リジェネレーション(再生)と食で地球を救う、パタゴニア プロビジョンズの革命

( 2022.1.21.公開 )

#エシカル時代 #コンテンツマーケティング #脱炭素 #土壌 #生物多様性 #オーガニック


ニューノーマルと呼ばれる大きなパラダイムシフト。そして「エシカル時代」の到来。
山積する環境・社会課題のリスクが次々に顕在化するなかで、生活者の意識も変わりつつある。自分さえよければいい利己主義から、誰かのことを思いやる利他主義へ。所有からシェアへ。豊かさの概念も、贅沢の追求から、心地よさや自分らしさに重きが置かれるようになった。

このような生活者ニーズの変化を受け、大量生産・大量消費とは違った新しい時代の価値観をどのように商品やサービスに反映し、提供できるかがビジネスにおいて求められている。言い換えれば、社会や環境課題を解決を目的とした新しいビジネスの創出が大きなビジネスチャンスになり得るということだ。

食にフォーカスしたパタゴニア プロビジョンズは、「地球を救う」という根本的なパーパスに基づき、生活者にも地球環境にも好影響をおよぼすビジネスを展開している。具体的には生物多様性を保護するサステナブルな調達や、オーガニック農法による土壌の再生、脱炭素に貢献しうる革新的な植物を活かした商品開発など。人類も企業もサステナブルに存続していくための先進的かつ積極的な取り組み事例と、それを支えるパーパスに込められたフィロソフィーを紐解いていく。


もはや「気候変動」ではなく「気候危機」

2021年11月に閉幕したCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)で議長を務めたアロック・シャルマ氏は、COP26のクロージングに際し「この展開について謝罪する」と発言し、涙ぐんだ。“この展開”とは、「化石燃料の使用を段階的な廃止する」から「削減する」という弱めた表現に変更し合意に至ったことを指している。
「1.5℃目標を維持しつづけていくのだと、今は自信をもって言える。しかし、その鼓動は弱い。私たちが約束を守り、迅速な行動をとらなければ、生き残ることはできないだろう」とシャルマ氏は続けて述べた。この言葉を裏づけるように、このままのペースで気候変動が進めば、今世紀末には産業革命以前と比較して2℃以上の気温上昇となることが指摘されている。

世界中で相次ぐ異常気象をはじめ、地球環境の危機的な状況を受け、環境省も「気候変動」から「気候危機」と強い表現に切り替えて対策の重要性を強調した。

豊かな環境は、水や食、エネルギーなど、私たちの生活や経済・社会活動に必要な資源を提供する。しかし気候変動によって生物多様性が損なわれるなど、複数の環境問題が関連しあいながら経済・社会活動に悪影響を及ぼしている。言うまでもなく、人間のこれまでの消費やくらしが地球環境へ大きな負荷をかけており、地球環境の危機をもたらしているのだ。


(画像引用: COOL CHOICE,環境省)


地球を「再生」する食品

パタゴニアは、2019年に国連で最高の環境賞「地球大賞(UN Champions of the Earth Awards)」を受賞したのをはじめ、サステナビリティの取り組みにおいて高く評価されている企業だ。ブランドとしても、SDGsやサステナビリティへの意識の高い層から絶大な支持を集め、環境保全に注力する先駆者として揺るぎないブランドイメージを確立している。

そんなパタゴニアが手掛けるパタゴニア プロビジョンズは、「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というパーパスを掲げ、地球にとっても人間にとってもいい製品を提供する食品事業である。


(画像引用:パタゴニア プロビジョンズ プレスリリース 


現行のフードシステムでは、食品の多くは複雑なサプライチェーンの中で生物多様性を減少させ、土壌を破壊し、気候変動を悪化させる一因にもなっている。

そこでパタゴニアプロビジョンズは「再生有機農業」を推進し、オーガニックや環境を修復する方法で調達された素材から製品を生産する。こうして「食」の流れを修復し、土壌汚染や海洋汚染などの環境課題の解決のみならず、生産方法や動物福祉の視点も併せ持ち、インクルーシブな取り組みを展開しているのだ。


ビールで気候変動に貢献

オーガニックのスープ、グレインズ、フルーツバー、天然のスモークサーモンやオーガニック認証のとれたムール貝など多岐にわたるパタゴニア プロビジョンズ製品のなかでも、出色なのはクラフトビールだろう。

パタゴニア プロビジョンズが目指す「再生有機農業」とは、自然を修復し、CO2の放出を削減し、土壌の生物多様性を促進させ、化学肥料や農薬を使わない効率的な穀物生産を可能にする農業を指す。
その過程から、より多くの炭素を土に閉じ込める多年生穀物、カーンザの開発が進められた。長く密集したあごひげのようなカーンザの巨大な根は、長さがなんと約4mにも及ぶ。この強大な根が、表土を維持し、数百万もの有益な微生物を育み、さらには大気から炭素をとりこんで地中に閉じ込めるのだという。


(画像引用:パタゴニア プロビジョンズ プレスリリース (c) Jim Richardson )


このカーンザを風味やスパイスとして用い、醸造の主原料である大麦に組み合わせるというアイデアを起点に、ポートランドの「ホップワークス・アーバン・ブルワリー」と共同で、世界初となるカーンザから作られたロング・ルート・ペールエールが商品化された。それからさに多くの農家と協力してアメリカ国外にもカーンザの生産面積を増やし、2019年にはロング・ルート・ウィット、2021年にはロング・ルートIPAを発売した。



(画像引用:パタゴニア プロビジョンズ 公式サイト

ロング・ルート・ペールエールは、2021年11月に開催された「FOOD MADE GOOD サステナビリティ・アワード」(日本サステイナブルレストラン協会主催)でも供されたが、アメリカでも2019年に「グッド・フード・アワード」に輝いた。

>> 関連記事:食のサステナビリティをリードする 【 FOOD MADE GOOD JAPAN Awards 2021 】レポート

このカーンザが、食生活の基本である小麦や米をはじめ、あらゆる作物の栽培方法を抜本的に変化させる推進力となることに、パタゴニア プロビジョンズは大きな期待感を寄せている。


共創R&Dでパッケージの課題に取り組む

環境問題において、パッケージ(容器)は重要なテーマだ。とりわけ食品の場合、品質保持や安全性を優先する必要があるため、酸素や水分が入らない素材を使用しなければならない。
食品業界で最もひろく用いられているのは、複数の基材を貼り合わせて作られるフィルム、すなわちプラスチック包装である。従来のプラスチックで作られたパッケージは、堆肥化できない。これが、埋め立て地に運ばれるか、海へと流出して海洋プラスチックごみの問題を引き起こしている。

パタゴニア プロビジョンズの製品パッケージも、これまでのところ堆肥化できる素材ではない。しかしもちろん、それでよしとしているということではなく、その課題を認めたうえで、製品ごとに適したパッケージの研究開発に努力を惜しまない。

教育機関と連携し、世界中の大学院生からアイデアを募り、再利用可能な容器や海藻から作られたフィルムや、微生物用の栄養増強剤を加えてパッケージの分解を促進する生物分解性のパッケージなどの着想を得て、研究に邁進中だ。


(画像引用:パタゴニア プロビジョンズ公式サイト


パタゴニア プロビジョンズは2025年までに使用するパッケージを再利用可能あるいは堆肥化可能にし、さらに、再生またはリサイクルされた材料から作られた素材のみにすることを明らかにした。
現在、開発とテストに取り組んでいるところだが、それが完成した暁には、より広範な食品業界と共有されることも示唆している。

コンテンツマーケティングでサステナブルブランディング強化

パタゴニア プロビジョンズのWEBサイトには、自社製品を活用したレシピを紹介するコンテンツがある。「プロビジョンズ風シーフードパエリア」や「ブラックビーンと梅干の白和え」、「フルーツバーの酒粕トリュフ」など、独創的かつ見た目にも美しく、栄養バランスにも優れたレシピがバリエーション豊富に提案されている。


(画像引用:パタゴニア プロビジョンズ公式サイト

環境に配慮した製品である以前に、食品である以上「おいしく食べて、食事の時間を豊かに楽しむ」ことは至上命題だ。
環境や社会問題に取り組む姿勢は大事だが、食の喜びや自由な楽しみ方を奪うべきではない。

簡単かつ時短に調理できて、しかもオシャレでおいしい。栄養価も高く、ヘルシー。
ワークライフバランスや健康志向といった現代のトレンドにマッチした製品は、新たな顧客層を獲得し、拡大しつつある。さらにパタゴニア本来の事業であるアウトドアとも関連づけてキャンプやバーベキューでも手軽に楽しめる点が、パタゴニアブランドを愛するファンにも支持されている。

事業の成功も、生活を豊かにするのも必要な条件は同じ

パタゴニア創始者イヴォン・シュイナード氏は、多くの環境課題をはらむフードシステムにおいて
「唯一の革命は農業にあり、私はその革命の一部になりたい」と語る。
(パタゴニア プロヴィジョン 公式サイト,2020年)

パタゴニア プロビジョンズが着目するリジェネラティブ・オーガニック(再生有機農業)は、より健全な土壌を構築しながら作物を生産する。さらにその過程で、より多くの温室効果ガスを吸収し、減少させる可能性もあるという。



地球で最も優れた炭素固定システムのひとつである大草原を復元するために、バッファローを自由に歩かせる。ロープで養殖されるムール貝は、生育中に海水をきれいにしながら美味なたんぱく質を生み出す。海洋生物多様性の保護に配慮した漁法は、混獲を最小限に抑えつつも、最高品質の収穫を実現する。このように食品をとりまく環境を掘り下げ、最善の方法を追求しながら、食の新しい未来に向かって、パタゴニア プロビジョンズは歩みを止めない。

目指すのは、地球を枯渇させるのではなく、土壌を健全に修復し、再生させること。動物福祉や農業従事者の保護を確実にしたうえで、食品が生産されること。そして同時に、栄養価が高くおいしい食品で満たされた未来だ。

地球環境を守れるかどうかは、省エネや省資源、リサイクル、廃棄削減などに取り組みながら、環境への負荷をどれだけ減らせるかにかかっている。今、行動を始めなければ、地球の自然に支えられている私たちのくらしは、ますます深刻さを増すだろう。こうした危機意識のもと、エシカル消費への関心と志向が高まりつつある。環境問題や社会課題を消費の仕方で解決しようとするアクションだ。
環境だけでなく、人や社会、地域、それらの繋がりを知り、世界がどうすればもっとよくなるかを考えて商品を購入する。ふだんの買いもので、何を選び、何にお金を支払うかが、世界に、さらに言えばサステナビリティ社会の実現に貢献することにつながる。

生活者自身が環境や社会のためになると思ったことを選択し、身近な消費で世界を変えられると実感できる。これこそが「エシカル消費」最大の効果と言っても過言ではない。



「食とくらし」にフォーカスしたパタゴニア プロビジョンズの先進的な商品を通じて、
生活者は、それらの商品と紐づく環境・社会問題を知ることができる。そして、その解決に結びつく「エシカル消費」を志向する生活者が一人、また一人を増えていけば、社会においても経済においても大きなインパクトを及ぼしうるだろう。

生活者意識におけるエシカル消費の関心や実践の高まりが、パタゴニア プロビジョンズのように「地球を救うためにビジネスを営む」という確固たる覚悟をもってサステナビリティに取り組む企業にとってきっと大きな追い風となるにちがいない。

「同じことに信念を抱く人たちの小さなグループを集める。そして同じ方向に進めば、どれほどのことが達成できるか驚くはずだ」(パタゴニア創始者、イヴォン・シュイナード)




【参考サイト】

環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書 2020/21

UN environment programme press release

パタゴニアプロビジョンズ ウェブサイト

パタゴニアの食品事業「パタゴニア プロビジョンズ」サイトオープン

パタゴニア プロビジョンズ 多年生穀物を使った伝統的な米西海岸スタイルの新作ビール「ロング・ル―ト・IPA」を11月18日(木)新発売

『1杯のビールで、地球を救う。』パタゴニアから、「ロング・ルート・ウィット」4月25日新発売。

JOURNAL - パタゴニア







■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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