サステナブルファッションとエシカル消費 D2C / P2P ブランドの模索と実践

(2021.1.21公開)

#サステナブルファッション #エシカル消費 #D2Cブランド #ジェンダーレス #廃棄削減


「ファッション」「アパレル」と聞いて思い浮かべるイメージは、10年前と今では大きく変わった。
ものすごい早さでトレンドが発信され、「持つ」ことへの憧れを煽り、大量生産・大量消費の熱気に包まれていた過去に対し、今は大きな環境負荷をうむ産業として、どのような取り組みを進めていくのか、別の意味で厳しくも熱い視線が注がれている。

春夏(SS)、秋冬(AW)と大きく2つのシーズンに分けられ、シーズンごとに新しいコレクションが発表されるのが通例だった。さらにクルーズラインなど、いわゆる端境期(はざかいき)にコレクションを出すブランドもある。しかし長らく王道だったこのシステムも、大きな変革の渦にのみこまれはじめた。

たとえばラグジュアリー・ブランドを代表するGUCCI(グッチ)も、コレクション発表をこれまでの年5回から3回に減らすと発表した。Saint Laurent(サン・ローラン)やGiorgio Armani(ジョルジョ・アルマーニ)など他の有名ブランドもファッションショーのあり方を見直し、短い周期で大量のアパレルを生産する仕組みを変えようと動きはじめている。

「サステナブルファッション」が重視されるなか、グローバルなラグジュアリーブランドから個人ブランドまで共通してフォーカスするのは「長く着られる」というテーマだろう。


(画像引用:環境省ホームページ SUSTAINABLE FASHION


個人が展開するP2P/ D2Cブランドは「自分がほしいもの」「身近な人に役立つもの」を目指してつくられることが多い。エシカル消費への関心が高まるなか、こうしたブランドを生活者も積極的に情報収集して購入するようになってきた。

つくる側も着る側も、ライフスタイルのなかで無理なく取り組めるサステナブルファッションを模索しながら実践するP2P/ D2Cブランドをレポートする。


(画像引用:環境省ホームページ SUSTAINABLE FASHION


ファッションにおける「レス化」とミニマル志向


・潜在ニーズともマッチしたジェンダーレス、サイズレス

ミレニアル世代のデザイナーが手掛ける P2Pアパレルブランド ANTICOTTER(アンティコッター)は、アウターやシャツをメインアイテムに「シーズンレス」「ジェンダーレス」「サイズレス」のミニマルな服作りを発信している。


(画像引用: ANTICOTTER 公式サイト

グッチのクリエイティブディレクター、アレッサンドロ・ミケーレは毎年のファッションショーの回数を減らすと宣言しただけでなく、「春夏/秋冬」という呼び方や「メンズ/ウィメンズ」という区分けもやめることも示唆しており、グローバル・ブランドにおいても「レス化」の傾向が顕著だ。

季節や性別、サイズを問わない商品は、いわゆる「飽きがこず長く着られる」だけでなく、リセールやフリーマーケット(アプリ)で循環させる際にも、幅広い人が着られるために利用率が上がる利点もある。

アンティコッターのデザイナー井上里美氏に話を聞いた。

「もともとは自分の身長と好みに合うウィメンズのコートがなくて、170cm前後の人がゆったりと着られるシルエットをイメージして作っていました。

肩のラインを敢えて作らないようにしているので、男性が着た時にも“肩が合わない”などの違和感が出にくくなっているのかもしれません。自分が欲しいものを想定して作っていたので、意外と男性から支持していただけることに驚いています。でも話を聞いてみると、男性もアウターだと180cm前後の方を想定したサイズが既製服には多いらしく、170~175cmくらいの身長の方は、私と同じようにサイズに困っていらっしゃることが多いようです。

シンプルでベーシックなデザインにしていたり、ふだん着のカジュアルさのなかにも“きちんとして見える”感じを意識していたので、そのあたりも性別問わず気に入っていただける要因かもしれません。」


( ANTICOTTER デザイナー井上里美氏 , 2021年12月 撮影)

身長だけでなく、シャツやアウターもワンサイズでありながら幅広い体型の人にもフィットする、ゆったりと余裕をもたせたシルエット。「大きめにつくっているので、小柄な方が着たときに“着られている”風にならないように…ということも気を付けています。具体的には、アウターでも袖を折り返したりできるよう見えない部分の始末にも配慮しています。」

・つくりすぎない、不要な在庫を増やさない工夫

環境省によるWEBサイト「SUSTAINABLE FASHION」によると、服1着あたりの製造プロセスで排出されるCO2は25.5kg(500ml ペットボトル約255本製造分)、水の消費量は約2,300ℓ(バスタブ約11杯分)と、環境負荷が非常に大きいことが分かる。過剰在庫は、生産過程における環境負荷の点からも、小規模ブランドの経営の点からもリスクが高く、回避すべき課題だ。

在庫を持たずに、顧客から注文を受けてから製品の製造に取りかかる受注生産、すなわちオンデマンドな生産体制が、サステナブル時代には主流となってくるかもしれない。
受注生産では在庫を抱える必要がないため、在庫の保管・管理にかかる費用や売れ残りのリスクがなく、生産した分だけ売上につなげることができる。無駄な生産や廃棄がなければ資源が保全され、環境への負担も少ない。


(画像引用:環境省ホームページ SUSTAINABLE FASHION


顧客の要望に合わせて手を加えることができるのも受注生産のメリットだ。オーダーメイドとは異なるので応えられる範囲は限られるだろうが、それでも顧客の要望に対してきめ細やかに対応することによってブランドの信頼も高まるだろう。

「受注生産だから、若干の着丈や袖丈調節などは対応できます。大きなデザイン変更は難しいですが、ちょっとした調整だけでもフィット感や着こなしが変わってくるので、そうしたことが顧客の幅を広げることにつながっているのかもしれません」と、ANTICOTTER 井上氏も受注生産が顧客満足の向上につながっていると感じていると言う。

・生活のなかの「気づき」から実践するサステナビリティ

しかしどれだけ無駄を省き、用尺を工夫してミニマルな生産を実践しても、余分な端切れが生じることは避けられない。アンティコッター ではその端切れを活かし、『HAGIRE(ハギレ)』シリーズとしてトートバッグやサコッシュの製作と販売を2018年から始めており、顧客にも好評だ。



「自宅で端切れを保管しているのですが、それが目に見えてどんどん溜まっていくのがもったいなくて、何かできないかと考えたのが最初のきっかけでした。ちょうどレジ袋が有料化されたタイミングとも重なって、マイバッグニーズが高まったこともあり、オンラインショップに出すとすぐに完売したりして、エコやサステナブルをお客様が求めているんだなと感じました。

製作できる数がまだ少なかったり、大きさのバリエーションも試行錯誤しているところですが、これからも増やしていきたいと考えています。」

・新しい顧客とつながれるチャネル開拓

多くのP2PやD2Cブランドと同様に、ANTICOTTERもメインとなる集客にはSNSを活用している。それ以外にも、オフラインで顧客との接点をつくれる機会も定期的に設けているという。例えばプレスルーム感覚で利用できるイベント・ショップスペースで展示販売をしたり、同じく個人経営のセレクトショップ等でポップアップを行ったりしている。そして2021年12月8日から12月14日には、池袋西武本店のイベントスペース、スプリットリングに出店した。

アンティコッターにとって、百貨店への出店は初めて。大手企業のアパレルブランドのような大きな資本を持たないブランドにとって新たなチャンスメイキングのチャレンジとなる一方で、百貨店側も、新しい顧客層の獲得を狙って、これまでの「館(やかた)」=敷居が高いというイメージから脱却すべくショールーミングやポップアップストアの企画を強化している。

池袋西武本店も、SNSを使こなし様々なカルチャーに親しむミレニアル世代をターゲットとして定め、ふだんは百貨店を利用しない世代をエッジーなコンテンツで惹きこむ狙いで、このイベントスペースを2021年8月から展開している。

>> 関連コンテンツ百貨店の再起をかけたチャネル戦略 D2Cブランドとの新たな共創の「場づくり」

デザイナーの井上氏は「最初は慣れないことばかりで不安もありましたが、これまでの販売チャネルでは出会えなかっただろうというお客様にもANTICOTTER の商品を手に取っていただけることを嬉しく感じています。

たとえば70代くらいの女性が、ハギレトートを買ってくださったのですが、大きさや軽さがちょうどいいと仰っていて、そのように私では想定していなかったニーズをお客様からの言葉で教えていただけたりするのも、とてもいい経験になりました」と話す。

「10年着続けたいと思える服」づくりを目指すD2Cブランド

・洋服を買ってからはじまる関係性を大切に

株式会社10YC(テンワイシー)が手掛ける「10YC」は、「10年着続けたいと思える服」をキーワードに、サステナビリティ・透明性・ストーリー性をコンセプトにしたD2Cアパレルブランドだ。
大量生産・大量消費型の「売る」ことだけを考えるビジネスモデルではなく、顧客が本来楽しむべき「着る」と、生産者が本来楽しむべき「作る」の2つに寄り添い、「着る人も作る人も豊かにする」をブランドメッセージとして発信している。




(画像引用:株式会社10YC
プレスリリース

自社が運営するオンラインショップを活用し、作り手の想いや商品のストーリーをダイレクトにお客様に伝え、お客様と生産者とのコミュニケーションプラットフォームになることを目指している。

10YC 代表取締役、下田将太氏のメッセージ『10YCが描く世界』によると、顧客と話すなかで「こだわって商品を作るだけでは、長く着てもらえない」ことに気づいたという。その気づきを起点として、「どうすればもっと長く着てもらえるか?」「どうすれば無駄をもっと減らせるか?」を考え、そこからサステナブルなサービスを創出している。


・下取りサービス:THANKYOU BACK(サンキューバック)

購入商品を10YCに戻すと、10YCのオンラインショップで使える下取り価格分のTHANKYOU コードを付与するというサービス。
「買った当時より体型が変わってしまい、着なくなった」「飽きて着なくなってしまった」という顧客の声が、サービス開発のきっかけになった。

着られないままクローゼットしまいこまれたり、廃棄されてしまうよりは、10YCに返してもらったほうがいろいろと有効活用できるのではないか、と考えてのことだという。


(画像引用:環境省ホームページ SUSTAINABLE FASHION

THANKYOU BACKされた商品は 10YCでクリーニングやリメイクを行い、自社の二次流通サイトにて再販売を行う予定だ。

・修理サービス:SUGITASHI(ツギタシ)

10YCで販売している商品で壊れたり傷んだりした箇所を修理するサービス。段階的な導入となり、初回はスウェットとフーディを対象にした。着ていく中で傷んでしまった衿や袖口、裾のリブを新しいものに取り替える「リブ付け替え」を行う。

初回の対象商品をスウェット類にしたのは「従来よりもよれにくいリブの開発に成功した」からとのことだが、この技術開発を新商品から投入するのではなく、すでに購入している顧客に対するサービスを優先させている。これもひとえに「すでに持っている商品をより長く着てもらいたい」という想いゆえだ。


(画像引用:10YCホームページ

・廃棄生地を使用した商品開発:サービスJANAIHOU(ジャナイホウ)

洋服で使われる生地「じゃない方」を使って商品を作るJANAIHOU というサービス。
生地を裁断するときに出る切れ端や少しだけ余ってしまった生地から、キャップや巾着袋、ブックカバーなどの小物を作り、商品化できる仕組みを構築。第一弾はイラストレーターとコラボした巾着バッグ、第二弾は洋服や靴の臭い・湿気をとる「Catch Pack」を販売した。

原材料調達から製造段階までに排出される端材(端切れ等)は、年間で約45,000tという途方もない量で、これらを廃棄せず適切にリサイクルすることもサステナブル・ファッションの実現において重要な課題となっている。


(画像引用:環境省ホームページ SUSTAINABLE FASHION

・染め替えサービス:IROHEN(イロヘン)

シミや汚れが付いた、または色が褪せてしまったから着られなくなって捨ててしまった。誰しもが一度ならず、これまでにしてしまっていることではないだろうか。

汚れが付いてしまったものでも、濃い色に染めれば、汚れが目立たなくなり、また新たな色になることで新鮮な気持ちで着ることができる。色褪せてしまったものでも、再度染め直せば、また新品のような気持ちで着ることができる。顧客により長く、そしてより楽しく着てもらうためのサービスだ。


(画像引用:10YCホームページ

「ただ洋服を買って終わりではない、洋服を買ってからはじまる関係性を10YCは大事にしていきたい」とメッセージを発信する 10YCが、今後どのようなアイディアを届けてくれるのか期待がふくらむ。

ふだんの買いものやくらしが、サステナビリティにつながる

サプライチェーンが複雑に絡みあったり、あまりにも膨大な資源が消費されていたり、衣服のライフサイクルの短期化に伴い大量廃棄が生じたりと、ファッション産業における環境負荷改善やサステナビリティ実現の道のりは長く、険しい。

日々のくらしのなかでの気づきやニーズをテーマに、身近にできることからトライする。
生産者や顧客と一緒に楽しみながら、できることを実践していく。
紹介した2つのブランドのスタンスや取り組み事例は、全体の規模からみると小さなアクションかもしれないが、そのアクションを積み重ねながら、その過程で情報がひろがっていくことには大きな意義があるだろう。

そしてもちろんアパレルを購入する生活者の側も、サステナビリティにむけて努力しているブランドを選ぶエシカル消費を積極的に行ったり、服を購入した後のプロセス(リペア・回収・リセール等)に関する情報を集めて実践することによって、さらなる好循環を生む。

企業(ブランド)や生産者、生活者(消費者)がそれぞれの立場でどのようにサステナブルファッションに取り組むといいか、以下の環境省のWEBサイトで詳しく解説されている。

環境省:SUSTAINABLE FASHION




【 参考サイト 】

Gucci Says Fashion Shows Should Never Be the Same , The New York Times

【西武池袋本店】カルチャーを軸にエッジーなコンテンツを週替わりで展開「イベントスペース スプリットリング」9/1オープン

ANTICOTTER ホームページ

10YCホームページ

「着る人も作る人も、豊かに」を実現するための新サービスを開始

アパレルブランド「10YC」サービス再開のお知らせ



■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
#アート #くらし #哲学 #ウェルビーイング #ジェンダー #教育 #多様性 #ファッション


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