百貨店の再起をかけたチャネル戦略 D2Cブランドとの新たな共創の「場づくり」
ニューノーマル時代にフィットした買い物体験を提供する「ショールーミング」が広まりつつある。
コロナ禍の影響により苦境を強いられている百貨店も、業績回復と顧客の若返りをはかるために試行錯誤する中で「ショールーミング」という新しいチャネルに着目し、様々な取り組みが生まれている。
ショールーミングでは、主にコンセプチュアルな中小規模ブランドや、若い世代に支持されるD2Cブランドの参画が主流だ。
これまでの百貨店へのテナント出店はは大企業や有名ブランド以外にはハードルが高いものだったが、期間限定のショールーミングという形式であれば出店しやすくなる。
百貨店の地の利を生かし、ブランドと顧客にとっては新たな出会いの機会が創出される。
一方で百貨店にとっても、これから伸長する可能性をひめたD2Cブランドとのネットワークを構築することで百貨店の独自性を打ち出し、Z世代を中心とした新規顧客を獲得につなげられるメリットがある。
構造改革が迫られる百貨店業界
バブル期に隆盛を誇った百貨店業界は、そのブランド力を維持しながらもゆるやかに縮小傾向にむかっていたが、コロナ禍の深刻なダメージを受け、かつてないほどの苦境に追い込まれている。度重なる時短や休業要請やインバウンド需要の消失に加え、売上の大部分を占める衣料品の低迷、若年層対策やデジタル活用の遅れなどの要因が重なり、百貨店は都市部・地方を問わず売上が激減している現状だ。
(画像引用:『第1回百貨店研究会(百貨店の現状と課題)』,経済産業省,2021年)
食品スーパーはコロナ禍による巣ごもり特需からV字回復を果たし、好調に推移。
家電大型専門店、ドラッグストア、ホームセンターなどの小売業は前年比で販売額が増加した。
小売業は、日々のくらしのなかで接する身近な産業なだけに、社会における生活者の行動や価値変容がダイレクトに表れる。
「ニューノーマル=新しい生活様式」が定着する中で、どのように顧客との接点を生み出し、価値創造できるか。事業環境が大きく変動する百貨店業界から、新たな動きが加速している。
ショールーミングという活路
ショールーミング(Showrooming)とは、実店舗をショールーム代わりにして、実際の商品に触れて確認したり試したりできる場を指す。実店舗の在庫や人員を置かず、購買はECサイト等のオンラインで行う仕組みだ。顧客個人にカスタマイズされたデジタルサービスの開発やDXが喫緊の課題と捉える百貨店にとって、ショールーミングは、さまざまな行き詰まりを打破する契機になりうると期待が寄せられる。
それを裏付けるかのように、2021年に入って、有名百貨店が続々とショールーミングスペースを活かしたマルチチャネル戦略を発表している。
百貨店のショールーミングスペースであるからには、百貨店の顧客が最も望む「接客」をどのように行うか、そのコミュニケーション設計が重要なポイントなるだろう。
コンテンツ発信力や集客力を持つインフルエンサーやアンバサダーとのコラボレーションなど、
顧客とのリアルな距離感をぐっと引き寄せ、リアル店舗ならではの体験価値やコミュニケーションを生み出してこそ、良質なエンゲージメントが醸成される。
D2Cブランド×生活者の接点を創出するプレイスメイキング
株式会社Qoil(コイル)は、D2Cブランドをまとめてショールーミングを実現する体験型店舗「INSEL STORE」を、京王電鉄と共同でキラリナ京王吉祥寺に立ち上げた。(画像引用:株式会社アイリッジ プレスリリース)
Qoil(コイル)が企画したD2Cブランドと消費者とのリアルなタッチポイント創出を支援するサービスを基に、「ショールーミングによるショートタイムショッピング」や「直接試してから買える EC」としてニューノーマルな買い物体験を提案する。
ユーザーは来店すると各商品に付けられているQRコードを自身のスマートフォンで読み込み、
それぞれのブランドのECサイトで商品を購入する仕組みだ。
複数のD2Cブランドが共同で出店し、一定の周期で店舗の入替を行うため、ひとつの店舗で様々な商品に触れることができ、いつ来ても新しい商品に出会うことができる。
顧客にとってはいつ訪れても目新しい商品に出会えるというベネフィットがあり、出店ブランドにも認知拡大のチャンスとなる。
また百貨店にとっても、コロナ禍で落ち込んだ客足を館内に向かわせる動機付けになる。
将来的には食品やインテリアなど、衣食住に関わるD2Cブランドへの展開を視野に入れているという。
百貨店業態で初となるメディア型OMOストア
株式会社そごう・西武は、百貨店業態では初となるメディア型OMOストア展開を、2021年9月から開始した。ミレニアル世代やZ世代の支持を集めるD2Cブランドとの協業を通じて、新しい小売ビジネスを創出するのが狙いだ。
OMO(Online Merges with Offline)とは、オンライン(EC)とオフライン(店舗)を区別することなく、あらゆるユーザー体験をデータ化することを指す。そのデータを活用して最適なユーザー体験を提供する、新しいチャネル戦略だ。
生活者のなかで購買のデジタル化が急速に進む中、DXの新業態として、オンラインとオフラインを融合した新しい購買体験をスマートフォンにて楽しむことができる。
リアル店舗と同時にECサイトをオープンし、店頭とECサイトの在庫情報はタイムラグなしで完全連携したり、オンラインで購入した商品を店頭で受け取れるなどの新しいショッピングサービスを提供する。
一方で、出店ブランドに対しても商品展示・販売接客業務負担をなくし、出店のハードルを大きく下げた。
(画像引用:株式会社そごう・西武 プレスリリース)
Z世代の関心事であるサステナビリティや社会課題に寄り添う商品やブランドを集め、それぞれの商品にこめられた想いやストーリーをオン・オフ双方で発信する。
テーマや商品は一定期間で入れ替わり、いつでも新しい出会いや学びがあるよう仕掛けている点は、先述の「INSEL STORE」と同様だ。
店頭では、スタッフを介さずともWebカタログを閲覧して関心がある商品や製造背景の理解を深められるようになっている。
スタッフと非接触で購入を完結することも可能で、ニューノーマルな時代における購買志向にも対応している。
サステナブルやエシカルブランドとの協業も
有楽町マルイは、新しいサービスを展開する企業と意欲的に協業し、サステナブルやエシカルなブランドをアピールする場づくりに乗り出している。◎サステナブルやSDGsのコンセプトショップ
有楽町マルイ7Fにあるのは、新感覚のコンセプトショップ「Sustainable Think.(サスティナブル シンク)」。SDGsや地球環境について考え学びながら「みんなに紹介したい」「買って応援したい」「好きな人にプレゼントしたい」と思えるサステナブルな商品を展開している。
さらにこのショップは、サステナブルな商品開発のエコシステムを体現するショップでもあり、サステナブル素材を開発する工場やメーカーが、コンセプト作成や商品開発からローンチ、店頭販売までを一括で行えるラボショップの機能も併せ持つ。
ここをサステナブルな取り組みをPRする場所として店頭のBOXを貸し出すという新しいサービス「Sustainable Think. Apartment」を、2021年6月にスタートした。
(画像引用:株式会社ペーパーパレード プレスリリース)
サステナブルな商品のPRやECサイトへの誘導、SDGsの取り組み事例の紹介やアートの発表の場としても活用できる。また、自社ECやクラウドファンディングなど、実際に商品を見て購入したいというショールーミングにも効果的だ。
レンタル料金はBOXセット(サイズ W27cm×H22cm)1ヶ月間の利用で 7,000円と、個人運営の小規模ブランドにもトライしやすい価格設定になっている。
エシカルブランドとの協業
有楽町マルイは、2021年3月にもショールーミング形式のポップアップストアを実施している。三井物産アイ・ファッション株式会社が、自社で開発したエシカルな4ブランドを集結させ、ショールーミング形式のポップアップストアを期間限定で開催した。
エシカルな4ブランドは以下の通り。
・Annaut(アンノウト)
残布を再資源化した2021年2月スタートのアップサイクルブランド。・WA.CLOTH ESSENTIAL (ワクロスエッセンシャル)
天然の機能素材・紙糸をつかったジャパンメイドコレクション。・MALIBU SHIRTS(マリブシャツ)
海に浮かぶゴミをアップサイクルしたサーフブランド。・ANNUAL(アニュアル)
環境にも動物にも優しい、ニュージーランド産メリノウールを使用したブランド。アンバサダーがメディア機能を担うショールーミングも誕生
大丸松坂屋百貨店では、リアル店舗を持つ百貨店の強みを活かし、D2Cブランドのショールーミングスペース「明日見世(asumise)」を2021年10月6日(水)にオープンした。「明日見世(asumise)」は単なるショールームの場所を提供するのではなく、ブランドの思いを伝える役割の【アンバサダー】がメディア機能を担う点が新しい。
アンバサダーが作り手の思いを深く伝え、また店頭で得た顧客の声を作り手に伝えることにより、出品ブランドの認知度を高めるサポートだけではなく、マーケティングに活かせる情報をつなぐ役割も担う。
(画像引用:株式会社大丸松坂屋百貨店 プレスリリース)
イベントスペースに、サーキュラーエコノミーに配慮した「出会いの循環」を体現する面積約100㎡の売場環境を構築。
リサイクルできる素材とユーズド家具を組み合わせた什器・装飾物を使用し、使用期間終了後も什器・装飾物を極力廃棄しないなど、運営面でもサステナビリティの実践を徹底する構えだ。
Z世代×DX×D2C=サステナブル・チャネル・ブランディング
コロナ禍になる前からショールーミングという形式は出はじめてはいたが、あらゆる点で人々の価値観や意識が変わった。今後、よりいっそうこのような販売スタイルが増えていくのではないだろうか。「買った商品を持ち帰らなくて済むので、荷物にならずにラク」
「店舗の外でも購入できるので、ゆっくり自分の欲しいものを見つけることができる」
など、生活者にもポジティブに受け止められている。
既存顧客に対する新鮮な体験価値の提供と、Z世代を中心とした新規顧客の獲得。
DX(デジタルトランスフォーメーション)によるデジタル購買とリアル店舗の融合。
新たな発見や出会いが生まれるショールーミングやオムニチャネル化は、都市部だけでなく地方の百貨店にとっても必要な「場づくり」戦略となりうる。
地域で活動する小規模なD2Cブランドにとってもビジネスチャンスを広げる機会があれば、地方創生にもつながってくるだろう。
【参考サイト】
コロナ禍で変わる購買行動に向けた共同出店型ショールーミングストア キラリナ京王吉祥寺「INSEL STORE」提供開始
D2Cブランドと共創で取り組むデジタル基軸の新業態/西武渋谷店にメディア型OMOストアを出店
サスティナブルな取り組みのPRの場所として店頭のBOXを貸し出す新しいサービス「Sustainable Think. Apartment」が有楽町マルイでスタート。
大丸松坂屋初のショールーミングスペース「明日見世(asumise)」大丸東京店 4 階、10 月 6 日(水)オープン
■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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