ヤングケアラーへの関心と支援がひろがる ~世界子どもの日と、子どもの権利条約に寄せて~

11月20日の「世界子どもの日」は、世界の子どもたちの相互理解と福祉の向上を目的として国連によって制定された。さらに、すべての子どもに人権を保障する初めての国際条約『子どもの権利条約』が採択されたことにより世界中で子どもの保護への取り組みが進み、これまでに多くの成果が生まれている。

子どもの権利条約において「子どもの権利」と謳われるものには、生きる権利や守られる権利といった生存に関する権利の他、「育つ権利」「参加する権利」も含まれる。

日本では、2021年4月に発表された厚生労働省と文部科学省の調査結果から「ヤングケアラー」の存在が浮き彫りとなった。子どもの権利を守り、次世代を担う子どもたちの未来や希望を損なわないように、ヤングケアラーへの関心と支援が広がりつつある。



毎月11月20日は世界子どもの日

11月20日の「世界子どもの日」は、世界の子どもたちの相互理解と福祉の向上を目的として、1954年に国連で制定された。その後1989年には、すべての子どもに人権を保障する初めての国際条約「子どもの権利条約」が国連総会で採択され、日本は1994年に批准した。
この条約が生まれたことにより世界中で子どもの保護への取り組みが進み、これまでに多くの成果が生まれている。

「子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)」は、子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた条約。18歳未満の児童(子ども)を対象とし、おとなと同様ひとりの人間としての人権を認めるとともに、子どもの生存、発達、保護、参加という包括的な権利を実現・確保するために必要な事項を規定した前文と本文54条から成る。成長の過程で特別な保護や配慮が必要な子どもならではの権利も定めている。

「子どもの権利条約」 一般原則

・生命、生存及び発達に対する権利(命を守られ成長できること)

すべての子どもの命が守られ、もって生まれた能力を十分に伸ばして成長できるよう、医療、教育、生活への支援などを受けることが保障される。

・子どもの最善の利益(子どもにとって最もよいこと)

子どもに関することが決められ、行われる時は、「その子どもにとって最もよいことは何か」を第一に考える。

・子どもの意見の尊重(意見を表明し参加できること)

子どもは自分に関係のある事柄について自由に意見を表すことができ、おとなはその意見を子どもの発達に応じて十分に考慮する。

・差別の禁止(差別のないこと)

すべての子どもは、子ども自身や親の人種や国籍、性、意見、障がい、経済状況など、どんな理由でも差別されず、条約の定めるすべての権利が保障される。


ヤングケアラーとは

「ヤングケアラー」について法律上の定義はないものの、本来ならば大人が担うと想定される家事・生活費を得るための労働・要介護者の世話などを日常的に行っている18歳未満の子どもを指す。
年齢や成長の度合に見合わない重い責任や、心理的・身体的・時間的な負担を負うことによって学校生活との両立が難しくなり、進路を変えざるを得ないなどの影響を及ぼす場合がある。勉強だけでなく、友人と遊んだり部活をしたり趣味に没頭するなど、子どもの健やかな発育に欠かせない自由や安心を損なう可能性も含んでいる。

ケアの具体的な内容としては以下が挙げられる。

・障害や病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている

・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている

・障害や病気のあるきょうだいの世話や見守りをしている

・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている

・日本語が第一言語でない家族や障害のある家族のために通訳している

・家計を支えるために労働をして、障害や病気のある家族を助けている

・アルコール、薬物、ギャンブルなどの問題のある家族に対応している

・がん、難病、精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている

・障害や病気のある家族の身の回りの世話をしている

・障害や病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている

問題が顕在化するきっかけとなったのは、2021年に行われた全国規模の調査研究事業「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」報告書だ。これによると、なんらかのケアをしている家族が「いる」と回答した子どもは、中学2年生で 5.7%、全日制高校2年生で 4.1%という結果となった。そのうち、家族への世話を「ほぼ毎日」している中高生が約半数に上り、さらに一日平均7時間以上世話をしている中高生も約1割いるという。

「世話をしていても自分のやりたいことへの影響は特にない」との回答が見られるなど、本人にヤングケアラーという自覚がない場合も多く、子どもらしい生活が送れない状況でも、当事者の子ども自身にとってその生活が“当たり前”になっていて問題に気づけなかったり、困ったときに相談したり助けを求める術を持ち合わせないなどの課題が浮き彫りとなった。



ヤングケアラーの認知と理解促進が課題

ヤングケアラーは、その名称や概念自体の社会的認知度が高いとはいえない。調査報告書によると、学校におけるヤングケアラーの認知度については、中高生の8割以上がヤングケアラーを「聞いたことがない」と回答しており、子ども自身のヤングケアラーについての認知度向上が必要だ。

ヤングケアラーに対する支援を進めていくためには、周囲の大人がヤングケアラーについて理解を深めるとともに、子どもが担っている家事や家族のケアの負担に気づき、必要な支援につなげることや社会的な認知度向上が重要な要素となる。

厚生労働省と文部科学省は共同で「ヤングケアラーの支援に向けた福 祉 ・ 介 護 ・ 医 療 ・ 教 育 の連携プロジェクトチー ム」を発足し、2022年度から3年間を集中期間として、ヤングケアラーの社会的認知度の向上に取り組むと発表した。

社会全体におけるヤングケアラーの認知度を調査するとともに、当面は既に調査を行っている中高生について、認知度を5割にすることを目指す。

また、一連の周知・広報を行う際には、「ヤングケアラー=悪いこと」というメッセージとならないように配慮する。

過度な負担により学業等に支障が生じたり、子どもらしい生活が送れなかったりすることが問題なのであり、ケア負担を軽減するために親子を分離するという極端な対応がとられてしまうと、本末転倒になる。

ヤングケアラーと家族をつなぐものは「ケア」だけではなく、共に過ごす時間や様々な関係のうえに家族の営みが成り立っている。
「ケアの負担さえなくなればそれでハッピーなのか。支援者は、それを十分考える必要がある」と、
ヤングケアラーの研究で知られる成蹊大学教授の澁谷智子氏は指摘する。


Slackでヤングケアラー支援の場づくり

Yancle(ヤンクル)株式会社は、ヤングケアラーや若者ケアラーの支援を実践する場として、相談や交流、情報収集・交換ができるコミュニティー「Yancle community」を開設した。Yancle(ヤンクル)では、対象をヤングケアラーだけでなく40歳以下の若者ケアラーまでを対象として、家族のケアを担う若きケアラーたちが当事者同士で支え合い、前を向いて自分の人生を歩んでいくための共助型コミュニティを目指す取り組みだ。




Slackには、情報閲覧やチャットがトピックごとにできる「チャンネル」機能があり、当事者のニーズに応じて選べる仕組みになっている。
現時点では一例として以下のようなハッシュタグが設定されている。

#自己紹介
#日常の悩み相談
#役立ち情報共有
#教えて助成金
#なんでも雑談
#仕事の相談
#恋愛カタリ場
#きょうだい同士で繋がりたい

他にも、専門家を招いたケアラー相談会、ケアラー同士の飲み会、ゲストスピーカーを招いた講座など、若者たちが介護によって孤立したり夢を諦めることをなくすことを目的としたオンラインイベントも開催予定だという。


不足する人財育成に支援も

2021年10月、日本財団は「ヤングケアラー」支援として、日本ケアラー連盟ならびにケアラーアクションネットワーク協会に対して合計1,475万円を助成することを発表した。

ヤングケアラーに対する公的な支援が不十分な中、両団体は今回の助成によって、自治体や学校関係者を対象にヤングケアラーに関する研修等を実施し、ヤングケアラーを支える人材の育成を目指す。
また、日本財団はこの助成事業を通じて得られた知見をもとに、自治体によるモデル事業の構築や
民間団体と連携した支援事業の拡大を目指し、以下の事業を展開する予定だ。

・自治体モデル事業(自治体と連携し、ヤングケアラーの早期発見、支援に繋げるモデル事業の検討)
・民間団体への支援・連携によるヤングケアラー支援の拡充(モデル自治体および全国への展開)
・普及啓発活動(普及啓発のためのホームページ・動画の作成や、シンポジウムの開催)
・日本財団がハブとなった関係者によるネットワーク構築
・政策提言(モデル自治体事業や、民間団体との連携の実績から、国に対して政策提言を行う)

子どもたちは「楽しいことファースト」

ケアに携わる子どもが自らを「ヤングケアラー」として認識していないケースが少なくない点が、
「ヤングケアラー」における重要かつ難しいポイントだ。また、自身がヤングケアラーだと認識できていても、当事者がサポートを求めないことの方が多いのが現状だという。なぜか。

「たとえば、ヤングケアラーが『学校に行くより、家族のケアをする方が意味がある』と言ったとき。その思いを否定せず、なぜそう思うようになったのか、どういう条件が整ったら学校に行ってもいいと思えるのかを聞いてみる。ヤングケアラーの凝り固まった思いを、そんな対話によって解きほぐしていける支援者の存在は重要。それにはまず、支援者がヤングケアラーと対話できる関係性をつくることが必要」と、ヤングケアラー研究者である澁谷氏は話す。
「子どもたちはやはり、まず“楽しい”が先に来ないと。楽しい関係性の中で、ポロリと出てくるものがあるのが、大人のケアラーとの違い。大人にはうまくいくやり方が、ヤングケアラーにはうまくいかないことは、往々にしてある。」

大人は相談を受けると、性急に何かアドバイスをしようとする場合が少なくない。けれどもヤングケアラーの支援においては、ヤングケアラーの想いに傾聴し、受け止め、じっくり付き合うという関係性づくりこそが大切だ。


すべての子どもが生まれながらに持つ権利

ここで改めて「子どもの権利条約」の条文をアイコン化した一覧を見てみると、すべての子どもに、この条約に謳われている権利が実現されるには困難が伴うがしかし、取り組む意義と必然性があることは明らかだ。


(画像引用:日本ユニセフ協会)

生まれながらに持っている権利を知り、自分が健やかに育ち、安心して「子ども時代」を過ごすために。
自分の意見を受けとめてもらい、自由に声をあげ、未来にむかって自らの可能性を伸ばせるように。

助けがほしいときに声を上げたり、適切な支援が得られる環境を整えていくことが、企業や自治体を問わず社会全体で必要に迫られている。


【参考サイト】

unicef World Children’s Day

unicef 子どもの権利条約

厚生労働省 ヤングケアラーについて

ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム報告

子供・若者に関する調査研究等

日本初!若くして家族の介護を担う、ヤングケアラー/若者ケアラーのオンラインコミュニティを開設!

日本財団が「ヤングケアラー」支援を開始

【特集】ヤングケアラーとは? 当事者・専門家と考える、ケアをする子どもたちに必要な支援

埼玉県ケアラー支援計画のための実態調査



■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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