ただいま市場拡大中 注目のフードテック「代替肉」トレンド解説

日本におけるプラントベース(植物由来)代替肉の動向はグローバルに比べ大幅に後れをとっているのが現状ですが、それでも2030年には800億円もの市場規模が予測されています。

経済的にも社会的にもインパクトが大きいとくれば、様々な企業が続々と新規参入に名乗りを上げるのも納得です。

代替肉をめぐるグローバルな動向や事例、そして日本でも少しずつ増えつつある代替肉の最前線を紹介するともに、代替肉の認知がさらに広がっていくためのヒントを探っていきます。


(参照:『植物由来の代替肉と細胞培養肉の現状と将来展望』株式会社シードプランニング,2020年)

代替肉が広まる背景

代替肉市場が広まる背景には、畜産業による環境問題や人口増加に伴う食糧不足、そして健康志向の高まりが挙げられます。

地球温暖化の原因とされる温室効果ガス。工業分野での大量排出はイメージしやすいですが、畜産業に関連する排出量も少なくありません。

と言うのも、家畜のおならやゲップ、飼料生産、排泄物の管理など畜産のプロセスで多くの温室効果ガスを排出しているからです。家畜のおならやゲップに含まれるメタンガスには二酸化炭素の28倍の温室効果があると言われています。

Our World in Dataの表をみると、家畜の放牧や飼料生産など畜産に使用する土地は、世界の農地面積の約80%を占めている状況が分かります。このような広大な土地を確保するため、森林伐採が行われると、森林が失われるだけでなく、その土地に生息していた動植物にも影響を及ぼすことになってしまいます。


(参照:『Environmental impacts of food production』 Our World in Data,2020)

また、世界全体の水の使用量のうち約10%が畜産に利用され、そのほとんどが飼料生産に使われています。畜産に伴い排出された汚染物質が海に放出されていることも問題とされています。

さらに、世界人口は2050年には97億人まで増加すると予測されていて、それによる食糧不足問題が指摘されています。新興国では所得が向上するにつれて食肉需要が急増することが見込まれ、従来の畜産業では供給が追いつかないという懸念もあります。

(参照:『Future Population Growth』 Our World in Data,2014)

これらの課題を解決する一手として、代替肉への期待が高まり、注目されています。

一方で、動物性の食用肉に比べて、タンパク質を多く含む割にカロリーが低くヘルシーな点も代替肉ならではのメリット。主な原料となる大豆には、ミネラルや食物繊維などの栄養成分も豊富。

ベジタリアン(菜食主義者)やヴィーガン(完全菜食主義者)の多い欧米では、植物性タンパク質を原料として、味や食感を肉に似せて加工した代替肉は身近なものとなっていましたが、コロナ禍による健康志向の高まりも追い風となり世界的に代替肉市場は拡大しています。

グローバルにおける代替肉の動向

先進国アメリカでは、多くの代替肉商品がスーパーで並び、すでに生活の一部となっています。バーガーキングやKFCなどの大手飲食店やレストランでも代替肉を使ったメニューを展開しています。

最近では、ハンバーガーチェーン大手のマクドナルドが、2021年11月3日からアメリカの一部の店舗で代替肉のハンバーガーを試験販売すると発表しました。

(画像引用:マクドナルドUSA)

さらに、中国でも代替肉への関心の高まりが急上昇しています。中国のシンクタンクによると、中国の代替肉市場規模は2019年時点で70億元(約1,245億円)にのぼり、2025年には154億元に達すると推定されています。
(参照:『2021-2026中国の人工食肉産業の動向予測と投資戦略計画分析レポート』前詹産業研究所,2021年)

その背景には、国民1人当たりの肉消費量が1960年から9倍に膨れ上がったことが挙げられます。中国政府は、増え続ける肉消費が環境負荷を増加させると考え、国民1人当たりの肉消費量を年間で50%減らすように呼びかけました。

また、中国で定番の春雨は豆エンドウが原料の食材。代替肉の原料となる豆エンドウが手に入りやすく、代替肉を低価格で販売することが可能だったため、代替肉市場が拡大しました。

日本における代替肉の動向

日本でも食品メーカー、小売り、外食チェーンなどの大手プレーヤーの代替肉市場への参入が相次いでいます。また、代替肉のスタートアップも生まれつつあります。

大豆由来の植物肉原料を開発・製造するDAIZ、完全植物由来の代替肉を取り扱うNEXT MEATS、培養肉のインテグリカルチャーなどが登場してきています。しかし、その数はまだ多いとは言えず、海外市場のように競争が激化している状況ではありません。

             
(画像引用:DAIZプレスリリース/NEXT MEATSプレスリリース/インテグリカルチャープレスリリース

企業による開発努力で味のクオリティが上がっている代替肉。植物由来であることから、動物性の食用肉よりもヘルシーな傾向があります。例えば、NEXT MEATSが販売する「NEXTカルビ2.0」は、一般的な焼肉(牛カルビ)と比べると脂質が8分の1近くで、タンパク質は2倍以上になります。


(参照:NEXT MEATS公式オンラインショップ

これまでは、一部のECサイトでの販売が一般的で、スーパーの乾物売り場や大豆製品売り場にひっそりと置かれていることがほとんどでしたが、徐々にスーパーの精肉売り場にも並ぶようになってきました。2021年6月24日(木)より、全国のイトーヨーカドー店舗で、NEXT MEATSの代表商品でもある焼肉用代替肉「NEXTカルビ」と「NEXTハラミ」の精肉売場での販売を開始しています。

今後、冷凍食品のように簡単に調理できる状態で、もっと手軽に購入できるようになれば、普段の食生活で取れる選択肢が広がります。美味しいことはもちろん、栄養面でのメリットが動物性の食肉を上回り、低価格化が本格的に進めば代替肉の普及は加速するのではないでしょうか。

高級レストランからも支持される代替肉「Omni Meat(オムニミート)」

Omni Meat(オムニミート)はアジア発祥の植物由来100%の代替肉です。原料には、えんどう豆、大豆、椎茸、米の植物性タンパク質などを使用。Green Monday Group(グリーンマンデーグループ)が立ち上げたフードテック企業Omni Foods(オムニフーズ)が展開しています。2018年4月に香港で販売が開始、2020年5月には「カラダも地球もよろこぶ、休肉日を。」をコンセプトに、日本での販売が開始されました。

味、舌触り、栄養価、価格のバランスを重視したクオリティで、プラントベースフードのジャンルを超えて評価されており、高級レストランから身近な飲食店に到るまで、ヴィーガン・ノンヴィーガンのボーダーを超えて多種多様なジャンルで導入されています。2021年からは家庭用サイズを日本国内でも本格展開し、市場拡大が期待されています。

(参照:オムニミート公式サイト

気軽にトライできる「フレキシタリアン」という選択肢

Green Monday(グリーンマンデー)は、低炭素で持続可能なライフスタイルを普段の生活で実践できるアクションとして推進することで、気候変動、健康問題、世界的な食料問題に取り組んでいる、香港の社会企業です。

(参照:グリーンマンデー公式サイト

ゆるやかな菜食主義者を意味する「フレキシタリアン」というライフスタイルを打ち出し、大規模なプラントベースムーブメントを巻き起こしたアジアの先駆団体として注目されています。具体的な活動として、最低週1回のプラントベース食品による食事を摂ろうと呼びかける「週1ベジ=Meat Free Monday」を推奨しています。

この「フレキシタリアン」というスタイルは、健康習慣として取り入れたり、気になる商品があれば試してみたり、自分にあったバランスやペースを柔軟に選択できる点において、今後日本においても拡大が期待されます。

食品としてのクオリティ(美味しさや種類)、流通・小売における買いやすさ、個人の嗜好やライフスタイルに応じた取り入れ方。こうした選択のバリエーションが増えることによって、生活者がポジティブに代替肉を生活に取り入れられるようになるのではないでしょうか。


【参考サイト】
株式会社シードプランニング:『植物由来の代替肉と細胞培養肉の現状と将来展望』

Our World in Data:『Sector by sector: where do global greenhouse gas emissions come from?』

Our World in Data:『Future Population Growth』

Our World in Data:『 Environmental impacts of food production』

環境省 環境白書『第3章 地域や私たちが始める持続可能な社会づくり』

マクドナルドUSA

前詹産業研究所『2021-2026中国の人工食肉産業の動向予測と投資戦略計画分析レポート』

DAIZ

NEXT MEATS

インテグリカルチャー

オムニミート

グリーンマンデー



■執筆: RINA  Sustainable Brand Journey 編集部


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