若者の間で叫ばれる「気候正義」とは 企業はどう取り組めるのか

(2022.3.23. 公開)

#気候正義 #気候変動 #サプライチェーン #社会課題解決

「気候正義(クライメート・ジャスティス」ということばを聞いたことはあるでしょうか?気候変動と正義を結びつけた考え方で、海外や日本の若者を中心に声を挙げる人が増えています。今回は、気候正義の概念や企業の気候正義への取り組みを紹介していきます。

気候正義(クライメート・ジャスティス)とは何か



気候正義とは、気候変動を引き起こす要因を主に作ってきた層と、気候変動による負の影響を大きく受ける層が異なるという不公正な状態を解消していこうという考え方です。例えば、途上国に生きる人や貧困層、私達の子孫は、自らの排出量が小さいにも関わらず気候変動の影響を大きく受けることになります。

深刻な干ばつが続くマダガスカル

インド洋の国マダガスカルでは深刻な干ばつが続いており、気候変動による初めての飢饉になる恐れがあると言われています。というのも、飢饉は紛争地域で発生するのが一般的だからです。マダガスカルでは、数年前から極端に雨が減少し国連によると約130万人が食糧不足に陥っていると言われています。

気候変動による災害や気候変化による影響は、農林水産業など第1次産業の占める割合が多くインフラ整備の追いついていない途上・新興国において顕著に表れます。

低所得者層が多く犠牲になったハリケーンカトリーナ

2005年にアメリカを襲ったハリケーン「カトリーナ」では低所得の人々が多く犠牲になったため人権問題にも注目が集まりました。事前の避難勧告が出ていたにも関わらず、自動車を持っていなかったためもしくはガソリンを購入する資金を持たなかったために逃げ遅れたとも言われています。

世界の個人消費による温室効果ガスの排出量を見てみると、約10%の最も裕福な富裕層が全体の約半分を排出しており、最も貧しい50%の貧困層は約10%の排出です。

この他、将来生まれてくる世代や社会的少数者も気候変動の影響を受けやすい存在です。このように、気候変動の要因となる温室効果ガスの排出量が少ないにも関わらず、その影響を大きく受ける人々が多く存在するという構造に対して焦点をあてたのが気候正義です。

気候正義と企業

ここからは、企業が気候正義に取りくむことが必要とされている背景や具体的な企業の事例をみていきます。

訴訟リスクの増加



2019年にロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのグラサム研究所が発表した報告書によると、過去約20年間で気候変動をめぐる世界の訴訟件数は1300件以上にもなると言われています。多くは政府を相手取るものですが、中には企業を相手に訴訟を起こした案件もあります。

例えば、2015年にはペルー山岳地帯のパルカコチャ湖の下流に住む農民が、氷河湖が決壊する恐れがあるとして、ドイツエネルギー企業RWEを相手に訴訟を起こしました。一審では因果関係が認められませんでしたが、控訴審では世界のCO2排出量のうち、被告の排出する0.47%分は責任があると審理を明らかにしました。また、日本でも電力会社等に対して地域住民が提訴を起こした事例もあります。このように今後世界的に気候変動に関する訴訟が増加すると考えられます。

欧米と比較して日本では、気候変動に気候正義を絡めて語られることは少ないのが現状です。しかし、若者を中心に気候正義を求める声は今後も増加するでしょう。

企業の取り組み

気候正義に取り組む、というと難しいと感じる方も多いかもしれません。しかし、企業が取り組めることは、実は色々あります。まずは、気候変動のそもそもの原因となっている温室効果ガス削減に取り組むことが挙げられます。その他にも例えば、
・温室効果ガス削減対策の目的に気候正義の視点を入れる
・サプライチェーン上に、気候変動の影響を大きく受ける層がいる場合はサポートする
・気候変動の影響を大きく受ける人々を支援する団体に寄付や支援をする
などがあります。ここからは、いくつか事例をご紹介します。

「気候正義」という言葉を広げる
海外の事例にはなりますが、アメリカのアイスクリームブランド「ベン&ジェリーズ」は、気候正義のページを設け、気候変動に対して世界のリーダーが取り組むよう署名を募っています。ベン&ジェリーズは、これまでも気候変動だけでなくレイシズム、LGBTQ、政治に対して声を挙げてきました。このように企業が気候正義を掲げることは、気候変動による人権的側面に光を当てることに繋がります。



(画像引用:Flavours We Could Lose to Climate Change│Ben & Jerry’s

日本では「気候正義」を掲げている企業はあまり見つかりませんでしたが、京都府の電力小売事業会社たんたんエナジー株式会社では、事業を通しての気候正義の実現を掲げています。

気候変化の影響を受ける農家をサポートする
日本でもおなじみのキーコーヒーでは、コーヒー農家が気候変動に対応できるようコーヒー豆の新品種の開発に取り組んでいます。コーヒーは気候変動による気温上昇の影響を受けやすく、2050年にはアラビカ種*コーヒーの栽培適地が約半減すると言われています。栽培農家やコミュニティもこれにより大きな影響を受けることが予想されます。

キーコーヒーは、インドネシア・スラウェシ島のトラジャの山岳地帯で40年以上に渡り直営農園を営んできました。「長年寝食をともにしたインドネシアのコーヒー農家の生活を守りたい」という想いを持ち、気候変化に耐えうる新品種の開発や標高の高い場所への栽培地の移動などに取り組んでいます。

*世界で生産されているコーヒー豆のうち70-80%を占める

寄付により気候正義を支援する
日本企業も多く支援している「1% for the Planet」という非営利団体があります。パタゴニアの創業者らが2002年に立ち上げた団体で、自然環境保護などに取り組む団体に寄付することを目的に作られました。寄付先の分野として気候変動も含まれており、企業や個人は売上の1%を寄付することで、気候変動の影響を受けやすい人々を間接的にサポートできます。



例えば寄付先の1つであるイギリスの団体「Tree Sisters」では、1% for the Planetのサポートによりこれまでに6カ国の熱帯林で400万本以上の植林を行ってきました。Tree Sistersによると、女性は男性よりも気候変動の影響を不当に受けやすいことが分かっています。Tree Sistersは、女性の参画やリーダーシップを促すことにより、気候変動など社会課題に対してレジリエンスのあるコミュニティづくりに貢献しています。

気候変動は始まっている

気候正義というと難しい印象を持ちますが、最初の方で見たように気候変動はすでに起きておりその影響を受けている人がいるという状況をまずは知ることが大きな一歩ではないかと思います。気候変動の根本原因である温室効果ガスを減らしていくことに加え、気候変動の影響を受けやすい人々をサポートすることが、今後企業に求められてくるのではないでしょうか。

【参考サイト】
干ばつ続くマダガスカル 気候変動による初の「飢きん」おそれ │ NHK
ハリケーン「カトリーナ」の波紋 │ニッセイ基礎研究所
EXTREME CARBON INEQUALITY │ Oxfam
増える気候変動訴訟 ペルー農民が独電力を訴える │日本経済新聞
Climate Justice | Ben & Jerry's
私たちが目指すもの │たんたんエナジー株式会社
気候変動でコーヒー安定供給に危険信号 最新対策など「産地のいま」を熱弁 キーコーヒー川股一雄副社長 │食品新聞
1% for the Planet
2019 ANNUAL REPORT │ 1% for the Planet

■執筆:contributing editor Eriko SAINO
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