【 多様性 / DE&I / 多文化共 】「ちがう」ことが価値であり、企業や社会のよりよい発展へ

(2022.2.19.公開)


#ダイバーシティ&インクルージョン #DE&I #障がい者雇用 #LGBTQ #インターナルブランディング


サステナビリティ推進において「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)」「多様性」は、企業のフィロソフィーが色濃く反映されるテーマと言えるかもしれない。
センシティブな領域を含む様々な課題やリスクをはらむテーマだけに、時代の要請は肌身で感じていても、実際にはなかなか実践しづらいとの本音を抱える企業も多い。とくに中小企業では導入が遅れている実態も、調査から見えてくる。

2018年にエン・ジャパン株式会社が行った「企業のダイバーシティ」実態調査では、「自社でダイバーシティ(多様性)推進の取り組みを実施していますか?」との問いに対し、実施していると答えた企業は全体の約1/3にとどまった。




(画像引用:エン・ジャパン株式会社「企業のダイバーシティ」実態調査、2018年)


また企業規模別でみると、実施していると回答したのは「1,000名以上」(58%)が最多となり、企業規模が小さいほど実施率が低下していくことが分かった。

「多様性」「ダイバーシティ」をどのように捉え、実践していくか。それはとりもなおさず、長期的=サステナブルな視点から、企業が何を重要と捉えているかと同義だ。

性別、障がいの有無、性自認や性的指向、年齢や国籍といった属性だけではなく、異なる背景や経験・能力を尊重し、互いを認め、ひとりひとりの価値を存分に活かすことが会社の持続的な成長につながると考えるならば、多様化(ダイバーシティ)の推進はサステナビリティ経営の根幹を成す重要な要素となり得るだろう。




丸井グループ事例:他者への想像力と受容性


・マテリアリティと紐づけたインクルージョン戦略

丸井グループは、「丸井グループが考えるサステナビリティ」という4つの重点テーマのうち、2つに「インクルージョン」を掲げている。ひとつは、顧客に対してのダイバーシティ&インクルージョン。そしてもう一つは「ワーキング・インクルージョン」すなわち従業員に対するインクルージョンだ。

・ワーキングインクルージョン

丸井グループの2021年6月1日時点での障がい者雇用率は2.63%で、法定民間企業目標2.20%を上回る。本社人事部「ワーキングインクルージョン推進担当」では、障がいのあるスタッフがパソコン入力業務や、書類のファイリングなど、グループ各社の事務サポートを行っており、グループ各社の業務の生産性向上にもつながっているという。

特例子会社である株式会社マルイキットセンターは、障がい者の新たな雇用を創出する目的で、1992年に設立された。以来20年以上にわたり、障がい者の雇用促進と職域の開発をおこなう。



現在はグループで使用する用度品(包装紙、事務用品)の「管理・出荷業務」や商品(洋服・雑貨類)の「検品業務」、グループ各社の事務作業や印刷・発送といった「事務サービス業務」、さらにはグループ社員の名刺や社員証の作成など、職域を拡大中だ。
運営テーマも「障がい者の雇用の促進・定着」から「仕事を通じた成長」へと拡大し、障がいの特性や個人の能力に応じた仕事やステージを準備することで、やりがいを持ち末永く自立して働ける環境を整備する。

・小さな配慮と工夫を積み重ねる

マルイキットセンターでは、知的障がい者32人、身体障がい者3人、聴覚障がい者10人と健常者11人、あわせて56人(2016年10月1日現在)が働いている。さまざまな障がいのある彼らが、どのように仕事上の障がいを解決し、互いを理解し認め合って共に働いているのか。

日々の業務に必要なコミュニケーションにおいては、共通言語である手話や指さしボードを活用する。仕事のなかで感じる課題に対しては、各々が小さな工夫や配慮を積み重ねて、仕事がスムーズにはかどり生産性が向上しているという。
優れたアイディアには「小さな配慮賞」が贈られ、認め合いたたえ合う風土をはぐくむ。




・LGBTQのダイバーシティの推進

丸井グループは障がい者だけでなく、高齢者そしてLGBTQのダイバーシティ推進にも積極的に取り組んでいる。

とりわけLGBTQに関しては、社員に対する研修が出色だ。基本的な知識のインプットにとどまらず、各事業所での具体的アクションに応じて当事者による接客ロールプレイングなどが盛り込まれた、実践的かつ「自分ゴト化」できる内容となっている。東京・関西・九州で開催されるレインボープライド(LGBTQ啓発イベント)へも参加する。

さらには、LGBTQ関連を含む仕事や自分、家族についてなど、幅広い相談ができる社外相談窓口を設置。社内でも、LGBTQ当事者ならびに当事者と働く同僚も対象に社内相談窓口も設けている。



他には、配偶者向け人事制度の適用対象を、法律婚のみならず異性事実婚や同性パートナー婚にも拡大。
従来の「配偶者」の呼称を「パートナー」に変更し、休暇や手当、福利厚生などの制度を適用する。
労働協約においても、「差別待遇の禁止」に「性自認、性的指向を理由に差別的取扱いをしない」という文言を追加した。


発達障がい等に対しての雇用施策の見直し

企業の障がい者雇用における課題について、2021年に厚生労働省がまとめた考察がある。これによると、雇用数・雇用率は過去最高を更新するも、伸び率は鈍化。2000年時点の集計では、法定雇用率達成企業の割合は全体の48.6%と、半数を下回る結果だった。

雇用者を障がい種別で見ると、身体障がい者の雇用数が最も多いものの、対前年増加率は0.5%にとどまる。一方、精神障がい者の雇用数は前年と比べ12.7%増加。障がい者労働者市場の傾向である「精神障がい者急増、身体障がい者横ばい」が顕著だ。


(画像引用:厚生労働省「民間企業による障害者の雇用状況」,2021年)


雇用率の伸びが鈍化している大きな理由として、従来の基準による採用や雇用施策が難しくなっていることが挙げられる。
これからは、これまでの常識にとらわれな雇用施策の見直しが求められてくる。
たとえば、新たな職域の創出や採用対象(障がい種別、採用地域)の拡大、テレワーク・リモート・在宅勤務といった働き方の導入や地方拠点での雇用、特例子会社制度等の集合配置雇用などが検討されるべきだろう。

精神障がいや若年層の発達障がい者は今後も増加すると見られており、法定雇用率達成や人財活躍の観点からも、精神・発達障がいの受け入れをいかに拡大していけるかが重要になると、厚生労働省の報告はまとめる。


障がい者への合理的配慮とは

2016年4月からスタートした「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の認識向上を目的に、内閣府のホームページには「合理的配慮サーチ」という検索機能がある。ここでは、障がいの種別や生活の場面から「合理的配慮の提供」事例をさがすことができる。
障がいの種別は、全般、視覚障がい、聴覚・言語障がい、盲ろう、肢体不自由、知的障がい、精神障がい、発達障がい、内部障がい・難病等の9つのカテゴリーに分けられている。

この中からたとえば「発達障がい」への合理的配慮としては、以下の内容が例示される。

・書籍やノートなどを用いた読み書きに困難があるときには、タブレットなどの補助具を用いることができるようにする
・感覚過敏があるときには、それを和らげるための対処(例えば聴覚過敏に耳栓使用)を行えるようにする
・作業手順や道具配置などにこだわりがあるときには、一定のものを決めておくようにする




(画像引用:内閣府「合理的配慮等具体例データ集」)


また、この「合理的配慮サーチ」内の参考事例集では、各地方自治体が行っているアンケート、ガイドラインやハンドブックも紹介されている。

なかでも仙台市が2014年に実施した調査「差別が感じられた事例/配慮が得られた事例」では、筆談、相手のペースや状況にあわせて時間や順番を融通する、駐車場や公共インフラのアクセシビリティなど生活のさまざまな場面で、障がい者がどんな配慮を求めているか(あるいは、どんな配慮を受けてうれしかったか)がリアルな言葉で記されており、貴重なインサイトが得られる。


企業姿勢がアウター&インターナルブランディングに

冒頭で挙げた調査「企業のダイバーシティ」実態調査で、「多様性のある人材の採用」に取り組んでいると回答した企業に対し、積極的に採用を進めている人材を聞いた結果、最も多かったのは「女性」:79%、最も少なかったのは「LGBT(原文ママ)」:12%だった。


(画像引用:エン・ジャパン株式会社「企業のダイバーシティ」実態調査、2018年)


ジェンダー格差、女性活躍というテーマも、まだ細かなレイヤーでは多くの課題を孕んでいるとはいえ、セクハラやワンオペ育児、保育園問題など、さまざまな問題提起が大々的になされたことにより、課題の認知と解決への意識が高まった結果と言える。
一方で外国人や障がい者については約半数、さらにLGBTQについてはまだまだ「推進」と言うには遠く及ばない現状だ。


・多様性は可能性


ダイバーシティ推進についての具体的な悩みとしては、次のような声が聞かれる。

「経営陣が高齢で、固定概念が強く残っているため、ダイバーシティを推進しにくい」

「該当する社員との関係性が高くなった時の意識や行動の重要性を(既存社員に)理解してもらわないと、真のダイバーシティは進まないと感じる」

「トイレの整備など、インフラ面で対応が困難な場合が多く、人事側だけで対応できないことが多い」

「BtoCのビジネスなので、やはりお客様など周囲からの評判は気になってしまう」


しかし、冒頭で紹介した丸井グループ以外にも、障がい者雇用に積極的に推進する企業もある。
「多様性は可能性だ」をキャッチフレーズに障がい者雇用に取り組むトッパン・フォームズ株式会社は、2018年に「障害者雇用職場改善好事例」の最優秀賞に輝いている。

障がい者の雇用現場における課題を発掘し、適切な解決策を検討するために、専門的なスキルをもつ社員で構成される「課題発掘チーム」を本社に組織し、業務改善を実施。また、定期通院のための休暇制度と有給の一斉休憩時間を導入し、精神障がいのある社員が安定して就労できる環境を整備したことなどが評価された。

総務人事部の玉井人事部長によると、精神障がい者の雇用に取り組みはじめたのは、社員のひとりが精神保健福祉士の資格を取得し、その資格を「会社で活かしたい」と名乗りを上げたのがきっかけだったという。

実際に同社で働いている社員も「障がいをオープンにして働くと、とても働きやすい。障がいを隠して働くと、なぜ自分がこの作業ができないかを同僚に理解してもらうのが難しい。50分おきに10分間休憩時間があるのがありがたい。これは、ほかの会社ではあまりないこと」だと話す。




・work with Pride 2021 ベストプラクティス

企業内で「LGBTQ」の人々が自分らしく働ける職場づくりを進めるための情報を提供し、各企業が積極的に取り組むきっかけを提供することを目的に、2015年から『work with Pride』というカンファレンスならびに関連イベントが開催されている。

2021年は300の企業・団体の中から、株式会社INPEX、スターバックスコーヒージャパン株式会社、株式会社ファミリーマート、3大メガバンクグループ(株式会社みずほフィナンシャルグループ、株式会社三井住友 フィナンシャルグループ、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ)の4つの取組がベストプラクティスを受賞した。


(画像引用:work with Pride PRIDE指標2021)


スターバックスコーヒージャパン株式会社のベストプラクティス「レインボー学校プロジェクト」は、スターバックスで働くLGBTQ当事者が、自分の経験を語り、生徒たちと多様性について考えるというもの。

スターバックスは『STARBUCKS STORIES JAPAN』というオウンドメディアのなかでも「先入観や思い込み、偏見といった心のフィルターのない、すべての人が認め合い、多様性を尊重する「NO FILTER」の輪を広げるために、アクションを続けていきます」というメッセージを発信している。


「誰1人取り残さない」とは、社会での居場所をつくること

・他者への想像力と受容性

企業におけるダイバーシティはこれからますますひろがっていくだろう。

企業がダイバーシティ採用を推進するには、異なる価値観や見た目を尊重し認め合うだけでなく、職場の環境や制度が適切に整備されていくことも求められる。
たとえば、小売業であれば制服をはじめ服装に関するルールをどのように定義するか。ジェンダーレスで使用できるトイレや更衣室が整備されているか。あるいは、宗教上の習慣に配慮した社内設備や社員食堂のメニューはどうするか。高齢者や障がい者にとって使いやすいユニバーサルデザイン、バリアフリーへの対応も必要だ。



確かにこうした対応には少なからぬコストがかかる。そのため中小企業では導入しづらいというのも一理あるかもしれないが、サステナビリティに関しては短絡的な目先の損益で判断するのではなく、長期的視点にたてば、必要性や妥当性が見えてくるだろう。


・D&Iが成長戦略のキーポイントに

コロナ禍で「同調圧力」という言葉が注目されたように、類似性の高い人ばかりが集まる組織では、真に多様な意見や気づきが生まれず、似たり寄ったりの考え方に偏ってしまう恐れがある。このような組織に、VUCAの時代を生き抜き、成長していくアイディアや推進力が生まれるだろうか。


(画像引用:厚生労働省「少子高齢化と労働力供給構造」


データからも明らかなように、少子化に伴い労働人口が激減していく。
多様な価値観や気づきをもたらし、企業のイノベーションや成長を牽引する人財の確保は、業種業態や規模を問わず急務の課題と言えるだろう。獲得戦はますます激化することは想像に難くない。リスクと言うならば、この人財確保の問題に乗り遅れることこそが企業の存続において致命的となり得る。

事例で紹介した以外にも、経営や採用におけるダイバーシティ&インクルージョン推進に注力する企業は増えつつある。働きたいと思う人が働きやすい環境を整え、人財の可能性が最大限発揮されるような雇用や育成のあり方を模索し、CSV戦略に組み込んでいくことが、企業のサステナブルな成長への道を分かつ分岐点になるのではないだろうか。




【参考サイト】

「企業のダイバーシティ」実態調査、エン・ジャパン株式会社、2018年

丸井グループ

丸井グループ「多様性」を活かす組織づくり

互いを理解し認め合い 一人ひとりがイキイキと働く

合理的配慮等具体例データ集

令和3年 障害者雇用状況の集計結果

差別が感じられた事例/配慮が得られた事例、仙台市

精神障害・発達障害のある方の雇用促進・キャリアアップに取り組んだ職場改善好事例集(平成30年度) トッパン・フォームズ株式会社

work with Pride 2021

スターバックス レインボー学校プロジェクト


■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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