がっています。このプロジェクト以外にも、学生インターンの地域への受け入れを行うなど、地域発の未来の担い手づくりに期待が高まります。


海の豊かさを守れるか


日本の漁獲量は、1984年の1282万トンをピークに2018年には442万トンまで減少しています。このまま消費者も企業も関心を持たなければ、いつか食卓から魚が消えてしまう日も来るかもしれません。日本ではまだ認知度の低いMSC・ASC認証。「だから取り組まなくても良い」のか、「だからこそ取り組む」のか、海の豊かさを守るために企業はその認知度を向上する役割も期待されています。



【 参考サイト 】

14.海の豊かさを守ろう │ SDGsクラブ │ 日本ユニセフ協会

海洋環境への懸念が高まる中、消費者の購買意識に変化が起きていることが世界規模の調査によって明らかに │ MSCジャパン

 サステナビリティレポート FY21|IKEA【公式】

 (3)水産業の就業者をめぐる動向 │ 水産庁

 A-6 社員食堂にサステナブルシーフード導入 │ 東京サステナブルシーフードシンポジウム

 給食会社だからこそできるサステナブルシーフードの橋渡し(前編)│ シーフードレガシー

 数字で理解する水産業 │ 水産庁






■執筆:contributing editor Eriko SAINO
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