捨てられるモノを楽しいコトへ。コスメロス問題から見る、アップサイクルの本質


( 公開日:2022.1.28. )
#コスメロス #アップサイクル #サーキュラーエコノミー

食品の廃棄問題、いわゆるフードロスについて最近よく耳にする方も多いだろう。食品は年間570万トンが廃棄されているといわれており、世間からの注目度の高まりに応じるかのように、さまざまな事業者が食品の廃棄ロス問題への取り組みをはじめている。

しかし、余って捨てられているのは、なにも食品だけではない。化粧品の廃棄、すなわち“コスメロス”もまた、身近な社会課題として注目を集めはじめている。株式会社モーンガータは、そんな廃棄される化粧品をアップサイクルして新たな価値を提供することに姉弟で挑戦するスタートアップ企業だ。


左:田中麻由里取締役 右:田中寿典社長

化粧品ユーザーの内の86.3%が捨てている化粧品を
絵具に変える Magic water


「我々は家庭などで廃棄されるアイシャドウ、チーク、ファンデーションなどを絵具化して、お絵描きやアートを楽しむ“Smink Art(スミンクアート)”を販売しています。」株式会社モーンガータ 田中寿典社長(以下、田中社長)はそう語る(以下、田中社長)。「特殊な液体“Magic Water(マジックウォーター)”を自宅で余らせている化粧品に混ぜ合わせることで、あっという間に絵具に変えて、お絵かきやアートを楽しむことができるんです。」

モーンガータ社が朝日放送テレビonnela において行った独自調査によれば、実に化粧品ユーザーの86.3%の人たちが余った化粧品を捨てているという。また、IFOP(フランス世論研究所)の調査によれば、フランスでは46%の女性が、化粧品・コスメ用品を使い切る前にその使用を止めたと答えており、それは計算上毎日4トンの化粧品が廃棄されていることになるそうだ。

「使いきれず余ってしまうもの以外にも、製造過程で廃棄されるものもあります。」と田中社長は続ける。

「私自身化粧品メーカーで研究開発に従事していたときに、製品になる前の原料や使用期限の過ぎた商品が大量に廃棄されている現状を目の当たりにしてきました。家庭からだけでなく企業や化粧品小売店舗などから廃棄される分も含めると、相当量の化粧品が捨てられているという現状があるのです。」

実際どれほどの量の化粧品が国内において廃棄されているかについて、全体を把握することはとても難しい。だが、相当量の化粧品が廃棄されていることは間違いないだろう。この問題を解決するべく、各企業も化粧品廃棄の問題への取り組みを次々とはじめている。

そのわかりやすい取り組みの一つは、値引き販売や生産量調整などの「売り切り」を目指す取り組みだろう。シーズンを過ぎて売れ残った商品、限定品などを大幅に値引きしたり、年4回のトレンド提案を6回に増やし、その分毎回必要な分だけを数量限定で生産して、少しでも廃棄ロスを減らそうというものだ。

対してモンガータ社の活動は、生活者が持て余している化粧品をどう活用するかに焦点を当てている。田中社長によると「使いかけの化粧品を回収して海外の貧困地域に提供したり中身を廃棄して容器だけ回収する仕組みなども登場してきていますが、課題は多いように思います。我々はそういったリサイクルやリユースではなく、廃棄されてしまう化粧品に新たな魅力と価値を与え、再び商品として生まれ変わらせる“アップサイクル”のアプローチで、この課題の解決に取り組んでいます。」


リサイクルとアップサイクルの違いとは?
コトを重視することで生まれる、モノの新たな可能性。




日本においては、リデュース・リユース・リサイクル(Reduce/Reuse/Recycle)の3つ、いわゆる「3R」がなじみ深い。特にリサイクルという言葉は日常的に飛び交っていて誰もが知っている。対して、アップサイクルという言葉には、まだなじみがない方も多いだろう。

田中社長「リサイクルとは、不要になった製品を一度資源に変え、それを原材料として新たな製品を作ることです。しかし、資源化する際に膨大なエネルギーを消費し、多くの労力と資源も投入されます。また、使用した資源とはまったく違う形の完成品を目にしても、リサイクル元となった資源を再活用しているイメージが生活者の方に湧きにくく、その市場価値も決して高いものではないという側面があります。対してアップサイクルは、不要になったモノの特性などをそのまま活かしつつ、手を加えて違った製品に作り変えるのが特徴で、多くを投じているのは、エネルギーでも労働力でもなく、“アイデア”なんです。」



SminkArt(スミンクアート)

SminkArt(スミンクアート) は、まるで理科の実験器具を思わせるような見た目だ。これには、消費者自身にアップサイクルを楽しんでもらいたい、というメッセージが込められている。モーンガータ社は化粧品会社などと提携し、企業内で役目を終えた化粧品の中身や原料を回収して自社で在庫として保有している。そのため、実際のところ絵具ではなくペンとして売ることもできるし、単に商品としてみれば、そのほうがわかりやすかったかもしれない。しかし、完成品としてのペンを売るよりも、家にある余った化粧品を自身の手で溶かして絵の具を作り出すとうい体験(=コト)の中にある楽しみごと提供するということを重視した結果が、現在のSminkArt(スミンクアート)の実験風の見た目にもつながっているのだ。

「我々が大切にしているのは“楽しむ”という要素です。SminkArt(スミンクアート) は、①化粧品から絵具化する ②絵を描く ③できた作品を楽しむ という3つの楽しむ要素が盛り込まれています。サステナビリティやSDGsという切り口で注目してもらうことも多く、それもすごくありがたいのですが、実はことさらに自分たちから言うことはありません。我々のベースはあくまで“楽しい”。“楽しい”を大切にするからこそ続けていくことができて、結果としてサステナビリティにつながっている、というのが僕たちが描く姿なんです。」


イラストレーター サスペンスガール氏の作品。Magic Water で絵具化した化粧品で描いた作品。


化粧品を捨てる罪悪感を
楽しさや気持ちよさに変えていく。


体験があると「参加している」という感覚も持ちやすいだろう。より強い環境への貢献意識が芽生えるかもしれない。また「使い切る」ことの嬉しさや気持ちよさも、この商品の魅力だ。

田中社長の姉であり共同で経営を行っている田中麻由里取締役は「絵の練習や勉強をして、どんどん短くなっていく鉛筆を見ると、自分がレベルアップしていると感じられて嬉しいし、無駄なく最後まで使い切れた時には達成感に似た気持ちよさも感じます。化粧品を捨てる方が多い一方で、同時に捨ててしまっていることに罪悪感に苛まれている方も非常に多い。そういった罪悪感を、少しでも嬉しい、気持ちいい体験に変えていければ」という。田中社長「そもそも化粧品には絵具よりも質が高い顔料が使われています。またラメなどが含まれていることもあり、実際に塗ってみると絵具にはない独特な風合いや色味を感じてもらえると思います。その独特な魅力を活かして、アクセサリー、ジェルネイルなどにもアレンジして使うことが可能です。フレーバーを加えてアロマキャンドルを作ったこともありましたが、大変好評であっという間に売り切れてしまいましたね。幅広い用途への活用を考えることは、結果としてより多くの廃棄化粧品をアップサイクルすることにつながるので、さまざまな企業様との協業も視野に入れながら、いまなお活用方法を模索中です。」


化粧品ならではの、艶やかな光沢感が美しい。



左から、スマホケース/ジェルネイル&アクセサリー/アロマキャンドル


消費社会から一気に脱却するのは難しい。
人間心理に寄り添いながら、楽しいコトを作り続けたい。




ひと昔前はモノを所有することに価値があり、高級品やブランド品を人に見せることで充足感を得ていたが、現代においては体験(=コト)に価値を感じお金を払う、といわれるようになって久しい。ただ、実際の肌感としてはどうだろうか。SNSや動画投稿サービスを眺めてみると高級品やブランドをアピールするコンテンツが、まだまだ多くの人を惹きつけているようにみえる。根源的な人間心理を無視して大義だけ掲げても、取り組みは続かない。

田中社長「最終的には廃棄されるコスメがゼロになればいいと思います。でも、消費社会から一気に脱却するのはとても難しいことです。であれば、消費社会に寄り添いながら、捨てられるモノから楽しいコトを作り続けられるようなアップサイクル型の社会を目指していきたいですね。」

アップサイクルは、モノからモノを生みだすだけではない。モノをアップサイクルすると同時に新たな体験(=コト)を生みだし、その体験に触れた人々の価値観や行動をアクティベートしていくことこそ、真のアップサイクルなのだろう。

【参考サイト】
消費者庁 食品ロスについて知る・学ぶ
labote

■執筆: Sustainable Brand Journey 編集部

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