チョコレートを通して見る人権問題とジェンダー平等への取り組み


( 公開日:2021.1.28. )

#児童労働 #ジェンダー平等 #フェアトレード #森永製菓 #️ゴディバ #チョコレート



日本でバレンタインデーにチョコレートが贈られるようになったのは、菓子メーカーのマーケティングによると言われている。*1
その後このイベントは定着し、そしてここ数年はジェンダー平等の浸透と呼応するように形を変えながらも、毎年2月14日が近づくとギフト業界はチョコレートの話題で賑わう。

高級チョコレートといえば、フランス、ベルギー、スイスをはじめとしたヨーロッパのブランドが有名だが、チョコレートの原料であるカカオ豆の多くは、アフリカや南米諸国、そしてインドネシアといった後進国で生産されている。*2



( 出典:国際連合食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO)) - FAOSTAT - Production, Crops, Cocoa beans(2021年4月)*2 )


先進国で華やかな高級ギフトや贅沢品へと姿を変えるカカオだが、その生産地では児童労働や生態系破壊などの問題を引き起こしていることもある。

外務省が発表している上記の表では 世界で最もカカオを生産しているのはコートジボワールだが、日本に流通しているチョコレートに使われているカカオの約75%はガーナ産だ。ガーナは政府がカカオの輸出を管理しているため、というのが理由のようだ。
カカオ農家は規模が小さく 貧しいため、子供の労働力に頼らざるを得ない。そのため子供は十分な教育を受ける機会を失い、結果として貧困のループを断ち切ることが難しいという状況を生んでいる。また、まだ体が発育中の状態で重労働を行なったり、農薬や殺虫剤などの使用によって、健康に影響を及ぼすこともあると言われている。

チョコレート消費国では、そのような現実を変えていくために企業が活動に乗り出している。日本での事例を見てみよう。


森永製菓が2008年から続ける児童支援「1チョコ for 1スマイル」




( 画像引用:1チョコ1for1スマイル, 森永製菓 )

森永製菓が2008年から行っている「1チョコ for 1スマイル」は、子どもの権利を推進する国際NGO「プラン・インターナショナル」と、児童労働問題の解決を目指す日本のNGO「ACE(エース)」とパートナーシップを結び、カカオ生産国であるガーナとカメルーンなどに向けた活動を行なっている。年に一度の特別期間には、森永製菓の対象商品が購入されると、1商品に対して1円が彼らの支援へと使われる。これによって、子供たちの教育や、カカオ生産者の自立を支援している。

後進国支援において大切なのは、単に日々の生活に使うための金銭を寄付するだけではなく、彼らが自分自身で金銭を生むことができるような状態を作るという、本質的な支援が必要だ。単に寄付金を渡しても、それは使い終わればまた同じ状況に戻るだけで、彼らの長期的な支援にはならない。それゆえ、支援においては教育がとても重要であり、知識を身につけることによって、彼らは自らの力で彼らのコミュニティの外から収入を得て経済を回せる状況へとつながるのだ。


フェアトレード専門「ピープルツリー」のチョコレートを取り巻く活動


( 画像引用:フェアトレードチョコ ピープルツリー

長年フェアトレード商品を専門に取り扱っている「ピープルツリー」では、世界各地の小規模農家を支援しながら質の高いチョコレートを提供している。
正当な価格での取引によって生産者の生活が成り立つよう配慮し、大部分の生産者に30%〜50%の代金を前払いすることで、農家が金利の高い現地のローンに頼らずに自立できるよう支援している。

フィリピンでは子供たちへの教育や従業員の健康管理、ドミニカではカカオの品質向上のための研修や無料の健康診断を行い、子供たちへのインターネット教育を支援。パラグアイでは子供たちへの教育やスポーツ振興を行い、ペルーでは学ぶ機会の創出と無料健康診断などによってより良い収入を得られる機会を生み出し、そしてボリビアでは医療保険制度や年金基金、学費援助などを実現した。*3


情熱でカカオ生産者とガーナ政府を動かしたブランド「MAAHA」


( 画像引用:MAAHAマーハチョコレート )

また、実際にガーナへ赴き現実に衝撃を受けた日本人が、強い想いを持ち行動し、2021年に22歳で立ち上げたチョコレートブランドがある。

CEOである田口愛氏は19歳で単身ガーナへ渡航し、チョコレートを生み出す現地の実情に衝撃を受けた。
その後彼女は、彼らの生産するカカオの品質を高めるべく自ら知識を学び、生産者に伝えて品質を向上し、クラウドファンディングで現地にチョコレート工場を建設した。またカカオの流通を取り仕切っているガーナ政府と交渉を繰り返しながら、生産者のカカオのクオリティに見合う利益を生産者に還元するための仕組みを実現した。*4

このブランドの背景にあるストーリーはメディアや百貨店を動かすのに十分だった。名だたるビジネス誌やTV番組がこのMAAHAというブランドと田口氏を取り上げ、百貨店は商品の取り扱いを始めた。持続可能な世界を実現したいという強い想いや行動が人を惹きつけ、選ばれる存在となったのである。


日本企業の取り組みへの期待

しかしながら、前述の森永を含む日本の大企業のサステナビリティへの包括的な取り組みは、世界基準で評価するとまだこれからといった状況であり、厳しい評価を受けている。*5

国際環境NGOマイティ・アース(米)、ビー・スレイバリー・フリー(豪)、グリーン・アメリカ(米)、インコタ(独)、全米野生生物連盟(米)は、世界最大手のカカオ取引会社やチョコレートメーカーおよび小売会社を対象とした調査「世界チョコレート成績表」を発表している。
この成績表は以下の6項目を採点した上で、総合評価を行なっている。*6

・人権リスクの特定
・トレーサビリティと透明性
・生計維持所得
・児童労働
・森林破壊と気候
・アグロフォレストリー

2021年にこの成績表で評価された日本の企業は、不二精油グループ本社、伊藤忠商事、明治、森永製菓の4社であったが、不二精油グループ本社がかろうじて4段階評価の3と評価されたという状況であり、他の欧米企業に比べて4という最も低い評価となっている。


( 画像引用:ガーナのカカオ生産:環境と社会問題, MIGHTY EARTH )

グローバルチョコレートブランドのゴディバは2020年に業界ワーストワンという不名誉な評価を受けたが、わずか1年という期間で目覚ましい改善を果たし、中央付近までまで浮上した。日本企業にもサステナビリティ強化に期待したい。


ジェンダー平等で変わるバレンタインデー

別の視点からチョコレートを捉えた時、ジェンダー平等の観点での動きにも変化が見えてくる。日本文化に長年根付いてきた“義理チョコ”に関する動きだ。

義理チョコに頭を悩まされてきた女性も少なくないだろう。義理チョコとは、本来サポート業務を行うことが多かった女性が、表向きは上司や男性に“感謝を伝える”という目的で贈るチョコレートだ。しかし筆者が思うに、義理チョコに込められるものは感謝の気持ちだけでなく、立場的に男性より弱い女性が男性を喜ばせるための気遣いという要素を含む場合も多いと考える。
イベントとして楽しむことができれば良いが、ジェンダー平等が進むに従い、“表に立つ男性と、それを裏で支える女性“という構図は時代遅れとなりつつあり、“女性が男性を喜ばせる”ということに違和感を感じ、この習慣が薄れてきているというのは必然のように思う。



そんな実情を2018年にゴディバが明文化した。「義理チョコをやめよう」というメッセージでキャペーンを行ったのだ。チョコレートを義務感で贈るのではなく楽しい気持ちで贈って欲しい、そうでないならやめてしまったらいいのではないか、というメッセージを日経新聞に掲載した(*9,*10)。
このキャンペーンは女性の本音を浮き彫りにし、負担を感じていた女性に寄り添うアプローチが話題となった。義理チョコを贈らないという選択肢を女性に与え、社会にスムーズに受け容れさせるきっかけになったように思う。

また義理チョコは、女性だけでなく実はバレンタインにチョコレートをもらったお返しをしなければならない男性の悩みの種になっているケースもある。甘いものが苦手な男性や、義務感で渡されるチョコレートに対するお返しの金銭的的負担、お返し品のセレクトや手配・・・と、さまざまなストレスがあるようだ。ジェンダー平等の課題解決へと動く社会において、このバレンタインというイベントの形が変わっていくのも当然である。



本質的な改善を掲げた活動が社会に支持される

チョコレートについて考えた時、グローバルな人権問題と日本のジェンダー平等に対する動きが見えた。いずれもサステナブルな社会の実現において、企業ができることはたくさんある。物質的支援、仕組みを作る支援、そして人の中に存在する固定観念を変えるための啓蒙活動。
サステナビリティを推進するにあたって重要なのは、小手先の行動ではなく、本質を見定め目的を明確にし、その目的をしっかりと意識しながら何を行うべきかを組み立てることだ。本質を見失わない活動こそが、ウォッシュになることなく、社会に支持される活動へとつながるだろう。



【 参考サイト 】

*1 モロゾフ
日本のバレンタインデー文化を解説

*2 カカオ豆の生産量の多い国, 外務省

*3 People Tree

*4 ガーナで人生が変わった。22歳がカカオビジネスを変える

*5 バレンタインデーチョコレートガイド

*6 バレンタインデーチョコレートガイドの採点方法

*7 男女間賃金格差, OECD

*8 「可処分所得」とは? 低迷する日本人の給与について考える

*9 「義理チョコやめよう」賛否呼んだ広告、ゴディバの真意

 


Nagisa YOSHIDA  Sustainable Brand Journey 編集部
#ブランド #コミュニケーション #ビューティ #ダイバーシティ

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