サステナブルな新素材「ヴィーガンレザー」から紐解く、消費行動の変化と企業に求められるもの

サステナビリティへの配慮が迫られるファッション業界。
サステナブル先進国である欧米はすでに環境への配慮は当然になっており、ファッションブランドでは続々と環境配慮型素材の開発や採用が始まっている。

なかでもここ1年ほど話題に上ることが多いのがレザー、つまり革だ。牛や豚といった動物由来のものから、テクノロジーによって開発された新しい素材へと切り替えるブランドの動きが目立ってきている。
今日はこのレザーの新素材とその採用を進めているブランドを紹介しながら、生活者の変化を見ていきたい。


代表的なレザーの代替素材、マッシュルームレザー

このところ大手ブランドが採用したというニュースで話題なのがマッシュルームレザーだ。マッシュルームとはキノコのこと。つまりキノコの菌から作られたレザー素材である。

代表的なマッシュルームレザーは、サンフランシスコのスタートアップ企業ボルトスレッズ(BOLT THREADS)のマイロ(MYLO)だろう。
マイロは、自然界と似た環境を室内で再現し、おがくずや有機物を与えながら湿度や温度などを調整しながら菌を栽培したのち、加工・染色して製造されている。

このマイロは、スポーツブランド のアディダス、グッチやバレンシアガを擁するケリンググループ、ヨガブランドのルルレモン、そしてファッションブランドのステラ マッカートニーが共同事業者としてパートナーシップを結んでいる。アディダスは2021年4月に人気モデルのシューズにマイロを採用し、ステラ マッカトニーは2022年の春夏コレクションでマイロを使用したブランドのアイコニックなバッグを発表した。


(画像参照: adidas 公式サイト 「 STAN SMITH MYRO™:MADE USING MASHROOMS 」)

マッシュルームレザーを開発している企業は他にもある。
カリフォルニアのスタートアップ企業であるマイコワークス(MycoWorks)は、自社で開発した素材をもとに、クライアントの要望に従って生産を行う。同社は皮革製品のブランドとして象徴的な存在であるエルメスとパートナーシップを結んで素材開発を行い、そのマッシュルームレザーを使って製造したバッグを2021年内に発売するとエルメスが発表している。

またアジア圏では、インドネシア発のマイコテック ラボ(MYCL- Mycotech Lab.)がマイリー(Mylea)という素材を開発。東京発のメンズブランドであるダブレットが採用を予定している。さらにマイコテック ラボは、今後生産拠点を日本に置くと発表した。


自然のエネルギーを活かして生まれる、サボテンレザー

キノコの他に評判の高いレザーは、メキシコのスタートアップ企業Desserto(デザート)の開発したサボテンレザー(カクタスレザー)だ。

サボテンはもともとあまり水を必要せずに大きく育つ植物。この時点ですでにサステナブルである。収穫後にすり潰されたサボテンは、乾燥され粉末にされたのちに革へと姿を変えていく。乾燥させるのも太陽の力で天日干しされるため、無駄なエネルギーを必要としない。

仕上がりは本革に限りなく近い質感で、通気性がよく湿度にも強い。摩擦や紫外線にも耐性があり、耐用年数が10年と言われている。耐久性が問題になりやすいヴィーガンレザーの中でも実用性の高い素材といえる。

サボテンレザーを採用しているブランドは、ロサンゼルスのスニーカーブランドであるCLAE(クレイ)が代表的だろう。環境に配慮しながら、ミニマリストとして製品づくりを行っているブランドだ。
日本では東京農業大学の学生が代表を務めるHAYAMIによるブランドRe:nne(リンネ)で商品化されている。日本の老舗メーカーで職人によって一つ一つ手作りで生み出されているウォレットは、日本の技術と職人の想いが込められている。


選ばれるブランドになるために求められる、マインドセットの更新

欧米のサステナビリティへの取り組みは、時間差で日本にも起こると考えてまず間違いないだろう。
日本においても生活者の消費行動は確実に変化してきている。以前は新しいものをいくつも手に入れるといった物質的な豊かさを求める生活者が多かったが、このところ必要なものだけを購入し、丁寧に長い間使うという考えが広がってきている。また、個人間の古着や中古品の取引が一般的になったことで中古品に対する抵抗感が薄れ、街には古着店が増えてきている。



自分のフィロソフィーにフィットするブランドや製品を厳選して選択する生活者が、今後いっそう増えていくだろう。
事業者は、品質やデザイン、利便性、価格だけでなく、選ばれるために様々な角度から考え抜いたものづくりが求められるようになってきている。どんな素材を使っているのか、誰かの不幸の上で作られたものではないか、どんな想いによって生まれたものなのか。

経済的な体力のある企業でなければ取り組みに力を入れられないというのが現状の本音ではあると思う。しかし近い将来、サステナブル・ブランディング視点から捉えるならば、それらの配慮がスタンダードとなっていくとわたしたちは予測している。
企業は、旧来の考えに捕われず、新しい生活者の消費行動に合わせた柔軟なマインドセットの更新が求められているのではないだろうか。



【 参考サイト 】

MYRO™ FAQ

boltthreads:The New York Times Announces the MyloTM Consortium

STAN SMITH MYLO™: MADE USING MUSHROOMS

WWD JAPAN:マッシュルームレザーの生産拠点が日本に 「ダブレット」が組んだインドネシア発スタートアップ創業者が語る

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Nagisa YOSHIDA  Sustainable Brand Journey 編集部
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