土壌から人々の健康を支える! ソイルアソシエーション(英国土壌協会)とは?

12月5日は国連が定めた世界土壌デー。都市化による急速な土壌の劣化が問題視されていますが、作物を生み出す母体となる土壌の重要性にいち早く注目し、地力を回復させることを通じて、豊かな食、持続可能な農業、地球環境の改善を呼びかけてきた協会がイギリスに存在しています。
その名も、ソイルアソシエーション(英国土壌協会)。
1946年にレディ・イヴ・バルフォア(Lady Eve Balfour)を中心に設立されたこの民間団体は、英国内でどのような役割を果たしているのでしょうか?今回の記事では、その存在意義と生活者との具体的なつながりについて紹介します。

集約農業への疑問から、持続可能な土づくりと農業をスタート

(画像引用:ソイルアソシエーション公式サイト

ソイルアソシエーションは第二次世界大戦終戦直後の1946年に設立されました。当時のイギリスは、伝統的な農業から単位面積から高い収益をあげる集約農業、つまり、休閑期をできるだけ短くし、機械や除草剤、化学肥料、植物成長調節剤を多量に投入し、作物の生産量を高めるスタイルの農業システムへの急速な移行が進んでいました。農作物の生産性は上がったとしても、土壌への深いダメージや、力を失った土壌で育つ農作物やその加工品の栄養素の低下、それらを食べる人間や動物の健康への影響を懸念した人々が、持続可能な農業に挑戦するとともに、啓蒙活動を行うことを目的にソイルアソシエーションを立ち上げました。

世界の中でも特に厳しい基準を設定している認証制度

食の安全を求める声が高まるのに応えるため、ソイルアソシエーションは1973年に認証制度を立ち上げました。設立当初は農作物やその加工物に対して認証を行っていましたが、現在では、食品、化粧品、衣類といった日々の生活用品から、農業、林業など広範囲にわたり、ソイルアソシエーションが定めた基準をクリアした製品に対して認証を行っています。日本の有機JASは有機農産物・有機加工食品・有機畜産物いるのに比べるとかなり範囲が広いと言えます。また、ソイルアソシエーションは人間のみならず、動物愛護にも力を入れています。動物実験を行わない、集約畜産を行わないなど、動物の健康のための活動も実践しています。
その経験や実績が認められ、1986年からスタートしたEUの農作物に対するオーガニック認証ユーロリーフの基準づくりもソイルアソシエーションがサポートしました。


(画像引用:ソイルアソシエーション公式サイト


ソイルアソシエーションの基準は、世界の中でも特に厳格であり、ユーロリーフや他国のオーガニック認証では認められている一部の農薬などの使用を認めていません。ソイルアソシエーションの基準には、以下のようなものがあります。

・化学薬品、化学肥料、農薬を使わずに栽培

・有機物による堆肥、植物の抽出物、ミネラルを肥料として使用

・過去5年以内に遺伝子組み換え品を生産していない

・肥料に遺伝子組み換え品の使用を禁止

・発がん性の恐れがある成分は使用禁止

・人工ナノ物質の使用を禁止

・土壌を用いない栽培方法(水栽培、鉢植え等)の禁止

・似た病害を受けやすい作物を栽培する場合、一定期間を置く

・工業地帯から離れた場所で栽培



(画像引用:株式会社ニールズヤード レメディーズ プレスリリース

日本では、ソイルアソシエーション認定を受けた製品として、化粧品や加工食品が流通してます。オーガニックセルフケアの老舗である『ニールズヤードレメディーズ』や、自社農園のハーブをふんだんに使った化粧品『ハーブファーマシー』などが認証を取得しています。
豊かな香りが人気の紅茶やハーブティーで有名な『クリッパー』も認証取得ブランドです。クッキーやジャムで有名なチャールズ皇太子がプロデュースする食品ブランド『ダッチ―・オリジナルズ』も認証取得済みです。


(画像引用:Duchy Originals from Waitrose 公式サイト


食を通じ、健康、地域のつながり、環境への意識を変えていくことに挑戦

有機農法の実践やコミュニティづくり、認証を通じてのオーガニック製品やフェアトレードの拡散などに加え、ソイルアソシエーションでは、有機農業を広めていくための様々な啓蒙活動やキャンペーンを行っています。

たとえば、健康的でおいしく、持続可能な食事を誰もが楽しめるようにすることを目指す「Food For Life」プロジェクトでは、地元の生産者や加工業者、ケータリング業者、栄養士、調理師などと協力して、オーガニック栽培された有機野菜を使った質の高い給食を、学校、保育園、病院、介護施設に導入することをサポートしています。

栄養豊かなおいしい食事を口にすることで、自分が口にするものに関心をもち、それがどこから来ているのか、誰がどのように調理しているのか、その原材料となる農作物はどのように栽培されているのかといったことを知り、オーガニック農業や自然環境にまで興味を広げていくことを、長期的な取り組みとして実践しています。


(画像引用:Food For Life 公式サイト


また、子供たちの食生活の向上の一環として、有名チェーンレストランの子供向けメニューを採点する「Out to Lunch」プロジェクトも行っています。覆面調査員である子供とその家族がレストランに潜入し、メニューをオーダーして以下のような項目をチェックします。

・子供たちに砂糖や人工甘味料入りの飲み物を提供しない

・デザートの糖分摂取量が推奨値を超えないようにする

・野菜を多く取り入れた栄養バランスのとれた料理を提供する

・有機栽培、農場保証、高動物福祉認定の肉など、質の高い食材を使用する

・ベジタリアンやビーガンの料理には、健康的で栄養バランスのとれた植物性タンパク質を多く取り入れる


採点した20店のうちトップは、日本未上陸の英国パブ『JDウィザースプーン』だったとのこと。ちなみに最下位はPizza Huttでした。

身近なチェーンレストランでのランチの質を可視化させてくれるこういったプロジェクトは、ランチ選びの強い味方になってくれると言えるでしょう。


土壌こそが人々の生活の質を決め、さらには環境に大きな影響を与えていくとし、地道かつパワプルな活動を行うソイルアソシエーション。土を大切にする有機農法の推進はもちろん、有機農法や環境への関心を高めるためのプロジェクトも大変ユニークであり、彼らの取組みは、食育活動やコミュニティ強化策として参考になりそうなアイディアにあふれています。



■執筆:contributing editor  Chisa MIZUNO 
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