未来の食をクリエイティブに発想する 【 Creative Chefs Box 2030 】企画者インタビュー

サステナブルなフードシステムの実現を目指す一環として、一般社団法人 日本サステイナブル・レストラン協会が『Creative Chefs Box 2030』を開催した。
「2030年の食のあり方は、どうあるべきか」をクリエイティブな視点で考え、ポジティブな解決策となりうる「未来のレシピ」を作り、広めていくことを目的としている。

39歳以下のシェフまたは調理師専門学校の生徒を対象に、2021年9月16日(木)~10月2日(土)まで「未来のレシピ」を公募。

・食料の無駄をなくす(食品ロス削減)

上記2つからどちらかのテーマを選択して製作することを基本条件とし、さらに

・サステナビリティ「変える力」
・クリエイティビティ「伝える力」

3つの加点条件を評価ポイントとして審査が行われ、世界食料デーの10月16日に優秀作品を発表した。

今回、この『Creative Chefs Box 2030』を企画した樋口実沙さんにインタビューし、本イベントを企画・運営するにあたっての工夫や気づき、そして食のサステナビリティにおける展望についても語っていただいた。



食における 2030年 問題

Q. タイトルの「2030」には、どのような思いが込められているのですか?


A.
もちろん、SDGsが2030年の達成目標としていることが念頭にあります。

もともとはシェフたちが集まって、サステナビリティに関してもっと積極的に何か実践していきたいと話していたんです。
ただ、2030年にむけてサステナビリティの取り組みが広まっていくためには、生活者の方々を巻き込んでいくことが必要です。

そこからブレストするなかで、生活者を巻き込むならレシピを募集して、コンテストとして表彰するのがいいのではないかという企画が生まれました。
そして社会全体にも関心をもってもらうために、受賞作品の発表日は「世界食料デー」と同日にしたのです。

シェア文化にフォーカス、全行程オンライン開催という特色

Q. 応募者を39歳以下と設定された理由について教えてください。


A.
2030年に自分のレストランを持っている、あるいはメインで働いているシェフを想定していたので、そこから逆算をしました。

もう一つの理由として、この年齢以上の世代のシェフたちは「師匠の背中を見て育つ」という方が多いかと思いますが、今回のイベントはサステナブルなレシピを広めることも目的のひとつなので、シェア文化になじんでいてレシピのソース(源)を明かすのに抵抗がない世代として39歳以下を設定しました。

サステナビリティは、どれだけ仲間を増やせるかが重要なポイントなので、自分のアイデアや知識をオープンにシェアしていける感覚はとても大切だと思います。

また、日本サステイナブル・レストラン協会側においても、Z世代のメンバーを企画に巻き込んだことがプラスに働きました。
ジェネレーションのダイバーシティと言いますか、Z世代特有のソーシャルなネットワーキングを活かして、いろんな人と協働しながら有機的に広がり、一緒に考えていく人を増やしていくことの有効性を実感しています。


Q. 「食」をテーマにしたコンテストでありながら、すべてをオンラインで行った点も非常に斬新でした。


A.
コロナ禍ということもあり、オンラインでの開催としました。

オンラインで開催してみて一番難しいと感じたのは、実際の味がわからない点です。
ですが、生活者視点でみると、たとえばレストランを選ぶときに料理の写真とコメントだけで選ぶことの方が多いですよね。レシピなども、SNSやクチコミで検索されるのが当たり前になってきているので、実は感覚的にはそれほど違和感がないのでは、とも思います。

サステナビリティのアウトプットで何が大事かというと、ストーリーだったり、惹きこむテーマ設定だったり。それは、オンラインの方がより拡散する可能性を秘めていのではないかと。

地方にあるレストランのシェフが、その土地ならではの問題提起を以て参加できたのも、オンラインで開催したからこそのメリットと捉えています。

ただ、やはり味は気になりますので、次回はファイナリスト以降の最終選考は実際に食べて審査することを検討しています。




Z世代が着目したサステナビリティのストーリー

Q. 応募者にはどんな傾向がみられましたか?


A.
今回受け付けた25の応募のうち、約半分が学生の方々でした。
公募に先駆けて、協賛団体である村川学園(調理師・パティシエを育成する専門学校)と協働して、食のサステナビリティに関する授業と、学生とシェフとのディスカッションの場を作ったことも効果的だったと思います。

Z世代にあたる学生の皆さんは、情報がフラットに入ってくるなかで、「これは本当に環境にいいんだろうか?」という問題意識を既に持っている方は多いと感じます。

次回はこうしたプレイベントとしての調理師専門学校への事前授業をさらに広げて行うなどして受賞へのモチベーション向上にも繋げられるかもしれません。

Q. 印象にのこった応募作品についてお聞かせください。


A.

・生物多様性×資源の持続可能性

「SDGsの認知度が高い世代」「シェア文化がなじんでいる世代」を意識したこともあり、結果として学生の募集が多かった印象です。若い世代からの応募が多かったことで、審査する側のシェフたちもとても刺激を受けたようでした。

とくに若い応募者たちに共通していたのは、アイデアがユニークだった点です。

たとえば、ファイナリストの1人 岸田颯太さん(東京山手調理師専門学校)の作品はウシガエルをメイン食材とした作品でした。
ウシガエルは現在の日本において、在来種に悪影響を与えるので駆除対象である特定外来生物に指定されています。しかしウシガエルも元々は明治・大正時代に食用や養殖用餌のために持ち込まれたもので、戦中・戦後には貴重な食料源にもなっていました。責められるべきはウシガエルの存在ではなく、深く考えず持ち込み、本来の目的を果たせなかった人間にあるのでは、という問題提起に基づいています。

生物多様性・資源の持続可能性は、これからの料理人にとって欠かせない視点ですが、それだけでなく、なぜこうした問題が引き起こされているのか、そしてどのように解決するべきかというところまで考えられていて、一貫したストーリーが感じられた点が素晴らしいと思いました。



・サステナビリティは、すべてがつながっている

また、別のファイナリスト星野瑠偉さん(東京山手調理師専門学校)は、害獣として殺された鹿が産業廃棄物として捨てられている現状に着目してレシピを考案してくれました。

食品ロスは、家庭やレストランの中だけでなく、サプライチェーン全体を俯瞰すると、いろいろなフェーズで生まれていることが分かります。
害獣として殺された鹿も、もともとは温暖化の影響で積雪量の少ない地域が増えたことにより鹿の行動範囲が拡大し、人里まで降りてくるようになったのです。
その鹿も、先ほどのウシガエルと同様に、ただ産業廃棄物として処理されてしまうのはあまりにもしのびないですし、資源の側面からも、もったいないことです。



これらの例からも分かるように、「すべてがつながっている」ことがサステナビリティの根幹です。
それをストーリーとしてきちんと表現でき、価値を創造したり共感を引き出す作品が多く見られたのは嬉しい驚きでした。


サステナブルな優秀作レシピ


Q. 意欲的な作品が集まるなか、見事に優秀賞を射止めた作品はどの点が評価されたのですか?


A.
・食品ロスから生物多様性の未来まで見据えて
最優秀賞は、前田真吾さん(haishop cafe)による「未利用魚とお野菜のお寿司」でした。

魚は、定置網漁法で水揚げされたものの目的以外の魚が獲れてしまうなど様々な理由から市場に出せない「未利用魚」を使用しています。
野菜は、haishop cafeのある横浜市の半径80km以内から調達をしてカーボンフットプリントを削減すると共に、野菜を皮ごとすべて使用することで食品ロスがでない調理をしています。
そしてお米は、農薬や化学肥料を使わず自然に寄り添った生産を行なっている玄米を使用。これにより、持続可能な「日本人の主食」であるお米の生産と生物多様性の未来までもが一つのレシピに込められています。



海洋生態系の破壊や地球温暖化の影響で身近な魚が食べられなくなるかもしれないという懸念があります。
お寿司が食べられなくなるのは寂しい。それじゃあ、今の私たちにできることは何だろう? という前を向いた着眼点が高く評価されました。

さらに、野菜を皮ごと食べる調理法についても、どこでどのように育てられたか分からない野菜を皮ごと食べるのは抵抗がありますが、無農薬野菜ならその抵抗もなくなります。皮ごと食べてみる、という体験を通じて、環境にまつわる様々な気づきを促している点も素晴らしいです。

レシピ自体も、ナスにかば焼きのタレをまとわせていたり、玄米にも味付けをするなど、「食べてみたい」と思わせる工夫が随所に施されていて、非常に完成度の高い作品でした。

・資源節約、ビオトープ、CO2削減を俯瞰で捉える

プレイベントも共催した「IDEAS FOR GOOD」賞に輝いたのは、「里山の恵みと知恵」をテーマにした江口弘展さん(PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO)の作品です。



かつて野生動物と人間の境界線の役目を果たしていた里山の生態系が崩れることにより、野生動物が食料を求めて人里へおりてきて、年間200億円もの被害をもたらす害獣問題を引き起こしている現状を踏まえて、猪肉のジビエをメイン食材にしたレシピを提案してくれました。

「2030年の家庭の食卓にジビエが当たり前のように並んでいたら、害獣被害も少なくなり、ハンターの方の地位もあがり、昔のように野生動物と人間のバランスを取り戻すことに繋がる」と江口さんの紹介文にもあるように、ひとつの課題にフォーカスするのではなく多角的にとらえる視点が光るレシピでした。

調理の熱はピザ窯の余熱を利用したり、窯に使う薪も里山を手入れする際に発生したものを利用していて、エネルギー資源の節約、CO2削減、里山文化の保全など徹底した配慮がされていました。

サステナビリティ=変える力


Q. 日本サステイナブルレストラン協会が思い描く未来のフードシステムとは?


A.
・フードテック、食料自給率、地産地消、再生可能エネルギー etc..
フードテックや代替肉が日本でも広まりつつありますが、お肉をできるだけ減らしていこうという動きは、気候変動の観点からも、そうならざるを得ないだろうなと感じます。

そしてお肉と関連して、とくに乳製品の価格変動も気になりますね。
今は安価に調達できているものが環境税のような税制度の導入などによって難しくなった場合、食料自給率をあげ、食品ロスを減らす努力がいっそう必要になってくると予測されます。地産地消、旬の食材が家庭の食卓にのぼることがベースになるのではないでしょうか。

調理の際の熱源を再生可能エネルギーに転換することは、現段階では火力の問題から難しいという意見がシェフたちから挙がっていますが、たとえば発想を変えて、発酵や天日干しなどを活用して調理時間を短縮するなどの工夫は可能ですよね。

テクノロジーの進化もとても早いので、2030年にどういう食生活に変わるのかをイメージしながら、料理に携わる人たちのイマジネーションを大いに働かせていくことが大切だと思います。


・ウェルビーイングと食

調理時間が短くなれば、環境にいいだけでなく、「ひと手間はぶける」のも生活者にとっては大きなメリットです。
実は、食の問題の多くは、現代人が忙しくなりすぎて時間のゆとりがないことに起因しているのではないでしょうか。はぶいた時間を別のことに使えれば、QOL(クオリティオブライフ)にも好影響ですね。

人々の時間の使い方は、コロナ禍によって大きく変わったと思います。
2030年になった時に「時間がない問題」がどれだけ解消されているか? にも期待を寄せています。

食は、誰しもが毎日かならず向き合うものなので、自分自身がどうありたいかというウェルビーイングの側面においても、食が果たす役割は大きいんです。

食品ロス、食料廃棄問題の深刻さや難しさは確かにあるのですが、「いかに楽しみながら変化していけるか」とポジティブに捉えて取り組みを進めていきたいですよね。

生活者もシェフたちも忙しい時間の使い方が変わり、その空いた時間でサステナビリティのインプットを増やし、生活レベルでできることを追求していけるようになればいいなと思います。


【参考サイト】

CREATIVE CHEFS BOX 2030公式サイト

CREATIVE CHEFS BOX 2030「未来のレシピ」発表


■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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