NETFLIX 2022年末までに「ネットゼロ」宣言 サステナビリティでも革新的的イノベーションを起こせるか

イギリス、グラズゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)では、「各国が緊急性を意識し、より高い目標を掲げる場にならなければいけない」と強調され、世界各国で気候変動への意識はますます高まりを見せている。

製造や生産に関わる業界のみならず、言うまでもなく、気候変動の取り組みはあらゆる企業にとって喫緊の課題だ。

そんな中、コロナ禍で業績を飛躍的にのばし順調に成長を続けている動画配信サービスNetflix(以下、ネットフリックス)が、2022年末にはネットゼロ=温室効果ガスの実質的な排出量をゼロにすると発表した。

COP26やSDGsで掲げられる2030年よりも大幅に前倒しして、これほどの短期間でどのように実現するのか。
サステナビリティコミュニティからも熱い期待が寄せられる、ネットフリックス「ネットゼロ宣言」達成にむけたステップ、そして2021年秋に発表された進捗報告をレポートする。


ネットフリックスが気候変動への取り組みのリーダーシップを発揮

1997年に創業したネットフリックスは、今や映画・ドラマなどの動画コンテンツ配信の分野で世界最大規模を誇る会社だ。創業当初はDVD宅配が事業の中心だったが、2011年に事業転換をして、月額有料定額の動画コンテンツ配信サービスを開始して以来、現在にいたるまで急成長をとげている。本社のあるアメリカ国内にとどまることなく世界進出にも積極的で、2016年には動画配信事業で160ヶ国に進出した。

ネットフリックスが発表した2021年7月から9月までの3か月決算は、売上が74億8300万ドル(日本円で約8500億円)と前年同時期比で16%増え、過去最高を更新している。会員数も2億1360万人に増加した。


(画像引用:日本経済新聞「Netflix、7~9月83%増益」,2021年)


映画・動画業界を牽引するネットフリックスは、世界規模の課題である気候変動においても強力なリーダーシップを発揮しようとしている。2022年末にはネットゼロ=温室効果ガスの実質的な排出量をゼロにすると発表したのだ。

「気候変動に対する取り組みに関して、映画業界にはリーダーが必要です。1つの企業が立ち上がり、他の企業に影響を与えることから世界の変化は始まります。ネットフリックスには、私たちの選択が世界に与える影響を明らかにする自然科学、そして変革を起こす方法を明らかにする社会科学の両方から知恵を受け、リーダーとして業界を先導してもらいたいと思います」と、ザ・ネイチャー・コンサーバンシー主任研究員のキャサリン・ヘイホー博士も、ネットフリックスの活動に期待を寄せている。


作品を通して訴えかけるサステナビリティの物語

エンターテインメントにおいても、サステナビリティは壮大な物語として、数々の作品のテーマに取り上げられている。2020年にはこうした問題を扱った作品が、ネットフリックスに登録されている全世界の1億6000万世帯で、世帯あたり1作品以上視聴されたという。

その中の一つ、2019年からネットフリックスで配信がスタートしたドキュメンタリーシリーズ『OUR PLANET 私たちの地球』は、ネットフリックスの他に、WWFやSilverback Films の共同制作作品だ。600名の撮影クルーが35,000日をかけて世界50ヵ国にて撮影され、地球上に生息する貴重な生きものの姿が収められている。

「OUR PLANETでご覧いただける地球の姿を通して、今、大きな脅威にさらされている地球を、行動を起こせば良い方へ方向転換できるということを感じ取って欲しいと思います。
また、人類は、さまざまな課題を解決する能力をもった種として、新鮮な空気や水、持続可能なエネルギー、水産資源などを未来へ引き継いでゆく必要性についても注目して頂けると嬉しいです。」と、この作品で語り手を務め、WWFの親善大使でもあるデイビッド・アッテンボロー氏はコメントをしている。


(画像引用:NETFLIX 公式サイト「ネットゼロ + 自然: 気候変動に対するNetflixの取り組み」


「世界にエンターテインメントを届けるには、まずは人が住むことができる地球が必要」
ネットフリックスのサステナビリティ責任者、エマ・スチュワート博士は上記のメッセージを、公式サイト内「NET ZERO + NATURE」の中で発信している。

気温の上昇を1.5ºC以内に抑えて気候を安定させ、気候変動がもたらす最悪の結末を回避すること。そして、子どもたちの世代に生命を維持する健全な仕組みを残すこと。ネットフリックスが提唱したネットゼロ宣言「NET ZERO + NATURE」プロジェクトは、これらの目標に貢献すべく打ち立てられた。

この計画のなかで、2022年末までにネットゼロ(温室効果ガスの実質的な排出量をゼロにすること)を実現させるだけでなく、2023年以降も毎年同じ目標を達成できるよう取り組みを継続するとも宣言されている。

動画コンテンツ制作現場、コーポレートオフィス、出張、ストリーミングによるネットフリックスの主な排出源は、燃料燃焼と電力消費という2つの基本的なカテゴリーに集約される。社内での削減を達成するために、ネットフリックスは「最適化」「電動化」「脱炭素化」という戦略を用いて、エンターテインメント業界に最も適したソリューションに焦点を当て、プロジェクトを推進する構えだ。

また、このプロジェクト戦略は、国立研究所の研究者、再生可能エネルギーや航空産業の有識者、自然資源保護協議会の政策専門家など60名以上もの専門家の助言を得て策定された。


カーボンフットプリントの把握

2020年にネットフリックスが排出したCO2は110万トン。
このうち約50%は、ネットフリックスオリジナル作品の物理的な制作過程で排出されたものだ。内訳として45%は企業活動や購入した商品 (マーケティング関連の支出など) によるもの。サービス提供に使われるクラウドプロバイダーやネットワーク利用に占めるのが残りの5%だ。

ネットフリックス会員が視聴に利用するインターネット通信や電子機器からの排出については、インターネットサービスプロバイダーやデバイスの製造業者が説明責任を負うものとして計算から除外されている。

一方で、ストリーミングなどのインターネット利用によるカーボンフットプリントを測定する統一した方法を確立するため、ブリストル大学が主導する共同研究プロジェクトにも参画した。ブリストル大学が開発した計算機ツールを使用し、2020年にネットフリックスで動画を1時間ほど視聴した際のカーボンフットプリントは、ガソリン乗用車が400メートル走った場合と同等の100gCO2eを優に下回るという結論を導き出した。
この結果は同業他社のものとも一致し、ネットフリックスの諮問グループからも妥当であると確認されている。


ネットゼロ(カーボンニュートラル)にむけた進捗状況

「ネットゼロ達成までの道のりは平坦ではないが、必要な変革を迅速に行うとともに、2030年以降に向けても長期的な影響を最小限に抑えるための礎を築いていく」として、2021年9月23日時点での社内における排出量の削減など、ネットフリックスの取り組みについての最新情報を発表している。

・電力供給の脱炭素化

ネットフリックスでは、効率を重視して最適化し、制作現場とオフィスの両方で使用する電力量を削減している。最も負荷がかかっているアメリカの施設を対象にエネルギ—効率監査を開始し、エネルギ—とコストを節約する箇所を特定した。電力供給の脱炭素化のため、すべてのオフィスや施設で100%クリーンなエネルギーを利用できるプログラムにも参加している。

次に、自動車やビル、発電機など、液体燃料を最も多く使用する機器を電動化する。たとえば電気モーターは効率が良く、電力は脱炭素化が容易なため、可能な限り電気モーターを使用する。
そのほか最適化や電動化ができない排出源については、再生可能エネルギーの導入や相殺を行うという。


・汚染のない制作現場を構築

制作現場の脱炭素化についてはゼロカーボン電力の新技術を試験的に導入している。

たとえばイギリスでは、人気作品『ブリジャートン家 シーズン2』制作現場にて、GeoPuraによる排出物を出さないグリーン水素発電装置を試験的に導入した。このグリーン水素発電装置は非常に安定した電力を供給できる他、撮影時に重要な静音性も備えており、大きなメリットをもらたしている。
今回の結果を受けて、2022年にはイギリスの制作現場における試験運用をさらに拡大する予定だ。
他にも、モバイルバッテリーの導入をカナダやアメリカでも進めたり、自然生態系を保全・回復・保護するために、自然環境に関する質の高い炭素クレジットを吟味して購入するという。


・オフィスのCO2排出量を最小限に抑える

2019年には、ネットフリックスのオフィスの電力がCO2排出量の約12%を占めていた。これは主要な排出源ではないものの、長期的にCO2排出の影響を最小限に抑え、より健康的で安全な職場環境を目指していく。

ハリウッドにある新しいオフィスは、ロサンゼルスで初めてBIPV (建材一体型太陽光発電) を導入した大型商業ビルだ。BIPV(建材一体型太陽光発電)とは、建物の外壁に太陽エネルギーによる発電機能を持たせたもので、ビルの電力のほか、社員と訪問者が利用できる70台以上のEV充電器の電源に利用されている。

さらに、このビルにはエネルギー効率の高い機能が随所に盛り込まれており、米国で最も厳しいとされるカリフォルニア州のエネルギー基準であるTitle 24に比べて13%以上の省エネを実現している。


・航空利用における脱炭素化

映画やTV番組の制作には、常にある程度の航空機の利用が欠かせない。
航空利用は、ネットフリックスのCO2排出量の約15%を占める。ネットフリックスは、社員の出張や映画・TV番組の制作にかかわるキャストやスタッフの航空利用による排出量に責任を持つと表明している。

4月にはサステナブルな航空燃料の投資ならびに技術革新の促進を目的に、SABA(Sustainable Aviation Buyers Alliance)を共同で設立した。この設立には、環境防衛基金、ロッキーマウンテン研究所、ボーイング、ボストン・コンサルティング・グループ、デロイト、JPモルガン・チェース、マイクロソフト、セールスフォースが参加している。

サステナブルな航空燃料(SAF)は、飛行中の「燃焼」排出量は従来のジェット燃料と大きな差はないものの、生産に関連するCO2排出量が少ないため、燃料のライフサイクル全体で大幅な排出量のメリットをもたらすという。また原料の点でも、植物由来だったり、再利用可能な廃棄物や都市ごみから生成される点が環境負荷の軽減に貢献する。


高まる環境意識は映画業界にも波及

2021年11月12日まで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)では、「各国が緊急性を意識し、より高い目標を掲げる場にならなければいけない」と強調された。

どの業界でもトップリーダーが率先して範を示すことが、業界全体のサステナビリティを向上させるとともに、企業の新たな競争戦略の方向性を知らしめていくことにつながる。

映画業界においても、環境や社会への貢献活動はもはや無関係ではいられない。
幅広い年齢層の生活者にダイレクトに強い影響を及ぼし得る動画コンテンツの制作が、どのように行われ、環境に対してどんな影響を及ぼしているのかを、私たちは普段あまりイメージできていないかもしれない。

しかし撮影の現場では、とりわけ環境配慮に対する意識が高いアメリカにおいては、環境に配慮したスタジオで映画作品を撮りたいと、多くの優秀な監督や有名俳優たちが集まってくるのだという。すなわち、環境への取り組みはダイレクトに映画ビジネスに反映され、映画作品のクオリティを高めることに直結する。

ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントは、環境への取り組みを企業のコアバリューとして位置づけている。
環境に配慮した映画制作の現場を整える。そのことが、優秀な人材を集め、魅力的な映画を作る力となり、ヒットを生み出していく。映画や動画コンテンツは感動や興奮を届けるだけでなく、多くの生活者を巻き込みながら、社会の課題を解決する推進力も生み出していくことになるだろう。




【参考サイト】

ネットゼロ + 自然: 気候変動に対するNetflixの取り組み

Netflixの気候変動に対する取り組みの進捗状況について

『OUR PLANET 私たちの地球』 4月5日よりNetflixで配信開始

Sustainable Aviation Buyers Alliance




■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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