誰もが自然に“らしさ”を発露できる土壌づくりを 女子プロサッカー「WEリーグ」で女性の活躍とジェンダー平等を考える

(2022.3.25. 公開)

#ジェンダー平等 #スポーツ #女性エンパワーメント #女性活躍


過日開催された【 第6回サステナブル・ブランド国際会議 2022 横浜 】で取り扱われたテーマのひとつである「ジェンダー平等」。


(画像出典:サステナブル国際会議2022横浜, 株式会社博展 )

「ジェンダー平等を加速する真の女性活躍推進とは」と題されたトークセッションでは、企業やスポーツの現場で女性の活躍を推進する3名のパネリスト※が、それぞれの取組みや課題を紹介するとともに、今後の展望についての議論がありました。

※パネリスト:
大沢遼氏/豊島株式会社 東京二部二課 課長
小椋敦子氏/株式会社 コーセー 執行役員 研究所長 働きがい創出実行委員会 多様な働き方分科会リーダー
小林美由紀氏/公益社団法人 日本女子プロサッカーリーグ 理事/理念推進部 部長
ファシリテーター:山岡 仁美氏/サステナブル・ブランド国際会議

日本はジェンダーギャップが特に大きく、2021年のジェンダー指数(経済活動や政治への参画度、教育水準、出生率や健康寿命などから算出される、男女格差を示す指標)は156カ国中120位であり、先進国の中では最低レベルでした※。

ジェンダーギャップは社会の中で長年にわたり積み上げられてきた結果として存在しているものであり、積極的な取り組みをせずとも無くなっていくものではありません。
ジェンダー平等の真の目的は、男女の格差をなくしていくというよりは、一人ひとりの特性を最大限に発揮し、社会の力をしていくことにあるのでしょう。

トークセッションにて企業の文脈で語られた「女性が働きやすい職場は男性も働きやすい」「制度も大事だが風土改革のための研修も大事」といった話とともに興味深かったのが、スポーツリーグにおけるジェンダー平等の話です。筆者自身がスポーツに関して全くの門外漢なことも相まって、古くからの固定概念や慣習が残るスポーツ界において女性の活躍をどのように進めていくのか? を考えるための切り口が数多くあるように感じました。


日本女性プロサッカーWEリーグとは?





WEリーグ は2021年9月に開幕した女性プロサッカーリーグ。「女子サッカーを通じて夢や生き方の多様性にあふれ、一人ひとりが輝く社会へ貢献する」を理念として、現在11クラブで構成されています。サッカー事業を基盤としながらも、女性の活躍社会の牽引、日本での女性プロスポーツの定着、世界一アクティブな女性コミュニティとしての成長などによる社会貢献も目指しています。



日本女子プロサッカーリーグ 理事である小林美由紀さんのお話では、WEリーグのジェンダー平等むけた取り組みとして、女性が意思決定場面に参画することや指導者としてのロールモデルの形成、スタッフや選手自身のマインド改革などが挙がりました。


制度設計や意思決定の場面に女性が必ず参加することを仕組み化する

これまでプロサッカーリーグやクラブチームの運営は男性に占められていたため、WEリーグにおいては、女性の参画を促すために、コーチングスタッフのうち1名は女性、クラブ役職員の50%が女性という基準を設け、女性の登用を促したそうです。



政治活動や企業においても、クオーター制(議員や役員の一定数を、女性と定める制度)の導入が検討されていますが、自然に任せると男性ばかりになりがちな組織に女性を意識的に登用していく仕組みは、WEリーグやそこで活動する女性のために有効な試みだと思いました。

文化・風土の話ではありますが、こんなエピソードも紹介されていました。
WEリーグ事務局に、パネリスト一人である豊島の大沢さんからHogaraの吸水サニタリーショーツが30着ほど届いたそうです。女性アスリートは月経にパフォーマンスを左右されやすく、生理前後は怪我をしやすい時期。女性の生理やその時期の過ごし方に興味をもってもらいたかったため、小林さんは男性スタッフたちに「関係ないとおもわず、製品を手に取って、説明も読んでみてください」と伝えたそうですが、残念ながら反応はなかったとのこと。男性には身近でないが女性にとっては非常に重要なトピックスについて関心をもってもらうためにも、組織の重要なポジションに女性が存在することは大事だと感じました。


女性の指導者を生み出していくことと自己肯定感の関係性

スポーツの世界では、指導者は男性という刷り込みが指導者にも選手にも色濃くあるという話も印象的でした。2021年に開催された東京オリンピックの出場選手は男女半々だったのに、指導者は男性が75%であり、サッカーの世界では、選手80万人のうち女性は5万人(5%)、指導者になるとたった3%とのこと。



大半の女子サッカー選手はこれまでずっと男性のコーチや監督から指導を受けてきたため、「サッカーは男性に教えてもらうもの」という考えが当然のものとなっており、自分が指導者になろうという意識がそもそもないことが多いそうです。女性指導者は数が少ない分、女性の場合は個人の存在が女性指導者像とイコールになってしまいがちであり、そこに好き嫌いや相性が発生しやすくなるため、女性の指導者像の幅を広げていくためにも、女性指導者数自体を増やしていくことが急がれているとのことでした。

指導者の話で心に残ったのが、女子選手への指導経験が少ない指導者の言動によって、選手が自己肯定感を損ないやすいということです。「女子選手は男子選手と違ってこういう動きはできないだろうから、このプレーをするように」といった指導を度々受けることで、いつのまにか自分たちが劣っているととらえてしまう選手も多いとか。

男子サッカーと女子サッカーそれぞれのプレーの魅力があるにも関わらず、同じ土俵で比べることで、女性がいつのまにか自分を低く見積もってしまうというのは、指導者側に悪気はないにしろ、実力を発揮していくという意味でも機会をつぶしてしまっている気がします。
小林さんの「女子選手を励まし、劣った存在だと感じさせるような言葉から解放するような指導法をみつけないといけない。それは女性指導者だからこそできることなのでは」という言葉に深く頷きました。



女性を強調しすぎないことも大事

WEリーグの正式名称は、ウーマンエンパワーリーグですが、その名称を嫌う選手も少なくないそうです。理由は「女性を強調しすぎたくない」「無理に女性を活躍させようとしている感じがある」といったもの。

女性のサッカー界では、男の子っぽい雰囲気の選手や、トランスジェンダーの選手もいるとのことで、彼らの「女性、女性と強調してほしくない」という気持ちも理解できます。WEリーグは女性がプレーするリーグではありますが、根底にある想いは、どんな選手も自然にいることができて、安心してプレーできること。人としての肯定を重視していることを折に触れて伝えているとのことでした。また、エンパワーとありますが、「パワーとは権力ではなく、自分の特性のことと伝えている」と小林さんは話します。「女性の活躍とはマネジメント層に参加することというよりは、みんなが自分の特徴を活かせること、自分の強みを発揮できること」と聞くと、パワーという言葉の感覚が安心感につながっていく気がしました。


身についたものを剥がして、自分らしさを活かす

WEリーグを軸に話を進めてきましたが、意思決定の場に女性を登用することで、抜け落ちがちな視点を喚起する、女性のリーダーのロールモデルに多様性をもたせる、安心できる環境の中で自分らしさを発揮して自己肯定感を高める、といったことは、どのような組織や環境化でも必要な考え方だと思います。




議論の中でも、「日本は男らしさ・女らしさのレッテルが強い社会であり、女性に対してまだサポートが必要な状態。ジェンダー格差を強調したくないが、言わなければならない状況も多い」という話が出ていましたが、一人ひとりが知識を得ることで、これまで当然と思っていたけれどよく考えるとちょっとおかしいこと、つまり、知らず知らずのうちに身につけてしまった固定概念を剥がしていくことで、少しずつジェンダーの違いを強調するということは減っていくのではないでしょうか。


ファシリテーターを含めた登壇者の方々が何度となく言っていた、「個を大切にしていく」「それぞれの特性を最大限に活かしていく」ということが、ジェンダー平等を越えたところで真に女性が活躍していくためのベースであり、それを突き詰めていくことが結果的に男女の格差を埋めていくのではないかと感じました。
以前ジェンダーレスコスメの記事でも書いたとおり、大事なのは自分を大切にすることであり、自分を損なおうとして来るものに対して、疑問をもち、行動していくこと。その積み重ねが、結果としてジェンダー格差を埋めていくのだと思います。



■執筆:contributing editor  Chisa MIZUNO 
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