JEPLAN(旧社名:日本環境設計) あらゆるものを循環させて、戦争のない世界を叶えたい

(2022.6.3.公開)

#サーキュラーエコノミー #リサイクル #プラスチック資源 #サステナブルファッション #パートナーシップ


生活者が使い終えたもの。企業の製品。自治体などで不要になったもの。
ひとりひとりの手元にある、ありとあらゆる「モノ」は単なる物質ではなく、貴重な資源である。

株式会社 JEPLAN(旧社名:日本環境設計株式会社)は、「あらゆるものを循環させる」という社是のもと、ペットボトルやポリエステル繊維をリサイクルする技術の展開と、循環にまつわる全てのプロセスや取り組みの構築を総合的・包括的にサポートする事業を行っている。

回収した資源をサーマルリサイクル(熱回収)ではなく、石油由来と同等の品質に生まれ変わらせることが可能なケミカルリサイクルを用いるのが JEPLAN の強みであり、独自性だ。自社で服作りを行い販売するほか、メーカーが再生素材を原料として製品を製造し、製造されたものが小売店に並び、それを生活者が購入し、使い終わったらまた回収ボックスへ入れ、再びリサイクルのプロセスに入る。このような循環の仕組みをインフラとして構築することを目指している。

株式会社 JEPLAN の岩崎靖之氏にインタビューすると共に、ペットボトルのケミカルリサイクルに取り組む JEPLANグループのペットリファインテクノロジー株式会社の工場を取材した。


(川崎市あるペットリファインテクノロジー株式会社の工場)


自社ブランドコンセプト「 BRING™ 」に込めた思いとは

・服から服をつくり、地球を着まわす

JEPLAN のリサイクル事業は、おもに洋服・ペットボトル・製品プラスチック・携帯電話の4つのカテゴリーに分けられる。
なかでもポリエステル繊維のリサイクルは北九州の響灘工場で行われており、そこから生まれたD2Cのアウトドアアパレルブランド「BRING™」は、サーキュラーエコノミーを牽引するシンボルとしても広がりつつある。



不要になった服を回収して、素材に応じたリユース・リサイクルがなされるのだが、BRING™のバリューチェーンから生まれた再生ポリエステル素材、BRING Material™は、樹脂、糸、生地、服などとなり、さまざまなアパレルブランドに提供されている。

ファッション業界が地球環境に深刻な負荷をかけていることは、サステナビリティへの関心の高まりと共に生活者の意識にも浸透してきた。リサイクルによってゴミとして廃棄される量を減らし、さらに資源として何度でも繰り返し新しい服に再生できる。これはまさに時代が求めているニーズと合致すると言えるだろう。

・生活者の行動が変われば、社会が変わる

BRING という動詞は、「持ってくる」「持ち込む」という意味を持つ。

環境問題やリサイクルへの取り組みというと、企業や自治体が主体となるイメージがある。しかし最も重要なのは、社会における個人、すなわち一人一人の行動変容であり、彼らの私たちの小さな行動の積み重ね無くしては解決できない。

だからこそ JEPLAN は、誰かが集める(COLLECT)のではなく、自分たちから能動的に「持ってきて」ほしいという想いをこめて、このサーキュラーエコノミーを体現するブランドに「BRING」と名付けた。

・回収の仕組みづくりも推進

BRING™は、リサイクルしたい生活者とリサイクルしたい企業や事業者をつなげる取り組みだ。たくさんの人を巻き込み、資源が循環するために必要な仕組みづくりを、 JEPLAN はリサイクルパートナーと共に推進する。

一例として、リサイクルパートナー企業の店頭に設置したリサイクルボックスを「ポリエステル」と「ポリエステル以外」に区分けし、ポリエステルを含む商品をBRING™でリサイクルする。このようなリサイクルパートナーとの連携は複数の企業へ広がりを見せ、全国約3,500カ所に回収ボックスを設置している。



(出典:JEPLANホームページ


また、2021年11月にはリアルショップ「BRING™ EBISU」を恵比寿にオープン。ひとつのブランドでサーキュラーエコノミーが完結する、世界でも類を見ないショップだ。

このショップでは BRING™の衣服を全品番販売する他、使用済みの衣服の回収を常時行う。洋服であれば(カバン・靴・帽子・アクセサリー・ベルト・手袋などの服飾品は回収対象外)、自社製品・他社製品を問わず回収するという。


(恵比寿駅から徒歩5分の場所にある実店舗「BRING™ EBISU」の外観)


再生ポリエステル素材 BRING Material™を使用したブランドとのコラボレーションアイテムやポップアップショップの開催、SNS配信やゲストを招いたトークイベント等の拠点としても活用し、生活者とのタッチポイントを強化する。


正しいことを楽しくやろう


・「楽しい」を原動力に、人を動かす

環境問題や社会課題の解決に本気で取り組まなければならない、このままでは地球が危ないと、頭ではわかっていても、なかなか毎日の生活のなかでエシカルな行動を継続することは難しい。

ボストンコンサルティンググループが2022年に行った調査『サステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査結果 』でも、地球温暖化・気候変動を認知していても「行動を変えたいと思っているが、変わっていない」「特に自分の行動は変わっていない」と答えた層が、すべての年代で4割前後という結果だった。


(出典:ボストンコンサルティンググループ「サステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査結果」,2022年 )


それを毎日の生活のなかで行動を起こすには、「正しさ」だけではモチベーションにならない。本当に「楽しい」や「ワクワク」を感じなければ、それがどれだけ「正しい」ことであっても参加しないし、続けられない、というのが本音だろう。

「あらゆるものを循環させる」という社是はサーキュラーエコノミーの重要性と共にそこかしこで聞かれるフレーズでもあるが、そこに「楽しさ」をプラスした点にこそ、 JEPLAN の慧眼が光る。
この着想から生まれたのが、ユニバーサル・シティ・スタジオ本社と協業し、映画『 BACK TO THE FUTURE バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場するタイムマシン「デロリアン」を活用した一大プロジェクトだ。

・洋服をリサイクルして、デロリアンを動かそう

映画のなかで、このタイムマシンを動かす燃料に使われたのはバナナの皮やビールの飲み残しなどのゴミ、すなわち有機物だ。このシーンを見てワクワクした気持ちを原動力に、 JEPLAN の取締役会長である岩元美智彦氏は、アメリカのユニバーサル・シティ・スタジオ本社へ直接かけあった。

「デロリアンが未来に行った10月21日を、“捨てない社会”を未来に約束する資源循環デーにしたい。
世界で起きる戦争や紛争の多くは、地下資源をめぐって起きている。
私たちの理想として、従来捨てられていた有機物のゴミをリサイクルしてプラスチックや燃料に再生し、地上資源だけを使い、石油を1滴も使わない循環型社会を目指す。それは世界平和にもつながるはずだから力を貸してほしい。」

岩元氏がそのように想いを伝えたところ、ユニバーサル・シティ・スタジオ本社の理解と賛同が得られ、デロリアンを使用してイベントを開催するに至ったという。

デロリアンを用いて、「不要になった洋服を持ってきて、デロリアンを走らせよう」と呼びかけたところ、会場となったショッピングモールには2時間待ちという長い行列ができるほどの反響があった。

それまで、ただ「リサイクルしましょう」と呼びかけるだけでは人は集まらなかった。しかしそこに生活者がワクワクする仕掛けをプラスした途端、1年かかった回収量が、たった1ヵ月で集まったという。

洋服を回収した後に実施したデロリアンの走行イベントには、世界70ヵ国から取材が入った。マーケティング施策としても、なかなかこれほどのインパクトは生み出せない。楽しいからこそ、人は動き、集まるということを示す独創的な好例と言えるだろう。


(「GO!デロリアン走行イベント」では、“未来”の到着時間16時29分にデロリアンを走行させた)

「水平」かつ「1対1」かつ「半永久的」なリサイクル手法

そもそも JEPLAN の目指す「完全循環」は、どのような技術に基づくのか。

ペットボトルやポリエステル繊維の原料となるPET(ポリエチレンテレフタレート)を分子レベルで分解し、不純物を取り除いた後に、BHET(ビス2ヒドロキシエチルテレフタレート)という有機化合物を生成、再結合させる。

通常、このBHETという有機化合物は石油からしか作られなかった。しかし JEPLAN は使用済みのペットボトルやポリエステル繊維から、石油由来と同等品質のBHETを作ることに成功した。



(出典: JEPLAN ホームページ


ペットボトルを分子レベルに分解し、実は目には見えていない色の脱色や金属イオン等の触媒を取り除くなど、不純物を完全に取り除けるため、半永久的なリサイクルが可能になる。ケミカルリサイクルの優位性は、まさにこの点であり、ケミカルリサイクル技術を用いて、ボトルからボトルの水平リサイクルに取り組む商用工場は、世界でもこのペットリファインテクノロジーだけだ。


(雪のように見える白い部分はすべてフレーク状に粉砕されたペットボトル)


一般的にペットボトルのリサイクルでは、マテリアルリサイクルが採用されている。ケミカルリサイクルとマテリアルリサイクルの大きな違いは、異物を取り除くレベルにある。

マテリアルリサイクルは、リサイクル対象物の異物をフィルターを通して物理的に取り除くことしかできない。すなわち、ペットボトルの色や金属イオンといった目に見えない添加物も除去できない。それら不純物の除去能力に限界があるため、マテリアルリサイクルされたものを何度も繰り返しリサイクルすることは、一般的には非常に難しいとされる。

環境への影響という点でも、北九州響灘工場でのPET樹脂製造におけるCO2排出量は、石油由来の原料による製造製品と比較して約49%削減できると第三者機関のLCA調査が証明した。


(出典: JEPLAN ホームページ
図※1…
2019 年度に環境省がデロイトトーマツコンサルティングに委託しLCA調査(※2)を実施した。
※2…
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社.「令和元年度 ケミカルリサイクルの二酸化炭素削減効果と脱炭素社会システムとしての評価検証委託業務 成果報告書」.令和元年度環境省委託業務. 2020,3.153p


JEPLAN はこの技術を用いて、北九州にある工場では繊維のリサイクルを、川崎の工場ではペットボトルからペットボトルのリサイクルを行っている。

参加型プロジェクトを通じて、リサイクルを文化・習慣にする

プラスチック資源循環促進法が2022年4月1日から施行された。製品の設計から廃棄物の処理まで、プラスチックの商流すべてにおける資源の循環を促進するための法律だ。

JEPLAN は、この法施行からゆうに10年はさかのぼり、容器包装以外のリサイクル方法・回収方法について環境省と共に実証実験を行ってきた。循環に関する知見やネットワークを活用したコンサルティング、サステナブルなビジネスソリューション提案も、同社では事業の柱の一つとして確立している。

なかでも、子どもたちを対象にした環境教育という視点でのコンサルティング事例として「おもちゃリサイクル」プロジェクトがある。

プラスチック製おもちゃを店舗にて回収し、リサイクル。回収したおもちゃは、店舗で使用するトレイやおもちゃの回収ボックスなどに生まれ変わらせる、というものだ。

遊ばなくなったおもちゃを大切な資源としてリサイクルできることを、子どもたちが楽しいと感じられるようなストーリーで伝え、店舗で使われるグリーンのトレイへと再製品化することで“目に見える”点も重要視した。


法施行によりライフスタイルの変革を促すのも大事だが、このように日常のなかで自然とリサイクルする楽しさや意義を実感できれば、リサイクルは特別な行為ではなく、むしろ文化・習慣として当たり前になっていくだろう。
ここでもやはり「楽しい」が行動変容のカギを握っている。


ペットボトルの国内完全循環を目指して

時世の潮流もあり、ペットボトルの回収やリサイクルは随分と進んできている印象があるかもしれない。だが実は、国内で回収されたペットボトルの半数は海外に流出しているという。そして海外に出てしまったペットボトルは、その先でどのような処理がなされているかを知る術はない。


ペットボトルは非常に資源価値の高い素材なのに半数もの量が海外へ流出してしまうのは、あまりにももったいない。国内でしっかりと回収・循環させる仕組みを作れないか、との考えから、2021年アースデー(4月22日)に立ち上げられたのが「BRING BOTTLE コンソーシアム」だ。


(出典:BRING BOTTLEコンソーシアム ホームページ


この企業間連携コンソーシアムには、イオン株式会社、小田急電鉄株式会社、株式会社セブン&アイ・ホールディングス、そして株式会社ファミリーマートの4社が、競合の壁を乗り越えて名を連ねた。

力のある大企業が一緒になって取り組むことから、社会を変える大きなインパクトが生まれる。そのために環境設計は企業の間に立ち、その手と手をつなぎあわせる重要な役割を果たす。

今後もペットボトルの国内完全循環への賛同を広く募り、飲料メーカーや包装材メーカーをはじめペットボトルに関わるあらゆる事業者・自治体と連携を図り、生活者のリサイクル参加を促しながら取り組みを加速させる考えだ。


地球目線の「三方よし」

・石油を使う必要がなくなれば、戦争もなくせる

JEPLANの取締役会長、岩元美智彦氏の講演を聞く機会があった。
そこで岩元氏が語ったのは、環境よし・経済よし・平和よし、地球目線の「三方よし」という概念だ。

「戦争やテロの原因の一つは、地下資源の奪い合い。石炭、石油、次は水ともいわれている。要するに、資源をどう活用していくか、ということ。目の前にあるものをゴミだと認識するのではなく、半永久的に使える資源だと捉えれば、遠くの国からわざわざ原材料をタンカーで運ぶ必要もなくなる。
地下資源ではなく、地上資源の価値にみんなが気づけば、経済にも環境にも平和にも必ずいい効果が表れるはず。」

さらに岩元氏は「歴史価値」という考えにも言及した。
BRING™でリサイクルする製品に、たとえば「10/50」というタグをつけるという。この数字が意味するのは、10回目のリサイクルを迎えた、50年前の資源というイメージだ。

・プラットフォームを築き、その上でみんなで協力して循環させる

この数年、サステナビリティやSDGsが喫緊の課題として認識されるなか、企業から寄せられる相談の質も変化してきたという。
「リサイクル可能な製品を作るには、どんな素材を使えばいいんですか?」と、リサイクルを前提として商品開発を考える傾向が増えてきた。

「リサイクルを優先した場合、多少、機能や見栄えに制限がかかることもあるかもしれない。けれども地球がダメになってしまうことに比べたら、どっちがいいかは自明ではないか。」

環境問題、社会課題、そして戦争やテロ。それら、簡単ではないさまざまな問題を解決するためには仕組みを変えることが大切だ、と岩元氏は説く。目先の利益ではなく、50年100年先の未来を見据えてプロセスを設計し、そこに企業も自治体も生活者も巻き込んでいく。
意思あるところに道が拓けるという言葉の通りで、回収拠点を提供する企業・団体は300社以上にものぼる。

みんなで資源をつないで、みんなで循環型社会を実現して、みんなでハッピーになる。
規制や我慢といったネガティブなイメージに縛られるのではなく、楽しいからこそ正しいことが続けられる。
それらの行動が社会に深く根づくためのプラットフォームを築き、習慣として参加できる。

JEPLAN は、まさにそんな「環境」を「設計」しながら、戦争のない世界を夢物語で終わらせないために、サステナブルな循環型社会のエヴァンジェリストとしての活動をますます広め、ひとりでも多くの生活者の参加を呼びかける声が止むことはないだろう。




【参考サイト】

JEPLAN HP

ペットリファインテクノロジー株式会社

服のサーキュラーエコノミーを実装するBRING初のリアルショップがオープン

サステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査結果

国内完全循環を目指した「BRING BOTTLEコンソーシアム」を設立

BRING BOTTLEコンソーシアム




■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
#アート #くらし #哲学 #ウェルビーイング #ジェンダー #教育 #多様性 #ファッション

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