【 ケリングと共に考えるファッションと生物多様性 】 ラグジュアリー・グループが向き合うサステナビリティの責任と実践

生物多様性はすべての人にとって必要不可欠のもの。そしてファッション・アパレル業界は、それを保護し、回復(再生)する役割を担っている。
世界的なラグジュアリー・グループであるケリングは、サステナブルな成長を維持するために生物多様性の保護が何より重要と捉え、同取り組みを重要な戦略として、積極的に情報開示しながら着実に実践を進めている。

環境保護とサステナビリティの実現のために、企業やカスタマーや投資家という立場を超えて、ひとりひとりが生活者としてどのように考え、選択をするのか。

「具体的な解決策を提案する責任がある」と、ケリングのチーフ・サステナビリティ・オフィサー Marie-Claire Daveu (マリー=クレール・ダヴー)氏の言葉通り、いくつものラグジュアリー・ブランドを擁するグループならでのリーダーシップを発揮してサステナビリティ推進が強化されている。


「ラグジュアリーとサステナビリティは同一」という信念のもとに

衣服を例にとってみても、ニュージーランドではウール、モンゴルではカシミヤ、インドではオーガニックコットン…というように、ファッション・アパレル業界は地球上の各地で栽培や飼育、収穫がされている。

企業そしてブランドとしてのサステナビリティを確保するために事業活動において極めて重要な役割を果たしている生態系を守ることを、ケリングはグループ全体の目標に掲げた。ケリングの生物多様性に関する戦略的アプローチは、「回避」「削減」「修復・再生」「転換」という4つのステージに基づいている。

●避ける…保護価値の高い生態系への悪影響を与えない、または未然に防ぐ
●減らす…科学を活用し、認証制度に従うことで、生物多様性への影響を最小限にする
●修復・再生する…自然にプラスの影響を与え、生態系を修復する
●変える…状況を変える行動を起こす


ケリングは生物多様性への取り組みとして、2025年までにサプライチェーンに関わる100万ヘクタール(青森県の面積とほぼ同じ)の土地を再生型農業にすると共に、さらにサプライチェーン外における100万ヘクタールの代替不可能な生息地を保護するという目標、つまり計200万ヘクタールの土地の自然を保全し、気候変動の影響を緩和する再生可能型農業に変換すると宣言している。


しかし、環境危機に瀕している今の時代において、サステナブルな社会を実現するには、事業活動の取り組みだけでは充分とは言えない。このような背景の中、ケリングは日本本社の移転1周年を記念してサステナビリティについての展覧会「Fashion & Biodiversity:ケリングと共に考えるファッションと生物多様性」を2021年11月26日~28日まで表参道・ケリングビルにて開催した。

ファッションとそのルーツである自然、そしてその自然が損なわれつつある環境問題への関心と理解を促し、ケリングの生物多様性戦略や気候変動に対する施策、循環型アプローチを伝えることを通じて、一般に対してダイレクトに、ラグジュアリーファッションにおける選択肢を紹介した。

「私たちと密接につながる自然、そして地球の未来はひとりひとりの選択にかかっているということに気付くきっかけとなることを願っています」と、この展覧会開催に寄せて、ケリング会長 兼 CEO フランソワ=アンリ・ピノー氏もメッセージを寄せている。


1枚のセーターから生命の歴史までを遡る壮大なジャーニー

「いま、あなたが着ている服は何によってつくられ、それはどこからやってきたのか。1枚のセーターをたよりに過去へと時間をさかのぼってみましょう」
ケリング本社ビルで開催されたこの展覧会は、1枚のセーターと、そこに添えられたメッセージからはじまる。



・1ヵ月前…アトリエで丁寧に編まれたセーターがイタリアの空港から日本へと運ばれてきました
・6ヶ月前…乾燥したカシミヤヤギの毛から、セーターをつくる糸がつむがれました
・1年前…モンゴルの南ゴビ砂漠で遊牧民によって放牧されている4頭のヤギから毛が梳(す)かれました

1枚のセーターが消費者のもとに届く過程として、ここまでは私たちも想像しやすいサプライチェーンの説明だ。
しかし、ケリングが紐解く物語では、これはほんの一端にすぎない。ここから一気に歴史を遡り、250年前のシルクロード、5万年前ゴビ砂漠にやってきた遊牧民の祖先、5000万年前にゴビ砂漠が広がるきっかけとなったヒマラヤ山脈の誕生、そして40億年前の生命誕生、46億年前の地球誕生までの壮大なカスタマージャーニーを描き、ファッションと地球との繋がりを示している。



見えないものは削減できない

商品の原料の生産から店頭に並び、お客様の手元に届くまで、企業は自然にどのような負荷をかけているのだろうか。ケリングでは自社活動の環境フットプリントを計測するために、EP&L(環境損益計算)を用いている。

EP&Lは、ケリングが開発した革新的なツールで、自社の事業活動(原材料から製品の製造・販売まで)が環境に与える影響を測定・定量化し、その値は金銭的価値に変換される。このような基準を設けることで、環境への影響が可能な限り少ない地域や素材を選択することができる。また、自社活動を活動内容を階層的に分類したことで、どこに一番環境に負荷が掛かっているか、ということを視認化することも可能になった。ちなみに原材料の生産と加工時が最も環境に負荷をかけているということが、このツールによって可視化されたことで、ケリングでは同階層における改善に優先的に取り組んでいる。

素材ひとつひとつに込められたサステナビリティ

ミラノにあるケリングのイタリア本社内には、サステナブルな記事や素材の調達に取り組む目的で、「マテリアル・イノベーション・ラボ(MIL)」が設立された。本施設には約3,800以上もの革新的な素材が収蔵され、新素材や技術開発、循環システムの構築を目指す多数のプロジェクトを、サプライヤーやブランドと連携して進めているという。

今回の展覧会では同施設から取り寄せたサステナブルな素材も随所に展示された。同素材にはそれぞれ内容が示されたタグが付いており、来場者は同タグを読むことでサステナブルな素材がどのようなもので構成されているのかということが分かる。

たとえば上品な光沢感が魅力の「サテン」は、トウゴマから採れるひまし油を原料としたバイオポリアミド100%で作られており、同じく高級素材の「オーガンジー」も、GOTS認証を得たオーガニックシルク100%で組成される。ただ単にオーガニックというだけでなく、全製造工程で有害な化学物質が使用されていないという徹底ぶりだ。



多くの革製品を扱うケリングにとって、培養したキノコを用い、環境負荷の少ない手法でなめされたマッシュルームレザーや、FSC森林認証のもと管理された森林の木材を原料とする代替レザーも注目の素材だ。

ケリングは、グループ全体で扱う17種類の素材の原料について、それらの調達と製造プロセスに関する基準を策定し、各ブランドやサプライヤーに配布しているという。この基準は「ケリング・スタンダード」と呼ばれ、2020年時点ではこの基準の達成度が74%まで進捗しており、2025年までに100%達成を目指している。



そして、セーターをめぐるカスタマージャーニーはつづく

「サステナブルな未来のために、あなたにもできることがあります。はじめに手にしたセーターのその後をみてみましょう。」
オーガニックな曲線で導線が設けられた展示会場を進んでいくと、再び最初のセーターに立ち戻る。ここからは、セーターを何年も着た後の物語が紡がれる。

「そして何度もの冬を越え、着られなくなってしまったセーター。思い出がつまったセーターは、リサイクルをしたり誰かに譲ったり、もっと意外なことだってできるかもしれません。わたしたちが目指す未来では、セーターの行き先にはきっとたくさんの可能性が広がっているのですから。」

このカスタマージャーニーの締めくくりに、展覧会に参加する消費者に投げ変えられる問いかけは、まさしく ”未来のラグジュアリーを創造する”というケリングのサステナビリティ戦略と結びつくメッセージだ。



「あなたが着ている服。それは、地球とそこに暮らす人々やたくさんの生きものたちと深くつながりあっています。あなたとともにこの豊かな多様性を守り、次の世代に引き継いでいくこと。それが、わたしたちが目指すラグジュアリーのかたちです。」


真の「循環型ファッション」とは

ケリングは、この展覧会に先立ち、『完全なる循環へ』を発表した。

ファッション産業におけるサーキュラリティとは、アップサイクルやリサイクルだけを意味するものではない。
製品の製造方法や使い方を見直し、素材や製品そのものの使用寿命を延ばす方法を考えることを意味する。

ケリングは、循環型社会の実現にむけて何を目指し、どのようにそれを達成するのか。
また、これまでにどのようなことに取り組んできたか。

それにはクリエイティビティやノウハウ、高品質に対する基準がキーポイントとなる。

・修理やアフターケアによる永続的なラグジュアリー。
・自然再生や循環性のある素材を用いた製品の提供。
・エネルギーや水の消費の仕方や再生農業の実施。

そして、とりわけ興味深いのは、フランスで創業したリセール・プラットフォーム、Vestiaire Collective(ヴェスティーエルコレクティブ)への参加だ。ラグジュアリー・ブランドにとって、二次市場であるリセールは脅威ではなく、むしろ協働すべきパートナーとしてポジティブに捉えられている。
リセールは、サステナビリティやサーキュラーエコノミ―の観点からも価値的なソリューションであり、特にミレニアムやZ世代にアピールする手段としても大きな力を秘めていると言えるだろう。

ケリングのチーフ・サステナビリティ・オフィサー Marie-Claire Daveu (マリー=クレール・ダヴー)氏も、
リセール市場への参画は「当社のサステナビリティ戦略にも合致する」と話している。


ラグジュアリー・ブランドならではのインパクト

●企業の協働を促進するファッション協定

ファッション協定とは、ファッションや繊維産業に属する企業とそのサプライヤーたちは業界を超えて連携し、「地球温暖化の阻止」「生物多様性の復元」「海洋の保護」という3つの分類において協働する世界的な連合だ。
フランスのマクロン大統領から指名を受け、ケリング会長兼CEOであるフランソワ=アンリ・ピノー氏がリードして、2019年に発足した。この協定には HERMES(エルメス)やPRADA(プラダ)、ADIDAS(アディダス)やNIKE(ナイキ)など、世界的に有名なラグジュアリー・ブランドが名を連ね、2021年時点で70社が参加している。


●オープンに共有し、共に行動する

サステナビリティに関する私の信念は「共に行動する」ということ。
ケリングのチーフ・サステナビリティ・オフィサー Marie-Claire Daveu (マリー=クレール・ダヴー)氏は、こう明言する。

その一例として、ケリングが前述した環境フットプリントの測定ツール「EP&L」を構築すると、すぐさまオープンソース化して公開した。これも、「パラダイムシフトを起こすためには同業他社だけではなく他のセクターも含めて、すべての企業が変革していかなければならない」というケリングの確固たる信念に基づいたアクションに他ならない。

直接関与するサプライチェーンだけでなく、世界のファッション・ラグジュアリー産業のために革新的なソリューションを開発する。
それにより自然が再生、進化し、あるべき姿を取り戻し、ひとつの生態系が活力を取り戻す。
自社だけで取り組むよりも、さらにいい方向へ前進するためにできることを、ケリングは高次元で実践している。


あなたは明日、何を着ますか?

かつて、ファッション業界が大量生産・大量消費の華やかさと刺激に満ち溢れていた時代、「明日、何を着ますか?」という問いかけは、新しいものやトレンドを追い求める欲望を煽るものだった。

そして今この時代における「明日、何を着ますか?」は、とりもなおさず、私たちひとりひとりが、地球と私たちの未来を守り、次の世代にすばらしい環境で引き継いでいくために、どう考え、何を選択するかを問われている。

憧れや愛着をもってブランドの製品を購入してくれる生活者は、ブランドにとっては、それなしには事業活動が成り立たない非常に重要なステークホルダーだ。
つまり、自社やサプライチェーンのリテラシーを高めるのと同じくらい、生活者をサステナビリティ活動におけるパートナーと捉えて、理解や行動を喚起することが大切になってくるだろう。



※記事内で使用している画像はすべてケリングジャパンから使用許諾を得て、現地で撮影または提供いただきました。



【 参考サイト 】

ケリングがサステナビリティの展覧会「Fashion & Biodiversity」展を表参道ケリングビルにて開催

サステナビリティについての展覧会「Fashion & Biodiversity:ケリングと共に考えるファッションと生物多様性」展を2021年11月26日から28日に開催

ケリングが、サーキュラーエコノミーへの総合的アプローチを目指し グループの目標をまとめた報告書『完全なる循環へ』を発表

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Kering's Circularity Ambition - Marie-Claire Daveu with Erin Doherty




■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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