ビューティー界のサステナビリティトレンド(前編)ブランドの姿勢が価値となり、購買へ

パンデミックを機に健康、気候変動、地域社会への関心がさらに高まり、ビューティ界においても、肌と環境にやさしいナチュラル&オーガニックから一歩進んだ、より安全性や信頼性の高いブランドやソーシャルグッドな取り組みを行うブランド、つまりクリーンビューティー ともいえるブランドに注目が集まっています。

購買行動のトレンドとして、「環境や社会に悪影響を与える商品・企業」に対する不買や「環境・社会に配慮した商品」に対する購入意向が約7~8割にのぼっており(参照:博報堂「生活者のサステナブル購買行動調査」,2019年)、化粧品においても、効果効能や美しさ、心地よさを大切にしつつ、製品が環境や社会に負担をかけないか、どのような哲学で創られているのか、どのような背景・ストーリーをもっているのか、についても気にするユーザーが増えているといえそうです。

言い換えれば、日々のスキンケアやメイクアップを、美容のためだけだけでなく、社会や環境とのつながりを強化するツールととらえ、課題に対する取り組みを行うブランドの製品を購入することで、社会に対する意思表示や還元を行いたいという意識が高まりつつあるのでしょう。ブランドの哲学、取組み姿勢そのものが価値となり、ユーザーの共感と購買へとつながっていく流れは、今後さらに加速すると予測します。

サステナブルな取り組みをコアにもつビューティーブランドに共通しているのが、

・原材料の選択、製造過程、流通において、人や環境を大切にしている
・リサイクルやリユースで廃棄物を減らし、資源を循環させている
・透明性、信頼性、安全性、社会倫理を大切にしている
・地域社会に貢献するための活動を行っている
・性別を問わずに使える
・ブランドメッセージを明確に発信している

といったことです。
もちろん、化粧品としての機能性や、マインドへのアプローチ、パッケージデザインといったベースの部分も押さえています。

今回、今後のビューティー界を牽引する価値観をもった国内外の象徴的なブランドを、具体的な取り組みとともに前後編で紹介します。

樹木との共生をテーマに、循環を
BAUM(バウム)

ビューティー界のリーディングカンパニー資生堂が、サステナブルな社会の実現を目指して2020年に立ち上げたのが、「樹木との共生」をテーマに掲げるスキンケアブランド BAUM(バウム)です。


(画像引用:株式会社資生堂 BAUM公式サイト

年齢や性別を問わず持続可能な美しさを引き出すためのケアとして、樹木の「貯水」「成長」「環境防御」の働きに着目。全製品パラベン、シリコン、合成着色料不使用、90%以上を自然由来の素材から製造しています。

樹木資源を未来につなぐ活動としては、パッケージには家具ブランドの端材をアップサイクルして利用。また、パッケージの木枠に用いるオークの苗木を植樹し、BAUMの森を育成。育った樹木を採取し、再びBAUMに活用する循環を行う予定です。


(画像引用:株式会社資生堂 BAUM公式サイト

環境負荷の軽減のために、商品へのレフィル活用するほか、製品の一部にバイオPETやリサイクルガラスを採用。ショッピングバッグやギフト梱包についても、無償配布を行わず、日常的に使いたいBAUMらしい洗練されたデザインの有料のエコバッグ、布製のポーチを用意しています。ギフトの高揚感は大切にしたいけれど、ゴミは出したくないという考え方に寄り添った新しい提案です。大手メーカーが環境に対して先進的な取り組みを行うのは、ビューティー業界のサステナビリティの底上げにもつながるはずです。

植物を育てるための土づくりから製造過程までを一貫して
サステナブルな視点で管理するNEMOHAMO(ネモハモ)

2019年12月に京都・四条河原町にオープンした複合型商業施設「GOOD NATURE STATION」(グッドネイチャーステーション)。“信じられるものだけを、美味しく、楽しく。人も地球も元気にする「GOOD NATURE」”というコンセプトのもと、運営を行う施設のオリジナルコスメブランドがNEMOHAMO。植物の力を余すところなく引き出したトータルケアブランドです。


(画像引用:GOOD NATURE公式サイト

NEMOHAMOはその名の通り、自社農園で栽培されたオーガニック植物を根も葉もまるごと製品に使用。植物エキス抽出溶剤にも石油由来成分を使わず、防腐剤も植物由来という徹底した植物志向の開発を行っています。

NEMOHOMOで特に注目したいのは、循環へのこだわりです。
植物を育てるための土づくりから製造過程までを一貫して、サステナブルな視点で自社管理。製造工程での排水・排煙を出すことなく、エキス抽出後の原材料植物は堆肥として活用。製品を生み出す福岡県芦屋町の自社工場の電力は、再生可能エネルギーのみで稼働という本気ぶり。
もちろん、紙資源の削減、リサイクル可能な容器やバイオマスPE採用といった環境負荷低減のための取組みも実施。化粧箱にはサトウキビを絞った後に残る繊維を採用。説明書の同梱を廃止し、化粧箱中面に説明書きを印刷することで紙資源を削減しています。


(画像引用:NEMOHAMO公式サイト

容器や化粧箱の「不良」基準を厳しく設定せず、軽いスレやキズはOKとするという点も、時代の感覚に合った合理的な判断だと感じます。


製品の購買を通して希望の連鎖を生み出仕掛けを導入
THOUSAND COLOURS(サウザンドカラーズ)

1,000年先の未来まで希望を感じさせる香りを提案するのが、2021年11月にデビューしたフレグランスブランド、THOUSAND COLOURS(サウザンドカラーズ)です。


(画像引用:THOUSAND COLOURS公式サイト

ブランドの根底にあるのは、未来に向けた行動の原動力として希望が欠かせないという想いです。
その背景には、この1000年で人口、地球環境、ライフスタイルや人々の意識が激変したことや、パンデミックなどによる不安定な社会状況があります。
こういった状況の中でも、一人ひとりが自分の中に希望を抱けるように、製品でプリミティブな感性(視覚、聴覚、嗅覚)に働きかけ、希望を感じる力を刺激することをサウザンドカラーズは目指しています。
香りは原始的な脳(大脳辺縁系)に直接伝わるため、人の情動をダイレクトに揺り動かします。その香りの特性を生かして、希望を生み出すことにつなげていくという試みが新しく、化粧品を通じたこういう社会行動のあり方もあるのだと気づかされました。

サウザンドカラーズを特徴づけるのが、メッセージ性の高いパッケージ&ビジュアルと、希望の連鎖を生み出す買い物体験の仕掛けです。
リサイクルガラスを利用した色とりどりの異なる形のボトルは、多様性の象徴のようでもあり、製品名は社会的な出来事とそれが起こった年号になっているのもユニークです。


希望の連鎖のための買い物体験としては、自社オンラインショップでの製品購入時に、購入代金の5%を寄付することが可能となっており、無理なく社会や環境の支援活動を続けることを購買体験としてサポートしてくれます。
寄付は、未来につながる活動を行う以下の3つの団体から購入者が選べる仕組みとなっています。

①次の世代の子供達に希望を届ける「みらいこども財団」
②CO2を減らし、緑を守る「ブルードットグリーン」
③LGBTQ等の多様性を包摂する社会を創る「ReBit」

人や環境のために寄付活動をしたいとおもっても、団体を探したり、信頼性を調べたりする途中でつい諦めてしまうことも多い中、好きなものを買うことを通じて寄付したい時に手軽に支援活動を行える仕組みを提供してくれるのは、ユーザーにとっても喜ばしいことです。


>> 後編はこちら


■執筆:contributing editor  Chisa MIZUNO 
#ウェルネス #ビューティ #コンセプトメーカー #全国通訳案内士






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