サーキュラーエコノミーと廃棄ゼロを目指す、水素エネルギーの革新的イノベーション

(2022.4.12 公開)

#サステナブルファッション #リサイクル #水素エネルギー #アップサイクル #イノベーション

革新的なプラスα素材を開発するテキスタイルのスペシャリスト。
有限会社やまぎんは、自らをこう定義づける。

2000年に創業し、国内には東京本社と大阪オフィスを構える他、上海とシリコンバレーにも拠点を持つ。従業員6名という少数精鋭でありながら、めざましい開発力で、ファッションと地球環境の双方が抱える深刻な課題の解決につながるイノベーションを生み出している。

2021年には廃棄物ゼロを目指したマルチファンクション素材「ZERO-TEX(R)」をローンチ。新型コロナウイルス感染症の医療現場で使用される医療用ガウンとしてアメリカで展開し、コロナ禍で大打撃をこうむった売上をV字回復させた。

その成功にとどまることなく、続けざまに、アパレル商品を回収し水素化するアップサイクルプラットフォーム「Biotech Works」の開発をスタートした。

常に前進し、イノベーションを追求する。
自分自身が願い、選んだ道を実現する力強さ。その原動力はどこにあるのか。

創業者であり代表取締役の西川明秀氏と、取締役 営業部長の仁谷美喜氏にインタビューを行った。



時代が求める先駆的な DX・SX を実現 

・まだ“可能ではないもの”をかたちにする

MAKE THE MOVE, MAKE THE ACTION FOR THE FUTURE. と掲げるパーパスの通り、有限会社やまぎんは環境問題解決と経済活動をしっかりと結びつけ、両立させながら、地球や社会に貢献する価値とインパクトを創出している。

「人間が想像できることはすべて、他の人間が実現するだろう(Tout ce qu'un homme est capable d'imaginer, d'autres hommes seront capables de le réaliser)」とジュール・ヴェルヌは書いたが、やまぎんの西川氏は、自分たちが想像したことを自らの手で次々と実現させている。それも、とても早いスピードで。

「人が出来ないことほどチャンスが大きい。人が出来ると思ったことは、もう既に遅い。誰もがやっていないことをやりたいんです」と西川氏は話す。


(有限会社やまぎん創業者、代表取締役 西川明秀氏)

・アパレルは、ゴミじゃない

西川氏には創業当時から、アメリカやヨーロッパに比べて日本は環境意識が低いという事実を、エコビジネスで変えていきたいという思いがあった。

多大な環境負荷をかけながら大量生産されたアパレル製品が、そのブランド価値を守るため、あるいは移り変わるトレンドのなかで短いサイクルで廃棄され、大量に埋め立てられたり、焼却処分によって温室効果ガスが発生する。

ファッションを愛する想いから、この悪循環をなんとかやめたい、それが彼の強いモチベーションになっている。

「誰かがやらないと変わっていかないのであれば、自分がやりたいと思ったんです。世界の深刻な課題を少しでも変えられたなら、それが自分の励みにもなりますね」と語り、50年後、100年後の世代を常に視野に入れて、次に何が出来るかを考えつづけることが、やまぎんの革新的なチャレンジを支える基盤となっていることを明かした。

コロナ禍から生まれたマルチ機能素材「ZERO-TEX(R)」

・感染予防ウェア、医療用ガウンとして開発された初期モデル

ZERO-TEX(R)の開発に着手したのは、新型コロナウイルス感染のパンデミックが起きた2020年。
感染者の診療にあたる医療従事者が着用する医療用ガウンが、1人を診るたびに廃棄されていると知ったことが開発のきっかけになった。



医療用ガウンは、通常の洋服にくらべて2倍以上の生地を使用している。それが1回ごとに棄てられるとなると、夥しい量が廃棄物として埋め立てられることになる。それをどうにしかして止めたい。廃棄ではなく、洗濯して繰り返し使えるようにするにはどうしたらいいかを考え、彼らはすぐに開発に着手した。

こうして 2021年4月に製品としてローンチされたZERO-TEX(R)は、初年度にアメリカと日本で 500万USドル(日本円換算で約5億5000万円)を売り上げ、コロナ禍で大きな大打撃をこうむったなか、V字回復を達成した。

・「長く着られる」というサステナビリティ

ZERO-TEX(R)の独自性は、優れた耐久撥水性がありながら、同時に放湿性と通気性も兼ね備えている点にある。通常、撥水性が高くなれば(たとえばレインコートのように)反比例して通気性は悪い。
しかし ZERO-TEX(R)は着用している間のムレやベタつきによる不快感を軽減させ、さらっとした着心地を維持できる。加えて、帯電しないという特性もあるので、電気医療機器を扱う場合も安心だ。これは長時間、感染者の治療にあたる医療従事者にとっては非常に喜ばしい機能だったことは想像に難くない。

また、たびたび洗濯をするとなると耐久性も重要なポイントだが、ZERO-TEX(R)は100回洗濯(さらに乾燥機を使用)してもこれらの機能性が保てることが第三者機関において証明されている。

・リサイクルのためのトレーサビリティと回収システム

それでは100回の洗濯を経たZERO-TEX(R)は、どうなるのか?
ZERO-TEX(R)は製品にQRコードを使用し、洗濯回数が100回に達した時点で利用者に素材の有効期限がきたことをアラートで知らせる専用アプリケーションを導入している。



この回収システムを有効に機能させるために、日本における市場展開では企業や店舗、学校の制服(ユニフォーム)を視野に入れる。100回の使用回数を迎えたアイテムを一定の場所に集約できるため、リサイクルに出す側も回収する側も手間を省ける利点がある。

さらに、ウイルスや花粉が付着しづらく、雨や紫外線にも強く、洗濯や乾燥機に耐久性がある点や
高い熱拡散率や接触冷感性も兼ね備え、夏場の熱中症対策にも効果的な点は、働く人にも学生にとっても嬉しい機能と言えるだろう。

・快適、安全、サステナブルの、さらに先へ

ZERO-TEX(R)は実現目標として3つのゼロを掲げる。
感染ゼロ、使い捨てゼロ、地球への負荷をゼロに。そして、さらにゴミをゼロにするという新たな願いを加え、シリコンバレーで研究開発を重ねた結果、使用後に回収しグリーンエネルギーとしてリサイクルできる新しいプロジェクト BIOTECH WORKS へと道はつながった。

シリコンバレー発アップサイクルプロジェクト「BIOTECH WORKS 」

・廃棄されるアパレル製品を回収し、ゴミを出さない

限界まで着用した ZERO-TEX(R)商品を、上述のアプリケーションを通じて回収。グリーン水素へとケミカルリサイクルし、再生可能エネルギーへと変換する。BIOTECH WORKS(バイオテックワークス)は回収したアパレル製品を水素化するプロジェクトであり、水素は管理するのが難しいという課題があるが、それをコントロールするためのプラットフォームでもある。



さらにはそのアップサイクルな工程を、 ZERO-TEX(R)商品を購入・使用したユーザーが最後まで追跡でき、視覚化されたデータを確認することで、自分の行動が大きなサステナビリティへのインパクトに繋がっていると実感できる仕組みとなっている。

SDGsのゴール「つくる責任、つかう責任」と結びつけ、リサイクルの過程で排出される残渣もセメントへ、CO2はドライアイスへと加工して有効活用。「ゴミを出さない、廃棄物を燃やしたくない」という理念を徹底して貫く。

商品の回収、分別、水素化、そして地域貢献の4つをつなぐ仕組みを可視化すること。再生可能エネルギーへの変換を「地産地消」、すなわちアメリカで回収したものはアメリカで、日本は国内で行えることも大きな特徴だ。サプライチェーンや輸送における排出も可能な限り低減を目指す。

・最終的には、すべてのアパレルを回収したい

なぜそこまでするのかと問うと、西川氏は「人間の血液に例えてみましょう」と答えた。
「動脈は経済活動、静脈は回収システムを表すとします。心臓から動脈で流れる血液が活動するための力となり、体内を循環した血液が静脈で戻ってきますね。これを地球環境に置き換えると、静脈が機能していないので、血液が心臓に戻ってこない、あるいは戻ってきたとしても血液が汚れたままで戻ってくる状態だと捉えているんです。」

なるほど、これでは生命体が維持できるはずもない。
そして静脈からもどってくる血液がキレイになればなるほど、体はもっと元気になり、健康寿命が延びることもイメージしやすい。

NIKE(ナイキ)やNETFLIX(ネットフリックス)が「そもそも地球が存続しなければ自分たちの事業の存続もない」と、環境課題の解決を企業のパーパスとして掲げているように、地球を生かしていくという根本にコミットし、自分ゴトとして取り組むことが重要だ。

・大手企業も注目するイノベーションの可能性

やまぎんは2021年10月と2022年4月に、サステナブルファッション・DX EXPOに出展した。
2021年には主に「ZERO-TEX(R)」を訴求していたが、2022年4月には「BIOTECH WORKS」を全面的に打ち出し、水素カーの展示と共に大々的なブース出展に踏み切った。


(サステナブルファッションEXPO やまぎんのブースでは、水素をエネルギーに走る車が展示された)


サステナブルファッションやアパレル業界の関係者が多く集う場で、日本のみならず世界的な大手企業からのコンタクトもあったという。

「アパレルはサーマルリサイクルしかできないのか?」という相談や、アパレル業界のみならず、食品業界からも資源の回収方法や再エネルギー化を一緒にやれないか、というアプローチなどからも、リサイクルのイノベーションと回収の仕組みをどう確立するかに多くの企業の関心が集まっていることが分かる。


( サステナブルファッションEXPO の展示ブースに掲げられたメッセージ )

自分たちでしかできないことと、自分たちだけではできないこと


・ファッションが大好きだからこそ、悪者にはしたくない

新しい洋服を着たとき。気に入ったコーディネートが決まったとき。チャレンジしてみた洋服が思いのほか似合って、新しい自分に出会えたと感じられたとき。ファッションは本来、人生に喜びや豊かさを与えてくれるものだ。それが、罪悪感を感じたり、与えるものであってほしくない。そのためにも、ファッションやアパレル産業が環境におよぼす負の影響から目をそらしてはいけない。

マッキンゼー&カンパニーのレポートによると、アパレル業界は2018年の時点で21億トンものCO2を排出している。


(画像出典:FASHION ON CLIMATE, McKinsey&Company, 2020)


また、国連貿易開発会議(UNCTAD)が発表した環境汚染産業ランキングでは、1位の石油産業に次いで、繊維・アパレル産業が2位に挙げられた。

年間500万人のニーズをゆうに満たす水(930億立方メートル)を使用し、石油300万バレルに相当する(約50万トン)プラスチック素材を海に投棄している。さらには、炭素排出量も国際航空業界と海運業界を足したものよりも多い。
日本国内においても2020年の新規供給量は計81.9万トンに対し、廃棄される量は計51.2万トンに及び、リサイクルされる量は手放される総量のうち僅か15.6%にとどまる。



(画像出典:令和2年度「ファッションと環境 調査結果」, 日本総合研究所画像 , 2020年)


過剰生産の削減、返品率の低減、商品の修理や修繕、シェアリングサービスの導入、梱包資材での再生素材活用、店舗省エネなど。サステナブルファッションの実現にむけてアパレルメーカーやブランド、サプライチェーンが出来ること・やるべきことは多岐にわたる。
と同時に、生活者の側で、ファッションやアパレルの廃棄物を削減する行動変容も切実に求められることは言うまでもない。

・エシカルやリサイクルが当たり前の世の中に

日本でも急速にサステナビリティやSDGsへの関心・意識が浸透しつつあるが、無関心層も一定数おり、環境負荷の低い商品を“金額が高くても”購入すると答える層もまだまだ相対的な割合でみると少ない。




(画像出典:「サステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査結果」,ボストンコンサルティンググループ)


「日本が大好きなので、この現状は正直、さみしいですね」と西川氏は語る。「環境意識が低い人がいるから、エシカル消費が浸透しないから、と下のレベルに合わせるのではなく、全体をもっと底上げしたい。できないから諦めるという“lose-lose”ではなく、“win-win ”がスタンダードになっていく。そこを諦めずに目指していきたいです」と熱がこもる。

事業規模の大小にかかわらず、ファッションと環境の関係性の改善にむけて、サステナビリティをビジネスモデルや企業戦略に組み込む。そして生活者も、安ければいい、と安易に買うのではなく、製品の生産背景からそれがどのように廃棄されるのかまでを考慮して、回収やリサイクル・リユース・リデュースに対しても意識をむけて、日々の生活のなかで実践する。

ひとりひとりのサステナブル活動への参加や実践が大きなインパクトへとつながり、それが未来のアパレル、ファッションのあり方を変えていく。

西川氏が尊敬する、アリババ創業者であるジャック・マー氏の言葉を引用すると「チャンスは、人が文句を言うところにある(The opportunity always lies where people complain)」のだ。

「そんなの無理だ、とか否定されればされるほど、私はモチベーションがあがります。地球環境をよくしたいと本気で思っていますし、この技術を活かして、もっと直接的に多くの人を助けたいと考えています」と語る西川氏の歩みはとどまることを知らない。




【 参考サイト 】

YAMAGIN INC.

ZERO-TEX(R)

BIOTECH WORKS(TM)

FASHION ON CLIMATE, McKinsey&Company

令和2年度「ファッションと環境」調査結果, 株式会社日本総合研究所

Climate and Environment, United Nations

サステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査結果,ボストンコンサルティンググループ




■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
#アート #くらし #哲学 #ウェルビーイング #ジェンダー #教育 #多様性 #ファッション



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