ファッションブランドに見る、サステナビリティをビジネスに取り入れる意義

ファッション業界はサステナビリティの課題を多く孕んでいます。生活者との接点が多いためビジネスインパクトも大きく、サステナビリティへの対応が投資家だけでなく生活者からも注目されている産業です。

今回は、サステナブル・ブランディングを考える際に参考になる事例をご紹介したいと思います。


セレクトショップ「ロンハーマン」が本気で推進するサステナビリティ

まず1つ目は、ロンハーマンの取り組みです。

ロンハーマンは、数あるセレクトショップの中でも感度の高いユーザーを惹きつけ、高価格帯の製品を扱うライフスタイルセレクトショップ。カフェやトリートメントサロンも展開しています。経営するサザビーリーグはさまざまなブランドを擁し、社会課題に積極的に取り組んでいます。
別の記事でご紹介した、インドに学校を建てるプロジェクトをサポートしているジュエリーブランド「ARTIDA OUD」もサザビーリーグ傘下のブランドです。


ブランドのSNS活用は“もの”だけでなく“想い”も。共感で深まるエンゲージメント


ロンハーマンでは、サステナビリティに取り組むためにまず経営陣がサステナビリティについて学ぶところから活動を始められました。
日本では、社会課題を自分ごととして捉え始めるようになったきっかけが新型コロナ感染症の世界的流行だという方が多いと思いますが、同社はそれより前に第一歩を踏み出していました。

経営陣の理解が得られないために活動推進が難しいという企業や団体が多いなか、全社を上げて取り組む姿勢は、経営への重要性を理解し危機感を感じているからこそということの表れと言えるでしょう。

ロンハーマンのサステナビリティは、4項目にフォーカスして推進されています。

① 環境

温室効果ガスや余剰在庫を削減し、商品および店舗で使用する素材や資材のサステナブルなものへの切り替える。

② コミュニティ

サプライチェーンの透明化を目指しサプライヤーと対話し、同業種・他業種とともに活動する。

③ 顧客

環境と社会に配慮した選択肢を増やし、一人一人のお客様に合った買い物や体験を提供する。

④ チームメンバー

評価制度の改善やキャリア開発・研修を強化し、店舗や部署ごとにサステナビリティ担当者を選出する。

一般的に、サステナビリティ活動推進においての問題として、一部の担当者が周囲の理解や協力を得にくいために、なかなか活動を進められないということが挙げられます。
ロンハーマンの活動は、まず経営陣自らが学び、そして環境・コミュニティ・顧客・チームメンバーというアプローチでさまざまなステークホルダーを巻き込みながら活動していることが、実行力に結びついていると言えるでしょう。

サステナビリティに取り組むブランドは、社会課題の解決に貢献するとともに、生活者の意識へも影響をもたらします。それは、活動に共感した顧客から商品が選ばれるというだけでなく、良い人材を集めることにもつながります。
このようなポジティブな循環によってブランド力がよりいっそう強化され、社会から必要とされる存在になっていく企業が、今注目を浴びています。
活動推進の裏側には苦労も多いと想像しますが、活動は多方面に渡ってプラスの効果を生み出しているのだろうと感じました。

サザビーリーグ傘下のブランドの活動はウェブサイトで紹介されています。


グローバルブランドで進むサステナビリティへの取り組み

次に、グローバルブランドの取り組みをいくつか紹介したいと思います。

欧米では日本に比べてサステナビリティへの取り組みが進んでおり、ブランドが素材や製造などサステナブルであることは当然という世界になっていると言われています。

ケリング傘下のブランドであるバレンシアガでは、2015年に現デザイナーのデムナ・ヴァザリアが着任した際にはすでにサステナビリティへの対応を強化していたようです。
同じくケリング傘下のグッチが2021年の夏に京都で行ったイベントも、サステナブルを意識した展示が為されていたのが記憶に新しいです。


GUCCI 100周年を記念した サステナブルブランディング体験価値の全容


また、ルイヴィトンを擁するLVMHは、2025年にサステナビリティのための新しい研究施設を開設すると発表しました。その施設でより環境に配慮した新素材の開発やバイオテクノロジー関連の研究を行うとしています。同社のウェブサイトには社会責任と環境責任に配慮したコミットメントを掲げ、サステナビリティに配慮した経営を表明しています。
(参照:LVMH、サステナビリティの新たな研究施設を2025年にオープン,WWD JAPAN)
(参照:LVMH社公式サイト:社会責任と環境責任

また、サステナビリティ先進国であるスウェーデンのファッションブランドH&Mでは、素材の環境負荷測定ツールを欧州と米国のオンラインストアで販売する一部商品を対象に導入し、透明性を推進しています。
さらに、東京で生まれたコレクションブランドであるTOGAとのコレボレーションアイテムを発表。このコラボレーションにおいてTOGAデザイナーの古田泰子氏は、「若い世代は服を買うこと自体を罪に感じ、購入しないことで意思表示をしている人もいる。彼らに罪ではない購買があると伝えたい」という思いで制作を行ったと語っています。
(参照:「H&M」が素材の環境負荷をスコア表示透明性を推進,WWD JAPAN)
(参照:「H&M」に古田泰子が提案したこと 「『トーガ』をそのまま持ち込んだ。その再現性には驚くべきものがあった」,WWD JAPAN)

生活者の消費行動の変化を見据えて、選ばれるブランドへ

日本ではまだ、消費行動において“その商品がエシカルか否か”、“そのブランドがサステナビリティに取り組んでいるか否か”ということを理由に選択する生活者は少ないと言えます。しかし今後も生活者のマインドが変わらないとは考えにくいでしょう。
特に多くの企業が注目し始めているZ世代の消費行動には、サステナビリティが切り離せない時代になっていくと考えられます。

ブランドはサステナビリティに本気で取り組み、そしてまたその活動を伝えていく力が必要になります。その有無によって、選ばれるブランドになれるか否かが分かれていくと言っても過言ではないでしょう。



Nagisa YOSHIDA  Sustainable Brand Journey 編集部
#ブランド #コミュニケーション #ビューティ #ダイバーシティ

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