【 広告電通賞 SDGs特別賞 】生活者視点から生まれる、 貝印のサステナブル・ブランディング好事例

(2022.3.8. 公開)

#広告 #ルッキズム #ジェンダー #ボディポジティブ #Z世代 #脱プラスチック


総合刃物メーカーの貝印株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:遠藤 宏治)の広告
「バーチャルモデル広告『剃るに自由を』」が、第74回広告電通賞 SDGs特別賞 を受賞した。

サステナブル・ブランド国際会議2022 横浜(2022年2月24~25日)で開催されたセッション「サステナビリティ広告にみるクリエイティブの可能性」では、この広告をテーマに、第74回広告電通賞 SDGs特別賞 選考委員長を務めた株式会社NTTデータ 金田晃一氏がファシリテーションを務め、貝印株式会社の齊藤淳一氏、畑谷友香氏が登壇。さらに、「LUX Social Damage Care」や「ゴディバ 義理チョコをやめよう」等のクリエイティブで知られる原野守弘氏を交えてパネルディスカッションが行われた。



(画像出典:貝印株式会社 プレスリリース、2020年)

貝印株式会社は、60代以上では約95%に認知されている創業100年以上の総合刃物メーカーだが、
20代の認知度は30%を下回っていることが課題だった。

サステナビリティあるいはエシカル消費への意識がZ世代あるいはミレニアル世代と呼ばれる若者たちへアプローチするには、ただ商品の価格や機能を訴求するだけでは見向きもされない。

そんな若者が日常のなかで感じる関心事や困りごとは何かを読み解き、貝印ならではの強みや広告で発するメッセージとリンクさせることを意識した。

広告は MAGNET by SHIBUYA109 ビッグボードや地下鉄電車広告に掲示し、さらに貝印公式SNSアカウント、MEMEの公式Instagramアカウントでは、剃毛・脱毛に関する価値観の多様性を代弁したメッセージを投稿。若者とのタッチポイントを戦略的に設定した。

「女性は体毛を剃ってツルツルにするべき」「男性は剃らずに残しておくべき」といった偏った風潮や、ジェンダー、ルッキズム、ボディポジティブなどの世界的なソーシャルイシューにも着目。15歳から39歳の男女を対象に貝印が独自に実施した「剃毛(ていもう)・脱毛に関する意識調査」から浮かび上がる課題も的確にすくい取り、「ムダ毛を剃るか剃らないかは本人の自由である」というメッセージを発信した。


電通広告賞 SDGs特別賞

・広告コミュニケーションでサステナブルな社会の実現を目指す

2020年に発表された第73回広告電通賞では、国内の総合広告賞としては初めて、SDGsをテーマにした賞である「SDGs特別賞」が設けられた。企業のみならず、社会全体に急速にひろまるSDGsへの認知と、興味・関心の高まりを背景に、広告コミュニケーションを媒介にサステナブルな社会の実現を目指した広告主をたたえるための特別賞だ。

広告電通賞の運営は、公的機関である「広告電通賞審議会」によって行われており、取り扱い広告会社・制作会社にかかわらず、すべての広告主に応募資格がある。

広告主・媒体社・クリエーター・有識者ら約500名から構成される広告電通賞審議会の選考委員によって選考が行われ、これほど多くの選考委員を組織し、幅広い領域を網羅している賞は世界で見ても数少なく、日本の広告界を代表する広告賞として高く評価されている。

第75回広告電通賞の応募受付は 2022年3月1日から開始しており、応募要項や応募については専用ホームページから確認できる。


・バーチャルヒューマン起用によるリスクマネジメント

2021年 SDGs特別賞、貝印の「バーチャルモデル広告『剃るに自由を』」は、古い固定概念を打ち壊す強さをもったビジュアルとコピーで、多様な考え方に寄り添うクリエイティブが高く評価された。

SDGs特別賞 選考委員長を務めた金田氏は、以下の3点を主な評価ポイントとして挙げた。

躊躇(ちゅうちょ)しがちなイシューに取り組んだ上で、インパクトの高い広告になっていること。長期的な視点で利益を考えて制作されていること。とりわけ、バーチャルモデルを起用した点が新しいとして、起用に至った経緯ともたらす効果について話を掘り下げた。

貝印でクリエイティブを担当した齊藤氏によると、バーチャルモデルを起用した意図には「剃るか剃らないかは自分で考えてほしい」との想いもあったと話す。「二者択一のはっきりとした主張ではなく、剃らない自由もあっていいよね、というニュートラルな視点を伝えたかった。その点からも、著名な方の主義主張が影響しないほうがいいと判断した」

加えて、バーチャルモデルを起用したことにより、いわゆる著名人の不祥事等による広告取り下げのリスクも回避でき、さらにリアルの場で撮影するのが難しいコロナ禍でもスムーズに制作が進められたというメリットもあったという。



押しつけや決めつけではない、「自分で選ぶ」価値観の多様性

・剃毛・脱毛についての意識調査から見えてきたインサイト

貝印はこの広告を制作するに先立ち、全国の15~39歳の男女600名を対象に「剃毛・脱毛についての意識調査」を実施した。この結果を見ると、「剃毛や脱毛に対する考え方に束縛感や違和感を感じる」と回答した人が36.5%という結果だった。
特に10代では男女ともに4割を超え、20代女性も39%とほぼ4割に迫る。10代では男女ともに剃毛・脱毛の考え方に束縛感や違和感を感じているのに、20代に入ると男女では感じ方に差があらわれはじめ、30代になるとその差はさらに広がる。




【貝印株式会社調べ】(画像出典:貝印株式会社 プレスリリース、2020年)


また、別の設問で「ファッションや髪型のように、剃ることは自分自身で自由に決めたい」と回答したのは実に90.2%にものぼり、自分自身について自由に意思決定したいという切実な思いが圧倒的多数を占めた。

外見のコンプレックスをあおるネガティブ広告、コンプレックス広告が増え、日ごろ目にするWEB広告や交通広告でそうした表現にさらされている世代の、「こうあらねばらならない」という社会的な価値観の押し付けに対する抵抗と見て取ることもできるだろう。

・問われるのは演出ではなく、いかに感情を動せるか

カミソリを作るメーカーでありながら「剃らないのも、あなたの自由」だと発信するメッセージは、商業的な枠組みを超えて、女性の意思を尊重し、エンパワーメントする共感コミュニケーションを生み出している。

広告掲出後に、女性の顧客からお客様相談室に届いたメールには「女性の肌はツルツルであるべきとの価値観の押し付けに悩んでいたが、広告を見て救われた、涙が出た、という内容が感謝の言葉と共に書かれていた。

「こうあるべき」にとらわれて、傷ついたり違和感を感じる人たちに対して、「そのままの自分でいい」という多様性を積極的に推奨する企業姿勢をはっきりと示したからこそ、人の感情にダイレクトに訴えかけ、心を揺さぶる広告を作り出すことができたといえる。

反対に、社会に多く存在する「こうあるべき」というプレッシャーや偏った価値観を顕わにする表現や演出は、受け入れられないばかりか、炎上のリスクを高めてしまうことは改めて認識したい。


Z世代よりもさらに若い世代とのコミュニケーション設計

・FIRST SHAVE BOOK™

貝印は「#剃るに自由を」の第2弾プロジェクトとして「FIRST SHAVE BOOK™(ファーストシェイブブック™)」という冊子を作成した。初めて剃毛する小中学生向けに、体毛に関する正しい知識や剃り方を伝えるためのツールで、これも顧客の声をきっかけに生まれたという。


(画像出典:貝印株式会社 プレスリリース、2020年)


特設サイトに掲載されている動画によると、「自分の毛が気になる」と答えた小中学生は94%。そんな彼らにむけて「年齢・性別を問わず、すべての人が、はじめてのカミソリを正しく、たのしく使えるように」とエールにも近いメッセージを送っている。

2021年11月に渋谷でこの冊子を数量限定で無料配布し、特設サイトからはダウンロードも可能だ。複数の学校から「冊子を生徒たちに配りたい」という要望も寄せられている。
これをきっかけに、貝印が実際に学校に出向いて出張授業をしたり、体毛についてレクチャーする特別授業をしたりできないかという話もあり、少しずつ活動が広がっているという。

・これからを担う次世代へのアプローチ

「#剃るに自由を」の広告出稿後、貝印のブランド認知調査では20代における認知度が10%ほど向上した。
認知が拡大しただけでなく、新卒採用で貝印を応募した学生のほとんどが「広告をみて共感しました」と言っていたとのことで、採用の現場でも好影響があらわれている。

少子化に伴い、いい人材をどのように確保するかは企業の存続にかかわる課題だ。若い世代の「共感」を獲得する良質なコミュニケーション、企業としてどのような社会的イシューにコミットするかを明示するコーポレートブランディングは、ますます厳しさを増す採用市場で優位性をもたらす効果にもつながるのだ。



脱プラスチックとSDGsをコンセプトにした商品開発

貝印は、広告コミュニケーションのみならず、サステナブル・プロダクト・ブランディングとも言うべき商品開発にも注力している。



(画像出典:貝印株式会社 プレスリリース、2022年)


従来比98%のプラスチック部分を削減し「脱プラスチック」を謳った「紙カミソリ®」は、2021年4月に公式オンラインストアにてテスト発売を実施したところ、販売開始から3日で完売した。

さらに「2021年度グッドデザイン賞」、2021日本パッケージングコンテストでは最高賞にあたる「経済産業省産業技術環境局長賞」など複数の賞にも輝いた。

「日々使う商品であるからこそ環境に配慮した製品を使いたい」という生活者のサステナブルやエシカルなライフスタイル志向、SDGs達成にむけた社会機運の高まりを受けて、時代の要請に沿った商品開発が奏功した好事例と言えるだろう。



(画像出典:貝印株式会社 プレスリリース、2022年)


また、紙であるという製品特長を生かし、自由度の高いグラフィック表現ができる点もマーケティングコミュニケーションツールとして高いポテンシャルを感じさせる。

バイオマスインクを採用し、好きな色やデザインを自由にレイアウトすることでオリジナル紙カミソリ®の製作が可能だ。企業のロゴを入れたノベルティや、地方自治体とのコラボレーションで「ご当地」デザインを企画するなど、さまざまな展開が考えられる。

実際に、雑誌『VOGUE JAPAN』がリードする新プロジェクト「VOGUE CHANGE(ヴォーグ チェンジ)」とのコラボレーションでは、環境・ダイバーシティにフォーカスしたテーマの象徴としてグラデーションを紙カミソリ®にプリントし、参加者へプレゼントした。



生活者の悩みや困りごとを見つけ、生活者視点でサステナビリティを考える

このように、生活者が求めているものや時代・社会からの期待や要請に応えるなかで、サステナブル・ブランディングを軸に企業価値を高めている貝印だが、すべての源泉は「野鍛冶の精神」という企業理念だという。

使う人の用途や癖までを理解し、ものづくりに活かす「野鍛冶の精神」は、目の前のお客さまと対話をしながら一人一人の用途に合わせたものづくりを行うという企業姿勢として今に受け継がれている。

「貝印のことを好きになってくれる人を増やしたい」と、貝印 広報宣伝部長の齊藤氏は話す。「広告も、紙カミソリも、お客さまの声をもとに作っていたら、結果的にサステナブルな取り組みとして評価されていた。日用品に対する価値観は人により様々なので、これからも多様な選択肢を提案したい」

価格の安さや機能というスペックではなく、企業のフィロソフィーやそれに基づく取り組みに共感してファンになってもらうことが、これからのマーケティングにおいては何よりも大事になってくる。

そのためには目先の利益は追わない。ブレずに、生活者の声にしっかりを耳を傾け、応えていく。
その声から、あるいは声なき声からも、社会課題やニーズを敏感に察知して、共感を生むコミュニケーションを通じて、よりより社会を一緒につくっていく。そのようなアプローチこそが、長期的にみると企業へも大きな利益をもたらすだろうことを貝印の取り組みは教えてくれる。




【参考サイト】

広告電通賞

『ムダかどうかは、自分で決める。』8月17日(月) グラフィック公開
剃毛・脱毛に関する価値観の多様性について、バーチャルヒューマンMEMEが代弁

『#剃るに自由を』をテーマにコミュニケーションを開始 バーチャルヒューマンMEMEが価値観の多様化を代弁

貝印『#剃るに自由を™』コミュニケーション第2弾始動 紙カミソリ®が付いた、正しい剃り方や毛の知識を学べる本『FIRST SHAVE BOOK™(ファーストシェイブブック™)」』が11.8配布開始
「はじめてを、ただしく たのしく。」 毛の剃り方への理解・知識不足で悩む小中学生へ。

貝印 テスト販売時に3日で完売した、脱プラスチック※1とSDGsをコンセプトに開発した世界初※2の「紙カミソリ®」を2022年3月22日より全国のローソン店舗にて先行発売開始

使い捨てカミソリ国内シェアNo.1※1の老舗刃物メーカー・貝印 脱プラスチック※2とSDGsをコンセプトに世界初※3の「紙カミソリ™」を商品化!

環境・ダイバーシティにフォーカスした『VOGUE JAPAN』の新プロジェクト「VOGUE CHANGE(ヴォーグ チェンジ)」とグローバル刃物メーカー貝印の「紙カミソリ®」がコラボレーション


■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
#アート #くらし #哲学 #ウェルビーイング #ジェンダー #教育 #多様性 #ファッション


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