【 消費者視点のサステナビリティ 】官民連携により、消費者の行動変容が進むか

消費者庁が「消費者志向経営」を推進している。
消費者(生活者)視点から、社会課題やサステナビリティに取り組む企業を支援する取り組みだ。

2021年7月に消費者庁は『令和3年度消費者志向経営優良事例表彰』の実施を発表した。同年7月30日から公募を開始する。この表彰は、消費者志向経営の更なる普及・推進を図るため、毎年、特に優れた取組に対して表彰しているもので、2021年で4回目を迎える。これまでと同様に、総合枠や特定領域での秀でた事例が対象となる特別枠を設けるほか、複数の事業者が協働して行う優れた取り組みも新たに表彰対象となる。スケジュールとしては2021年10月1日までを応募期限とし、年内には表彰者を決定し、年明けに表彰式を行う予定だ。


社会課題解決やサステナブルな社会を消費者と一緒に実現する
「消費者志向経営」を消費者庁は、「消費者と共創・協働して社会価値を向上させる経営」と定義する。

2020年の日本のGDP(国内総生産)は538.7兆円で、そのうち家計消費は52%(280.3兆円)を占める。
すなわち消費行動をはどのような社会をつくるかに直結しており、
消費からサステナブルな社会を実現するには、消費者と企業との共創・協働が必要不可欠だ。

消費者庁は、消費者志向経営の柱として以下の3つを掲げる。
「みんなの声を聴き、かついかすこと」
「未来・次世代のために取り組むこと」
「法令の遵守・コーポレートガバナンスの強化をすること」


嗜好やライフスタイルが多様化する社会においては、消費者の声を拾ってニーズをつかみ、商品開発や経営に活かせるかどうかが大事になる。

また、当然のことながら消費者は現在だけでなく未来にも存在するため。
現在の消費者だけにフォーカスして適応するのではなく、未来を見据えた活動も求められるだろう。


優良事例を表彰する取り組みも実施
消費者庁では、「自主宣言の促進」と「表彰制度」で企業を支援すると発表した。

消費者志向経営に取り組むことを「自主宣言」する企業は、21年6月時点で210社となり、毎年増えているという。

優良事例を表彰する表彰制度は18年度から始めて、21年は4回目の実施を予定。
優れた取り組みをする企業に対して、内閣府特命担当大臣表彰と消費者庁長官表彰を毎年授与している。

19年度に大臣表彰を受賞したのは、徳島で地元に密着して自動車教習所を経営する広沢自動車学校だ。
運転を教えるだけでなく、運転教習を通じて「命を大切にするドライバーを育む」ことを使命に掲げるユニークな経営を実施しており、消費者とのコミュニケーションを重視する地域密着の経営が評価された。

20年度は、経営全体を評価する「総合枠」と、新型コロナウイルス対策や地域活性化という特定領域を評価する「特別枠」で参加を募った。

総合枠はライオン株式会社(内閣府特命担当大臣表彰)と日清食品ホールディングス株式会社(消費者庁長官表彰)が受賞。

特別枠の消費者庁長官賞は、味の素株式会社、アスクル株式会社、オイシックス・ラ・大地株式会社、城北信用金庫、不二製油グループ本社株式会社が受賞。
応募、受賞ともに、金融、小売り、BtoB企業など、幅広い業種や規模の企業に広がりを見せている。


SDGs目標「パートナーシップ」に重視
さらに21年度は従来の総合枠・特別枠に加え、「複数企業協働取組枠」を新設した。
外部との連携を重視した評価軸で表彰する。
同業・異業種問わず多様な連携の可能性とバリエーションが考えられるなか、優良な事例を発掘することを目指す。

同業種他社間あるいはサプライチェーンにおけるコラボレーションにおいて、消費者志向経営に寄与する取り組みをしている事例がすでに幾つか見られる。
それを企業単体で評価するのではなく、取り組みそのものを評価するこで、裾野が広がったり新しい展開が見えるのでは、と消費者庁は新設の意義を説く。

例えば、容器包装の規格において業界で統一しようとする事例が挙げられる。
ペットボトルのリサイクルに取り組むために、小売店と飲料メーカーが異業種連携するケースも出てきている。これらは、利用面ならびにリサイクルにおいて消費者に有益な事例といえるだろう。

新型コロナウイルスの影響で企業同士の連携が難しくなっている状況もあるが、SDGs目標17「パートナーシップ」を推進するためにも、企業連携による新たな価値創造に消費者庁は期待を寄せている。

さまざま企業連携を促進する目的で、パートナーシップを探る場「消費者志向経営連絡会」も設置した。
オンラインミーティングで、自社の取り組みを紹介すると同時に他社が何をやっているかも知ることができ、連携のヒントをつかめるようにしているという。


アパレル業界の環境負荷軽減で、エシカル消費に本腰
消費者庁はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」の視点に立ち、すでに食品ロス削減等を積極的に推進しているが、エシカル消費の一環としてサステナブルファッションについても取り組みを進める姿勢を明らかにした。



経済産業省、環境省と連携して「第1回サステナブルファッションの推進に向けた関係省庁連絡会議」を2021年8月20日に開催した。
アパレルを中心としたファッション産業の原材料調達から生産、使用、廃棄までの環境負荷低減を目指すもので、これに関する取り組みを行っているファッション関連企業も巻き込んでいく。

「食品ロスと同様に、一つの省庁だけで完結する話ではないので、各省連携して課題を共有化して取組を進めていきたい」と伊藤消費者庁長官は話す。

ファッション産業においては、環境省の調査によると年間約51.2万トンもの衣服の廃棄が行われ、このうち、かなりの部分が家庭から廃棄されているなど、衣服の大量生産・供給・廃棄といった課題が指摘されている。
こういった現状に対し、サステナブルファッションはまだ消費者の認知度が十分高い状況とは言えない。

一方で、課題を認知をしている消費者は行動につなげているという傾向があるため、
消費者庁エシカルライフスタイルSDGsアンバサダー冨永愛氏らとも協働しながら、ファッションロス等の問題に対して消費者の関心を高めていく狙いがある。


課題解決のためには、産業界だけでなく、消費者の意識や行動も
「選ぶとき、使うとき、廃棄するとき、それぞれにおいて消費者の方が行動変容することも大事です。
サステナブルに配慮したものをできるだけ選ぶよう、しっかりと発信をしていくというのが我々の役割ではないかと思っています」とは伊藤消費者庁長官の弁だ。

環境負荷を軽減するには、「生産と廃棄のコントロール」「背景と流通の透明化」「生活者の意識・行動変化の促し」が重要だ。
そしてこれはアパレル・ファッション業界に限ったことではない。

欠品がないように品数をたくさん揃えるという産業の構造のままでは、ロスが出やすい状況を変えることはできない。
そもそもこのようなやり方や構造そのものを消費者が本当に望んでいるのかということも含め、議論や対策を検討していく必要があるだろう。

各業界の企業エンゲージメントが向上することによって、生活者の良質な消費につながり、社会全体のサステナビリティが促進する。
そんな好循環を生む優良事例が出てくるか、今年度のエントリー事例と表彰結果を心待ちにしたい。


【参考サイト】

伊藤消費者庁長官記者会見要旨(2021年7月21日)

伊藤消費者庁長官記者会見要旨(2021年8月18日)

消費者志向経営優良事例表彰の募集について

令和3年度消費者志向経営優良事例表彰設問表記入ガイドライン


■執筆: Mami NAITO Sustainable Brand Journey 編集部
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