【フェムテック×ウェルビーイング×女性エンパワーメント】身体だけでなく心の“締めつけ”もほどく、Z世代起業ブランド

(2022.5.12. 公開 )

#フェムテック #女性エンパワーメント #ジェンダー平等 #ウェルビーイング #商品開発


Z世代のアントレプレナー江連千佳氏は、これまでの女性用ショーツの固定概念を覆すプロダクト「おかえりショーツ」を開発。株式会社Essayを設立し、代表取締役社長に就任した。「 I_for Me(アイフォーミー)」というブランドメッセージと共に、女性たちがジェンダーバイアスに縛られて“自分らしい”選択ができないという課題に取り組む。

女性のショーツにまつわる価値観は、実はジェンダーやウェルビーイングの課題を色濃く反映している。そんな気づきを源泉に、社会から押しつけられる“らしさ”から女性たちを解放し、一人一人にとってのウェルビーングな選択肢を増やすことをミッションに掲げる。

社会におけるフェムテック市場への関心の高まりに伴い、「おかえりショーツ」も女性の悩みや気持ちに寄りそうフェムテック・フェムケア商品として『an・an』『25ans』などの雑誌や『 news every. 』『マツコ会議』『 THE TIME, 』といったTVメディアでも紹介され、話題になっている。


(出典:株式会社Essay オフィシャルサイト)

デリケートゾーンに優しいリラックスウェア、というウェルネス重視の発想

・固定観念に縛られた“ショーツ”からの解放

“なんとなく”モヤモヤするけれど、その正体が明確化できないもの。そんな声なき違和感の輪郭をくっきりと浮かび上がらせ、女性の負担や悩みを解決するプロダクトとして「おかえりショーツ」は開発された。

一般的な女性用ショーツは、とても固定観念に縛られている。美しさや華やかさ、セクシーさを追求したデザインや素材は、デリケートゾーンにぴったりと密着するため、窮屈だったり、ムレたり、痒みなどの不快さを女性にもたらす。けれども、下着やデリケートゾーンについてオープンに話すことがタブー視される風潮のなか、それらの声なき声はそのまま押し殺され、これまで見過ごされてきた。

商品化に先駆け、からだにいいこと社との合同で行った調査の結果、約 300 人中47%の女性が「今の下着が身体に合っていないと感じる」と回答。各年代共通してサイズ感の悩みが最も割合が高く、20~30 代の女性では「締めつけ感に不満がある」との回答も多かったという。


(出典:株式会社Essay オフィシャルサイト)

そこから、ショーツを穿かなくてもいいように充て布を施し、じか穿きできるリラックスウェアという着想へたどりついたのだ。社会的な役割、外の自分から素の自分に戻る時間をゆっくりと過ごしてほしいという想いから、このプロダクトを「おかえりショーツ」と名づけた。



(出典:株式会社Essay オフィシャルサイト)


プロダクトを媒介に社会課題に取り組む

・女性のためのウェルビーイングとエンパワーメント

「自分の身体を思った選択ができる社会にしたい」と江連氏は話す。

留学先のニュージーランドでは、アーダーン首相が世界で初めて育休を取得したことに衝撃を受けた。また、帰国後には、月経痛を誰にも相談できなかったことに起因する子宮内膜症を患った。これらの経験により、ジェンダーバイアスに囚われ、そのジェンダー格差を「仕方ないもの」と受け入れていた自分に気づき、愕然とした。

自分の身体のことなのに、自分自身の人生なのに、違和感にすら気づかず、何かモヤモヤしたとしても言葉にすることもできず、ウェルネスやウェルビーイングから遠ざかっていくという負の連鎖。自分自身も気づけなかったほどに、日常的にそのバイアスは潜んでいる。だからこそ、日常的に身に着け、そういうものであることが当たり前に容認されている“ショーツ”という存在に目が向いた。

・怒りや悲しみは、わたしたちの願いを映している

「なんでこんなに怒りを感じるんだろう?」女性むけの、デリケートゾーン脱毛のCMを見たときに江連氏が感じた疑問だ。

アンダーヘアが下着からはみだしてしまうのが恥ずかしい。
そんなことになったら彼氏から嫌われてしまう…
女性たちがCMの中でそのような会話をするのを見て、江連氏は「下着が大きくなれよ!」と思ったという。

それが普通だから…という思い込みに気づき、固定概念から解放されるには、この“怒り”のように「視点を変える」ことがとても重要だ。その怒りを深堀りし、要素を分解し、可視化していく過程で、共感を生むインサイトにたどりつくことができる。

「日本では怒りや悲しみをあまり出さない方がいいという風潮があるけれど、私はむしろ怒っているとか悲しいという感情がとても大事で、もっと出したほうがいいと思っている」
“怒り”をうやむやにしなかったからこそ、「ショーツを着用したくない」ニーズが見えてきたのだ。

ショーツをジェンダーの視点で紐解くことで開発された「おかえりショーツ」は、日本のジェンダー格差を根本的に問い直す。これまでのショーツのあり方への問題提起を通して、今を生きる女性たちの生き方、ウェルビーイングを捉えなおす。
エンパワメントブランドとして「おかえりショーツ」を2021年の国際女性デーに販売開始した理由は、そこにある。



(出典:株式会社Essay オフィシャルサイト)

・意志ある「ブルー」をブランドカラーに

「おかえりショーツ」のカラーは1色のみ。
採用された True Blue(トゥルーブルー)という深みのあるブルーは、藍染めから生まれた色で、
色褪せない青色であることから「信念を曲げない」という意味を持つ。そこがブランドのフィロソフィーとも重なり、この色を展開することに決めたという。


フェムテック・フェムケアブランドとしての浸透

・自身で開拓してきた商品開発プロセス

ショーツのパターンを引き、サンプルを縫い、縫製工場に持ち込むことから、最高級綿糸コーマ糸を使用したオーガニックコットン天竺布の調達まで、基本的には江連氏がすべてひとりで開拓してきた。
最初はコネクションもなく、誰もとりあってくれなかったが、とにかく電話をかけて話を聞いてくれる工場を見つけて…という地道なアクションの積み重ねだった。OEMだと齟齬が生まれやすくなってしまう懸念があるため、熟練の職人がいる工場で、ひとつひとつ丁寧に縫製を依頼しているという。

・コミュニケーションツールはLINEで

LINEにカスタマーサービスを置いており、ユーザーからのフィードバックはここで細かく掬いあげている。ユーザーから意見が寄せられるだけでなく、運営側からも毎月ヒアリングをかけているという。LINEだと意見を言いやすい顧客心理もあり、アンケートや意見の回収率はいい。

サイドスリットの深さやショーツの構造なども、集めた意見をもとに、どんどん変えていく。
「買うたびに、どこかしらが改良されているから、毎回買うのが楽しみ」との声がリピーターからは聞かれるほどだ。これも大量生産ではない体制だからこそ、できることだと言えるだろう。

・カスタマーから見えてくるニーズと課題

購買層で最も多いのは20代後半から30代の女性。Z世代からミレニアル世代が中心だ。
それより上の年齢層には、社会的により強いジェンダーバイアスに囚われていた世代でもあり、ショーツを履かないことへの抵抗が根強く、「落ち着かない」という声も聞かれるという。
このあたりはメインユーザー層から、姉や母、祖母へのプレゼントとして新しい選択肢が広まっていくことに江連氏も期待を寄せている。

また、FTM(Female to Male)のユーザーにも愛用されているという。
ホルモン治療をすると局部が肥大化して、ショーツに擦れて痛くなってしまう。身体が変化する過敏な時期に「おかえりショーツ」を使っている、という声を聞き、女性だけに限らないジェンダーの新しい課題にも気づいた。

・男性側のバイアスも「共感」に変えていく

「おかえりショーツ」は、男性からの購入率が一定して15%ほどある。多くはギフト需要と想定され、たとえば3月のホワイトデーの時期には男性からの注文がまとめて入る。

吸水ショーツのように“生理用品”に近いものだと男性からプレゼントするにはハードルが高いが、「おかえりショーツ」は下着ではなくリラックスウェアと定義している点が、プレゼントしやすいのかもしれない。

また、「社会的な役割(の押しつけ)から解放されて、自分らしく過ごしたい」というインサイトは、男性からの共感も獲得している。共感できるからこそ、自分の大切な彼女にプレゼントしたいと思った、という声も寄せられたという。


フェムテックや生理に関する知識は、女性だけが考えるべき問題という見方は未だ根強い。
男性が女性の生理について知らない・理解できないのは、男性には生理がないからというのが理由ではなく、学校の教育でも社会的にも“男性は知らなくていいこと”として排除されてきたからではないか。しかしこれからは、女性の身体の問題だからとタブー視するのではなく、社会全体の問題として捉えていくように変わっていくべきではないか。江連氏はそう問題提起する。

男性側の認識のなかにある問題に気づき、バイアスを乗り越えていくためにも、「おかえりショーツ」が男性にも認知されていくことは好影響と言えるだろう。

その一方で、江連氏がメッセージを発信する際には、より多くの人に共感してもらえるよう言葉選びにも気を配る。「女性の身体に」ではなく「自分の身体を考える」というように、男性にも女性にもニュートラルな性別にも共通して、自分ゴト化できる呼びかけを心がけている。


パートナーシップから活動がひろがる

・コーポレートブランディングとしてフェムテックを活用

D&I実現を目指す採用マッチングプラットフォーム『Sangoport(サンゴポート)』を運営する株式会社SAKURUG(サクラグ)は、2022年12月31日までに自社プラットフォームを通じて就業を開始したユーザーへの就業祝いとして、「おかえりショーツ」を提供すると発表した。


(出典:株式会社Essay プレスリリース,2022年)


「多様な働き方で女性のライフステージの変化に寄り添う社会の実現」を目指すサクラグと、社会における女性のウェルネス格差の是正、向上をミッションに掲げる江連氏の理念がマッチし、協業に至ったという。

企業における女性活躍やDE&Iが喫緊の課題として注目されるなか、女性の身体やメンタルヘルスに配慮し、多様なキャリアの築き方を支援する姿勢は、コーポレートブランディングやインターナルブランディングとしてもスタンダードになっていくはずだ。

フェムテックやフェムケア商品やそれらを提供する企業は、この点での共創という点で、BtoB でも新たな価値をもたらすポテンシャルがある。


・ブランドの想いを伝える場として、参加型ポッドキャストを開設

「おかえりショーツ」は2022年3月で、販売開始1周年を迎えた。
それを節目に新たなチャレンジとして、ブランドコンセプトを体現するポッドキャスト番組『夕暮れのえてがみ』を立ち上げた。


(出典:株式会社Essay プレスリリース,2022年)

日常生活のなかで使うものこそ、自分に合った選択をする。それこそが自分自身を大切にする人生につながる。ブランドにこめた伝えたい想いを、よりリアルに伝えるために、日々を悩みながら生きている女性たちにありのままにインタビューする、ユーザー(リスナー)参加型の番組だ。


(出典:株式会社Essay プレスリリース,2022年)

リスナーからの「こんな人と出会いたい」を実現し、さまざまな女性たちの生き方をインタビュー。自分に最も影響をおよぼした出来事、つらかったときに欲しかったもの、今の悩みなど、人生の軸を深堀していく。リスナーからのリクエストは公式LINEで受け付ける。
Apple Podcast、Google Podcasts、Spotify、Amazon Podcast、Anchorなど主要な音声メディアプラットフォームに一斉に配信する。

・ダイバーシティに関する表現の相談を受けることも

江連氏は津田塾大学総合政策学部総合政策学科に通う。ソーシャルアーキテクチャ専攻でデータサイエンスを学び、女性の置かれている状況や課題をデータで可視化する研究を志す。

その経験も活かし、ジェンダーやD&Iに関する事業で様々な企業様とのタイアップや監修、講演などの活動も行う他、寄稿やメディア出演を通してZ世代のウェルビーイング、ジェンダー観についての発信も行う。

特に企業から持ちかけられる相談としては、時世を映して、ジェンダーに関する表現で「ダイバーシティに配慮した表現かを確認してほしい」という依頼が増えているという。他にも、昨今いろいろな企業のコラボレーションが盛んだが、たとえばダイバーシティ推進をテーマにした場合に、携先として「この企業と提携するのはどう思うか?」という相談もある。

江連氏を含むZ世代は特に、ダイバーシティとか女性活躍と言っておきながら役員に女性比率が少ないとか、実際にどのような取り組みをしているか、ということまで深く調べるという。
「(作成者の意図と違って)このように解釈される可能性もある」など、企業の発信と実態にギャップがないかを重点的にみてアドバイスを行う。


自分に向き合うことから見えてきたウェルビーイングの本質

・フェムテックからユニバーサルデザインへ

「おかえりショーツ」は、ショーツを履かないという新たな選択肢を提案することで、自分の身体に寄り添う選択とは何かを問いかけてきた。自分にとってのパーソナルな課題を突き詰めていくと、それが誰かのためにもなり、大きな社会課題の解決にもつながっていく。

江連氏は、ウェルネス格差こそが今のジェンダー問題の本質だと捉えている。社会に規定される“らしさ”にとらわれ過ぎてしまうと、生き方の選択肢が狭くなってしまうと指摘する。

ニッチ(と思われていた)女性の悩みにフォーカスをしたことから、さまざまな顧客の声が集まり、新たなニーズも見えてきた。

車椅子に座っていると下着のなかに汗をためてしまい、ムレて不快感があったり、汗疹ができやすい。足がわるいと下着をはきづらい。

フェムケア・フェムテックからはじまったショーツだが、そもそもウェルネスやウェルビーイングは
すべての人にとって大事なテーマだ。今後、「おかえりショーツ」をユニバーサルデザインの視点で捉えなおし、デザイン面でアップデートできないかと画策中だという。

・自分の人生は自分でデザインできる

バイアスに縛られるとはすなわち、本来は自由であるはずの自分に関するあらゆる選択を諦めていることに他ならない。

日用品だけでなく、日常的に目にする広告、何気ない会話の端々に潜む様々なバイアスやステレオタイプ。無意識的に“当たり前”だという思い込みに気づき、そのしがらみから自らを解放することが、心と身体のウェルネスやウェルビーイングの実現には必要だ。

“自分らしい”軸をもって意思決定できる。押し付けられる役割や価値観から自由になり、自分の人生を自分でデザインできる。女性だけに限らず、すべての人にとってのウェルビーイングとは、つまりはそういうことではないか?

ありのままの自分を受け入れることは、自分へのいたわりの気持ちを持つこと。
そもそも自分自身を幸せにできなければ、社会を幸せにはできない。

ブランドに通底するフィロソフィーを一貫して守りながら、「おかえりショーツ」、そして株式会社Essay の新しい挑戦は続いていく。



【参考サイト】

I _ for ME

女子大生起業家が開発したFemtech商品『"おかえり"ショーツ』がD&I実現を目指す採用マッチングプラットフォーム『Sangoport』の就業祝いに

Z世代の視点で女性の多様な生き方を取材するPodcast番組「夕暮れのえてがみ」が国際女性デーに配信開始




■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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