地方創生のヒント 自然の循環を取り戻すリジェネラティブなビジネス

(2022.4.14 公開)

#地方創生 #地域 #リジェネラティブ #リジェネレーション #自然環境 #自然資源

毎年4月22日はアースデイ、地球のことを考える日です。1970年にアメリカで始まったアースデイのムーブメントは今では世界中に広がり、毎年地球を守る意思を表明するイベントが催されています。今回は、そんなアースデイに合わせて、地球の自然環境を再生させる「リジェネラティブ」なビジネスのあり方について考えていきます。企業事例は、2022年2月24〜25日に開催された第6回サステナブル・ブランド国際会議2022 横浜での「自然の循環を取り戻し再生する」セッションで話された内容をまとめました。

リジェネラティブ(リジェネレーション)とは



サステナブルやサステナビリティという言葉は、ビジネスの文脈においてもかなりポピュラーな言葉になってきました。一方、リジェネラティブ・リジェネレーションという言葉はまだまだ知られていないのではないでしょうか。リジェネラティブ(リジェネレーション)とは、日本語に訳すと「再生させる(再生)」という意味を持ちます。海外ではこの「リジェネラティブ」なビジネス、つまりこれまでに失われてきた自然環境を再生させるビジネスに期待が高まっています。

ここでサステナブルとリジェネラティブの違いを見てみましょう。サステナブルとは、環境負荷を減らし今ある世界を持続可能な状態にすることを意味します。これはあくまでも、地球環境への悪い影響を減らす行為であり、地球環境に良い影響を与えることを意味しません。一方、リジェネラティブは自然を再生させ地球環境に良い影響を与えることを意味します。

興味深いのは、リジェネレーションの概念では人間活動を自然と切り分けて考えるのではなく、人間活動を「自然のサイクルの中に位置づけて考える」という点です。人間活動を自然サイクルの1つとして考えるためには、これまでのように物を作って終わりではなく、作ったものを最終的にどのように自然に戻し循環させるのかといった視点が必要になってきます。これから紹介する企業事例では、自然環境との関連が高い農業や林業の例が出てきます。循環を設計するためのヒントが得られるのではないでしょうか。

鴨志田農園:コンポストを通じた食の循環




(画像出典:
鴨志田農園 Facebook

東京都三鷹市にある鴨志田農園では無農薬野菜の栽培の他、コンポストを通して食の循環を広げる活動を行っています。コンポストに使用するのは、企業から出る生ゴミなどの食品残渣で、これを堆肥化したものを再び畑に撒くことで、土壌の再生に繋げています。農作物等を育てる土壌は、農薬や化学肥料を使い続けていると徐々に土壌が痩せ作物が育てにくくなってしまいます。生ゴミを堆肥化させた土は、土壌の保水力や通気性、微生物による分解や肥料性に優れ、土壌の肥沃度を回復させることができます。



(画像出典:
黒川温泉ウェブサイト

鴨志田農園がアドバイザーを務める取り組みとして、黒川温泉でのコンポストプロジェクトがあります。九州阿蘇地域の山奥に位置する黒川温泉では、約30の旅館から出る生ゴミや落ち葉の処理が長年課題になっていました。2020年9月から始まったこのプロジェクトでは、各旅館から出る生ゴミを回収し落ち葉と共に堆肥化、それを地元農家の畑で使用してもらい、その畑で育った野菜を旅館で提供する、といった地域資源の循環が設計されています。

味の素株式会社:副産物から始まる地域農業の循環


(画像出典:味の素公式サイト

多くの家庭の食卓に並ぶ、味の素®。そんな味の素®を作る際にも「バイオサイクル」という循環と再生の取り組みが行われています。味の素®の原料は、グルタミン酸ナトリウムというもので、サトウキビ等の糖蜜を発酵して作ります。その際に出るサトウキビ等の栄養豊富な副産物を、有機質肥料として味の素®の原料となるサトウキビ畑やその他作物の畑に使用します。



(画像出典:味の素公式サイト

味の素®はタイやブラジルなど世界の様々な地域で製造されていますが、サトウキビやキャッサバ、トウモロコシなど地域によって原料となる作物は異なります。しかしどこの地域でも作物の持続的な生産がなければ味の素®の製造は成り立たず、味の素®の持続可能性は地域農業の持続可能性と密接に結びついています。味の素は、リジェネラティブはおろか、サステナブルといった言葉でさえ世間に浸透していなかった20年ほど前から、このバイオサイクルに取り組んできたといいます。地域の農地から生まれたものを、地域の農地に戻し自然を回復させる。そしてそこから収穫した作物で、再び味の素®を作る。こうした循環を生み出すことで、地域経済や自然環境に豊かなめぐみをもたらしています。

株式会社竹中工務店:森林資源と地域経済の好循環



(画像出典:竹中工務店ウェブサイト


400年以上続く老舗企業である竹中工務店では、森とまちをつなぎ森林資源と地域経済の好循環を生み出す「森林グランドサイクル」の取り組みが行われています。

日本の森林は、約4割が人工林でその半数が一般的な主伐期である50年を超えて利用期に入っています。しかし、外材やコンクリートの代替により、現在国内木材の活用は約3割にとどまっています。森林資源が有効に活用されず手入れの行き届かない森林が増えると、土壌の保水力の低下等を引き起こし土砂崩れの危険性も高まります。森林資源の活用は、健全な森林の維持・回復、また地域の防災にとっても非常に重要な役割を果たします。



(画像出典:竹中工務店ウェブサイト

竹中工務店では木のまちづくりを推進することで、森林資源の使いみちを積極的に創出し、それによる森林の再生、地域の雇用創出といった流れを目指しています。昨今の木のまちづくりに欠かせないのが技術開発です。竹中工務店では近年高層の木材建築にも取り組んでおり、2025年に完成予定の日本橋のビルは、現存する木造高層建築物としては国内で最大・最高層となる地上17階の木材高層ビルとなる予定です。高層ビルに耐えうる強度や耐炎性を兼ね備えた建材の技術開発により、木材高層ビルの建築が可能となりました。

中央大学多摩キャンパス内に2021年に竣工した『FOREST GATEWAY CHUO』では、地域の林業家から直接調達した多摩産材を一部に使用しています。これらは再植林を前提とした調達で、地域の木材を地域の人と共に地域で活用することにより、森林資源と地域経済の好循環を設計しています。

「地域」で考えるリジェネラティブビジネス

こうして企業事例を見てみると、いずれも「地域」という共通のキーワードが浮かび上がってきました。自然資源への依存度が高い地域ほど、自然環境の再生による雇用や産業の活性化にも繋がりやすく、今後地方創生と合わせて日本でもリジェネラティブなビジネスが広がっていくことが期待されます。

【参考サイト】
木のイノベーションで 森とまちのみらいをつくる
サステナビリティレポート2014 特集2

■執筆:contributing editor Eriko SAINO

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